千代鶴是秀作 二寸鉋 銘「是秀」

                            


















千代鶴是秀(加藤広 1874〜1957)
 
刀匠の家系である叔父の七代運壽齋石
堂是 一に師事し、叔父に当たる八代目
石堂寿永(八代目石堂是一)からは刃物
鍛冶の技術を学んでいます。

十九歳の頃から既に「千代鶴是秀」とい
う鍛冶名を決めていたようですが、やがて
関東一円はもとより関西方面にもその
名は名人として鳴り響くようになります。

その作品の種類は幅広く、深い探究心
とそれを具現する技術に支えられ、
鑿、
鉋は
勿論のこと、切出し小刀、玄翁、
彫刻刀、鋏、刳小刀、剃刃等それぞれ
第一人者よりもむしろ巧く作っています。

地金は所々巣穴のある和鉄に拘り、地
金と鋼の鍛接は硼砂を使用していたよ
うです。

裏透きは均一で、すき目も非常に繊細
で細かく、その正確な銑がけは他の追
従を許さぬ名手としての技術が光ってい
ます。

地金と鋼の境界である鍛接線と地金か
え先は混じることなくはっきりとしていま
すが、これは低温域で鍛造したことを物
語っています。
特に地金かえ先の地金と鋼は溶け合う
ことなく断層のような亀裂が走っていま
す。

鑢掛け、銑掛けの技術の高さは裏の地
金の意匠的なV字型矢羽根の跡にも現れ
ています。

是秀の妥協を許さない丁寧な仕事ぶり
と、確かな造型の技術とセンスとによっ
て造られた作品からは品格というものが
滲み出ています。

鉋身の表には画像では読みにくいです
が、8ミリ角程の小さい刻印で「千代鶴
是秀造」とあります。

参考までに、当時一般的に市販されて
いた是秀の鉋には銘として「藤四郎」、
「是秀」、「夕陽山」、「毛六」、「春の湖」
、「渓間の華」、「花吹雪」、「春駒」、「延
壽」、「瑞雲」、そして「あしたの夢」など
詩的想像力をかき立てる美しい切り銘
の鉋があります。


岩崎航介遺稿集「刃物の見方」(昭和4
4年初版発行)
の中に是秀に関する興味
深いくだりがあるので抜粋しておきます。


☆十万円の鉋
 (東京に千代鶴是秀という名人が居ま
した。八十四歳で先年亡くなりました。此
の人は大したものを造っていました。鉋
一枚四万円です。併し亡くなる前三、四
年間、一枚も造らないと云って居られま
した。
鉋を持っている商店では、非売品にして
ショウウインドに飾り、そこへ説明書をつ
けて、千代鶴是秀翁昭和何年の作と大
切に陳列して居りました。大工さんはそ
れを眺めて、よだれを流すのです。
絶対に売りません。

 私がお会いして、色々教えて貰った時、
「あたしはね、鉋一枚造るのは、十日以
上かかります。」
「どうしてそんなにかかるのですか。」
「あたしは鋼を伸びるな、伸びるなと云っ
て叩きます。越後のお方は伸びろ、伸び
ろと云って叩く。だから一日に五枚も十
枚も出来るのです。私は鉋の平は叩くが
、コバは叩きません。」
「どういう訳でこばを叩かないのですか。
」「こばを叩くと、鋼の繊維が乱れます。」
「では、平を叩いて、幅が広くなったらど
うしますか。」
「銑と鑢で削ります。」
大変な手間を掛けるので一枚四万円に
なるのでしょう。

 秩父宮様に献上した登山ナイフは、六
十日かかって造り上げたと語って居られ
ました。そう云う名人でした。此の人が亡
くなってから、東京の木屋商店で、この
鉋を飾ったのです。そこへ一人の紳士が
来て、値段を聞きました。若い店員が、
非売品ではあるが、ウント高い値を付け
て驚かせてやろうと思ったのでしょう。
「十万円です。」
紳士は少しも驚かず、
「買いましょう。」
と云って代金を出したのです。

 店員は十万円なら、売ってもよいと思っ
たのでしょう、之を渡しました。

 あとでこれを知った社長はビックリして
、たとえ二十万円でも売る物ではなかっ
た。
二度と手に入らない宝物だったのにと残
念がる。買った人は誰方だろうと、色々
調べた結果、土建業の大物、間組の社
長である事が判った。早速木屋商店の
代表が、間組を訪ねて、社長に千代鶴
是秀の鉋の由来を語り、
「将来若し人手に渡す様な事があるなら、
是非私共の所へ売って貰いたい。」
と懇願したのです。私は此の話を木屋商
店の常務加藤俊男さんから、直接聞い
たのです。

 又ある時、研究の為に訪問した折り、
鋼は国産では何を使って居られるかと質
問した時「国産の鋼は使いません。何十
回も見本が届けられて来ますが、まだ一
度も使ったことがありません。」
「何故使わんのですか。」
「切味が悪いからです。」

 これ一言。国産の鋼を生涯一度も使わ
ないのです。私は吃愕しました。何故使
わんのだろうか。音に聞こえた有名な鋼
が御座いますのにね、千代鶴さんは数十
年来、日本の鋼を使わんのです。一体こ
れは何処に原因があるのか。

                       参考文献 :    「日本の伝統工具」土田一郎著
                                   「目の眼」 千代鶴是秀の魅力を語る 談 土田一郎
                                   「千代鶴是秀」白崎秀雄著
                                   「ナイフマガジン」bX6
                                   「刃物の見方」岩崎航介遺稿集
                                       

         

                                       


                      
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