百匹目の猿現象(略して100サル)は、ライアル・ワトソンの代表作である『生命潮流』で生み出され、広く知られるようになっていった現象である。これは、要するに「信ずれば達する」という直感的に受け入れたくもあり、受け入れやすいアイデアを集団に拡張したものといえるだろう。しかし、この気の効いたアイデアが、完全にワトソンの捏造だという事実は意外と知られていない。ワトソンはこれ以外にも『Super
nature』などの著作で、たびたびホラを吹いているのだ。それにしても100サルについて、引用文献を明らかにしているのはどうしたことだろう。結果として、実際に一次文献にあたった者達により、ワトソンは事実をアレンジしまくって捏造していることが、ばれてしまったのだ。まさか一次文献にあたる者がいるはずない。などとたかをくくったか、もしくはこれほど話題になるはずないなどとでも思ったのであろうか。(真相は後者であろうが。)
ワトソンの行いの評価はおくとして、この芋洗いの伝播現象は、他の島では6年後、ある程度広域に渡るのは10年の歳月を要している。さらには、老齢の個体は新しい方法を採用しない傾向すらあるという報告すらされている。これが臨界量に達して一瞬で伝播したというのだからたまらない。さらにいうと、サルたちが独立して芋洗いを発明しただけでなく、隣の島まで泳いで渡った可能性すらある。
ただ、こういった暴露が行われたのは既に遅すぎた。もはやニューエイジのみならず、逆輸入された自己啓発系与太セミナーやマルチ商法などの精神性にどっぷり漬って利用されているのだ。特に和製ニューエイジ(=船井本)などでもすっかり定着しており、与太業界では定番となってしまっている。なお、100サルを土台にした出版物はたくさんあるが、「ワトソンに踊らされて本まで出してしまったんだね」と同情する必要はさらさらないだろう。というのも、彼等は100サルで大儲けしたうえ、責任はワトソンに押し付けることができるのだから。さらに、一連の著者達が一次文献にあたってさえいれば当然回避できたことなのだから、同情の余地などまるでないであろう。むしろ批判すべきではないだろうか。
なんといっても恥をかいたというならば、超越瞑想の連中である。アメリカでは超越瞑想の人たちが町中で座禅・瞑想して、100匹めのサル効果で犯罪を減らすと大々的に宣伝し、犯罪の抑止に挑戦をしたことがあったが、もちろん結果はたんなる物笑いの種に終わったことはいうまでもない。それにしても、統計的に犯罪が減った様子はなく(むしろ増えている)、それを記者から指摘された回答が『本来起きるはずだった凶悪犯罪の件数よりも減りました』というのは苦しすぎるのではないだろうか。というのも、例年と比べてぜんぜん犯罪が減っていない、どころか増えていたのだから。「本来起きるはずだった凶悪犯罪の件数」とやらは、まぁ子供の言い訳のようで実にバカ臭くて切ない。
ちなみに、ワトソンがやらかした元論文はこちら。
KAWAI,M 'Newly acquired precultual behaviour of the
natural troop of Japanese monkeys on Koshima Island(※1)
Primates 6: 1-30, 1965.
この河合雅雄博士の論文には、100サル現象を支持するような事実は全く出ておらず、
「研究者たちでさえおおむね本当に何が起こったのかは定かではないのだ。真偽のほどを決しかねた人びとも物笑いになるのを恐れて事実の発表を控えている。したがって私としてはやむなく、詳細を即興で創作することにしたわけだが、わかる範囲で言えば次のようなことが起こったらしい。」『生命潮流』p209
という言葉が、なんら免罪符にならないほどであることが判る。まさにワトソンの捏造というべきである。既にワトソンは、この件に関して「メタファーなんだよメタファー」と自白している・・・※この酷さについては、友人のウィザード氏が超常現象の謎解きの当該項目百匹目の猿で詳しく調査しているのでご覧いただきたい。
追加
100サルの初出となる『生命潮流』は、原著が79年に出ており、2006年に船井幸雄から100サル関連の新刊が出るほどであるが、本件の解明の歴史は85年まで遡ることができる。
それは1984年からハワイ大学の哲学教授Ron Amundsonによってなされた素晴らしい調査である。この調査はCSICOP(現CSI)の機関紙である『Skeptical
Inquirer』1985年夏に発表された。この記事は、現在でもRon Amundson教授のHPで参照することができる。
また、幸いなことにblog「忘却からの帰還」
で「百匹目の猿」の嘘を暴いた"The
Hundredth Monkeyという、この記事の邦訳が読めるので、興味のある方は参照されたい。また、同ブログにて、86年の記事に対するワトソンの返答も邦訳されており、あわせてお勧めする。
85年当時、Ron Amundson教授が河合博士に問い合わせをしたときは、仲介者を通して「Ron Amundsonの主張に同意する」といった旨の返答(※2)はもらえていたが、当時、河合博士がカメルーンに出発するところだったため、詳しいインタビューはできていなかった。しかし、後に100サルに関する河合博士へのインタビューが実現し、CSICOP(現CSI)の機関紙『Skeptical
Inquirer』96年5月号にも掲載されている。さらに、本件に関して河合博士に質問した方の記事もある。
以上のように、本件は徹底的に真相が究明されているわけである。そして、いまだに100サルを信奉する人々がいるわけであるが、そのことは、100サルを事実として喧伝する連中の知的誠実さが、いかほどのものかを雄弁に語っているといえるだろう。
※1 論文名について 超常現象の謎解きの管理人ウィザード様より以下ご指摘いただきました。
「『Newly acquired precultual behaviour of the natural troop of Japanese
monkeys on Koshima Island』と書かれているところ。
確かにこの論文名、『生命潮流』にはこのとおり書かれているのですが、実際の河合博士の元論文では、最後の「Island」のところが「Islet」(“小島”の意)となっていますので、できれば注釈をつけたほうがわかりやすくていいかと思います。」
※2 「仲介者を通して「Ron Amundsonの主張に同意する」といった旨の返答(※2)はもらえたが」
正確には「The intermediary reported: "He (Kawai) told me
that you are quite right."」
http://www.csicop.org/si/9605/monkey.html より
【情報】
・超常現象の謎解き 百匹目の猿
・"The Hundredth Monkey Phenomenon" Ron Amundson,Skeptical Inquirer,
Summer 1985, pp. 348-356
・ "Watson and the Hundredth Monkey Phenomenon," Ron Amundson,Skeptical
Inquirer, Spring 1987, pp. 303-304.
・CSI
http://www.csicop.org/si/9605/monkey.html
・The Skeptic's Dictionary 日本語版 百匹めのサル
・忘却からの帰還 「百匹目の猿」の嘘を暴いた"The
Hundredth Monkey
・忘却からの帰還 「百匹目の猿」Lyall
Watsonの言い訳を読む
・僕のおしゃべり 百匹目のサル(河合先生へのインタビュー)
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