この世界は心地よかった。
 まるで羊水の上で眠る胎児のように、私の心は穏やかだった。
 だから、
 どうか、
 この世界を壊さないで。










 "新月に祈りを"










 朝食の準備を整えた私は、未だ夢の世界を闊歩している武を起こすべく、そっと部屋を覗き込んだ。
 二人で肌を寄せ合ったその部屋には、まだ温もりがあった。カーテンの隙間から零れる陽光が武の頬を射して、淡くその色を染め付けている。
 後ろ手にドアを閉めると、私は起こさないように武の傍に寄った。
 ……全く、なんて可愛い寝顔なんだろう。穏やかに寝息を立てる武の寝顔は、平和に満ち溢れていた。何の悪も、障害も、彼の前だと、全て無効化されてしまいそうな、そんな安らかな寝顔だった。
 そっと前髪に触れる。くせっけの髪は指の間に纏わりついて、私を放そうとしない。
 なんて幸せなんだろう、と思う。今まで味わってきた苦しみも、悲しみも、怒りも、全て吹き飛んでしまう。おそらく、平和にはそんな力があるのだろう。
 いつの間にか緩み始めた頬を心持ち上げて、私は布団を揺らす。
「武……武ったら」
「ん……うーん……」
「武、もう朝よ?」
 何度か揺すってみるが、武はなかなか起きてくれない。仕方なく額を小突いてみるが、結果は同じだった。
 はぁ、とため息をひとつ。だけど不思議と、嫌な感情は浮かんでこなかった。代わりに、少し驚かせてやろうという、悪戯心が生まれた。
「武……?」耳元で囁くように呼んでみる。「まだ、寝てるの?」
 微かに寝返りを打つだけで、武はやはり眠っていた。
 それなら――
 私は頬が緩むのを構わず、瞼を落とし、寝息を立てる唇を塞いだ。もちろん、唇で。
 仄かな甘味。そして、確かな温もりが唇を通じて私の心を揺り動かす。
 目覚めのキス――みたいな素敵なものじゃなくて。これは単なる悪戯だから。深い意味は無い。具体的な理由も無い。まるで呼吸をすることみたいな、朝は陽光とともに目覚めることのような、そんな当たり前のこと。
 一秒、二秒、三秒……。いったいどれほどの時間キスを続けていただろうか。除々に武の挙動が怪しくなっていく。何かにもがき苦しむように、手足をばたばたとさせた。だけど私は、離してあげない。
 だめよ、武……確りと起きなきゃ。
 右腕を押さえる。頭を軽く抑えて下唇を軽く甘噛みした。
 だんだんと、頭の中が真っ白になっていく。だんだんと、何も考えられなくなっていく。だんだんと、ココロが武のことで一杯になっていく。
「――っぷふぁ!」
 ようやく、武が目を覚ました。目をパチクリさせながら、魚みたいに口をパクパクさせている。その姿が可笑しくて、私は少し微笑ってしまった。
「なんだよ……」
「どうしたの?」
 私は何とか笑いを抑えて、荒い呼吸を続けている武の瞳を見つめた。
「何かと思ったら」
 結果から言えば、武はその続きを言わなかった。しばらく荒い呼吸を続け、ようやく落ち着いたかと思うと不思議そうな、それでいて何処か呆れた視線で私を見た。私は少し首を傾げ「どうしたの?」と聞いた。
「いやな、まあなんていうんだ?」
「うん」
「もっとまともな起こし方出来ないのかなー? と、そう思ったわけだ」
「まともじゃなかった?」
 クスクスと私は微笑う。
「全然」と彼は首を振り「嬉しいんだけど、なんていうか、もっと優しくしてくれ」
 そう言って苦笑した。
「だって……」
「ん?」
「武、なかなか起きてくれないから」
「だからってな」
 少しだけ怒ったような表情になる。だけど、本当は怒っていないのだ。目元が少しだけ笑っているのがその証拠。おそらくは、笑いを堪えているのを看破されたくないのだろう。昔からそうだ。武は、自分の弱いところをなかなか見せてくれない。いつも隠してしまう。けど、その隠し方が下手だった。だから、すぐに見つけることが出来る。
「うん、それじゃあ、次は違う起こし方にするわ」
 私がまた悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「勘弁してくれ」
 と、武は苦笑した。


 着替えている武を部屋に残して、私は先にテーブルに着いた。すでに朝食の準備が出来ているので、後は武と一緒に食べるだけだ。
 今日の朝食はトースト。それに、ベーコンエッグ、コーヒー、フルーツサラダ。私も武も、朝はあまり食欲が無いので、いつも少ない。それでも武は、私の一・五倍は食べるのだが。
 朝はトースト。だけどご飯のほうがすき。日本人は米を食わなくちゃいけない。何処かのサッカー選手に説教されるから。
 肉より魚のほうが好き。だけど、ステーキだけは別。ハンバーグも大好き。ハンバーグとお米さえあれば人間は生きていけるから。野菜は嫌い。特にきのこ類がだめ。菌類なんて食べ物じゃない。不足しがちな栄養はサプリメントで取ればいい。野菜は嫌いだけど、トマトだけは別。トマトは美味しい。太陽の味がするから。
 和食でも洋食でも中華でも、食べられるならなんでもいい。でもやっぱり、野菜は苦手。魚は好きだけど、たまには肉も食べたい。
 これが、私の知っている武の好みの一部だ。武は食事のとき、こちらが頼みもしないのに勝手に喋ってくれる。だから食事中会話が絶えることは無い。いつも笑顔だ。だけど嫌いな食べ物が出たとき、彼は少しだけ悲しそうな表情をする。そんなときは「食べなきゃ作ってあげない」といえば、彼は苦しそうな笑顔で食べてくれる。全く、子供みたい。彼は子供みたいに純粋なのだ。彼は――倉成武は。
「おはよ」
 服を着替え、顔を洗ってきた武が顔を出す。
「おはよう」
 私は笑顔で答える。これが、朝の始まり。
 武が席に着き「いただきます」という言葉と同時に、私たちは食べ始めた。
 食事中は静かで、テレビの音はしない。私がつけるのを許していないからだ。作った人間にとって、食事以外のことに集中されるのはいい気分がしない。私にとって、作った食事を笑顔で食べてくれる武の表情が、一番の娯楽なのだから。
「どうした?」
 パンにマーガリンを塗りながら武が問う。
 私は頭を振り「なんでもない」と答えて、ベーコンエッグを口に運んだ。
「そうか?」
 まだまだ武は言いたそうだったが、それ以上は何も言わなかった。
 静かな朝の風景。陽光と、コーヒーの香りと、穏やかな笑顔が空間を満たしている。私は、こんな穏やかな世界がとても好きだった。
 何も変わらない。何も失わない。代わりに、何も得られないけれど、今の私にはこれで十分だった。十分すぎるほどだった。何年間も監禁生活を続けていた私にとって、この生活は十分すぎるほど穏やかで平和だった。何も失わないということがこんなにも素晴らしいことだったなんて、初めて実感することが出来た。
 全ては過去の話。今はもう、あの黒い影は存在しないのだ。そのことを言い聞かせるのに、どれだけ時間がかかっただろう。
 やがて食事が終わると、武は後片付けをして食器洗いを始めた。家事は交代制で、私が食事を作るときは武が洗い物をして、彼が食事を作るときは私が洗い物をする。
「ねえ」私は食後のコーヒーを啜りながら、武の背中に話しかけた。「今日は、何処かに出かけない?」
「ん……それもいいな」
「そうでしょ?」
「ああ……。でも、どこへだ?」
 食器洗いを終えた武が私の前にドンと座る。テーブルの上においてあるカップをとり、一口コーヒーを飲んだ。
「どこでもいいわ」
「あのね。そう漠然としたものじゃなくて、具体的に場所指定してくれなきゃ」
 そう答えながらも、武は腕を組んで真剣に考えてくれている。しばらく待っていれば、何処か場所を指定してくれるのだろ思う。
 ――だけど。
 それだけじゃあ、つまらないから。
「買い物にも行きたいわね」
「げ」
 武は露骨に表情をゆがめた。
「なによ。その『げ』っていうのは?」
「だって……なあ、つぐみ?」武はひどく落ち込んだ表情で私を見てきた。
 何だろう、と思う。何がどうしたのだろう。
「お前、迷って結局買わないことばかりじゃないか」
 ああ、そんなこと。
 心配した自分が可笑しく思えて、私は少し微笑った。
「仕方ないじゃない」私は答える。「女って、そういう生き物なんだから」

 しばらく時間を潰してから、私たちは部屋を出た。学生ながらやけに豪華な部屋を借りていると思ったら、武の両親は地方の名士らしい。だから持っているPDAも特注品だったのか、と納得がいく。
 あの日――LeMU圧壊事故から生還した私は、そのまま転がり込むように武の部屋で生活するようになった。もともと身寄りが私にはいなかったし、頼れるのは、武しかいなかったから。
 ガチャリ、と電子ロックが音を立て、部屋を密閉させる。
「では行きますか」
「うん」
 私は先に歩き出した武の横に立って、その右手を確りと握り締めた。

 武の住んでいるアパート――というかマンション――から電車に乗って二駅。私たちは繁華街までやってきた。人通りが多くて人酔いしてしまうのだが、今は隣に武がいる。だから、私の安心して街に出てくることが出来た。
 私は変わった。数日間で、驚くべき変化を遂げた。それは全部、武のおかげだ。武がいなかったら、私は今も、冷たい袋小路を走り回っていたのだろう。
 掌から伝わってくる温もり。私はそれを、強く握り返した。
 ん? と武が私を見る。
 なんでもない、と私は答えた。
 街並みは流れる。人々が行き交う。私たちは、そんな間をすり抜けるように歩いていた。目的はあったけど、もうどうでもよくなっていた。ただ、こうしているだけでいい。
 この世界は心地よかった。
 まるで羊水の上で眠る胎児のように、私の心は穏やかだった。
 だから、
 どうか、
 この世界を壊さないで。
 私は空を見上げた。青いキャンバスに白い雲。平和の具現がそこに在った。
「――あれ?」
 突然、腕から力が抜けた、
 掌の温もりは一瞬にして冷め、私はその場所に蹲ってしまう。武は気づいていないのか、そのまま歩き去ってしまう。
 どうして!? 何故!? 焦りばかりが身体を侵食していく。動かなきゃ、武を追わなくちゃ! だけど、想いとは裏腹に力は入ってくれなかった。
 全身が寒くなっていく。温もりが消えていく。冷たく、凍えてしまう。
「武っ!」
 私は何とか叫んだ。叫べた。心の底から武を呼んだ。
「武ーっ!!!」
 しかし声が届いていないのか、武は振り返ってはくれない。声が、虚しく世界に溶けていく。
 どうして……どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてっ!?
 ふと、肩に冷たいものが乗った。反射的に後ろを見やる。
 ――そして、私は、本当に、凍り付いて、しまった。
 そこにいたのは、いつか見た、白衣の研究者たち。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
 私は、絶叫した。
 全身に力が入らないにもかかわらず、私は全力でもがいた。やつらの腕から逃げ出そうとした。けれど、力が入らないことには意味が無い。
「たけしぃぃぃっ!」
 だけどせめてもの望みを掛けて、
「武っ! 助けて!!」
 私は、その背中に向かって叫んだ。
 冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。思い出すのは、冷たいものばかり。
 悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。覚えているのは、悲しいものばかり。
 温もりも、優しさも、暖かさも、平穏も、平和も。
 武、助けて! 私を……助けて。お願い……おねがい……。
 ――無駄なんだよ。
 違う。
 ――もう、お終いなんだ。
 嘘っ!
 ――嘘じゃない。お前だってもう、気づいているんだろ?
 そんなことないそんなことないそんなことない!
 視界は涙によって滲んでしまった。もう目の前さえ確認できない。両腕はやつらに取られて、私は引きずられている。
 武は、何処? 
 武は、何処にいるの?
 助けて。
 ――もう無理だ。
 たすけて。
 ――諦めが世界を生む。
 タスケテ。
 ――武はもういない。
 武……たけし。
 と、頬に冷たいものが触れて、私は瞼を上げた。
 ……いや。
 ……いやよ。
 ……いやなんだから。
 ……こんなの。
 ……こんなのって。
 目の前にあったのは。私の頬に触れたのは。
 ……うそ。
 ……うそよ。
 ……うそでしょ。
 ……ねぇ、うそなんでしょ?
 ――武。
 それは、武の、冷たい、右腕と、身体。

 ――武は死んだのさ。

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!
 やはり武は死んでしまったのだ。もう、私に味方はいないのだ――そう思ったとき、


 ――頬を撫でる夜風に、目が、覚めた。

 頬が何かで濡れている。それが自分が流した涙だと気づくまで、しばらく時間が必要だった。
 全身が重い。ここしばらく逃げ続けだったから、身体に疲労が蓄積されているのだろう――と、冷静に自分を判断できた。
 ほぅ、と息を吐き出す。白い霧とともに、悩みが晴れていくような気がしたが、ちっとも晴れてはくれなかった。
 軽く頭を振る。軽い疼痛が頭の奥にあった。それが夢のせいなのか、または寒空の下で眠っていたせいなのか、判断はつかなかったが。
 ――夢。
 その単語が、不思議と心の中に染み渡っていく。
 ああ、あれは夢だったんだ。そう安堵する気持ちと、あの幸せが長く続くのなら夢を見続けたかった、という背反した考えを持つ自分が同時に存在していた。
 私は、どちらを望んでいるのだろう?
 空に答えを求めたが、そこには闇が広がっているだけだった。星明りは無く、月明かりすらない深い闇。吐息は白い塊となって、しかし風に吹かれて空に届くことは無い。
 少しだけ今までのことを回想した。
 私はずっと逃げ回っていた。あれから――LeMU圧壊から、どれだけの月日が経つだろうか?
 もう正確な日日は覚えていない。記憶は曖昧だった。あるいは、深く思い出したくないという、心の防衛機構が作動したためだろうか? それはともかく、今の私には、そんなことはどうでもよかった。
 よかった――はずなのに。
 頬を暖かいものが流れる。涙は止まってはくれなかった。
「武……」
 その名を呼ぶだけで胸が締め付けられるように切ない。夢の中にあった温もりは、あくまで夢の中でしかない。現実の冬の冷たさの前には、そんな幻想が吹き飛ばされてしまいそうだった。
 何故? と思う。何故あのとき、彼は外に飛び出してしまったのだろう、と。
 もしかしたら、何かの拍子でバラストが放出されたかもしれなかったのに。例えば――奇跡。
 と、不意に足音が聞こえた。
 私は思考を頭の中から追い払って、その物音に感覚を集中させた。
 キュレイウィルスに感染してから、身体能力の向上や赤外線視力だけではなく、身体の感覚も鋭くなっていた。普通の人間なら気づかない些細な音でさえ、私は捉えることができる。
 ライプリヒが私をなかなか捕まえることができない理由がここにある。相手が私を見つける前に、私が隠れてしまえば、見つけようが無いからだ。
 カツンカツン、と裏路地に足音が木霊する。……いや、正確には木霊などしていない。あくまで表現としてだ。
 数は――おそらく複数。だが正確な数は判らない。周りから私を追い詰めるように接近しているのがわかる。
 この場合、すぐに動いたほうがいい。相手を引き込んで、そして多数の相手をするより、少数の相手をしたほうが楽だからだ。
 もう一度感覚を研ぎ澄ます。ここは視界の広げた草原ではない。森の木々のようにビルが乱立する、無機質な森の小径。完全に等間隔になって接近するのは不可能だ。だから、どこかに穴がある。私は、そこを突く。
 腰を上げ、何時でも飛び出せる準備を整える。いつになっても緊張感を緩めることはできない。だから、今日は失態だった。まさか夢を見るほど熟睡していたなんて……。
 いまさら自分を罵っても後の祭りだ。今は、逃げることだけを考える。
 闇を切り裂く風が、微かに血の匂いを孕んでいる。それの中に、包囲網の僅かな緩みが混じっていた。
 左――私は闇を駆け出した。
 赤外線視力の力によって、私は闇の中でも機敏に動くことができる。道路に散らばっている障害物を巧みにかわしながら、私は闇に同化していった。
 足音が近づく。どうする? 刹那、頭の中で選択肢が浮かび上がった。戦うか、避けるか。
 だが、結局、選択肢を選ぶことはできなかった。
 角を曲がった瞬間、私は相手と対峙してしまったのだ。
「……っち!」
 舌打ちをしつつ、相手を見据える。身長は百八十ほど。体重もありそうで、肩口はがっちりとしている。服装は判らない。興味も無い。ただ、私の敵だというのは、雰囲気から判った。
 逃げることは、出来ないか……。
 ここで背を向ければ、仲間がやってくる。そうなれば、私がどちらへ逃げたかすぐにばれてしまうだろう。
 ならば――
 私は息を吸い込んだ。姿勢を落とす。右足に力を込め、大地を蹴り飛ばして、跳んだ。
 その瞬間、私の身体を爆発的な加速力が襲った。
 視界が揺れる。局所的に跳躍飛翔を行うのは、私の身体に対する負荷が大きかった。
 相手が驚いたように身体をのけ反らし、しかし反射的に右手を繰り出してくる。
 予想以上に相手の反応がいい。けれど、そんなことは関係なかった。
 やけにゆっくりとしたその動作を紙一重で避けると、相手の懐に飛び込んだ。
 一つ、息を吐く。
 相手の喉笛に手刀を突き入れ、その威力に怯んだ相手の鼻頭に向けて掌打を加えた。
「ぐぇぇっ」
 ぐしゃり、と何かが潰れる音とともに、その巨体が後方へ直線に弾け跳ぶ。私はその姿を視界の端で捕らえながら、再び闇へと駆けていった。
 あの後どうなったのか、それは判らない。おそらくは仲間が駆けつけ、救急車でも呼んだのだろう。
 私は駆ける。闇を、闇の中を。
 永遠に終わらない螺旋を断つべく、私は闇と同化する。
 月の無い夜は暗く、それは私にとって好都合だった。頬を突き刺す冷たい風は、私に安息の時間を与えてはくれない。
 けれど、それでいい。安息を知るには、まだ、早すぎる。

 ――生きている限り、生き続けろ。

 武の言葉が、不意に脳裏を横切った。温もりも、優しさも、そこには無かったけれど。
 ねぇ、武。私は生きてるよ。まだ、生きてるよ。この先、多分、ずっと辛いことが続くかもしれない。けど、武を信じて、今日も生きてるよ。
 だからね、武。早く来て。早く、逢いたい。武に、また、逢いたい……。
 闇を駆けながら、いつしか私は泣いていた。失った温もりを夢見て、私は泣いていた。
 瞳から零れた涙は冬の大気の中で冷たく凍っていく。その現象がはっきりと見えるこの能力が、少し恨めしく思えた。
 カツン、とまた足音が聞こえた。どうやらやつらは、まだ諦めた訳じゃないらしい。
 多勢に無勢。いつかは自分が負けてしまうのかもしれないと思った。それでも――
「生き続けてやるんだから!」
 空には星が無く、月明かりすらない。
 私は見えない月に向かってそう叫ぶと、闇から闇へ、また駆け出していった。





あとがき

 つぐみ補完SS。つぐみ強すぎ(ぉ
 戦闘が余計だったかも。下手だし。



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