「妖星ゴラス」
 1962年3月21日・劇場公開
 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二
 原作:丘美丈二郎 製作:東宝

 1998年、「ディープインパクト」、「アルマゲドン」という2つの大作ハリウッド映画が相次いで封切られ、そしてまた 同年の3月にXF11と名付けられた小惑星が就十年後に地球に衝突するかもしれないという発表があったことなどから、彗星、 小惑星の衝突に関する話題がマスコミをにぎわせたことは、まだ記憶に新しいです。
 そんな中で日本の特撮マニアが必ずと言っていいほど引き合いに出した作品が、今回ご紹介する「妖星ゴラス」です。実際、 「アルマゲドン」のパンフレットを開いてみますと、斉藤守彦氏が挙げられている隕石衝突映画6作品の中に先の2作品や 「メテオ」などと並んで「妖星ゴラス」の名前が見えます。


 それでは、その「妖星ゴラス」とはいかなる作品なのか?
 本作は、かの本多猪四郎氏&円谷英二氏という日本特撮界が誇るスタッフによって製作された映画作品です。前年に「モスラ」が、 そして約5ヵ月後に「キングコング対ゴジラ」が公開されており、日本の特撮映画が一番ノッていた時期に登場した作品といえるの ではないかと思われます。

 ところで冒頭でも書きましたが、本作は簡単に言うなら”隕石衝突映画”です。ですが、並の隕石映画なら、わざわざこの欄で 取り上げるようなことはいたしません。本作は、その珍無類で奇妙極まるアイデアによって日本特撮映画史上に残る怪作となって いるからこそ、ここでご紹介するのです。
 では、その内容はといいますと…以下、あれこれ書こうかとも思いましたが、先にストーリーを知っていただいた方が手っ取り 早いと思いましたので、簡単なあらすじをご紹介しておきます。



〜「妖星ゴラス」あらすじ〜
 時は1982年。物語は、パロマ天文台が冥王星の方向に正体不明の星を発見したことに始まる。その星はなんと、質量が地球の6000倍に 匹敵する黒色矮星なのであった。
 この星の調査に日本が誇る最新鋭宇宙船・隼号が乗り出すこととなったのだが、残念なことに星の強力な重力圏につかまってしまい、 乗組員は帰らぬ人となってしまう。だが、その命をかけた調査によって彼らは貴重なデータを残してくれていた。隼号の調査によると、 黒色矮星 ― いまやゴラスと命名されたそれ ― は、大きさは地球の3分の2程度しかないにもかかわらず先に挙げた途方も無い 質量を有しており、しかも他の星を吸い込んで質量を増加させていたのであった。
 そしてなお悪いことに、このままの進路をゴラスがとった場合、ゴラスと地球が衝突する可能性が極めて高いという人類にとって 絶望的な予想がはじき出されたのだった。

 このままではゴラスとの衝突によって、いや、計算上最も遠い位置を通過したときでさえ、その強力な重力によって地球は壊滅的な 大被害を受けてしまうだろう。未曾有の危機に直面した人類は、地球の…というよりはむしろ自分たちが助かるために、様々な策を 講じるのであった。
 最初に提案されたのは、ゴラスを破壊、または軌道の修正を図るというものだった。だが、地球の6000倍を有するゴラスに対しては、 人類が実現可能ないかなる方法によっても不可能だということが判明するのだった…。



 冒頭に挙げたハリウッドの隕石衝突映画3作品は、いずれも核兵器によって地球に飛来する小惑星や彗星を破壊、または軌道修正を 行うという結末となっています。小惑星と矮星という違いがあるので単純に並べて比較するのもどうかとは思いますが、この 「妖星ゴラス」では破壊案を物語中盤であっさりと切り捨ててしまっており、このあたりに日本とアメリカの思想の違いが見える ような気がします。
 本作の製作者たちが太平洋戦争を経験しているということもあるのでしょうが、やはり、日本では核兵器に対してはネガティブに ならざるをえないから…というのは、少しばかりうがった見方でしょうか。

 それはともかく、では破壊案が不可能となった今、ゴラス直撃の危機から人類が救われるために如何なる方法が存在するのか。 と、ここで本作は実にユニークなアイデア (もちろん、これこそが本作を数ある隕石衝突映画の中でもワンオブゼムの存在に 押し上げることになった要因なのですが) を観客の前に提示してくれるのです。
 それはなんと、地球の軌道をずらすということでした。

 なるほど、危険物が向かってくるなら逃げるのが当然。しかしここで、ならば地球も、と考えるあたりが恐るべき発想力です。 ユダヤ研究家の某氏ならいざしらず、普通は地球を動かそうなどという考えがほいほいと出てくるものではありますまい。


 ところで、この地球を動かすという案に対して国連で討議が行われるシーンが出てくるのですが、ここで注目したいのは池辺良氏の 演じる田沢博士による説明と、黒板に書かれた数式の数々。有名なシーンですので、以下に台詞を引用してみましょう。

 「ゴラスが太陽系に進入すれば、45日目に地球に到達します。それまでに地球は、少なくとも40万キロ以上の大移動を完了させ なければなりません。これに要する推力は660億メガトン。加速度は1.10×10マイナス6乗Gということになります」

 SF作家の山本弘氏によると、驚くべきことにこの計算は間違っていないのだそうです。たしかに、計算にある推力を出せば 予定の加速度で地球を動かすことが出来るとか。少し言葉は悪いのですが、このようなどうでもいいような部分にまで凝っている というのは、なんとも愉快な話ではありませんか?
 ただ、山本氏も指摘していますが、強力な推力をどう

説明する田沢博士
やって生み出すのかが問題なのだそうですが (少しばかり余談になりますが、この会議中で各国の足並みが揃わないという 強烈な皮肉を交えた描写も愉快。地球の危機より自国の機密保持を優先させようとする姿は、なんとも滑稽に見えるものです)。

 こうして、南極に超巨大ロケット噴射口を何基も設置し、それによって地球を大移動させるという前代未聞のプロジェクトが 進行することとなるのです。物語で莫大な推力を生み出す源として利用されるのが重水素と三重水素、つまり海水でした。要するに、 水爆と同じ原理でエネルギーを得ようということなのです。


 さて、ここからがまた珍妙な展開になっていまして、南極で突貫工事を行っている最中に謎の地震が頻発するというトラブルに 見舞われるのです。そして、この地震の原因といいますのが、なんと巨大トドのような怪獣だったのです(作中では爬虫類と 説明されていましたが、どう見てもトドの化け物。ちなみに名前はマグマ)。
 それまで比較的ハードな展開だったのに、なんとも唐突だと思われたことでしょう。これにはちょっとした理由がありまして、 話によりますと、怪獣を出さないと観客受けが悪いのではないかと上層部が判断、急遽怪獣の登場が命令されたということなのだ そうです。
 その場かせぎで出てきたような怪獣が物語に絡むはずもなく、結局、このトド怪獣はたいした見せ場もないままあっさりと殲滅させ られてしまうのでした(このとき登場した航空機が「ウルトラマン」のビートルに、トド怪獣は「ウルトラQ」のトドラとして 流用されたことは有名は話)。

 そうこうしているうちに、ついに南極のブースター群が完成します。点火してから動き出すまで、そしてゴラスが到達するまでに 移動が完了するのか、という場面は手に汗握るサスペンスとして描かれています。
 そして、ゴラスの重力によって地球は甚大な被害(例えば、東京はほぼ完全に水没してしまいます)を受けますが、最終的に 地球は、人類は救われるのでした。


ブースターに点火!
 …と、ここで終わってしまわないところが、さすが本作の凄いところ。地球を移動させたは良いのですが、次なる問題として 浮上してきたのは…そう、どうやって地球を元の軌道に戻すのかということなのです。
 物語の最後、田沢博士の 「しかし、推力機関は南極より北極の方が設置はやっかいなんだぜ。足元は海なんだからな」 という、 とぼけた会話がスパイスとなっています。



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