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百匹目の猿
(hundredth monkey phenomenon)



 百匹目の猿現象(略して100サル)は、ライアル・ワトソンの代表作である『生命潮流』で生み出され、広く知られるようになっていった現象である。これは、要するに「信ずれば実現する」という直観的に受け入れたくもあり、受け入れやすいアイデアを集団に拡張したものといえるだろう。

話の内容は、宮崎県串間市の石波海岸からほど近い幸島に生息するニホンザルの振る舞いが要である。この島では研究者グループが餌付けをしていたのだが、ある日、一匹のメスが砂のついた芋を水で洗うという発明をした。現象は、この些細な出来事に端を発する。

以下ライアル・ワトソンの『声明潮流』から引用しよう。

「…その年の秋までには幸島のサルのうち数は不明だが何匹か、あるいは何十匹かが海でサツマイモを洗うようになっていた。なぜ海で洗うようになったのかと言うと、イモがさらに発見を重ねて、塩水で洗うと食物がきれいになるばかりかおもしろい新しい味がすることを知ったからである。」

という。そして、ワトソンはイモ洗いが緩やかに伝播し、イモ洗いをするサルの数が閾値(便宜的に100匹目)を越えたときに、事態は急変したという。

「…その日の夕方になるとコロニーのほぼ全員が同じことをするようになっていたのだ。そればかりかこの習性は自然障壁さえも飛び越して、実験室にあった密閉容器の中のグリセリン結晶のように、他の島じまのコロニーや本州の高崎山にいた群の間にも自然発生するようになった」

ということである。ワトソンの記述が発端なのだ。ここで済んでいれば、さほど問題にはならなかったはずであろう。しかし、この記述から閃いてしまった人物が登場した。それが、ケン・キース・ジュニアで、なんと『Hundredth Monkey』(邦訳『百番目のサル』)という一冊の本を出してしまい、よりによって、それが世界的なベストセラーになってしまったのだ。

確かに、歴史を振り返れば、文化の同時発生のような現象はあるといえばあるが、まさしく、同じ意思や振る舞いを共有する人々が閾値を越えるや、瞬時に世界中に伝播するという話に膨らんでしまい、これが、精神世界系の人々にすこぶる受けたのである。困った話である。

しかしながら、この気の効いたアイデアが、完全にワトソンの捏造だという事実は意外と知られていない。ワトソンはこれ以外にも『Super nature』などの著作で、たびたびホラを吹いている。

今回の場合は、100サル現象について「真偽のほどを決しかねた人びとも物笑いになるのを恐れて事実の発表を控えている。したがって私としてはやむなく、詳細を即興で創作することにしたわけだが」という予防線を張った上で、引用文献を明らかにしているのだが、少し舐めすぎた。

結果として、一次文献にあたった者達により、ワトソンは事実をアレンジしまくって「即興で補った」どころの話ではなく、完全な捏造をしていることが発覚したのである。

こうした、ワトソンの行いの評価はおくとして、この芋洗いの伝播現象は、他の島では6年後、ある程度広域に渡るのは10年の歳月を要している。さらには、老齢の個体は新しい方法を採用しない保守的な傾向すら報告されている。にもかかわらず、これが臨界量に達して一瞬で伝播したというのだからたまらない。さらにいうと、サルたちが独立して芋洗いを発明しただけでなく、隣の島まで泳いで渡った可能性すら指摘されている。

100サルの初出となる『生命潮流』は、原著が1979年に出ており、2006年に船井幸雄から100サル関連の新刊が出るほどであるが、本件の解明の歴史は1985年まで遡ることができる。

それは1984年からハワイ大学の哲学教授Ron Amundsonによってなされた素晴らしい調査である。この調査はCSICOP(現CSI)の機関紙である『Skeptical Inquirer』1985年夏に発表された。

この記事は、現在でもRon Amundson教授のHPで参照することができる。また、幸いなことにblog「忘却からの帰還」 で「百匹目の猿」の嘘を暴いた"The Hundredth Monkeyという、この記事の邦訳が読めるので、興味のある方は参照されたい。さらに、同ブログにて86年の記事に対するワトソンの返答も邦訳されている。

また、1985年当時Ron Amundson教授が河合博士に問い合わせをしたときは、仲介者を通して「Ron Amundsonの主張に同意する」といった旨の返答はもらえていたが、当時、河合博士がカメルーンに出発するところだったため、詳しいインタビューはできていなかった。

しかしながら、後に100サルに関する河合博士へのインタビューが実現し、CSICOP(現CSI)の機関紙『Skeptical Inquirer』96年5月号にも掲載されている。さらに、本件に関して河合博士に質問した方の記事もある。以上のように、本件は徹底的に真相が究明されているのだ。

ただ、こういった暴露が行われたのは既に遅すぎた。この話は完全に一人歩きし、ケン・キース・ジュニア以降も、100サルを土台にした出版物はたくさん出てしまった。

それにしても、このヨタ話のせいで恥をかいたといえば、なんといっても超越瞑想の連中である。

アメリカでは超越瞑想の人たちが町中で座禅・瞑想して、100匹目のサル効果で犯罪を減らすと大々的に宣伝し、犯罪の抑止に挑戦をしたことがあったが、もちろん結果はたんなる物笑いの種に終わったことはいうまでもない。

統計的に犯罪が減った様子はなく(むしろ増えている)、それを記者から指摘された回答が「時系列解析の結果、本来起きるはずだった凶悪犯罪の件数よりも減りました」というのは苦しすぎるのではないだろうか。

ちなみに元論文は『Newly acquired precultual behaviour of the natural troop of Japanese monkeys on Koshima Island(※正:Islet)』である。

この河合雅雄博士の論文には、100サル現象を支持するような事実は全く出ておらず、既にワトソンは、この件に関して「メタファーなんだよメタファー」と自白している・・・


 ・超常現象の謎解き「百匹目の猿
 ・『Skeptical Inquirer』「The Hundredth Monkey Phenomenon」 1985 pp. 348-356 
   「Watson and the Hundredth Monkey Phenomenon」  1987 pp. 303-304. 
 ・The Skeptic's Dictionary 日本語版 百匹めのサル
 ・忘却からの帰還 
  「百匹目の猿」の嘘を暴いた"The Hundredth Monkey
  「百匹目の猿」Lyall Watsonの言い訳を読

 

  懐疑論者の祈り  > 百匹目の猿 (hundredth monkey phenomenon)

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