理科と戯れる

 


 

放課後の部室。

珍しく理科と二人っきりだ。

夜空も星奈も幸村もマリアも小鳩もまだ来ていない。

俺と理科は特に二人で何をする訳でもなく、それぞれが思い思いに時間を過ごしていた。

特に会話らしい会話もなかったが、不思議と気まずい雰囲気はなく、

むしろこの空気が少し心地良いとさえ感じていた。

 

 

理科のゲームの音をBGMに本を読んでいると、理科の方から俺に話しかけてきた。

「それにしても、二人っきりだとなんか変な気分になってきちゃいますね?」

そんな素っ頓狂な発言に対し、俺は読んでいた本から顔を上げ、素で聞き返す。

「は?何を言ってるんだ?」

「え?なりませんか?変な気分に」

「いや、ならないけど…」

理科は首をひねる。

「ん〜、おかしいですねぇ。理科はさっきからムラムラしっぱなしなのに」

「…そうか。おかしいのはきっとお前の脳みそだな」

俺は頭を振る。

また理科の病気が始まってしまった。

「でもせっかく二人きりなんですから、こっそり理科に性的な悪戯をしてみたくなりません?」

「全くならんな」

「先っぽだけなら挿れてみてもいいんですよ?」

「馬鹿かっ」

「あ、今理科嘘つきました、ごめんなさい」

「何がだ?」

「先っぽだけじゃなくて奥まで挿れても全然OKです。というか挿れてください」

「入れねぇよ!もうお前黙ってろ!」

「はい。黙ります」

理科は素直に黙った。

頭が痛い…。

理科は最近二人きりになると本気か冗談か分からない下ネタを振ってくる。

冗談でも笑えないし、本気だったとしたらもっと笑えない。

ちくしょう…顔だけなら相当可愛いのに…。

なんでこいつこんなに頭がおかしいんだ…。

 

再び本を読み始める。

が、視線を感じる。

理科がジッとこっちを見ている気がした。

俺はなんとなく魔が差して、そちらに視線を向けてしまった。

理科と目が合う。

理科はふと、視線を下に落とした。

それにつられて俺も理科の視線の先を見る。

理科はスカートの裾にゆっくり手を伸ばし、

おもむろにスカートをめくりパンツを見せてきた。

理科は俺から顔を背け、下唇を噛み、顔を赤くして小刻みに震えている。

自分から見せてるくせに意味が分からん。

「な、何やってんだ!馬鹿か!馬鹿なのか!?」

「え?パンツですけど」

「『パンツですけど』じゃねえよ!なんで見せた!?」

「見たくなかったですか?」

「見たくねえよ!」

「そうですか…」

理科は残念そうにスカートの裾を下ろす。

「あ。じゃあ、これはどうです?」

「え?」

理科は片手でスカートの裾を持ち上げると、素早くもう片方の手でパンツを横にずらした。

ピンク色のパンツの下に隠されるべきピンク色の粘膜が見えた。

「ぶっ!」

とんでもない光景に思わず口に含んでいたお茶を吹いてしまった。

「きれいな色してるだろ。ウソみたいだろ。処女なんだぜ。これで」

「な、何を突然見せてくれてんだ!!!早くしまえ!!」

「うぅぅ…小鷹先輩に中身を見られてしまいました…もうお嫁に行けません…」

「なんでお前がダメージ受けてんだよ!!」

「あ………どうしましょう先輩」

「何だ?」

「濡れてきちゃいました」

「なぁ、頼むから死んでくれよ。今すぐ。なぁ?」

「見られただけで濡れちゃうなんて…この淫乱女!とか思われたらどうしましょう…」

「思わねえよ。何も思わねえよ」

「でも、ちょっとくらい思ってくれた方が逆に興奮しますね?」

「知らねぇよ…」

本気で頭が痛くなり、俺はうずくまる。

もう逃げたい…

だが理科は俺を逃がしてくれない。

「小鷹先輩」

「…なんだ?」

「ティッシュあります?」

その質問になにやら嫌な予感を感じつつ、答える。

「………あるけど、何に使うんだ?」

「濡れちゃったんで、拭きたいんです」

「ここでやるな!」

「そうですか。じゃあトイレ行って拭いてきますよ」

「いちいち言わなくていい!」

「ちょっと不自然なくらい長い時間戻ってこれないかもしれませんけど、トイレで何をしていたかは聞かないでくださいね?」

「あぁ…分かった。分かったよ。分かったからもう静かにしていてくれ…」

部室を出て行こうとする理科。

その後姿がくるりと振り返った。

「あ、そうだ!先輩?」

「なんだよ!まだ何かあるのか!?」

「挿れます?」

「入れねぇよ!!!!」

「でも今ならにゅるんとすぐ挿りますよ?準備万端ですよ?」

「入れねぇ!!」

「そうですか…」

残念そうな理科。

残念なのはお前だよ。

 

「じゃあちょっとトイレへ…きゃっ」

改めてトイレへ向かおうとする理科がこけた。

「あぶなっ…」

俺の方へ倒れ込んできた理科を、支えてやる。

その拍子にちょっとだけ胸に触れてしまった。

「あ…す、すまん…っ、だ、大丈夫か?」

「いえ…すみませ………あ」

「どうした?」

「今、少しだけ胸触られてもっと濡れちゃいました…(ぽっ)」

「死ね!今すぐ!」

「小鷹先輩に胸を愛撫されて濡れちゃいました」

「なんで言い直した!?」

「でも…どうしましょう…もう換えのパンツ用意しないとぐちょぐちょ過ぎて気持ち悪いです…」

「知らん!!コンビニで買って来い!」

「先輩、一つお願いがあるのですが…」

「なんだよ」

まさか下着を買って来てくれとか言うつもりじゃないだろうな…

そんなの絶対に無理だからな。

「拭いてもらえませんか?」

「断る!!!!!!!!!」

俺は全力で叫んだ。

 

そこへ幸村がやってきた。

理科と二人きりという地獄からやっと解放される。

「あにき、おつとめごくろうさまです」

「こんにちは幸村くん」

幸村は寄り添っている(ように見える)俺と理科を見て、怪訝そうな顔をした。

「……どうなされたのですか?」

「実は今、小鷹先輩に挿入をせがまれていたんです」

理科がとんでもない嘘を言った。

「ちょ…何言ってんだ!」

「……あにき…」

幸村はムッとしたような顔で俺を見た。

「い、いや!そんなの信じるなよ!嘘に決まってるだろ!」

「先輩は本当に理科の中に挿れたくないんですか?」

「あ、当たり前だろ!」

「じゃあ、幸村くんと理科、どっちに挿れたいですか?」

「は?」

「どっちですか?」

「な、何バカな事聞いてんだ!頭おかしいのか!?」

「しいて言えばの話ですから!」

「どちらなのですか、あにき」

幸村まで話に乗っかってきた。

「…っ!」

「幸村くんですか?」

「そ、そんなの……っ」

答えられるはずがない。

というかこいつらをそういう目で見た事がない。

だが言い淀んだ俺を見て、理科は何かを勘違いしたようだ。

「そうですか…悔しいですが仕方がありません…。じゃあそういう訳ですから幸村くん」

「はい」

「挿れさせてあげてください」

「わかりました」

「『わかりました』じゃねえよ!」

俺は喉の血管が切れんばかりに叫んだ。

何故こうも頭のネジがぶっ飛んだ奴らばかりなんだ…

いや、そもそもそういう奴らだからこんな所に入り浸っているのか…

俺は、世の中の仕組みが少しだけ分かったような気がした。

 

俺が絶望感に苛まれてうな垂れていると、

幸村が真剣な顔で俺の目を覗き込んできた。

「なんだ…どうした?」

「あにきに一つききたいことがございます」

「な、なんだ…?」

「つねづね思っていたのですが…、あにきはなぜわたくしをれいぷしてくださらないのですか?」

「はぁ…?」

「わたくしはあにきにでしたら、れいぷされてもかまいません」

「お、おま…え…」

「わたくしはだんしではなかったので、あにきのれいぷのお相手もできます」

「お、お前…自分で何を言ってるのか分かってるのか…?」

「おねがいです、わたくしをれいぷしてください」

「ゆ、幸村……」

「せいよくのはけぐちとして、わたくしのせいきをお使いください」

「ぐっ……」

「きっとすべてを受け止めてみせます」

真剣な幸村の表情。

こいつ…もしかして本気で言ってるのか…?

いや、幸村は冗談なんて言う奴じゃない…

それならば、俺はこいつになんて言ってやればいいのだろう…

そんな俺と幸村の間に、理科が焦ったように割って入ってきた。

「せ、先輩!」

「理科…?」

「あの…見ていていいですか!?」

「は…?な、何を…?」

「お二人がするところを、理科は隣で見ていてもいいですか!?理科はお二人のエッチに興味があるのです!」

「ダメに決まってるだろ!ってか、ちげえ!しねえよ!何もしねえよ!!」

「なさらないのですか…」

幸村が悲しそうな顔をした。

理科も悲しそうな顔をした。

俺も悲しい気持ちになった。

理科と違い(と信じたい)、本気でとんでもない事を言う幸村に、俺は真剣に答える。

「いいか、幸村」

「はい」

「そういう事は恋人同士でするもんだ。俺とお前は、そういう関係ではないだろ?」

「…はい。わたくしはあにきのしゃていです。こいびとどうしではありません…」

「だから、俺とお前はそういう事はしない。分かるな?」

「はい…、分かります」

少しだけ悲しそうな表情を浮かべているが、納得してくれたようだ。

疲れる…。

 

「それにしても先輩は強情っぱりですねー。こんな美少女二人が好きにして良いって言ってるのに」

「美少女って……自分で言うな」

「そういえばこの前、小鷹先輩でオナニーしていたんですけどー」

「さらっと怖い事言うな」

「………え?」

理科は目を丸くして、俺をまじまじと見た。

それはまるで信じられないものを見ているかのような顔だった。

何だ?俺、何か変な事を言ったか?

いや、変な事を言ったのは理科であり、俺はいたって普通の事しか言っていないはずだ。

理科が恐る恐るといった感じで俺に訊ねてくる。

「あ、あの……男の人って、こういう事言われると嬉しいんじゃないんですか…?」

「なんでだよ!」

「理科なりに小鷹先輩を口説こうとして言ったんですけど……もしかして逆効果でした…?」

「もしかしなくても逆効果だよ。当たり前だろ」

どんだけズレてんだよ。そんな訳ないだろ。

……多分。きっと。

その言葉を聞いて、理科は力なく笑った。

「は、はははは…はは…」

「理科…?」

「今までずっと信じていたものが、土台から全て崩れ去っていくような感覚です…」

「おおげさな…ってかどこで仕入れた知識だよ」

「え?エロ本ですけど?」

理科は可愛らしく首をかしげて、そう言った。

ちょっとマジで可愛いのがむかつく。

「そうか…、それは間違った知識だぞ…」

俺はそれだけ言うのがやっとだった。

 

 

 

「じゃあ理科はもう帰りますね」

「そうか」

しばらくして、理科は帰り支度を始めた。

今日はこれから用事があるらしい。

「理科室に寄って、小鷹先輩に激しく犯されているところを想像しながら2回ほどイッてから帰ります」

「言わんでいい!」

「そういえば先輩。今日理科はノーブラだったの気づいてました?」

「…嘘だろ?」

「本当ですよ?ほら」

そう言って理科は服をたくし上げようとした。

俺はそれを全力で阻止する。

「ちょ…!見せるな!!」

阻止しようとした拍子に、理科の胸を鷲づかみにしてしまった。

それは確かにノーブラだった。

「きゃっ!」

「あ…!す、すまん…!!!」

「う…うぅぅ…小鷹先輩に触られてしまいました…うぅぅぅ…」

「す、すまん!わざとじゃないんだ…!」

「これはもう…夜空先輩と星奈先輩に報告しないと…」

「ちょ…それは本当にやめてくれ!」

あの二人にバレたら何を言われるか分かったもんじゃない。

おそらく二度と立ち直れないくらいに罵倒され、

そして二度と人間として扱ってもらえなくなるだろう。

 

そして気づくと幸村が俺のすぐ隣に佇んでいた。

なにやら不機嫌そうな顔をしている。

「な、なんだ…?」

幸村は俺の手を取ると、自分の胸にあてがった。

ふに、と控え目だが柔らかい幸村の胸の感触が手に伝わる。

慌てて手を引っ込める。

「ちょ…な、なんだ?」

幸村は、俺の手を再び引き寄せて言った。

「あにき、わたくしのむねもおさわりください」

「ちょ…触らせるなっ」

パシャ!

その時、フラッシュが焚かれた。

理科が写真を撮っていた。

「あ…つい…決定的瞬間を…」

「『つい』じゃねええ!!!」

「ふふふふ…この写真をばら撒いたら、先輩はどうなりますかねぇ…?ぐへへへへ」

「なっ…て、てめぇ…!悪い顔で笑いやがって…」

「これを返して欲しかったら、今ここで理科に挿入してください」

「しねえ!!!!」

「そうですか…」

俺はカメラを奪い取ってデータを消した。

 

 

「まぁ挿入はまた今度のお楽しみにします。今日は本当に帰りますね」

「おう」

爽やかな笑顔にほんの少しだけドキッとしてしまう。

本当に普通にしていれば美少女なのに…

「小鷹先輩をからかって遊ぶの楽しかったです」

「おい待て。今なんつった」

「何も言ってないです、はい。何も。言ってない、イッてないです。まだイッてないです。早くイカせてください」

「………」

頭がいてぇ…

変態は最後まで変態のまま、帰っていった。

嵐のような一時間だった。

 

その後、暗くなるまで部室で本を読んで過ごしていたが、結局誰も来なかった。

 

 

 

家に帰り、小鳩と夕食を取り、風呂に入り、宿題をやった。

日付が変わる頃、ベッドに入る。

そして眠りにつく前に今日一日を振り返る。

日中は誰とも話さず、クラスメートからは怖がられ、

友達を作るきっかけすら出来なかった。

いつになったら友達が出来るのか、考えただけで憂鬱な気持ちになる。

そして放課後は部室で変態と戯れた。

あの変態、日に日にエスカレートしてきている感がある。

パンツや胸まで見せてくるのはさすがにコミュニケーションの域を超えていると思う。

あの性格さえなければ可愛いし良い奴なんだけどなぁ…

とにかく振り返れば振り返るほど、とても残念な一日だった。

 

 

さらに残念なのは、これが極めて平均的な日常だという事だった。

 


 

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