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徳田秋声 (とくだ・しゅうせい)


あらくれ (青空文庫)
長編。
邪慳な実母に疎(うと)まれ、養家に貰われて育ったお島。働き者だが勝気で我が強い性格のお島は、いけ好かない養父の甥・作太郎との縁談を頑なに拒絶し続け、家を飛び出したり連れ戻されたりを繰り返す…。
「厭だ厭だ、私死んでも作なんどと一緒になるのは厭です」。
鑵詰屋(かんづめや)の鶴さんとの短い結婚生活や、山国の寂れた町で旅館「浜屋」の主人と深い仲になったり、裁縫師の小野田と一緒になって洋服屋を開業して、浮いたり、沈んだり…。
「私は働かないではいられない性分ですからね。だから、どんなに働いたって何ともありませんよ」──。
人に対する反抗と敵愾心のために絶えず弾力づけられていなければ居られないような性分の主人公・お島が、様々な男とかかわり合いながら、自分の落ち着き場所を切り拓いて行こうと模索し続ける姿を描いたバイタリティーあふれる波瀾万丈記。

新世帯(あらじょたい)』 (青空文庫)
中編。
官吏の屋敷で奉公していた荒物屋の娘・お作と見合い結婚した新吉。開業して間もない酒屋の経営に精を出す新吉だが、気立てはいいが仕事の呑み込みが悪いお作に腹を立て、悪口(あっこう)を浴びせるなど、夫婦仲はしっくり行かない。
お作がお産のために実家へ帰って留守の間に、お国(拘引された新吉の友人・小野の妻)が新吉の家にやって来て、すっかり内儀(かみ)さん気取りで、入り浸るようになり…。

「このごろ、小野さんのお内儀さんが来ているんですって…」
「ア、お国か、来ている」
「あの方、ずっといるつもりなんですか」
「サア、どういう気だか……彼女(あれ)も何だか変な女だ」

新婚生活の“現実”を描いた夫婦小説。三人の気まずい同居生活や、二人の女性の対比、新吉の煮え切らなさが何とも可笑しい。徳田作品って、たとえシリアスなものであっても、どことなく喜劇的というか滑稽な雰囲気が感じられるので、読んでいて面白い。

或売笑婦の話 (青空文庫)
短編。年期を勤めあげ、自由な体になった主人公の娼婦。この先の落ち着き場所がない彼女は、このまま仕事を続けるが、馴染(なじ)みになった私立大学の学生に熱情的に口説(くど)かれる。「私よ。私来たのよ」、「誰かと思ったら君だったのか。僕はほんとうに脅かされてしまった」。希望を抱いて、大学生の実家を訪れた彼女だが、「友人の姉さんが来た」と家族に紹介する大学生に、寂しさと淡い悔いを感じる…。完全に希望がついえてしまうラストが皮肉すぎて哀しすぎる。小説的には、伏線と落ちがあって、面白いんだけどね。

(ただれ)』 (青空文庫)
長編。
「お神さんがないなんて、私を瞞(だま)しておいて、あなたもひどいじゃないの。」──。年季が明けて自由な体になった元遊女のお増は、客だった会社員の男・浅井と所帯を持つが、浅井は女房持ちだった。
ヒステレカルな嫉妬を抱く浅井の妻・お柳(りゅう)に居場所を知られないよう、家を転々とするお増と浅井だが、お金に目の晦(くら)んだお柳の兄と話がつき、余儀なくお柳は田舎へ帰って行く…。
晴れて浅井と夫婦になったお増は、歓喜の情が胸に溢れるが、お柳に対する憐憫(れんびん)の情も胸に沁み拡がる。

「姉さん、男って皆なそんなものでしょうか。」
「何がさ。」
「だっておかしいんですもの。」
「いやだね。この子は、色気がついたんだよ。」

家に同居しているお今(お増の遠縁の若い女)と資産家の息子・室鎮雄(むろ・しずお)との縁談が停滞する中、秘密の関係を持ってしまう浅井とお今。二人を離れさせるため、大急ぎで縁談をまとめにかかるお増だが…。

「莫迦いえ。誰のお蔭で、お前は着物なぞ満足に着られるとおもう。外で遊ぼうが何しようが、お前に不足いわれるような、無責任なことはしていないぞ。」
「私はどうしたって、お柳さんのようにはならない。」

いろいろの女に心が移って行く身勝手な男一人に縋(すが)っていくしかない女の“爛(ただれ)”な生き方を淀みなく描いて出色の長編小説。総体的にジメジメした感じがなく、通俗小説のノリでスラスラ読めて楽しい。これは思った以上に名作だぞよ。

チビの魂 (青空文庫)
短編。本能的な母性愛から子供がほしくなり、猫の仔(こ)か何かを貰うように十歳の女の子・咲子をもらうことにした芸者屋の圭子。可愛気がなく、剛情で、変わったところのある咲子に手を焼く圭子と情夫の蓮見…。「お前は馬鹿だね。この姐(ねえ)さんとこにいられないようなら、何処へ行ったって駄目だぞ。──お父ちゃんが好い家へ行ったと言って、安心して田舎へ帰ったのにさ」。生活力のない父親に捨てられ、多勢の人に見切りをつけられ、彼方へ行ったり此方へ遣られたりしても、結局、父親を懐かしく思い出す咲子が、何とも哀れ…。小説自体はテンポがあって面白いのだが、人間はペットか何かじゃないんだから、何だか、どうにも、やるせない…。

のらもの (青空文庫)
短編。「金さえあれば私達もそう不幸ではない筈なのに」。家計の苦しさから、銀座のカフェで働き始めた元娼妓の晴代。夫・木山の放蕩に手を焼く晴代は、純情を瀝(そそ)いで来た足掛け四年の結婚生活に行き詰まりを感じる…。「あの男、何だか見込がないような気がするの。寧(いっ)そ別れてしまおうかとも思うけれど…」──。織田作之助の名作「夫婦善哉」のようなお話だが、決定的に違うのは、女主人公の幸福感と心持ちかな。



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