科学者の思考回路

 


 

「考え事を始めると、頭が全部そっちにいっちゃう質で」

とシンシアは言った。

 

最初は軽く聞き流していた言葉だったが、それはどうやら本当の事らしい。

それなりの時間を一緒に過ごしてみて、その言葉が実感できる。

一度考え事を始めると、シンシアはなかなか戻ってこない。

俺が声をかけても気付かず、長い時には10分ほど意識が飛んでいる事もある。

 

 

シンシアと川原を歩く。

天気もよく絶好の散歩日和だ。

一匹のネコが俺達の前を横切った。

「あ、ネコだ」

「……!」

「…シンシア?」

「………」

また考え事をしているらしい。

 

―シンシアの脳内

(あれはネコね?可愛いわね。触りたいわ。うん、捕まえましょう。

 …どうやって?ネコを捕まえるのは容易ではないわ。まずあのネコと接触しないと。

 餌でおびき寄せる?駄目ね。餌なんて持っていないわ。それなら何かネコの興味を引く物…

 そうだわ、地球には「ねこじゃらし」と呼ばれる植物があるはず。それを使えば…。

 でもそんなに都合よくこの川原に生えているとも限らないし…

 そもそもねこじゃらしにどれ程の効果があるものなのか…

 それにねこじゃらしはある程度近寄らないと効果を発揮しないわ。

 あぁ、そんな事を考えているうちにネコが遠くへ行ってしまうわ。

 どうしよう。このままじゃネコを触れないわ。なんとかしないと…!でもどうやって…

 あ。にゃーって言った。今あのネコにゃーって言ったわ。可愛いわね。

 ますます触りたいわ。触ってにゃーにゃー言わせたいわ。

 走って追いかけたら逃げちゃうかしら?でも他に方法が…

 あ、ごろんと横になったわあのネコ!今なら触れるんじゃないかしら?

 お腹とかもふもふしてて気持ち良さそう…。あ〜触りたい…そしてもふもふしたい…

 もふもふ……もふもふ…もふ…)

 

「シンシア?…シンシア?」

「……え?あぁ、タツヤ…どうしたの?」

「また考え事?」

「え?あ…私ったらまた…ごめんなさい」

「いや、別に謝ることもないけど」

 

 

しばらく歩き、今度は花屋の前を通る。

色鮮やかな綺麗な花々が並んでいる。

 

―シンシアの脳内

(花…綺麗ね。あの赤い花が一番好きだわ、私。

 そういえば地球にはおひたしにしたら美味しい花があったわね、確か。

 なんだったかしら。…そう、菊とかいう花だったわ。どんな味がするのかしら。

 ここには菊は…ないみたいね。残念だわ。

 麻衣に言ったら作ってくれるかしら、菊のおひたし。

  …ん?おひたし?おしたし?どっちかしら。

 おしたし?おしたひ?なんか違うわね…

 おしたし…おひたし…おひたひ

 …あれ?なんか分からなくなってきちゃった…

 あ!そっか!浸すのよ。何かに浸して作るのよね。

 だったら「おひたし」だわ。うん。

 よし、帰ったら麻衣に作ってもらいましょう。楽しみだわ)

 

「…シンシア?」

「…え?なに?」

「どうしたの?また考え事?」

「あ…あぁ、ごめんなさい、私ったら…」

 

 

一度考え事に入ると俺の声も届かない。

科学者の集中力の凄まじさを見せつけられる瞬間だ。

俺みたいな凡人とは頭の作りからして違うんだろうな。

「なぁ、考え事をしている時ってどんな事考えてるんだ?」

「ん〜、ナイショ♪」

上目遣いで可愛く言われてしまった。

ナイショなら仕方ないな、

でもきっと俺なんかじゃ想像もつかないほど難しい事を考えてるんだろうな。

俺は、そんなシンシアにだんだん心が惹かれていくのを感じていた。

 


 

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