事件
最近のスタイルだけで中身が無く、やたらハリウッド映画の真似ばかり先行する作りに辟易して、あまり観なくなった邦画に、「ああ、、日本映画て、本当にいいものなんだナア」と、その良さを再確認させてくれるのが、この作品です.監督の野村芳太郎始めとする、スタッフは大体「砂の器」と同じです。野村監督は、さして、アングラ的な芸術性やガラ、特異な個性を追求する人では無いようで、商業映画中心の娯楽性の高いドラマ作りをする人です。それゆえ作る作品は、だれでも安心して観れるレベルの高い作品が多いですが、特に役者を十分に生かす演技をさせる、、、と言う事には長けているようです。
この作品でも、丹波哲郎、芦田伸介、をはじめ、チョイ役で出る森繁久彌・北林谷栄・西村晃など名優達の演技は舌を巻く上手さで、演技合戦が火花を散らしてます。
逆に、その当時、新人だった、永島敏行・大竹しのぶは演技は下手ですが、それが逆作用になって、ドラマに新鮮なリアリズムを与えているようです。
特に大竹しのぶは、、ピュアなムードが抜群で、その裏に潜む皮肉ぽいコズルさも自然体の様に表現しており、彼女の存在感は奇跡的とも思えます。
それにしても、月日が経っているとはいえ、彼女が「黒い家」の様な強烈極まりない役までやってしまうのですから、役者とは、ホント分からないものです。
内容的にも、日本映画には珍しいディープな裁判劇の丁々発止の駆け引き・どんでん返しの面白さ、奇麗事ではない人物群像の描き方、青年犯罪問題など今を予見した問題提起等、日本アカデミー6部門受賞は伊達ではありません。
特に後半の回想シーンの映像美は、「砂の器」でつちかわれた映像センスが生きており、芥川他寸志のシンセサイザーとオーケストラによる音楽、川俣昂の美しい撮影と共に、屈指の名シーンとなっています。そして、ラストの渡瀬恒彦と大竹しのぶのシニカルなやり取りの見事なラストまで、文句なく楽しませてくれる傑作であります。
やたら、芸術性を追求する前に「映画」とは、娯楽ありき!と言う事をこの映画はアピールしているようです。
この作品、ようやく、DVDが発売され、16:9修正デジタルマスターによって当時のフイルムの質感を見事に再現し、音声も5.0サラウンドにリミックスされていまして、松竹としては、かなり力が入ったハイレベルのパッケージになっていると思います。
この作品の場合、音楽とセリフの質感が良ければ結構、楽しめますので、AZ−1はドルビーデジタルのノーマル位の方が無難で良いようです。全体の包囲間よりも、前の張り出しを重視した音響設定ですね。

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鬼畜
巷では、連日、子供虐待のニュースが流れます。愛する二児の親としては、毎日、いたたまれない気持ちになる時代ですが、そんな時代が来る事を予見していたかと思えてしまうのが、「事件」とおなじ野村芳太郎監督の昭和53年度作、今から25年ほど前の作品、「鬼畜」です。
火事や、大手の参入等もあり、経営状態が火の車の、小さい町の印刷屋の冴えない亭主(緒方拳)のもとへ、7年前より手篭めにした愛人(小川真由美)が生ませてしまった3人の子供を引き連れて、押しかけます。亭主には、すでにちゃんとした妻(岩下志麻)がいたのですが、(子供はできなかった)その本妻の前で、生活費をよこせと押し問答をし、最終的に大喧嘩をした上で、3人の子供をそのまま置いて、逃げてしまいます。
結局、愛人は行方がわからず、1歳・3歳・6歳の子供は、その印刷工場にしばらく住むことになるのですが、本妻は亭主の浮気相手の子供だし、自分では子供もできなかったヤッカミもあり、子供達を敵視して、壮絶な虐待を始めます。
あげく、自分達の工場も経営が色々あって、破綻しそうなこともあり、亭主としめしあわせて、子供達の捨て子、さらには殺害計画までしかけるようになっていきます。そして、、、、、、、。
この映画、かの松本清張が、検事から実際に起こった事件を直接聞いて、書き下ろした短編を映画化しています。そのためか、映画はドキュメンタリー風でもあり、野村節のコテコテのドラマ調でもあり、どちらも混在した雰囲気で進められていきます。それも松本清張ですから、犯罪サスペンス、怪談調のミステリーまで巻き込んで展開していくのです。
岩下志麻はこの人だったらこの位の事は、ホント、素でやりそうだし、(失礼!)小川は鬼気迫る雰囲気も「八つ墓村」の延長のようだし、当時としては衝撃的だった事も今は結構、自然に受けてしまうのが恐い面もありますが、ただ、ただ、これでもか、コレでもか、、、と行われる目を背けたくなる虐待は、現在マスコミで話の上だけでも伝え聞く虐待の事例とたくさんシンクロしており、それを眼のあたりにしてみてしまうと、今、新たなショックは隠しきれません
そういった意味では、今、見直すべき作品では、ないでしょうか?
そして、この作品の一番好感の持てる点は、子供のストイックな世界と、大人のアバウトな世界を双方、平等、平行して描いている所です。
それが、子役達の自然体の演技と緒方拳を始めとする各名優陣の力によって、両方とも説得力のある世界を描き出しています。
親にも親なりの事情があるかもしれない。子供には子供なりの事情があるかもしれない。しかし、子供は、あくまで、生きる環境、そしてなにより親を選べない。
そんな子供達を守るためにはどうしたらいいのか?単に虐待をしている親をバッシングするだけで本当の問題は解決するのだろうか??
この映画は、そんな根の深い現代の病根を問題提起し、警告しているように思えます。
そして、しょぼくれた亭主を好演する緒方拳の演技は最高で、特に終盤、能登の旅館で長男を前にして、酒にのまれて愚痴をたらすシーンは、役者冥利につきる男の年輪を見事に表現した熱演を披露していて、見物です。
そして、感動のラストの長男の利一の行動は、虐待をされている今の子供の共通の心理を描いていて興味深いです。
2女は、結局どうなったのか?とか、岩下志麻は、罪に問われたのか?とか色々疑問点も残りましたが、
他、音楽にオモチャのオルゴールが効果的に使われている事、スタッフの遊び心が垣間見える当時の映画のポスター等、(注意して観ていけば、「コンボイ」「ハッスル」「フレンチコネクション2」のポスター等が拝めます)色々、細かい演出が楽しめます。
私はこの映画を久しぶりに観て、何回も泣いてしまいました。最初は高校時代に観たのですが、その時と、丁度、同じ年齢の子供を持つ親の立場とでは、感じ方が何十倍も違ったようです。でもこうしているうちにも、まだまだ、水面下ではこんな虐待が行われているのでしょう。確かに子供にこんな事をするのは、犬畜生以下、鬼畜かもしれません。でも、それを見て見ぬふりをしている私達も同じ鬼畜なのかもしれませんね。
DVDは、大分前から、松竹より発売されています。スクィーズ収録で解像度はマアマアですが、デジタルマスタリングはしてない様で、黒の諧調、色のり、は雑な感じで、全体的に少しノイジーな画質は残念です。音声はモノですが、これはかまってあるようで、あまりノイズはないようで、ボリュームは感じられる音質です。
この映画は観ましょう!変な話ですが、少なくとも人の心を持つならば、観て決して損はしないはずです。人類の未来の財産である子供をこれからも守るためにも、、、、、、、、。

詳細リンクーネタばれになりますので粗筋は見ないで!