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「倭国通史」単行本

「倭国通史 U 」公開中

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解 説

 

 

 

 

 

 

 

解   説

 

(最近の更新2014.8 加筆 2011.7 改)

 

● 倭国論の背景     

 「倭国(わこく)」の定説から「九州王朝説」を経て現在の論壇に至る流れを振り返ってみる。

戦後、日本の歴史は大幅に見直された。それまでの記紀を絶対とする万世一系の皇統史学を否定して、様々な視点からの新説が出された。唯物史観による支配/被支配の分析、生産力と社会モデルからの見直し、民族移動などからの新見解が相次いだ。代表的なのは騎馬民族征服説(1948年江上波夫東大教授)だ。しかし、邪馬台国論争や倭の五王の天皇比定論議があったにしても、「倭国」については依然として「倭(やまと)」との区別を付けない同一別名論の域を出なかった。

60年代後半から安本美典は、戦後史学が一旦は追放した神話や伝承を計量学で歴史学に再度取り込む先鞭つけた。しかし、安本の邪馬台国九州説では卑弥呼を天照大神に比定して、定説の皇統史学の延長線にあると見られている。

これに対し、古田武彦は70年代初頭に大和朝廷一元論を否定し、大和朝廷に先在する九州王朝の存在と7世紀までの存続を立論して古代史ブームを巻き起こした。

90年代初頭に「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」なる古文書を自説である「多元的王朝論」の傍証とする古田武彦と「偽書」とする安本美典との間で大論争が繰り広げられ、最終的に「偽書」と証明された事件があった。この間、学術界・情報社会を動員する安本に対して古田は対応を誤り、身内の「市民の古代」(古田史学の会誌)の仲間に離反されたこともあって疑心暗鬼を強め、また九州王朝説の思想的再編を「古田枠」の中で行おうとしたため、急速に支持を失った、という。

九州王朝説の中でも異論が育っていた。古田は「盗まれた神話」(1975年)で天孫降臨神話(ニニギノミコトの高千穂降臨)の周辺神話が筑紫地方に多く遺存していることから、「九州王朝が天孫降臨神話を共有していた。九州王朝家の始祖は天孫降臨のニニギノミコト」と結論付けた。その敷衍として「神武天皇はその九州王家の一族。大和朝廷は九州王朝の分王朝」とした。

これに対しては、古田の「九州王朝と大和朝廷は異王朝」に賛同してきた論者から「裏切られた」「皇統史学への回帰」など批判が出され、その後、古田の活動と成果を評価しながらも分離していった論者が少なくないという。室伏志畔は会誌の中で自身も含めそのような人と論の流れを以下のように挙げる

1.九州王朝・倭国の起源は、天孫降臨に始まったのではなく、漢籍が記す「倭は呉の太伯の後」にまで遡行できる。平野雅曠説

2.九州王朝は古田武彦の説く博多.湾岸中心の筑紫王朝とは別に、天神降臨地と神武東征地が重なる豊前で別皇統の展開があり、天智がこれを大和に遷都して日本となった。大芝英雄説

3.九州王朝を古田武彦は 「一国枠」に限り展開したが、それを東アジア、ことに韓半島に遡行させ語る必要がある。兼川晋説

4.九州王朝の基本矛盾は筑紫王朝と豊前王朝の対立で、それは長江文明を背負った南船系倭王権と韓半島経由の北馬系王権の南船北馬の興亡にある。室伏志畔説

すでに「九州王朝説」単独で話題になった時代から、「倭国と大和の関係史解明が課題」の段階、更に進んで「国内だけに目を向けても正しい理解には達しない。中国の動きと周辺国への波及を考えるべき」とする流れにあるようだ。

最後になるが、佃収氏の「古代史の復元シリーズ」@〜F ** を最近(2011.3)知った。1980年代後半から「古代文化を考える」(同人誌)に連載したものを19972007年まで順次出版したという。緻密な分析から大胆な結論を引き出し、新たな全体像構築して倭国と日本書紀の理解に飛躍を与えていると思って敬意を表したい。大和の諸王権と7世紀になって九州から流れてきた諸王権を加えて大和の状況を明らかにした点は評価されるべきだ。ただ、これら諸王権を万世一系にまとめた日本書紀を「捏造」と佃氏は断ずるが、「王権の合体」を史実とすると、捏造・盗作・虚偽記載とされた記述が一転して史実だったことに気づかされる事績が多い。むしろ、日本書紀の「虚偽にならない範囲のぎりぎりの政治的編纂」はみごととすら評価すべきである。

日本書紀を「不記載・不説明・誤読誘導は多いが虚偽記述は少ない」と理解して取り組めば、数少ない豊富な情報源日本書紀から得られる正しい情報は計り知れない。本書はそのほんの一部でしかない。これからの更なる解明に期待したい。

 

* 「九州王朝説の越境とは何か」 (室伏志畔 「越境としての古代 [8] 2010年 同時代社) 室伏氏は古田武彦氏と長く活動と理論構築を共にされ、その後異論を持って別活動をされている、という。

** 「古代史の復元」シリーズ 佃収 星雲社 1997年〜2007