学振に通るための5つのポイント 

(日本バイオロギング研究会の会報に寄稿した大学院生向けの文章です)


私は趣味の少ない人間なので特技といえるようなものはほとんどないけれど、あえて特技に近いものを挙げるとすれば、「申請書を書くこと」がそれにあたる。天真爛漫に自慢できるような技術ではなく、むしろ陰湿でイヤミな部類に入るので、今までは人に内緒にしてきた。けれどもたしかにそれだけは得意である。

何しろいままで落ちたことがない。大学院修士課程のときの「学振DC」から始まって、博士課程3年時に勝ち取った「学振PD」、就職してすぐに採択された「科研費若手A」、そして今年度からもらうことになった「科研費若手B」まで、採択率100%の完全試合である。申請書が不採択の場合、項目別の採点表みたいなものが送られてくるらしいけれど、私はそういうものをまだ一度も見たことがない。

折しも学振特別研究員の応募シーズンである。学生の皆様の中には、申請書を前にしてああでもない、こうでもないと苦吟してらっしゃるかたが大勢おられると思う。そこで今回は皆様の一助となるべく、今まで私が経験的に身につけてきた申請書の書き方のポイントを5つの項目にわけて紹介したい。

なお、これはあくまで私のごく個人的な意見であり、いうなればあるヒマな助教の気任せな独り言にすぎない。学生の皆様におかれましては、指導教官の先生とよく相談していただき、私のアドバイスが合わないようであれば、迷うことなく無視してください。


*ポイント1 「読みやすい文章」

 私は申請書を書く時はいつも審査員の先生の御様子を勝手に想像する。先生はどこかの大学のどこかの研究室の教授であり、年齢は50代後半。机の脇のキャビネットの上に厚さ10センチほどの書類の束がでんと置かれており、それが学振特別研究員の申請書である。来週の水曜日までにすべてに目を通し、採点して送り返さねばならない。

学内の講義、ゼミ、各種委員会だけでなく、学外の審議委員なども複数務めており、目の回るような忙しさである。それでも学振の審査員は後進の育成のためのすこぶる大事な仕事なので、手抜きはしない。今週末の土日を使って一気に片付けてしまおうと考えている。

このような状況の先生に楽しく読んでもらい、気持ちよく高得点をつけてもらうためには、一にも二にも読みやすい文章を心がけねばならない。読みやすい文章というのは、重力にまかせて上から下に流れていくだけできちんと意味のとれる、読み手にストレスを与えない文章である。

もちろん私自身がそのような文章家ではないのはわかっているけれど、一応の先輩として一言いえるとすれば、肩肘張って難しい言葉を使うのはやめよう。「摂餌を行う」は「エサをとる」にすべきだし、「調査を実施する」は「調べる」にしたほうがいい。「解析を行う」は「解析する」にする。

音読みより訓読みのほうがエライし、漢字より平仮名のほうがエライ。それから同じ意味なら短いほうがエライ。「摂餌」のような通常のパソコンの漢字変換で対応できない言葉は少なくとも私は使わない。


*ポイント2 「わかりやすいストーリー展開」

 文章の読みやすさだけでなくストーリー展開のわかりやすさも採択か否かをわけるキーだと思う。私はだいたい次のようにストーリーを展開させる。

1. ○○という問題は○○なため重要である。しかしいままでは○○のために○○できなかった。(課題の重要性。過去の問題点)

2. 申請者はいままで○○を○○してきた。その過程で○○も○○した。この○○を○○に応用すれば、いままでできなかった○○が可能になり、○○を明らかにできるものと考え、本研究を着想した。(申請者の経験。そこからの発展)

3. 本研究では、○○を○○することよって○○を明らかにする。その結果に基づいて○○を評価し、○○を予測する。(研究の目的)

4. 本研究において○○が明らかになれば、○○の○○という意義がある。それだけでなく○○にも応用できると考えられ、近い将来○○にも役立つものと期待される。(研究の意義)
 
最大のポイントは「2」である。自分が過去にどのような研究課題に取り組み、その過程でどのような経験を積んできたのかをきちんと説明する。そしてそのときに身に付けた知識や技術を新たな方面に活用すれば、まだ誰も見たことのない地平線が拓けるのだという大きな(かつ具体的な)青写真を提示する。

なお、学振の申請書では「本研究の目的」「予想される結果」というように研究計画がいくつかのサブ項目にわかれている。研究の目的を問われた箇所では「○○を目的とする」というふうに、研究の意義を問われた箇所では「○○という意義がある」というふうに、問いに対する答えをはっきりとした形で提示しよう。


*ポイント3 「オリジナルな視座あるいはツール

もちろん読みやすくわかりやすいだけでは申請書は採択されない。申請者のとっておきの、オリジナルなアイデアがそこに投入されていなくてはならない。たとえば学生の皆様が書きがちなのは以下のようなパターンである。

「○○の生態系における○○の役割はよくわかっていない。そこで本研究では○○の行動生態を調べ、本種の生態的役割を明らかにする」

これが残念ながらまるきり駄目なのは、オリジナルな視座がないからだ。あまり調査されていない動物の行動を計測し、生態的な役割を評価しようなんて、誰しも考えることである。それにどんな動物だって「よくわかっていない」のは事実だから、このパターンの申請書を許すならば、街はおびただしい特別研究員であふれてしまう。

研究しようとしている生態系あるいは動物のユニークな特徴を見つけ出そう。そしてその特徴を利用してチャレンジできる学問上の大きな課題を見つけ出そう。そうでなければアピール力のある申請書にはならない。

ただしオリジナルな視座がなくても、オリジナルなツールがあれば研究計画の核になり得る。技術的な制限のためにいままで探究できなかった科学的課題を、申請者が新しく手にしたツールでチャレンジするという構図は、たしかにアピール力がある。

もっともその場合、「新しく手にしたツール」は申請者自身が開発に関わったものでなければならない。再び学生の皆様の書きがちなパターンを挙げさせてもらえれば、

「近年、○○という超小型の計測機器が開発され、いままでできなかった詳細な行動計測が可能になった。そこで本研究では――」。

これが残念ながらてんで駄目なのは、「超小型の計測機器」を「開発」したのはどこか海外(もしくは国内)のメーカーであり、申請者の努力とは何の関係もないからである。本人としては魅力ある申請書のつもりになっていても、審査員にしてみれば「アイデアもなしに、ただ道具を買うだけじゃないか」と冷めた気分になってしまう。


*ポイント4 「分野にぴたりと合わせたストーリー」

申請書を一通り書き上げてから分野のリストを眺め、さて「生態・環境」に出そうか、それとも「水圏生産科学」、いや「環境動態解析」かな、などと迷っていらっしゃる学生がときどきおられる。残念ながらその書類はほとんど採択されないだろうと思う。申請書があって分野があるのではなく、さきに分野があり、それにぴたりと合わせた申請書があるからである。

たとえば「水圏生産科学」の分野に応募するとすれば、その書類の審査員になるのは水産学部やそれに似た海洋関係の学部の教授や准教授だろう。日本水産学会をメインの学会とし、「日本水産学会誌」や「Fisheries Science」の編集委員を務める先生方である。そのような先生方はたぶん、日本の水産学、魚類学、あるいは海洋学の未来を背負って立つ優秀な若者を育成したいと真剣に考えているし、そのためには努力を惜しまない気持ちでいる。

だからもし「水圏生産科学」に応募するのなら、自分の研究がどのような形で水産学(あるいは魚類学、海洋学など)の発展に貢献しうるのか、熱い情熱と具体的なビジョンを見せねばならない。「生態・環境」や「環境動態解析」などの分野に応募する申請書とは、必然的に違った内容になるはずである。


*ポイント5 「ケアレスミス撲滅」

最後にもっとも基本的かつ大切なことをひとつ。文字の打ち間違い、漢字の変換ミス、英語のスペルミスなどのケアレスミスは断じてあってはならない。

採択される申請書は申請者の抑えきれない情熱が文字に置き換えられたものである。もし申請書にイージーなミスが発見されたとすれば、申請者は書類を読み返す手間さえ惜しんだのだと、その程度の情熱しかなかったのだと冷徹な評価が下されてしまうだろう。




                    2013年5月2日 渡辺佑基


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