裁判所・部 大阪地方裁判所・第十三刑事部合議係
事件番号 平成19年(わ)第27号等
事件名 業務上横領
被告名
担当判事 宮崎英一(裁判長)三上孝浩(右陪席)鮫島寿美子(左陪席)
日付 2008.3.7 内容 判決

 実際に公判を傍聴した人によると、この日は、かつて弁護士法違反事件で有罪判決を受けた元民主党の国会議員も姿を見せていたという。
 判決の要領は、以下のようなものだったとされる。

裁判長「Aさん、では前に出てきて下さい。あなたに対する、業務上横領事件について、これから判決を言い渡すことにします」

−主文−
 被告人を懲役9年に処する。未決勾留日数中330日をその刑に算入する。

−理由−
○罪となるべき事実
 被告人は大阪弁護士会所属の弁護士であるが、
第1:a1から、交通事故で死亡した同人の次男a2に関する損害賠償請求事件を受任し、平成14年12月26日、株式会社Pから、上記事故に係る損害賠償保険金として、大阪市内所在のQ1銀行Q2支店に開設した「預り金弁護士X」名義の預金口座(以下「預り金口座」という)に、現金6944万4229円の送金を受け、これをa1のため業務上預かり保管中、同月30日、同支店において、ほしいままに自己の用途に費消する目的でこれを出金し、着服して横領した。

第2:b1及びb2(以下「bら」という。)から、b1の親であるb3及びbらの親であるb4の相続財産につき、遺産分割調停が成立するまでの間、その管理業務を委託されていたところ、
・1:平成16年12月12日、京都市内において、b5有限会社代表取締役b6から、b3の相続財産に含まれる不動産購入の手付金として、券面金額3000万円の小切手1通の交付を受け、同月13日、これを大阪市内所在のR1銀行R2支店に開設した被告人名義の預金口座に入金し、bらのために業務上預かり保管中、同月15日、同支店において、ほしいままに自己の用途に費消するためこれを出金し、着服して横領した。
・2:平成17年3月4日、b5有限会社から預り金口座に、上記不動産の購入代金として、現金1億3796万9880円の振込送金を受け、これをbらのため業務上預かり保管中、同日から同月25日までの間、Q1銀行Q2支店等において、ほしいままに自己の用途に費消するためこれを出金するなどし、着服して横領した。
・3:平成18年2月2日、b1から、b4の相続財産に含まれる現金1369万6921円を預り金口座に振込送金を受け、これをb1のため業務上預かり保管中、同日、神戸市内所在のQ1銀行Q3支店において、ほしいままに自己の用途に費消するためこれを出金するなどし、着服して横領した。

第3:c1から、その夫であるc2の相続財産につき、遺産分割協議が整うまでの間、その管理業務を委託されていたところ、
・1:平成17年1月18日、c1から、預り金口座に、c2の相続財産である現金合計1669万0924円の振込送金を受け、c1ら相続人のため業務上預かり保管中、同日、Q1銀行Q2支店において、ほしいままに自己の用途に費消するためこれを出金するなどし、着服して横領した。
・2:同月19日、大阪市内所在のX法律事務所において、c3を介し、c1から、c2の相続財産である券面金額1852万3541円の小切手1通の交付を受け、同月20日、これを預り金口座に入金して、c1ら相続人のため業務上預かり保管中、同月24日、このうちの1275万円をQ1銀行Q2支店において、同月25日、このうちの577万3441円を同市内所在の同銀行Q4営業部において、それぞれ、ほしいままに自己の用途に費消するためこれを出金するなどし、着服して横領した。
・3:同月28日、c1から預り金口座にc2の相続財産である現金合計2334万1632円の振込送金を受け、c1ら相続人のため業務上預かり保管中、同月31日、このうちの1334万1632円をQ1銀行Q2支店において、同年2月1日、このうちの1000万円をQ1銀行Q4営業部において、それぞれ、ほしいままに、自己の用途に費消するためこれを出金し、着服して横領した。

第4:d1から、交通事故で死亡した同人の長男d2に関する損害賠償請求事件を受任し、平成18年1月24日、株式会社Pから、上記事故に係る損害賠償保険金として、預り金口座に、現金3013万9400円の振込送金を受け、これをd1のため業務上預かり保管中、同日、Q1銀行Q2支店において、ほしいままに自己の用途に費消する目的でこれを出金し、着服して横領した。

第5:c4から、その母親であるc1の相続財産につき、遺産分割協議が整うまでの間、その管理業務を委託され、平成18年3月16日ころ、兵庫県内所在のc4方において、同人から、c1の相続財産である現金1700万円の交付を受け、これをc4ら相続人のため業務上預かり保管中、同日、X法律事務所において、ほしいままに自己の用途に費消するため、着服して横領した。

第6:e1から、同人が保管していたその実母の従姉妹のe2の財産につき、その管理業務を委託されていたところ、
・1:平成18年11月17日、e1から、e2の貯金を解約した金901万3509円を預り金口座に振込送金を受け、これをe1のため業務上預かり保管中、同日、Q1銀行Q2支店において、ほしいままに自己の用途に費消するためこれを出金し、着服して横領した。
・2:同月21日、X法律事務所において、e1から、e2の貯金を解約した現金474万6209円の交付を受け、これをe1のため業務上預かり保管中、同日、同事務所において、ほしいままに、自己の用途に費消するため、これを着服して横領した。
・3:同月24日、神戸市内の居酒屋において、e1から、e2の貯金を解約した現金230万5285円の交付を受け、e1のため業務上預かり保管中、同日、X法律事務所において、ほしいままに自己の用途に費消するため、これを着服して横領したものである。

○量刑の理由
 本件は判示のとおり、弁護士である被告人が、顧客から依頼されて業務上預かり保管中の現金等合計3億7200万円余りを横領したという業務上横領の事案である。
 なるほど、関係の証拠によると、被告人が本件に至る経緯には、約15年の長きにわたり、もとの依頼者であった月岡から巧妙かつ苛烈な恐喝の被害を受けたために金銭的に逼迫し、顧客の預り金を使い込むようになったという事実が認められる。すなわち、月岡は、被告人に紹介したTが、被告人のまとめた和解に従って和解金を支払うことができなかったことから、その支払を免れようと因縁をつけたところ、意外にも被告人が和解金の支払を肩代わりしたため、被告人から金を脅し取ることにし、Tを利用して、被告人に無理やり手形に裏書きをさせたり、借用証を書かせたり、深夜に山中の寺院駐車場に連れ出して金の支払を迫ったりして圧力を加える一方、被告人に対しては自分が味方であるかのように巧妙に信じ込ませ、上記の手形や借用証が暴力的な金融業者の手に渡り、同業者らが被告人に直接取り立てにくる旨を言うなどして被告人を困惑畏怖させ、金を支払うよう仕向けた。
 月岡らによる恐喝は、平成8年ころTが被告人らの周辺から姿を消した後も続き、その態様も、暴力的な金融業者が取立てに行くと被告人やその家族に危害が及ぶことになる旨を告げる一方、被告人の事務所に多量の脅迫文書をファックス送信したり、近隣の事務所に被告人作成の借用証をファックス送信したり、被告人方やその周辺に被告人を誹謗中傷する貼り紙をしたり、深夜被告人方近くでクラクションを鳴らしたり、被告人方前の歩道をふさぐように月岡使用車両を駐車したり、さらには、月岡が被告人の代理人であるかのように振る舞って被告人への仕事の依頼を引き受け、着手金を受け取って自分のものとしたり、被告人が月岡に対して債務を負っているかのように偽って、業者をして月岡自身のした買い物の代金を被告人に対して請求させたりするなど、陰湿かつ執拗極まるものであり、まさに常軌を逸したものであった。その結果、被告人は、業務に大きな障害を生じて疲労困憊し、家庭においても弁護士事務所においても信頼を傷つけられ、ついには、本件各事件の被害金額を大きく上回る金員を喝取されるに至った。また、被告人の妻は、執拗な嫌がらせのために精神の安定を失い、自殺未遂をしたことまであったというのである。このような月岡らの行為により被告人が受けた精神的、肉体的苦痛はもとより、家族が受けた精神的苦痛も甚大であったことが認められるところである。
 しかしながら、被告人は、自分の依頼者との間のもめ事すら解決できないと思われるのが恥ずかしく、同期の弁護士に自分の弱い面を見せたくないなどという個人的な思いを背景に、Tが支払うべき和解金を肩代わりしただけでなく、さらにTから手形の決済を迫られるとこれを支払って済まそうとするなどしており、当初のTらに対する対応は、弁護士としてやや適切さを欠いた面がある。このような対応を繰り返したことが、月岡に、被告人が金銭にルーズで気弱な弁護士であると思わせて、付け入る隙を与え恐喝を助長したともいえる。
 さらに、被告人は、平成6年ころ、顧客からの預り金を使い込むようになると、横領が明るみに出ることをおそれて警察へ通報することができなくなり、また、弁護士会へ懲戒請求等をされることもおそれて、月岡あるいは同人が差し向けた第三者が金を支払うよう要求するとやすやすとこれを払うようになり、恐喝の被害を防止する手だてを講じてこなかったのであって、恐喝の被害、ひいては被告人による横領の被害が拡大した背景には、被告人の自己保身もあったといわざるを得ない。そして、何より、本件の被害者らは、いずれも被告人の依頼者であって、月岡からの恐喝とはもとより何らの関係もない。
 被告人は、弁護士として、依頼者の権利を実現するという基本的な責務を果たすべく、恐喝の被害が拡大し、横領の被害が発生することを防止すべき立場にあったのである。それにもかかわらず、被告人は、警察等に恐喝の被害申告等をすることもなく使い込みを続け、被害額を拡大させた。また、被告人は、高額の報酬を支払うという顧客の口約束を当てにして、顧客からの預り金を流用し、知人や顧問先に対して多額の事業資金等の援助をしており、この点からも横領の被害を拡大させているのである。そうすると、犯行に至る経緯動機は、社会的な使命を負う弁護士として無責任というほかなく、月岡らから執ような恐喝の被害を受けたことも、これを有利な事情として過大に評価することはできない。本件の被害者は、いずれも、相続や親族の交通事故などの問題を抱えて弁護士である被告人に相談し、被告人を信頼して多額の金員を委ねたのであり、被告人の本件各犯行は、こうした信頼を裏切るもので、被害者らに与えた経済的損失、精神的打撃は甚大である。
 被告人は、振込送金された現金をその日のうちに全額出金して着服するなど職業倫理意識を失った行動にも及んでおり、社会正義の実現を使命とする弁護士に対する社会の信用を著しく損なった。
 また、本件の被害総額は3億7200万円余りと実に多額であり、現在の被告人の経済状態に照らせば、今後の被害回復は難しく、当然のことながら、被害者らは、今なお厳しい処罰感情を明らかにしている。以上によれば、被告人の刑事責任は重大である。
 しかしながら、他方、前記のとおり、被告人が本件犯行に至った経緯には、月岡からの常軌を逸した恐喝の被害を受けたという事情があることに加え、被告人は、本件による逮捕以前に、7800万円余りを被害者らに支払っており、さらに本件審理中に合計500万円の被害弁償をし、損害の一部は金銭的に填補されていること、被告人は、各犯行を真摯に反省し、被害者に対して謝罪の手紙を送付して、被害弁償をするとの意思を明らかにしていること、被告人は現在懲戒請求を受けており、弁護士資格を喪失すると見込まれるほか、破産手続開始決定を受けるなど、一定の社会的制裁を受けており、また、月岡からの恐喝被害や被告人の本件犯行により、その妻の精神状態が悪化し、家庭も崩壊するなど、被告人が失ったものも大きいこと、被告人の支援を約束する知人、友人がいること、また、被告人の社会復帰を待ち望む妻子がいること、以前の依頼者が被告人のために嘆願書を書いているように、これまで被告人が弁護士として活躍して社会に貢献し、依頼者の満足を得てきたこと、被告人には前科前歴がないことなど、被告人にとって酌むべき事情も認められる。そこで、以上の諸事情を総合考慮し、主文掲記の刑が相当であると判断した。
 よって、主文のとおり判決する。(求刑−懲役12年)

 被告人は判決終了後、大阪拘置所の刑務官に伴われて、手錠・腰縄姿で静かに退廷した。
 裁判長は、判決言い渡しの途中で、一部傍聴人の携帯電話のベルが鳴ったのに、見て見ぬ振りをしていた、との事だった。

判決全文
事件概要  被告人は、2002年12月−06年11月、依頼者から管理を委託されていた相続財産や、交通事故の損害賠償金として保険会社から振り込まれた、合計約3億7200万円を着服したとされる。
報告者 AFUSAKAさん[伝聞]


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