外国人の氏名

外国人が日本の不動産を買い、所有者として不動産登記簿に名前を載せるような場合、その方のお名前はどのように登記されるのか、また、どのような添付情報(立証書類)が必要か、ご紹介します。

1 不動産登記で使われる文字について

不動産登記で使われる登記名義人の氏名は、日本語の文字(漢字、ひらがな、カタカナ)に限られます。例えば、TURNER ELIZABETHという名前の米国人が日本の不動産を所有する場合、現在の登記実務においては、「ターナーエリザベス」のように日本語の文字で登記されます。

中国語の場合は、簡体字でも日本語の字体と一致していれば、登記ができます。ただし、「意味が違う別の字の偶然の日中一致」には要注意です。たとえば、中国人の姓の一つ「葉」は簡体字では「叶」と書かれます。「叶」はたまたま日本語の「願いが叶う」の「叶」と形だけ一致していますが、別の字です。中国の「叶姐妹」は「葉さん姉妹」であり、「かのう姉妹」ではありません。

他方、繁体字の場合、ほとんどの繁体字は日本語の正字であるため、登記できる場合が多いです。例えば、「国」と「國」、「号」と「號」、「沢」と「澤」など、いずれも登記できます。

中国人・華僑・華人の氏名を登記する際は、「漢字で登記を入れてほしい」とご希望されることが多いです。中国語対応司法書士としては、このご希望に応えるよう努めています。
例えば、「毛沢南(毛南)/MAO ZENAN」さん(仮名)という方から登記の依頼を受けた場合、「マオザーナン」ではなく、漢字で登記を申請したいところです。日本語の正字ではない「」は無理ですが、せめて「毛沢南」又は「毛澤南」を、とのご希望には応えたいです。

ここで重要なのが、登記で提出する添付情報(立証書類)の事前準備です。

不動産登記制度上、どのような名前で登記を申請するかは、自己申告では通りません。
住所と氏名が証明できる日本の公文書か外国の公正証書等の公的な書類(住所証明情報)を添付し、立証できた住所と氏名が、登記名義人として登記記録に載ります。

以下、中国人・華僑・華人の氏名を漢字で登記するための注意点をご紹介します。
特に、宅建業者様が仲介する不動産売買の決済登記においては決済日に間に合わせる必要があるため、早めにご相談いただきたく思います。

2 日本に住所がある中長期滞在者の場合

中長期滞在者(留学、就労系、経営・管理、高度専門職、定住、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、永住者など)は、在留カードをお持ちで、外国人住民票が作られ日本に住所があります。

中長期滞在者が不動産を買い、登記名義人になる場合、住所証明情報の典型例は「外国人住民票の写し」(※コピー機で複写したコピーではありません。以下「住民票」といいます。)です。

ここで気をつけたいのは、住民票の氏名か通名の欄に、漢字のお名前が書かれているかどうかです。

住民票に漢字のお名前が書いてあれば、この住民票を登記申請で添付し、漢字のお名前で登記を実行できます。

他方、日本の住民登録上、中国人・華僑・華人の氏名はアルファベットでまずは表記されてしまいます。在留カード・住民票の氏名は、漢字表記の希望を行政に伝えずにいると、たとえば本名は「李毅」(仮名)の中華人民共和国国籍の人の氏名は「LI YI」だけになります。

もし、住民票の氏名表記がアルファベットだけしかなくて、不動産登記は漢字での登記を希望される場合は、住民票の氏名か通名の欄に、漢字表記を載せておけば確実です。住民票の変更手続は住所地の市役所・区役所・町役場・村役場で問い合わせればよいですが、ほとんどの事例では先に入国管理局での「在留カード」の変更を案内されると思われます。

住民票の氏名の表記がアルファベットだけだと、漢字の氏名で不動産登記ができない?

確かに、住民票の氏名がアルファベットだけの場合でも、漢字の氏名で登記ができる法務局・地方法務局・支局・出張所もあります。
しかし、この取り扱いは全国の法務局で統一されていません(このサイトの編集時点)。住民票に書いてある「LI YI」と、登記申請書の「李毅」が同一とは判断してくれず、漢字で登記をしてくれない登記所もあります。

そこで、住民票の氏名がアルファベットだけだけれども漢字で登記したいという方には、在留カードと住民票の更新を、念のためご案内しています。

3 日本に住所がない方の場合

(1)漢字が書いてある公的書類

中華人民共和国で作られる公正証書(公证书)や、台湾の戸政事務所が発行する「戸籍謄本」を住所証明情報として使用する場合は、氏名は漢字で書かれているため、日本語の訳文を添えれば漢字で登記ができます。

(2)漢字が書いてない公正証書

気を付けるべきは、中国系の人でも住所証明情報が中国語ではない場合です。例えば、アメリカなど中国以外の地に在住の中国人や、シンガポール在住の華僑などが、アメリカやシンガポールなどの公証人に作成を依頼する「宣誓供述書(Affidavit)」が英文の場合があります。

この場合は、宣誓供述書の中に、「My Chinese Name is 李毅」のような一文があり漢字名が公証されていれば、漢字名「李毅」で確実に登記ができます。

他方、「宣誓供述書の原本の文面に漢字の表記がない場合」は、民間人が書いた訳文の氏名を漢字で書いたとして、どの法務局でも漢字名で登記を実行してくれるかというと、一概には言えません。漢字でやってくれる登記所もあれば、カタカナでしかやってくれない登記所もあります。「登記官は訳文しか見ない」とのある司法書士の発言を聞いたことがありますが、弊所が取り扱った複数の案件で登記官と会話した時の印象として、外国公正証書等の原文にも多かれ少なかれ目を通しているようです(公的立場の審査官としては当たり前でしょう)。

もし、漢字が書いていない公正証書しかない場合は、いったんは漢字氏名で登記を申請することはできます。万が一、管轄登記所から「原文は英文文字だけで訳文の漢字が合っているのか甚だ疑わしく、漢字では登記できません」などと言われたら、いったんカタカナ氏名での申請に補正をし、後日漢字名に関する宣誓供述書を取得しカタカタの氏名を漢字に「更正する登記」を申請する方法もあります。

なお、「英文と日本語訳文が一緒に公証されている宣誓供述公正証書」の場合は、
(1)漢字が書いてある公的書類 と同様に考えてよく、
訳文に明らかな誤訳がなければ、日本語訳文中の漢字氏名で登記ができます。