私が興味のある素材といえば軽金属と樹脂材料だ。

軽金属やプラスチックに対する社会の期待というものは数十年前からあったのだろう。なぜなら低比重素材を使用することで断面係数を大きくとることができ、高剛性な構造物を軽量に仕上げることができるからだ。

だが、昔はそれを具現化する技術が無かった。それに,それらの低比重素材は決定的に弱かった。あまりの弱さに断面係数を稼いでもわりに合わなかったのだ。

だが、技術の進歩は夢を現実に変えた。今夜はその歴史を,少しだけ振り返ってみることにしよう。

1990年、Hは満を持してオールアルミボディーを採用した○×△を発表した。

「Hの技術力を持ってしてついに自動車にもアルミボディーの到来か!」

さもありなんと,モータージャーナリストたちは口をそろえて言った。

鉄はアルミに取って代わられる運命なのだと,誰もが思った.

だが、○×△は失敗作だった。

なぜなら,ボディーの構成が旧態依然とした、まんまスチールモノコックをアルミに置き換えただけの物だったからだ。これでアルミニウムの旨みを全て引き出せるわけが無い。

つまりアルミボディーを自動車のモノコックとして形にするためのイマジネーションが,Hの技術者たちには欠けていたのだ。

まず生産性が凄惨を極めた。そりゃそうだ、スチールモノコックはプレス成型の良好な生産性を前提としているのだから。プレス成型性の悪いアルミをメインモノコックにするに当って,Hは禁断の手作業を導入した。

それだけではない、アルミフレームはスポット溶接が上手く付かなかったのだ。ここでもHは低品質手作業を導入した。このスポット溶接は剥れまくることで有名だ。

熟練作業員の手作りはモノづくりの極致にあるといわれている。例えばトヨタの最高級車にセルシオとセンチュリーがある。互いにその生産規模の中では現在の自動車工業の中では最高品質を誇るのだが、やはりセンチュリーの方がその品質においては一日の長がある。両者の違いは、センチュリーは手作りで到達できる最高精度、他方セルシオはNC機械で到達しうる最高精度を追い求めているという点だ。

だが○×△に関して言えばそんなことは無い。手を抜いた手作りほどたちの悪いものではない。○×△で交通事故を起こしてはいけない。なぜならスポットが剥れるということは衝突安全性能を期待できないからだ。また、そのアルミボディーにより獲得できた運動性能とはかくなるものか!という事だが、高性能タイヤでボディーの素質の悪さを誤魔化したというのがもっぱらの意見だ。タイヤがヘタると○×△はとたんに危ない車になるらしい。全国の高速道路のジャンクションで壁に突き刺さっているとのことだ。

また○×△はリサイクルの反面教師として大変有名である。ボディーだけでも3種類の合金を巧みに?組み合わせて使用しているのだ。これがいわゆる最適化というやつかw

まあ,素材云々は置いておいて,まずFFのパワープラントをそのままミドシップに据え置くというパッケージングがそもそも納得いかないのだが,まあそれはそれとしてだ.

十年後、Hはまた同じ過ちを繰り返した。それがでっち上げハイブリットカー・●×▽○▽だ。「カタログスペックをプリウス以上に」を合言葉に作られた居住性無視の空気抵抗スペシャルボディーにダイナミックセーフティーを蔑ろにした低転がり抵抗タイヤを採用し、超低燃費を実現した車だ。もちろん、同じ構成のボディーに小型コモンレールディーゼルを搭載すればそれ以上の燃費が叩きだせるだろうが、それは公然の秘密だw

なんでこんな車をHが作ったかというと、それは○×△を造っている工場への救済措置だったのだ。衝突安全性に対してはさすがに不味いということで新たな提案があったのだが、基本構成は相変わらずのままで、これまたスチールモノコックをアルミ板で置き換えただけのものだ。もちろん○×△に比べて大幅に生産性が向上するめどが立ったから生産に踏み切ったのは間違いないらしい。

だがこのスポット溶接、これまた存分に剥れることが他社の技術者の間では有名のようだ。部位によっては半分くらい剥れるらしい。アメリカ向けならこれでもいいだろうが、この車,そのうちPL法で裁かれてしまわないか,私は心配でならない。

さて、これまでがアルミフレーム負の歴史だ。量産自動車アルミフレームがいかに難産だったかという話。ここからは技術革新によりアルミフレームがいかにして市民権を得ていくかという歴史の話である。

アルミフレームの実用化に成功した分野はまず高コスト製品だ。まず競技用自転車に大断面押し出しチューブを使用した超高剛性フレームが登場する。これはアルミの低比重さを遺憾なく発揮した例だ。アルミの低弾性率を断面係数で十分に補うことに成功したのだ。

競技用自動車用フレームにも古くは手作りのバスタブモノコックなどがあったのだが量産フレームで市民権を得たのが1993年のAudiのASF(アウディースペースフレーム)からだ。その名のとおりアルミではモノコックを作らず、スペースフレームを形成するのだ。発想の転換である。プレス成型との決別により、アルミは新たな自由度を獲得したのだ。

アルミの成型性は良いという意見と悪いという意見があるが、前者はプレス成型性、後者は押し出し材とダイキャストの事だろう。切削性に関しては合金の種類次第である。これまで自動車フレームはプレス成型からの呪縛があったのだ。

アルミはプレス成型が効かないことを承知の上で,自動車技術者はプレス加工への道を模索していた。プレス成型以外には相応のコストでの量産化は難しいとされていたからだ。アウディーは、いや、アルコア社は自動車用フレームにアルミ押し出し材とダイキャストを組み合わせるという世界初のソリューションを提案したのだ。

アルミモノコックフレームはコストの割りにメリット無し。これが自動車技術者共通の認識である。だがアルミはアルミの特性を生かしたアルミ特殊の構造とすれば事情は変ってくるのである。

ASFは耐食アルミ合金の押し出し中空材を広範囲に使用し、これをインナースルー結合、/セッティングブラケット結合することによってアルミ構造の欠点を是正すると同時に衝突安全性などでは逆にアルミのメリットを生かしたのだ。

この構成はAudiの高級車以外にもFerrariなど趣味性の高い高級車に次々と採用されていった。

似たようなことは鉄道車両にも起こっている。ダブルスキン車両の登場である。これまた押し出し材を効果的に使用した例だ。

オートバイ業界のアルミ化の歴史は更に古い。オートバイの軽量化に対する要請は自動車の比ではないのだ。以前から成型性に優れるアルミ鋳造品を強度に優れる大断面アルミ押し出し材でべた溶接により結合するという手法がとられていた。最近はダイキャストの技術がさらに洗練されてきたため、フレームをダイキャスト一発で鋳込んでしまうという構造がとられている。これまでの鋳物アルミに比べ大幅にすを低減し、高強度化と超薄肉を実現化したのだ。これにより形状のさらなる自由度を獲得し、薄肉のボックス構造で超軽量高剛性を部品点数と工数を削減した上で達成したのだ。これはアルミの成型性の勝利である。どんなにアルミが柔らかかろうと、形状で十分勝負ができるのだ。

これまでの話は新素材をものにするのがどれだけ大変なのかという話だったが、私がこれから注目している素材がある。それはベリリウム合金だ。物質中最高音速を誇ると聞いただけでこれがどれほど軽量高剛性かがよく分かります。若干もろいとはいえ、全物質中で4番目の弾性率を誇るリチウムについで2番目に軽量な金属であり、しかも熱伝導率が高く、熱膨張率が少ない。まさにエンジンにうってつけである。

ベリリウム単品でも超超ジュラルミン程度の強度に到達することが可能らしいが、アルミ・ベリリウム合金の物性ももれまたすばらしいものらしい。

ベリリウムはその毒性が有名だがこれは生産時、特に切削加工時に起こる封印可能な現象であり、CO2のように閉じ込め不可能な物質ほどには神経質になる必要は無い。

またベリリウム以外にも軽量高剛性合金としてはアルミーリチウム合金がある。アルミにリチウムを混ぜることでアルミの比重を飛躍的に小さくすることができるのだ。その上,ジュラルミン並みの強度も得ることができる.つまり,高剛性構造体を作るにはうってつけなのだ.

軽い素材を使ったからといって軽い構造物が出来るとは限らない.これはぜひ心にとどめておきたいことである.


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