本と論文のご紹介
古いものから新しいものまで
By Eio Honma

バックナンバー篇 701-800

本間の読んだ時点での個人的評価(774番より)
▲・・普通 ▲▲・・興味のある人ならおもしろい ▲▲▲・・興味のない人でもおもしろいかも
▲▲▲▲・・おすすめ ▲▲▲▲▲・・必読 ▲▲▲▲▲▲・・私は好き

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800. 脳と認知の心理学 左脳と右脳の世界
永江誠司
ブレーン出版 1999.03
 著者は福岡教育大学教授。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第16弾。
 脳のラテラリティについて知ろうと思ったら、たまたま手近にあった著作。右脳・左脳についてのうんざりする俗説に対して科学的に判っていることを整理した著作です。左右視野提示・分離聴覚など、左右の脳に別々の感覚入力を行って想起や判断の結果から左右脳の違いを探るという研究手法が中心です。たった十年前なのですが、脳イメージングの手法が今世紀に入ってどれほど当たり前になったのかを実感させてくれます。
 参考文献・索引有り。

799. 共感する女脳、システム化する男脳
サイモン・バロン=コーエン(三宅真砂子 訳)
NHK出版 2005.04
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 Simon Baron-Cohen, The essential difference (2003)の訳。タイトルの元ネタはクーンか。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第15弾。
 厳密な意味では脳科学の本ではないのですが、脳の働きの性差を主題にしているので。題名がアレな感じなのですが、この著作の内容をズバリ言い当てています。要するにそういうことを言っている著作。著者が心の理論と自閉症との関連を扱って(少なくとも私には)知られるようになったこともあり、自閉症やアスペルガー症候群(ひっくるめて自閉症スペクトラム障害)についての考察が出発点となっていることは明らかです。以前の視線読みとりモジュールとかよりははるかにまともな気がします。なるほど、と思えますが、あとは脳科学的証拠だ。
 参考文献あり、索引無し。
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798. 脳の性差 男と女の心を探る ブレインサイエンス・シリーズ16
新井康允
共立出版 1999.03
 著者はこの当時は順天堂大学、現在は人間総合科学大学の教授。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第14弾。
 脳の性差という事実とその原因としての男性ホルモン(アンドロゲン)の作用を論じた著作。この著作ではいくらか専門的な論じ方をしているので、それが面倒だと思う方はほとんど同じ内容をかなり判りやすく論じた同じ著者の『ここまでわかった! 女の脳・男の脳』(講談社ブルーバックス 1994)を読むことをお勧めします。
 10年前の本なので、内容的にはよりアップデイトが必要でしょう。参考文献は註に。索引無し。
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797. 脳科学と芸術 恋う・癒す・究める
小泉英明 編著
工作舎 2008.11
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 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第13弾。
 脳科学(認知心理学を含む)と芸術との交わりを、〈芸術を脳科学的に理解する〉というのではく両者の相互作用によって両者共に有益な知見を得ようとする試み。視覚の研究が進んでいるために絵画芸術と脳科学の話はちらほら見るのですが、この著作では音楽と脳の関係にかなりのページが割かれていることが特徴的です。ただ、音楽に傾斜したために身体を使う芸術(演劇やパントマイムなど)の扱いがかなり手薄であるのと、どうしても古典的高級芸術指向なことは残念です。
 盛り込まれている知識はどうあれ、何か新しい試みのヒントが得られそうな気がした著作でした。参考文献は各章末に、索引は巻末に。ただ、段落冒頭を一字下げていないので本読みとしてはかなり読みにくい(チャンク化の区切り手がかり判明性に欠ける)。
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796. 視覚の文法 脳が物を見る法則
ドナルド・D.ホフマン(原淳子・望月弘子 訳)
紀伊國屋書店 2003.03
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 Donald D. Hoffman, Visual intelligence: How we create what we see (1998)の訳。著者はカリフォルニア大学の認知科学教授。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第12弾。
 我々の視覚像は現実そのままの反映ではなく我々の脳によって構成されていて、その構成の仕方には複数の法則がある、ということを示した著作。チョムスキー言語学にヒントを得てのことですが、チョムスキー派ほど酷くなっていないのは視覚を知覚の問題としてのみ扱っているからでしょう。知覚が自動的な情報処理メカニズムで構築されているのは或る意味当然のことだからです。なので、知覚に関して相対主義がどうしたとか論じる必要はありません。
 視覚は単に知覚ということだけではなく、他の心的活動(思考とか情動とか)と関連しています。そういった方面での研究を含めてはじめて充全な「視覚研究」と言えるでしょう。
 参考文献・索引あり。動画を含む錯視に関しては著者のサイトを参照。
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795. 脳は絵をどのように理解するか 絵画の認知科学
ロバート・L.ソルソ(鈴木光太郎・小林哲生 訳)
新曜社 1997.11
 Robert L. Solso, Cognition and the visual arts (1994)の訳。著者はアメリカの研究者。
 脳、と書いてありますが、実際には副題及び原題のように認知科学と絵画美術の話。なので「脳科学シリーズ」には入れない。絵画の例を豊富に使った認知科学入門のような風でもあり、絵画をより理解するために認知科学的な知見を与えているという風でもある著作で、美術と認知科学に関心がある人のための入門書にはなっています。残念ながら図版は全て白黒です。
 索引・参考文献あり。
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794. もうひとつの視覚 〈見えない視覚〉はどのように発見されたか
メルヴィン・グッデイル+デイヴィッド・ミルナー(鈴木光太郎・工藤信雄 訳)
新曜社 2008.04
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 Melvyn Goodale & David Milner, Sight unseen: An exploration of conscious and unconscious vision (2004)の訳。著者たちはカナダとイギリスの研究者。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第11弾。
 不幸な事故により脳の一部に障害を負ってしまった人物の「視覚」を研究することによって、人間には少なくとも二つの独立した視覚システムがあるのだということを示した著者たちの研究を一般向けに記した著作。この著者たちの研究によると、我々が普段脳内に表象している視覚像が我々が「見ている」全てではなく、意識に昇らない(ということは視覚像を持たない)「視覚」運動システムが存在して、それぞれが脳の別の部分で作動しているのだ、ということになります。意識されない視覚運動システムは目で見た物を手で取る際のスムースな動きを司るのですが、何が見えているのか(私にとってその物がどのような意味・目的を有するのか)を認識しない取り方を行う(掴みやすさのアフォーダンスにのみ従う)、のだそうです。
 そして、実際に物を掴む際の手腕の動きと無い物を掴もうとするパントマイムの動きには違いがあり、前者が意識されない視覚運動システムを使うのに対して後者は知覚像を用いた経路での運動になるのでどうしてもぎこちなくなる(そのため、パントマイムを自然に見せるためには修行が必要となる)、ということも言えます。このことを下のミラーニューロンの話と合わせると良く理解できます(この著作にはミラーニューロンの話は出てこない)。ミラーニューロンは実際の物を取る手の動きには反応しますが、パントマイムには反応しない、ということになっていました。ミラーニューロンは意識されない視覚運動システムのコピーを行っている、ということになるのでしょう。とすれば、ミラーニューロンにどれほど期待できるのか・できないのか、ということが判りそうです。
 参考文献・索引あり。
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793. 試してナットク! 錯視図典
馬場雄二・田中康博
講談社ブルーバックスCD-ROM 2004.12
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 著者たちはデザイナー。
 ブルーバックスで一時出ていたCD-ROM版のうちの1冊。ネット上で様々な錯視図を見ることはできますが、このCD-ROMでは単に見るだけでなく、能動的に体験できる点で優れています。とりあえず紹介まで。
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792. だまされる視覚 錯視の楽しみ方
北岡明佳
化学同人 2007.01
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 著者は立命館大学教授。日本における錯視デザインの第一人者。
 これは脳科学の本ではありません。下の本が錯視の話をしていたので、同じシリーズの本を。
 内容は、錯視の様々な種類を分類し、コンピュータ上での作り方についてのヒントを記したもの。決して、錯視の起こる心理学的要因や脳科学的なことは語られていません。いろんな錯視があるんだなぁ、というように楽しむのが吉。ただし、カラーではないので、例の「蛇」のような劇的な効果は紙上では体験できません。それは著者のウェブサイトを参照しましょう。それでも、明暗の錯視についてはかなり驚くことができます。
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791. 「見る」とはどういうことか 脳と心の関係をさぐる
藤田一郎
化学同人 2007.05
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 著者は大阪大学大学院教授。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第10弾。ようやく二桁。
 見ることがいかに脳の働きによるものかを著者たち自身の研究を交えて説く著作。大学生向けの入門的講義を基として構築されているために、興味を惹きつつ話を深めるところはとても読みやすくできています。ところどころに記される著者自身の体験の部分は歴史屋としては非常におもしろく読めました。第6章での著者自身の研究分野である立体視をめぐる議論の興亡は(やはり歴史屋としては)スリリングな話題ですが、若干判りにくい。
 参考文献あり。索引無し。
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790. 心の神経生理学入門 神経伝達物質とホルモン
ケヴィン・シルバー(苧阪直行・苧阪満里子 訳)
新曜社 2005.09
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 Kevin Silber, The physiological basis of behaviour: Neural and hormonal processes (1999)の訳。綴りから判るように著者はイギリスの研究者。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第9弾。
 よりも簡略で基礎的な超入門書に近い教科書。脳の基本的な構造も説明していますが、この著作の目的はホメオスタシスに関わる神経系とホルモン系の説明です。ついでに薬物と精神病理との関わりの話も含まれています。大脳に関する部分は同じシリーズの別の著作を参照。
 索引と各章毎に参考文献がついているのですが、なにせ10年前の本なのであまりあてにならない。
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789. 新・脳の探検 全2巻
フロイド・E.ブルーム他(中村克樹・久保田競 訳)
講談社ブルーバックス 2004.01
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 Floyd E. Bloom, Charles A. Nelson, & Arlyne Lazerson, Brain, mind, and behavior 3rd ed. (2001)の訳。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第7-8弾。上下2巻なので。
 ここらへんで基礎に戻って、基本的な教科書としてこれらを。『ニュートン』のムックにも脳ものがあるのですが、あちらはどうも説明不足。この程度のヴォリュームがないと基礎的な入門書にもならない(上下巻で800ページ弱)くらいに、この分野には説明されるべきことが多いのです。
 カラー図解で判らせようとするところが非常にポイントが高いです。たしかに判りやすい。神経科学の教科書として読まれているというのは納得できます。ただ、超入門書としては妥当でないので、ある程度予備知識があってからだとこの本は読めるでしょう。若干古い本なのでミラーニューロンとかの話題はでてきません。
 問題は詳しい参考文献が削除されていることと、2冊買うと4000円もすることと、新書版なこと。背が割れそう。索引はあります。
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788. ミラーニューロン
ジャコモ・リゾラッティ+コラド・シニガリア(柴田裕之 訳)
紀伊國屋書店 2009.05
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 Giacomo Rizzolatti & Corrado Sinigaglia, So quel che fai: Il cervello che agisce e i neuroni specchio (2006)の訳。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第6弾。
 下の著作が一般向けだったのに対して、この著作は若干専門家向け。話自体は基本的なところからくみ上げてあるのでまあまあ判りやすいと思います。ただ、頻繁に登場する(しかもカラーで、GJだ出版社!)専門的な図像の読み方についてはまるで説明はないので、そういうリテラシーがないシロウトにはとっつきにくいところがあります。この辺がシロウトの悲しさですか。
 この著作での論を読む限り、疑問もないわけではありません。動作の模倣が「理解」となるあたりは、ミラーニューロンによって相手の意図を理解するというよりは、下の藤井の言うような「予測」をしているのだ、と考えた方が私にはしっくりくるのですが。
 註・参考文献あり。
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787. サイエンス・ガールズ!
みりんぼし
飛鳥新社 2009.08
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 著者は都内某大学の大学院生。
 久しぶりに気分を変えてマンガでも。「海大学」なる大学(ではない)ですでに8年の研究キャリアを持つ大学院生(♀)が、女性が圧倒的に多い研究室での理系女子の日常を描く「純度99%ノンフィクション4コマ!」(オビより)。かなり前に北大獣医学部を舞台にした『動物のお医者さん』があったし、探してみれば大学もの・理系ものは少なくないのですが、4コママンガはあまりないと思うので。菱沼さんの印象を持って読むとずいぶん違うのでおもしろいよ。もちろん、マンガを描くような人なのでアレ系の話も入っています(大阪には日本橋というところがあります)。
 女子が圧倒的に多い理系研究室というのはあまりないので貴重な話かもしれません。トイレが汚いので別の新しい建物のトイレに行くのに窓を通るとかいうあたりがリアルだ。
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786. ミラーニューロンの発見 「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学
マルコ・イアコボーニ(塩原通緒 訳)
ハヤカワ新書juice 2009.05
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 Marco Iacoboni, Mirroring people: The new science of how we connect with others (2008)の訳。著者は神経学者で、ミラーニューロン革命の参加者の一人。アメリカUCLAの教授ですが、イタリア出身。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第5弾。
 突如現れて多方面の話題をかっさらったミラーニューロンについて、日本語で読めるほとんど最初の入門書。脳神経科学者はもとより、心理学者、教育者から哲学者まで、いろいろな人が夢中になるのが解ります。その意味でも是非知っておいた方がよいようなことが書いてあるので必読にすべきなのでしょうが、少々難あり。
 図版がない。脳の話をしているのに、ミラーニューロンの在処を曖昧に記した小さな図が一枚きり。シロウトが角回だの島だの言われても見当つくはずもない。語りはそこそこおもしろいだけに、読者に解りやすく、という視点が欠如しているところに大きな問題があります。
 だいたいにおいて、ミラーニューロン研究のマニフェストのような著作であり、勇ましい話ばかりなのですが、それがかえって微妙な読了感を誘います。ちょうどジョン・ワトソンの行動主義マニフェスト『行動主義の心理学』を読んだ時と同じ気持ちです。確かに、これがうまくいけば、たとえばこのサイトに表れているような私の様々な関心に1つの筋を通してくれるのですが、それだけにかえって、本当にそれでうまくいくのか、という気持ちになるのです。歳を取ると悲観的になるか。
 註に参考文献が入っています。
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785. 脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
V. S. ラマチャンドラン(山下篤子 訳)
角川書店 2005.07
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 Vilayanur S. Ramachandran, The emerging mind (2003)の訳。邦訳では下の本の続編のような扱いですが、全く別の著作。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第4弾。
 イギリスで行われた講演を文字化したもの。内容的には下の著作を薄めた感じなので、下を読んでさえいればかなり速く読むことができます。下と同じ範型でページ数が半分、1段組なので1/4ほどの分量だからなおさらです。むしろ、こちらの方を先に読んで下に行けば、良いのかもしれません。私は最初に苦労した方が良いと思う方ですが。
 ただ、芸術を扱った第3章は新しい話題で、恐らく2005年末にThe artful brainとして出版された著作で論じられているのでしょう(翻訳の出た段階ではまだ未発表だった)。
 註、用語解説、参考文献付き。
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784. 脳のなかの幽霊
V. S. ラマチャンドラン+サンドラ・ブレイクスリー(山下篤子 訳)
角川書店 1999.07
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 V. S. Ramachandran & Sandra Blakeslee, Phantoms in the brain: Probing the mysteries of the human mind (1998)の訳。ラマチャンドランは神経学者、サンドラ・ブレイクスリーはサイエンスライター。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第3弾。
 既に10年前に話題になっていた本を今頃読みました。話題になっただけのことはある非常におもいしろい本でした。内容についてはこの10年の他のメディアの情報で知っていましたが、この本のおもしろさは著者たちの語り口にあるのだな、ということが判ります。内容についてはすでに充分に知られていると思いますが、やはり一度はこの著作を読んでみるべきでしょう。300ページ二段組みも苦になりません。
 註、参考図書付き。翻訳はこうあるべし。
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783. 予測脳 Predicting brains
藤井直敬
岩波書店 2005.10
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 著者は理研の脳科学研究者。
 読んでおきたい脳科学100冊シリーズ第2弾(第1弾は下の782)。脳科学のパラダイム(新しい、ではなく、初めての)を提唱する野心的な著作。それがどういうものかは題名からだいたい想像できるようなものです。私の関心のある情動については、予想と入力情報の齟齬あるいは一致が不快と快として表象されるのだ、と著者は考えています。
 「脳」が複数形であるところが重要点で、脳研究を1つのニューロンの研究だけというのはもちろん、それが1000億ほど集まった一個体の脳1つだけを研究するのも充分ではなく、interbrainな関係を考慮して初めて理解できることがあるのだ、と著者は主張します。こういう流れを見ると、心理学と同じ道を辿っているのだなあ、と思えてきます。その心理学はおよそ120年の歴史を経てまだ統一的な見通しはありません。脳科学にはできるのか。
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782. 脳の中の身体地図 ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ
サンドラ・ブレイクスリー+マシュー・ブレイクスリー(小松淳子 訳)
インターシフト 2009.04
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 Sandra Blakeslee & Matthew Blakeslee, The body has a mind of its own (2007)の訳。著者は母息子で、4代に渡ってサイエンスライターという一族。母親の方は、ラマチャンドランと共に『脳のなかの幽霊』を書いています。
 大脳皮質に身体感覚と運動のマップがある、というよく知られた事実から、そのマップの変調によってどのような障害が起こり、そのためにさらに何がわかってきたのか、ということを最新の情報までも網羅して(明快とはいかないにしても)かなり読みやすく書かれている一般向けの読み物。扱っている内容が内容だけに非常に興味深く、話題も多岐に渡っています(ダイエットからイップス、幻肢まで)。そのために哲学的な目配せができなかったことを著者たちは詫びていますが、その必要はなかったでしょう。
 意外なことに図がほとんどありません。もう少し解説的なイラストが入っていても良いような気がするのですが。それでも、コラムが(無遠慮に)挿入されていて飽きさせないようにはなっています(読みにくいけど)。
 註も参考図書も索引もなし。一番大事なところが抜けています。
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781. 光る遺伝子 オワンクラゲと緑色蛍光タンパク質GFP
マーク・ジマー(小澤岳昌 監訳 大森充香 訳)
丸善 2009.03
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 Marc Zimmer, Glowing genes: A revolution in biotechnology (2005)の訳。著者はコネチカット大学教授で生物学者。GFP研究もやっているようです。
 2008年のノーベル化学賞(の1/3)を受賞した下村脩先生の研究はオワンクラゲから蛍光物質を抽出することでした。この著作では、蛍の光る仕組みの解明、下村先生によるオワンクラゲからの蛍光物質抽出から始まり、GFPの構造解明、遺伝子配列の決定、その生物学・医学への応用がある程度判りやすく、しかも(この手の本にありがちな)科学者のエピソードを含んで描かれています。もちろん、ノーベル化学賞を受賞した他の2人チャルフィーとチャンの話も出てきます。
 後半の蛍光物質をタイマーや追尾装置として使う部分の説明がもう少し判りやすければよかったのに。文字だけの説明ではさっぱり。
 参考文献・索引あり。色つきの話題だけあって、本文中の写真が口絵にカラーで入っています。
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780. グーテンベルクの謎 活字メディアの誕生とその後
高宮利行
岩波書店 1998.12
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 著者は慶應義塾大学教授。英文学が専門。
 慶應義塾大学は1996年にグーテンベルク聖書を購入しました。そのデジタル画像化とネットでの公開のプロジェクト(HUMIプロジェクト)と関連して、グーテンベルク聖書とその周辺の最新の話題を岩波のPR誌『図書』に連載したものをまとめた著作。
 先行研究もかなりある分野なので、この著作だけで済むというわけにはいかないのですが、特にグーテンベルクの専門家ではない著者のフィルターを通してまとめられたものなので、細かすぎず、入門的に読むには適しているでしょう。
 索引、参考文献付き。
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779. スピノザ入門
ピエール=フランソワ・モロー(松田克進・樋口善郎 訳)
白水社文庫クセジュ 2008.08
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 Pierre-François Moreau, Spinoza et le spinozisme (2e éd., 2007)の訳。
 訳題通りスピノザ入門という主旨の著作。スピノザの生涯、著作の簡単な解説、スピノザの影響が150ページほどの分量にまとめられています。説明はかなり基礎的なところから始まるので、超入門書として有効です。
 特に、この著作はスピノザの生涯に関してはきわめて実証的で、従来のスピノザ伝の伝説的部分をぶった切ってくれます。特に、伝記的事実の裏付けに乏しく、かつきわめて魅力的な著作を残しているスピノザは「カリスマ」であり、それだけ不必要な虚飾にまみれることになります(この辺がピュタゴラス伝説と重なる)。スピノザがヤン・デ・ヴィトと交流があったという証拠がない、ということを私は初めて知りました。他の伝記ではデ・ヴィトがパトロンであるかのように書いてあったのに。
 参考文献・索引付き。
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778. ヨーロッパ人相学 顔が語る西洋文化史
浜本隆志・柏木治・森貴史
白水社 2008.07
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 ヨーロッパ文化の中に古代以来存在する観相術(physiognomy)に関する歴史的考察と顔に関する美術史・文化史的考察を織り交ぜたもの。残念ながら科学史的考察ではないので、若干入り込める隙間はありそうです。
 特に観相学に関する第1章と第2章および顔の文化史たる第5章は私にとってとても興味深いものでした。いわゆる観相術までを取り扱っているので、ベル、デュシェンヌやダーウィンに至る表情研究との繋がりや、優生学での応用まで広げると「顔学」の歴史として筋が通るのですが、そいうのは又の機会に、ということなのでしょう。
 参考文献・索引付き。
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777. まなざしの誕生 赤ちゃん学革命
下條信輔
新曜社 1988.04/2006.06
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 20年以上前の著作を、基本的に内容に手を加えずに新しい序文を加えて復刊したもの。
 1970年代に起こった赤ちゃん研究の革命のもたらした成果を非常に判りやすく論じた著作。今になって読むと、新しいところはないのですが、逆にそれほどこの著作に書かれていることが今では常識になっている、ということなのでしょう。この分野の入門的な著作としてまだ充分に読む価値はあります。
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776. 教育思想とデカルト哲学 ハートリブ・サークル知の連関
相馬伸一
ミネルヴァ書房 2001.10
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 著者は広島修道大学の教授。教育・学習の専門家。
 17世紀の教育思想の中で重要な役割を占めるイングランドのデュアリ、「汎欧州」の人コメニウスの思想をそれぞれの文脈の中で分析・比較し、さらにデカルトとの関係で哲学的な基礎付けを論じた著作。私は、デカルトの教育思想への関心から読みました。もちろん、デカルトが教育を真正面から論じている、というわけではないのですが、そうとはいえ、他人に理解できるように新しい試みを説くということは即ち教育的たらざるをえないのですから、デカルトを教育思想として読むことはできるわけです。デカルトの考えに賛同できるかどうかは別として。ともかく、デカルトが教育について述べた部分を分析検討している第5章は非常に役に立ちました。
 非常にきちんとした思想史。こういう本が楽しく読めるというのが私の宿命なのでしょうか。索引付き。
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775. 教育方法学
佐藤学
岩波書店 1996.10
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 10年以上経っても耳慣れない言葉ですが、名称通り教育のための方法を研究する学問の教科書。きわめて判りやすく書かれています。西洋教育学史の手頃な入門として手にしてみました。
 後半のカリキュラム等の問題はあまり関心がないのですが、著者の授業研究の話はとてもおもしろく見せてもらいました。こういう理論的背景があったのですね。コンピュータを用いる教育については今は昔の話になってしまっていますが。
 参考文献・索引付き。
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774. 新・子どもたちの言語獲得
小林春美・佐々木正人 編
大修館書店 2008.3
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 10年ほど前に出た『子どもたちの言語獲得』の増補版というものではなく、テーマと編者が同じだけの全くの新しい著作。題名通り、子供がどのようにして言語を獲得するかという問題を、通常の言語獲得(音声→身ぶり→語彙、文法)だけでなく、手話の獲得まで視野に入れて論じています。
 言語の獲得は、言語だけの獲得ではなく、コミュニケイション発達の一部として考えるべきなので、モジュール的研究(言語がモジュールかどうかは別として)は部外者には不満です。良い研究が記述的であることはこの意味で示唆的かも。
 索引・参考文献付き。
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773. 可能世界の心理
J.ブルーナー(田中一彦 訳)
みすず書房 1998.2
★★★★★
 Jerome Bruner, Actual minds, possible worlds (1986)の訳。
 グッドマンの哲学の影響を受けて、構築主義に傾いたブルーナーの心理学思想の書物。直接グッドマンを論じた第7章「ネルソン・グッドマンの諸世界」を中心にヴィゴツキー論や情動と思考についての論考など、どうして今まで私はこれに出会っていなかったのだろう、と思うほどおもしろい。アメリカの指導的心理学者でありながら、他の分野への目配せの自在さには目を見張るばかりであり、しかも、1915年生まれの著者が70歳を超えて描いた著作であり、その精神的柔軟さにも脱帽です。私もこうありたい。
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772. 意味の復権 フォークサイコロジーに向けて
J.ブルーナー(岡本夏木・仲渡一美・吉村啓子 訳)
ミネルヴァ書房 1999.9
★★★★
 Jerome Bruner, Acts of meaning (1990)の訳.
 グッドマンを読んで,この流れ.グッドマンについての直接の言及は次の本になります.
 行動主義の「心なき心理学」に対する認知革命が計算機メタファの導入によって再び「失敗」したことへの反省から,「意味」を理解することを心理学の目標として,意味が意味を持つ場である人々の日常的(科学的ではない)心理学=フォークサイコロジーを研究し,そのために物語(narrative)を把握しよう,という試み.私にとってはきわめて興味深いお話です.
 アメリカの心理学者にはこういう人がいるからおもしろい.あるいは,学術的業績について右往左往しなくてよくなった人だからこそできることか.日本でも若手の哲学者が心理学的問題に取り組んで地平を広げつつあるようです.私も読者として応援します.
 註・索引付き.現在は手に入りにくいようです.ブルーナーの日本語訳は全部文庫になればいいのに.
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771. 世界制作の方法
ネルソン・グッドマン(菅野盾樹 訳)
ちくま学芸文庫 2008.2
★★★★
 Nelson Goodman, Ways of worldmaking (1978)の訳.以前みすず書房から出ていた本を文庫化して訳者による解説論文を加えたもの.旧版が手に入れにくくなっていたので,ナイス再版です.
 世界というものがあってそれを理解するというのではなく,世界を作りつつ理解するというやり方を微妙に哲学的に,時には芸術を使って論じようとする試み.メタファ論などに興味があれば読んでみて損はありません.
 唯名論といい,メタファ重視といい,私には相性の良い思想です.ペパァの世界仮説論(Stephen Pepper, World hypotheses. 1942)ほど融通が利かないわけではないところも好印象.こういう本をさらっと書ける人間になりたい.
 索引付き.
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770. 視覚論
ハル・フォスター編(榑沼範久 訳)
平凡社ライブラリー 2007.4
★★★
 Hal Foster (ed.), Vision and visuality: Discussions in contemporary culture (1988)の訳.
 「視覚」についての語り方のパラダイムを作った論文集.某論文を読もうとしたら,こちらを先に読め,ということなので.20年前の著作で,全体的にフランス風のポストモダニズムに浸っているのが今となっては懐かしい限りです.これが元凶か.私が読むことができたのはクレーリーの論文だけでした.あとはヲタク語りだけ.こういうものを読むと,西洋人は本当に「音」の文化の人なのだな,ということが判ります.語りたいのだ,と.
 結局,「肉体のメカニズムによって形成される」視覚(ヴィジョン)と,「社会的事実として形成される」視覚性(ヴィジュアリティ)という区別だけは頭に入れておきましょう.
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769. ごっこからファンタジーへ 子どもの想像世界
内田伸子
新曜社 1986.4
★★★★
 文章理解を研究する際に,文章をどのように読んだか,その理解はどのようなものかという調査法だけではなく,そこからどのような話を作れるか,という方向に研究を進めて,子供の発達を考察した著作.著者の後の著作に展開されるテーマで,この著作を読むと,どのような文脈の中でこのテーマに到達したのかを理解することができます.現在入手困難なのは残念です.
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768. 創造的発見と偶然 科学におけるセレンディピティー
G. シャピロ(新関暢一 訳)
東京化学同人 1993.12
★★★
 Gilbert Shapiro, A skeleton in the darkroom: Stories of serendipity in science (1986)の訳.著者は素粒子物理学の専門家.
 今は一般化していると言っていい「セレンディピティ」ですが,15年前にこの本が出た頃にはあまり馴染みがなかった言葉でした.この著作は科学史(主に現代物理学史)の7つの発見事例をセレンディピティとして解釈する試みです.原題にあるX線の発見からペニシリン,パルサー,J/ψ中間子などの発見物語が取り上げられています.短くまとめてあるので,ちょっと読んでみるという程度なら最適でしょう.参考文献・索引付き.
 「セレンディピティ」という語に対して訳者は日本語訳を提案しているのですが,結局片仮名で定着してしまいそうです.カセット効果でしょうか.英語としても意味ない言葉なのですから,無理矢理意味を与えるような訳語にしてしまうのは興ざめのような気がしてしまいます.なんだろう? と思って調べてみるところから,この語は科学史・科学社会学の世界ではお馴染みのロバート・K.マートンが導入した用語だ,というような余計な知識が身に付くでしょう.そのマートンの最後の方の著作にこの語の歴史を調べた論文があって,この著作が出た頃にはわからなかった事情も今では判るようになってきています.インターネット時代にセレンディピティは存在しうるのか,というあたりはメディア論的考察の対象になりうるでしょうか?
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767. 現代のエスプリ2008年9月号 特集=感情教育
大渕憲一 編
至文堂 2008.9
★★★
 「感情教育」をキィワードにして,臨床心理と発達という心理学的部分と教育,さらには文芸(フローベルに『感情教育』という小説がある)まで多様な著者をそろえた論文集.
 冒頭に添えられた編著者と著者たちの鼎談が全体をまとめてくれています.感情教育というと,「感情は教育できるのか?」という疑問(その背後には「感情は制御できないものである」という思いこみがある)を持つ人から,感情をどのように利用するのか,と考える人までがいます.編者たちは,「感情を制御することを教育する」「感情を利用して教育する」「感情そのものが教育されたものである」というように意見をまとめ,感情と認知研究・教育・臨床を結びつける様々な見解を展示しています.私自身の関心では,発達・認知との関わりを論じているものと文芸の中に現れる歴史的な事例を扱った後半部分が興味深いものでした.
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766. 芸術と幻影 絵画的表現の心理学的研究
E.H.ゴンブリッチ(瀬戸慶久 訳)
岩崎美術社 1979.11
★★★
 E. H. Gombrich, Art and illusion: A study in the psychology of pictorial representation (1972)の訳.
 本文500ページ以上+註100ページ弱の大著.歴史における図像研究を扱う時に必ず名前が出てくるという意味で必読書なのでしょう.美術史的考察と心理学(主に知覚の)とを結びつけ,幻影(イリュージョン)すなわち「本物らしく見えるような絵画」がいかに人工的な技術によって構築されているかを論じています.読むと気が付くのは,心理学でゲシタルト心理学を使うのみならず,J.J.ギブソンをも頻繁に利用していることです.今だったら,発達心理学の視覚研究なども取り入れることができるでしょう.このくらいのレヴルの分野横断的研究ができなければならないのだ,と思うと,道はまだ長いと感じます.
 索引・註あり.もう少し手に入りやすい形で再版されることを望みます.
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765. 技術屋の心眼
E.S.ファーガソン(藤原良樹・砂田久吉 訳)
平凡社 1995.7
★★★
 Eugene S. Ferguson, Engineering and the mind's eyes (1992)の訳.著者Ferguson (1916-2004)はアメリカの技術者であり,技術史の研究者でもありました.
 日本での出版当時に話題になった著作.なので,ずいぶん昔に私も買っていたのですが,なかなか読む機会が無くて,ここに来てようやく.独立した7本の論文を含む論文集で,技術者の思考方法・教育方法に関する考察と提言が含まれています.特に著者が強調するのが視覚的表象で,特に第2章「心眼」は科学(技術)の視覚文化史の古典として今でも読む意義は充分にあります(というか,必読文献).
 索引・参考文献なし.註あり.

【後記】この著作は2009年に平凡社ライブラリーで復刊されました。
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764. パブリッシュ・オア・ペリッシュ 科学者の発表倫理
山崎茂明
みすず書房 2007.11
★★★
 科学技術倫理の問題を科学コミュニケイションの視点から分析している著者の論文集.半分強が既出の論文を拡充したもので,残りは書き下ろし.著者のこれ関係の著作と論文はいくつか目にしたことがあります.この論文集では,NHKのTV番組でも有名になったシェーン事件やクローンES細胞捏造事件,阪大医学生事件などの具体的問題についての分析が多く含まれ,科学技術倫理の例題集としても役立つでしょう.私もいくつかの勘違い(インパクトファクターの計算法とか)をこの著作で正すことができました.
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763. ヨハネス・ケプラー 近代宇宙観の夜明け
アーサー・ケストラー(小尾信彌・木村博 訳)
ちくま学芸文庫 2008.7
★★★
 Arthur Koestler, The watershed (1960)の訳.1971年に河出書房新社から出版されていた本の文庫化.
 私がまだ大学学部生時代の20年以上前にこの本の元版を読みました.その時に,ずいぶん古くさい本だな,と思ったことを憶えています.21世紀になって読むと改めてそう思いました.今なら,このような科学史観で本を書ける人はいないでしょう.
 それはそれとして,現在のところ,これを超えるようなケプラー伝がないことも事実.この点は科学史家の怠慢を責められても仕方ありません.その意味で,この本が再び手に入れやすくなることには若干の意義があるのかもしれません.ケプラーの科学的業績についての著者の評価はとばして,書かれている個人的な情報については読むならばわずかに楽しめることもあるでしょう(2番目のお嫁さん候補のリストとか).参考図書はおそらく元版そのままで役立ちません.おそらく元版に由来する誤植・不統一も散見されます.
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762. ローマのガリレオ 天才の栄光と破滅
W.シーア+M.アルディガス(浜林正夫・柴田知薫子 訳)
大月書店 2005.1
★★★
 William R. Shea & Mariano Artigas, Galileo in Rome: The rise and fall of a troublesome genius (2003)の訳.ちなみに,著者の1人Sheaは「シェイ」と読むのが妥当です.英語人の名前は読みにくくて.
 2009年は国際天文年で,様々なイヴェントが企画されているとか.この年である根拠は,ガリレオの望遠鏡による夜空の観測が始まった1609年から400周年を記念して,とのことです.そんなこともあって,来年にはガリレオがもりあがるでしょう(一部のTVでは既に別の意味でもりあがっていますが).なので,久しぶりに伝記ものを読んでみました.題名通り,ガリレオのローマ滞在時を中心に取り上げるという趣向です.ガリレオは若い頃から都合6回のローマ訪問を行っており,それぞれに1章があてられています.基本的にローマとガリレオと言えば裁判関係の話になるので,それが中心です.といっても,既存のものとそれほど変わっているようには思えません.
 初心者向きではありません.既にガリレオの生涯について充分な知識があることを前提に,別の見方をしてみてもおもしろいかもしれないし,そういう余裕があるという(おそらく希な)人が読むべき本です.註と索引つき.
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761. 疑似科学と科学の哲学
伊勢田哲治
名古屋大学出版会 2003.1
★★★★
 科学と「疑似」科学の線引き問題をダシにして,20世紀の科学哲学を整理してわかりやすく解説し,ついでに疑似科学とのつきあい方まで知ることができるという著作.創造科学・占星術・代替医療・超心理学などといった代表的な疑似科学と科学とを区別する線引き(demarcation)は,科学とは何か,どのような方法・要素・基準を満たせば科学たりうるのかという問題を明らかにする良い題材です.著者は,実際に行われた線引き問題についての議論をふまえ,科学哲学の応用問題としてそれらを捕らえ,考察を加えます.読者への宿題も遺されています.
 線引き問題については,著者なりの解決策を提案しています.それはベイズの定理を利用した程度問題への移行です.最近は猫も杓子もベイズの定理ですが,この頃はまだそれほどでもなかったのですね.
 ともすれば,無味乾燥になりがちな科学哲学を判りやすくかつおもしろく記した好著です.参考文献・索引付き.
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760. ユークリッド『原論』とは何か 二千年読みつがれた数学の古典
斎藤憲
岩波書店 2008.9
★★★
 期せずして古代ギリシャ数学モノが続きます.
 これは数学古典中の古典であるユークリッド『原論』について,その最初の5巻までの読み方を平明に描いた著作.東京大学出版会から出ている『エウクレイデス全集』の紹介でもありますが,その解説とはダブらないお話になっています.内容は非常に判りやすく,初心者向けです.私もロバの橋あたりでめんどくさくなった方ですが,なぜそんなに読みにくいのか,ということについてのかなりつっこんだ解説があることがこの本の魅力でしょう.
 同時にギリシャ数学史史についても述べられているので,そのへんは,私にはとてもおもしろくなっています.
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759. 解読!アルキメデス写本 羊皮紙から甦った天才数学者
リヴィエル・ネッツ+ウィリアム・ノエル(吉田晋治 監訳)
光文社 2008.5
★★★★★
 Reviel Netz & William Noel, The Archimedes codex: Revealing the secrets of the world's greatest palimpsest (2007)の訳.
 1999年に突如再出現したアルキメデス写本のパリンプセストが含まれた本を巡る書誌学的冒険,解読の試みとその技術的困難,そして驚くべき研究成果を一般向けに記した著作.とてもおもしろい.アルキメデスの業績だけでもあまり馴染みがない上に,パピルスから羊皮紙への歴史とかその修復作業とかもっと馴染みのない話題でできている本なのですが,私にはとてもおもしろかったです.たぶん,私だけではなく,読んでみればこのおもしろさは判ってもらえると思います.
 著者のうちノエルがウォルターズ美術館の学芸員で,もともとは中世写本の解読の専門家でしたが,ひょんなことからアルキメデスに関わり,本書の奇数章を担当して書誌学的な話題を語り,もう1人のネッツは古代ギリシャ数学史の専門家で本書では偶数章を担当してアルキメデスのすごさと今回の写本の内容についてある程度判りやすく説明してくれています.それにしても,写本の悲惨な運命と言ったら……この写本の辿る旅路を読むだけでもこの本を手に入れる価値はあるくらいです.
 途中で斎藤憲さんが出てきます.そして解説も書いています.
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758. 自分の体で実験したい 命がけの科学者列伝
レスリー・デンディ+メル・ボーリング(梶山あゆみ 訳)
紀伊國屋書店 2007.2
★★★
 Leslie Dendy & Mel Boring, Guiniea Pig scientists: Bold self-experimenters in science and medicine (2005)の訳.
 題名通り,自分の体で実験した科学者たちの話を集めたもの.原書は小中学生向けに書かれた著作で,イラストがいくらかと豆知識が豊富に入っていて,トリヴィアな感じを思い出させてくれます.訳書は,意図的に特に年齢を制限しない形で出版されて,大人の私も騙されて読みました.年代的には18-20世紀の様々な分野(もちろん,人体実験を必要とする分野なので医学中心)が扱われています.小中学生向きなので内容はかなり易しくすぐ読めるものになっています.この点は非常に親切.岩波のジュニア新書とか,この手の本が増えることがリテラシーとかの問題を解決する王道だと思います.
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757. 理科離れの真相
安斎育郎・滝川洋二・板倉聖宣・山崎孝
朝日新聞社 1996.3
★★★
 4人の著者による独立した論考を載せた新書.
 この本が出る直接のきっかけは,1995年のオウム真理教事件で,多くの医・理工系の学生が関係していたことに対する危機感からでした.
 直接オウム真理教との絡みを扱っているのが安斎の「理系出身者が空中浮揚を信じた理由」で,著者らしい明快さで「理系なのに」カルトにはまっていく様相が描かれています.
 ガリレオ工房主催であり,現在は東大客員教授でもある滝川は「文部省の理科離れ」で日本の教育システムの中での理科離れを論じています.驚くことに12年後の今でも似たような状況です.
 板倉は「理科離れとオウム真理教の問題」で,オウム真理教問題を理科離れ=日本の理科教育の失敗と位置づけ,理科教育再構築のために自らの仮説実験授業を提唱します.
 最後の山崎孝(当時科学技術産業労働組合協議会議長)は「『科学技術白書』を切る」で,政府の科学技術政策の難点を論じています.
 12年前の問題がまだ全く解決していないのだな,ということが判る1冊です.
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756. 疑似科学入門
池内了
岩波新書 2008.4
★★★
 題名通りだと「疑似科学」を勧める本のように思われますが,著者自身が最後に述べているように,疑似科学とはどのようなものであり(どのように避けたら良いのかを指南し),その社会的影響について考察するという主旨になっています.
 疑似科学を論じる著作は多いのですが,この著作の特色は,個々の事例よりもそれらの大まかな分類を示しているところでしょう.著者は疑似科学を3種類に分類しています.第1種は超能力や占いなどで,著者は「疑似科学」と言っていて,確かに少し前までは「科学」と言い立てていたのですが,例の事件以降はそういう標榜をしなくなりました.第2種は科学っぽい言葉をちりばめたものの実は根拠無くデタラメが入っているという種類で,マイナスイオンやなんとか水というものから,なんでもDNAのせいにしたり脳科学を安直に用いたり動物実験を人間に無闇に拡張したり,というありがちな疑似科学がここに収まります.第3種は,特に複雑系など決定が困難であることから不可知論に持ち込むという懐疑主義の思想で,或る意味第2種の亜種でもあります.公害・環境問題や医療問題で,特定の団体の利益を守るために持ち出されてきた論法でもあります.これに対して著者は「予防措置原則」(疑わしきものは禁ず)に則って行動すべきだ,と提案します.
 主張の善し悪しはともかく,整理されていて読みやすいので入門には適しているでしょう.
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755. 江戸の天文学者星空を翔ける 幕府天文方,渋川春海から伊能忠敬まで
中村士(なかむら・つこう)
技術評論社 2008.7
★★★
 著者は帝京平成大学教授で,天文学者にして江戸時代日本の天文学史の研究者.この著作は江戸のものづくり研究プロジェクトの成果の一端です.
 江戸時代日本の天文学史を,天文観測器具(モノ)の視点から非常に明快にグラフィックに論じた著作.おもしろい.どちらかというと思想史の私はこういう科学器具に対する知識が乏しいので,このような研究はなかなか興味深く思います(具体的な感覚はつかめないのですが).天体観測器具というと,望遠鏡が真っ先に思い浮かびますが,その他に,六分儀・八分儀,渾天儀などがあり,それらが江戸時代に日本に渡来し,様々に使用されていました.単に,西洋のモノが日本に来て文脈ごと移植されたというのではなく,時には不完全に,時には西洋とは異なる文脈で使用されることがあったということを著者は明らかにしています.その器具製作に関しても,西洋と日本だけではなく,広く東アジア的なつながりがあったということも著者は主張しています.
 私がおもしろかったのは,将軍吉宗が天体観測に熱心だった,というところです.装置の改良まで指示したとか.18世紀中頃というのは日本も西洋も文化的転換期だったのですねえ.
 私が苦手にしているモノ文化の歴史(history of material culture)ですが,最近は近寄ってきている気がします.
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754. 脳と心と教育
J.P.バーンズ(高平小百合・奥田次郎 監訳)
玉川大学出版部 2006.10
★★★
 James P. Byrnes, Minds, brains, and learning: Understanding the psychological and educational relevance of neuroscientific research (2001)の訳.著者は認知科学と心理・教育との関連について研究しているアメリカのフィラデルフィア・テンプル大学教授.訳は玉川大学のCOEプロジェクトの一環です.
 原題と訳題の順番と訳語が微妙に違っていますが,脳科学・神経科学と心理学と教育学とを関連づけ,それらが重なり合う部分について20世紀末の見解をまとめた著作.扱われているトピックは,記憶・注意・感情・読み・数学的能力です.部外者には意外なことですが,神経科学と心理学と教育学の接点は意外にないのだそうで(少なくとも20世紀末までは),それらがどのように関係すべきなのか,ということに関心を持って各トピックを描き出そうとしているところに本書の特色があります.私は部外者として,当たり前に並列して読んでいたのですが,専門の人々は線引きをしていたのですね.この状況は21世紀初頭には改善されていることを祈ります.
 著者が言いたかったことは,そのような学際的なことだけではなく,最後の章に取り上げられている脳神経科学リテラシーもあるようです.脳神経科学が与える情報がうまく一般の人々(親・教師)だけでなく心理学者や教育学者にも適切に届いていないことを憂慮して,どのような判断を行えば適切な情報を適切に理解できるのかについて,見通しの良い説明を行っています.この部分だけでも読む価値はあります.そして,このような脳神経科学リテラシーが現在の日本ではほとんど行き渡っていないというのはよろしくない状態です.
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753. 「牛乳を注ぐ女」 画家フェルメールの誕生
小林頼子
ランダムハウス講談社 2007.10
★★★
 去年,日本に来ていた《牛乳を注ぐ女》を主な話題として画家フェルメールについて論じたモノグラフ.とてもおもしろい.
 フェルメールという人物に関する詳細な研究を行い,最近亡くなったモンティアスの追悼論文集に載った著者の論文を基にしています.モンティアスの研究によって,フェルメールの人物像がかなり明らかになってきたらしく,その最新の成果からフェルメールの略伝を描いたのが第1章.フェルメールの画家としての発展史を物語画→風俗画という方向で捕らえ,その転換点になったのが《牛乳を注ぐ女》であるという評価を下す第2章.以下第3-5章は,この絵画作品の評価史,絵画技術について,主題について,と論じられていきます.これだけ入っていて(しかも図版も多くて)150頁!
 フェルメールについての著者の基本的見解は既に大きな本と小さな本になっているので,そちらを併せて参照するのがよいでしょう.私も,フェルメールを過度の機械マニアにしてしまうカメラ・オブスクラ説はあまりいただけない,と思います.
 欲を言えば,全ての図版をカラーにしてほしかった.そのために数百円上がっても.
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752. アートフル・サイエンス 啓蒙時代の娯楽と凋落する視覚教育
バーバラ・M.スタフォード(高山宏 訳)
産業図書 1997.2
★★★
 Barbara Maria Stafford, Artful science: Enlightenment entertainment and the eclipse of visual education (1994)の訳.読む順番を間違えました.
 18世紀の主にフランスの視覚を巡る話を切り張りした著作.400頁以上ありますが,図版も200ほどあるので,それほど内容が濃いわけではありません.
 視覚教育を云々する割には,著者の異常なほどの言葉の羅列には嘆息するほかありません.そして,我々はこの状況をよく知っています.それは,「オタク語り」です.現代視覚文化(げんし)を扱う人々の饒舌なこと,そしてシンクロしない部外者にとっては全くの駄弁(「オタク,必死だな」).18世紀オタクの著書と考えれば,一部の人々の熱狂ぶりが理解できようものです.
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751. ストレスとはなんだろう 医学を革新した「ストレス学説」はいかにして誕生したか
杉晴夫
講談社ブルーバックス 2008.6
★★★
 著者は筋肉生理学が専門.
 たまたま著者の父である杉靖三郎(私はこの人のエッセイを何冊か持っています)が日本にストレス学説を紹介した人物であるという縁で,ストレス学説生みの親であるハンス・セリエと直にあったこともあり,その個人的な思い出も含めて,ストレス学説を生むに至る研究者たちの駆け引きを描いた著作.主にストレスに関連する内分泌学史といったところでしょうか.感情心理学のからみで手に取ってみたのですが,別の意味で当たりでした.
 科学史的な記述は二次文献に依っています.ただ,科学史には明るくないようで,クーンを知っていれば一言で片づくところを,と思わせる部分があります.どろどろと醜い名誉と金の争いという部外者にはわくわくするような話題が多く含まれているので,さらにストレスの対処法まで簡単に書いてあるので,そこらへんに俗な興味がある人も読めるでしょう.
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750. 基盤としての情動 フラクタル感情論理の構想
ルック・チオンピ(山岸洋・野間俊一・菅原圭悟・松本雅彦 訳)
学樹書院 2005.7
★★★★
 Luc Ciompi, Die emotionalen Grundlagen des Denkens: Entwurf einer fraktalen Affektlogik (1997)の訳.イタリア出身でスイスで活躍したあとウィーンのコンラート・ローレンツ研で研究した精神病理学者.現在はスイス在住.スイス訛りのドイツ語が母語らしく,著作はドイツ語で行われています.
 ルーク・チョンピの感情論は以前に『感情論理』(原著は1982,翻訳は1994)が紹介されていました(この項を書いている時点では私は未読).この著作はそこからさらに進んで新しい見解を取り入れて展開したもの.邦題が舌足らずになってしまっていますが,原題を見れば判るように「思考の情動的基礎」ということで,認知活動に感情が影響するとか相互作用するとかというレヴルの問題ではなく,認知活動を統括し方向付けするものが感情だ,という考えを著者は持っています.
 その感情論のモデルを与えたのがカオス理論でした.いまや懐かしい響きですが,10年以上前にはかなりはやっていた理論です.久しぶりにフラクタルだのアトラクターだのという用語を見ました.ともかく,カオス理論を利用する,といっても,厳密に数学的に感情をカオス理論で記述するというのではなく,あくまでもアナロジーとして用いるという段階にすぎません(なので特に数式が出てくるということもない).その辺は期待しない.
 「フラクタル」という形容詞がつく理由は,カオス理論でよく現れるフラクタル図形のように,感情も様々なレヴル(瞬間的な情動,個人の気分,個人の気質,少人数の感情伝染から国家的な感情爆発まで)で自己相似的な過程を歩むから,というもの.これまでも団体や国家を個人のように扱う精神分析家がいましたが,著者の考えによれば,単にメタファとしてではなくフラクタル的な自己相似性から同じ「レール」を辿る,と分析できるのだそうです.人間集団の感情論理で特に参考にされているのがLudwik Fleckである,というのが科学史をやっている人間には興味深い話になります.フレークの著作の翻訳はもうないんだろうな.
 刺激的でおもしろい本でした.日本語版への序文に,著者の2004年くらいまでの関連する論文のリストがついています.
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749. 感情心理学
Carroll E. Izard(荘厳舜哉 監訳/比較発達研究会 訳)
ナカニシヤ出版 1996.9
★★★
 Carroll E. Izard, The psychology of emotion (1991)の訳.著者はこの分野では有名な心理学者.
 感情心理学の専門的教科書.1980年代までの研究を総まとめにして,感情のモード毎に並べている構成で,それだけ読みたいという欲求に応えるものになっています.それはそれで便利.関係なさそうな写真を並べてキャプションでなんとかするあたりも教科書っぽいです.
 手元に置きたい一冊ですが,既に売っていないし,おそらくどのような形ででも復刊しないでしょう.もっとアップデイトな本が翻訳されるのを待ちましょう.
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748. 心理学史
今田恵
岩波書店 1962.8
★★★
 題名通り,心理学の歴史について古代から1950年代までを概観した著作.この著作の後,城戸幡太郎の『心理学問題史』(1968)が出て以降,日本人の手による総合的な心理学史はしばらく書かれなくなります.城戸の著作は1936年の著作『心理学史 上巻』(下巻は出版されなかった)のリヴェンジなので,今田のこの著作こそが戦後の心理学史書の頂点と言えるでしょうか.
 残念ながら,19世紀より前の部分は英語の心理学書の引き写しであり,間違いも多いので今日では読まない方がいいでしょう.19世紀を扱う第X章以降(後半2/3)が主要な部分になります.いわゆる通史なので通読するおもしろさはありません.外国の心理学史書を下敷きにしているので,歴史観は西洋の20世紀前半までの常識的なものだとして読むことができます.ということは,認知科学の前,脳科学の発展の前です.本書に,脳や神経絡みの話がほとんどないことに今の読者は違和感を感じることでしょう.同時代の心理学の傾向によって歴史記述が変わってくる,ということなのです.この辺が「心理学史史」のおもしろさになります.あまり,大向こう受けをしないのですが.
 年表・索引付き.欧文は誤植が多いので注意.
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747. 理想の教室 マクルーハンの光景 メディア論がみえる
宮澤淳一
みすず書房 2008.2
★★★★
 著者は青山学院大学の准教授.グレン・グールドの専門家.なのに,マクルーハン? と思ったのですが,実は関係がある,ということがこの本を読むと解ります.
 マクルーハンの入門書ですが,類書との大きな違いは,具体的なマクルーハンのテクスト(「外心の呵責」という1963年の小文)の読解をやってみせているところです.まるで英文読解の授業のように細かく,かつ解りやすくマクルーハンのアイディアを辿って見せて,「難解」とされるテクストの読み方を実践しているのです.これが第1部で,第2部はマクルーハンの思想的展開を辿るもの,第3部はマクルーハンのキィ・タームである「芸術家」と「地球村」を巡る同時代の多くの芸術家との関連を論じます(ここにグールドが出てくる).特に第3部は私の知らないことばかりだったので非常に興味深く読めました.ジョン・レノンとも関わりがあったのですね.
 それに,「地球村」については私も誤解していました.世界が一つの村になれば良いことだ,などと,よく考えればマクルーハンなら絶対言わないようなことをぼんやりと語感から感じてしまっていたのでした(『地球村』だけは読んでいなかった).思いこみは危険である.
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746. 感情と認知
波多野誼余夫・高橋惠子
日本放送出版協会 2003.3
★★★
 放送大学のテクスト.
 著者たちが感情と認知についての英語の論文集を出したことがらみの人選で15回の話題が展開されます.
 認知との絡みで,以下まで読んできたような単なる感情心理学とはまた違った味のある話が展開できるのだな,ということに少々感動することもできます.この著作がおもしろい,と思えるのですから,私が選んでいる研究の方向性は正しいのでしょう.
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745. 1冊でわかる 感情
ディラン・エヴァンズ(遠藤利彦 訳・解説)
岩波書店 2005.12
★★★
 Dylan Evans, Emotion: A very short introduction (2001)の訳に訳者の解説を加えたもの.著者は,現在アイルランドのコーク・カレジ大学(University College Cork)のコンピュータ科学部門のシニアリサーチャー.感情を中心とした心理学や進化学やコンピュータ工学などが専門であるようです.
 この著作はごく解りやすい入門書.著者は,感情が認知に関わる(ネガティヴだけでなくポジティヴにも)ということを強調しています.この分野に馴れていない人にはおそらく新鮮な主張でしょう.それを軸にした様々な議論が紹介されているので便利ではあります.
 訳者の解説と多くの参考文献が非常に役に立ちます.
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744. 麻酔法の父ウェルズ
中原泉
デンタル・フォーラム 1991.1
★★★
 105ページで4500円+taxの本.歯医者さんはお金持ちである.
 史上初めて笑気ガスを使って無痛抜歯に成功した(しかし,肝心の公の場所で失敗した)ホラス・ウェルズに関する著者の論文と書き下ろしを収めたもの.ウェルズの故郷への旅行記とウェルズを切手にしようという運動の話(医学史には古川明という切手の大家がいる)の間に,麻酔法の先取権を巡る論争のために書かれたウェルズの手紙の全訳(これは資料として貴重)と,実際に誰が最初に麻酔を施したのか,という問題を論じた論文が含まれます.
 全く気にしていなかったのですが,ウェルズは,最初の笑気ガスによる麻酔実験を自分で行っています.つまり,自分の悪い歯を友人の歯科医師Riggsに抜いてもらったのです(危険かもしれないので他人には頼めなかったのでしょう).その際には,笑気ガスショーを行っていた元医学生の興行主Coltonが笑気ガスのスペシャリストとして同席していました.コルトンがラグビーボールほどの楕円体に詰めた笑気ガスを持ってきて,それを使って麻酔が行われたのですが,この麻酔を誰が行ったか,を著者は問題にします.なぜなら,この件に関して,リグズとコルトンの証言が異なっているからです(ちなみに,ウェルズは何も語らなかった).リグズは「ウェルズ自身が行った」と言い,コルトンは「自分が投与した」と言っているのです.リグズの主張は1844年12月11日の出来事から30年近く経った後,コルトンの主張は40年以上経った後,ちょっと時間が経ちすぎています(その頃になって再びそのことが話題になったので).両方の発言を比較して,著者はコルトンに軍配を上げています.
 もうちょっと手に入りやすくなっても良い本.
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743. 本草学者 平賀源内
土井康弘
講談社選書メチエ 2008.2
★★★
  「非常の人」平賀源内の生涯と業績を「本業」である本草学を軸として描いた著作.本草学者としての源内の傑作である『物類品隲』に挙げられている珍品の由来と解説,火浣布作成などについて,同時代の本草学との関連を考慮しつつ論じています.詳細で,いかにも科学史家が書いたという研究になっていて読み応えがあります.
 年表・参考図書あり.
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742. エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学
ジョセフ・ルドゥー(松本元 他訳)
東京大学出版会 2003.4
★★★★
 Joseph LeDoux, The emotional brain: The mysterious underpinnings of emotional life (1996)の訳.
 恐怖と不安という「情動」を例に,扁桃体を中心とする情動の脳科学を判りやすく述べた一般向け概説書.この点では,ダマシオの著作以上におもしろいのですが,一般にはあまり知られていないようなのが残念です(ちょっと高くて範型も大きいからか).
 ただ,その道の方々には非常に有名で,この本は必ず参考図書に挙げられていて,必読文献であることは間違いありません.ただ,なにせ10年前の本なので,日進月歩のこの分野は今はどれほどのことになっているのか……
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741. 文明のなかの博物学 西欧と日本 全2巻
西村三郎
紀伊國屋書店 1999.8
★★★
 主に18-19世紀におけるユーラシア大陸の両端=西欧と日本で展開した博物学ブームとその起源・帰結を追い,社会的な背景の中に位置づけた著作.上下あわせて700ページ以上ありますが,網羅的な博物学史を目指しているわけではないので,たとえばヴィクトリア朝イギリスの博物学ブームやロシア・北米などの話は(西欧でないから)触れられていません.
 上下2巻ですが,西欧編・日本編に別れているのではなく,章毎に交互に日本と西欧の話を行きつ戻りつする描き方であり,歴史的順番に従うのではなく,18世紀から始まってその前後の話に進むので,全体的構図がまず頭に入っている人でないとかなり読みにくいかもしれません.
 基本的に啓蒙史観で書かれている歴史.そう思って読むべし.
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740. 生存する脳 心と脳と身体の神秘
アントニオ・R.ダマシオ(田中三彦 訳)
講談社 2000.1
★★★
 Antonio R. Damasio, Descartes' error: Emotion, reason, and the human brain (1994)の訳.
 内容は今更言うことがないほど有名な本です.著者はポルトガル出身でアメリカで活躍する脳科学者・神経科医.自らの経験と同僚の研究によって,大脳の一部が感情に関連していて,そこを損傷すると,合理的な思考はできるが,常識的な行動・判断ができなくなるということを見出し,感情が判断に重要な影響力を持つこと,さらに,漠然とした感情の起源が身体にあることを主張した「ソマティックマーカー仮説」を提案している著作.ジェイムズとキャノンを合わせたような感じでしょうか.
 原題の「デカルトの誤謬」は,デカルト二元論を指します.そんなの当たり前です.まあ,心理学史の本ではないので,心理学史的に正確でないことは仕方ないのですが,それにしてもね.
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739. 感情科学
藤田和生 編
京都大学学術出版会 2007.8
★★★
 感情科学とはAffective Science.著者達の造語です.京都大学の異なる領域の研究者達によって書かれた学際的な「感情」研究.発達・比較・社会などの普通の心理学,臨床心理から,言語学,脳科学,ロボットまでさまざまな分野からの感情へのアプローチが含まれています.心理学プロパーな論文集よりは視野が広いと言えるでしょう.さらに,最後の50頁ほどが著者達による座談会で,相互交流的な見解も見ることができて,これもまたおもしろいです.
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738. 中世の覚醒 アリストテレス再発見から知の革命へ
リチャード・E.ルーベンスタイン(小沢千重子 訳)
紀伊國屋書店 2008.3
★★★★
 Richard E. Rubenstein, Aristotle's children: How Christians, Muslims, and Jews rediscovered ancient wisdom and illuminated the Dark Ages (2003)の訳.著者はアメリカのジョージ・メイスン大学で紛争の分析と解決研究を行っている人物で,政治学・法学が専門のようですが,著作を見る限り,歴史的事例の分析から現代的問題への示唆を得ようとする,立派な方の歴史家であるようです(私は駄目な方の歴史家).
 12世紀ルネサンスという70年の歴史を持つ用語を使わずにそのことを論じた不思議な著作.そんなことを勉強しなかった,と冒頭で著者は告白していますが(そんなはずはないのですが),ここまでの本を著したのなら誰も文句は言えないでしょう.古代中世史家でもなく,思想史家・哲学史家でもなく,宗教史家でもない,つまり非専門家だからこそ描き出すことができた歴史であり,しかもおもしろい歴史です.
 原題通り,アリストテレスを巡る主に西洋中世思想史で,思想的変化の背景に社会集団の闘争をはっきりと見据えるのはこの著者ならではの視点でしょう.そうみると,かなり取っつきにくい感じのある西洋中世思想史が非常に判りやすく思えるから不思議です.本文で450頁ほどありますが,全く飽きさせずにおもしろく読み通すことができました.専門外の人が書く本が成功するパターンの好例でしょう.細かいところの正誤などは,この著作にある参考文献を参照すればいいのです.
 訳者も大変苦労したのだろうと思われます.原作以上の情報も含まれています.
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737. 図書館の誕生 古代オリエントからローマへ
L. カッソン(新海邦治 訳)
刀水書房 2007.4
★★★
 Lionel Casson, Libraries in the ancient world (2001)の訳.著者は1914年生まれのアメリカの古典学者.この著作は余技といったところでしょうか.かなり肩の力を抜いて(学問的でなく)描いています.
 副題通り,古代オリエントから中世前半までの「図書館」を巡る状況を,同時代の証言から特に批判的になることなく再構成したお話.正確さや厳密さなどよりは判りやすさを優先しているようです.そのため,この数字で正しいのか,他の本とは違うな,というものがあるのですが,気にしない(定量的な部分は特に).
 古代アレクサンドリアの大図書館については複数の本があるので有名ですが,ローマ帝国の図書館事情については,私はよく知らなかったので,得るところがありました.
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736. 感情の心理学
高橋惠子・河合優年・仲真紀子
放送大学教育振興会 2007.4
★★★
 放送大学のテクスト.TVではなくレイディオの方です.
 感情についての心理学の複数の話題を概説的に扱ったもので,入門的には良いでしょう.これまで読んできたものでおなじみの考察もあれば,「感情と音楽」というちょっと珍しいテーマも含まれています(音メディアでの講義には適しています).ただ,表情の研究とかは映像があった方が良いので,TVでやってもらいたいです.
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735. 現代のエスプリ2002年8月 喜怒哀楽 感情の人間学
至文堂 2002.8
★★★
 横浜市立大学社会人講座「感情の現在 喜怒哀楽」を基にした,論文集.感情についての哲学的考察から,古典学,心理学,臨床心理などの専門家がそれぞれの視点から好き勝手に言う,という体裁です.あえて視点を統一しなかったということの良さがあります.
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734. 感情心理学史
ガーディナー+メトカーフ+ビーブ=センター(谷田部達郎・秋重義治 訳)
理想社 1964.10
★★★
 H. M. Gardiner, Ruth Clark Metcalf, and John G. Beebe-Center, Feeling and emotion: A history of theories (1937)の訳.
 もともとスミス大学教授だったガーディナーが古代ギリシャから18世紀末までの感情心理学史を描き,未完のまま亡くなったので,弟子であったメトカーフが全体を修正しながら18世紀末までの部分を完成させ,19-20世紀の部分である最後の2章を加えてビーブ=センターが全11章に仕上げた,という原書の構成.さらに,この著作を京都大学の心理学教授谷田部が戦後に翻訳を始めましたが,病で完成を見ることはありませんでした.谷田部の遺稿に,その弟子であった秋重が不足部分を訳し足して出版された,という訳書の経歴.そして,谷田部の翻訳部分(第1-5,10章と第11章の一部)は「抄訳」であって,残りの秋重の翻訳部分は全訳である,と少しちぐはぐしています.
 古代ギリシャから20世紀初頭までの広い意味での「感情」を扱った研究を整理した力作.基本的に学説史です.ほぼ心理学史と重なるとほどの人物が登場してきます.あまりにも情報量が多いので,これを全部読むのは大変だなあ,という感想がまずこぼれるほど.ただし,英米仏独中心で,イタリアやロシア(ベヒテレフだけはある)などの研究は扱われていません.もちろん,西洋以外は全く無視.さらに,哲学・心理学での感情論中心で,文学などは範囲外です.その意味でも学説史.
 現在はもっと新しい歴史書がありますが,古代から一貫して扱うものは多くありません.しかも日本語で読めるものはこれだけと言っていいでしょう.この意味で読んでみるのもいいかも.ただし稀覯本.
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733. 感情と心理学 発達・生理・認知・社会・臨床の接点と新展開
高橋雅延・谷口高士 編著
北大路書房 2002.4
★★★
 この論文集で私にとって興味深かったのは,感情とエピソード記憶に関する論文でした.どうして自転車を担いでいる人物の写真が印象に残らないのかが不思議ですが.
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732. 感情研究の新展開
北村英哉・木村晴 編
ナカニシヤ出版 2006.11
★★★
 この論文集の特色は,感情のコントロールという問題に多くの場所を割いていることでしょう.さらに,感情研究の手法についての論文があることも,具体的な研究のようすを知ることができて部外者にはありがたいです.
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731. 喜怒哀楽の起源 情動の進化論・文化論
遠藤利彦
岩波書店 1996.7
★★★
 著者は現在は京都大学大学院教育学研究科准教授.
 下の著作とほぼ同じ時期に書かれていますが,感情心理学の分野分けが少々異なります.副題にあるように,著者は感情心理学を進化論に基づき内発的な要因を重視する派閥(この中に,下で言うダーウィン説,認知説が含まれる)と,社会的相互作用によって感情が構築されるとする社会文化的構成主義の派閥に分けます.下の著作では「群盲像を撫でる」と表現したわけですが,この著者は第3の道を紹介します(もちろん,下の著作でも言及されていました).それは,感情の基本要素を見直す考え方で,怒り・喜びといった「基本的感情(原始的感情primitive emotionなどともいう)」が本当に「要素」なのか,ということを批判的に再考し,より基本的な感情とその表出のセットがあるのではないか,という「構成要素説」を呈示します.なるほど.
 判りやすい著作なのですが,残念ながら文献表が全くないために,どの論文を参照したのかが全く判らない仕組みになっています.実は,下までの著作を読んでくるとだいたい見当がつくのですが,それにしても不親切な.
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730. 感情の科学 心理学は感情をどこまで理解できたか
ランドルフ・P.コーネリアス(齊藤勇 監訳)
誠信書房 1999.11
★★★★
 Randolph R. Cornelius, The science of emotion: Research and tradition in the psychology of emotions (1996)の訳.
 題名通り,20世紀の「感情(情動)」を巡る科学を4つのグループに大別し,それぞれの理論とその総合を目指した概説書にして「20世紀感情科学史」としても読める好著.4つのグループとは,ダーウィンの進化論的な表情研究に由来するダーウィン説,ウィリアム・ジェイムズの末梢神経起源説から始まる身体の心理への影響を重視するジェイムズ説,感情が必ず判断を伴い認知を考慮しなければいけないとする認知説,そして感情は人間の社会的関係の文脈の中でのみ充全に理解されるとする社会的構築主義説です.これらはほぼ歴史的順番に生起してきました.なので,歴史書としても読めるわけです.
 著者は社会的構築主義の大物ジェイムズ・エイヴリルの弟子で,社会的構築主義の立場に近いのですが,他の諸説との統合を目指しています.それは,4つの説が感情の一面を捕らえている,いわゆる「群盲像を撫でる」(この著作ではこれがペルシャのことわざとして差別的表現の無いように言及されています)状態である,と著者が考えているからです.妥当な見解でしょう.
 非常に判りやすく書かれていて,この分野の入門書として優れています.訳も「です,ます」調でやわらかい(ところどころこれが崩れるのですが).索引もあり,参考文献も充実.ただし,参考文献には間違いが多いので注意してください.年号と巻号が合わない(1年くらいずれる)とか,雑誌の名前が間違っている場合があるので,諦めないで探すのが吉.
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729. 新心理学ライブラリ17 感情心理学への招待
濱治世・鈴木直人・濱保久 共著
サイエンス社 2001.12
★★★
 主に第1章「感情・情緒(情動)とは何か」が参考になりました.
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728. ラヴォワジエ
M.ドーマ(島尾永康・天羽均 訳)
東京図書 1978.9
★★★
 Maurice Daumas, Lavoisier (1941)の訳.著者はパリの国立技術博物館の管理者で,科学機器の歴史研究で知られているそうです.
 グリモーよりはいくらか新しいのですが,それでもかなり前の著作.ラヴワジェの科学的業績というよりは,時代との関わり合いを主に取り上げて,小説のように書き流していきます.聖人のように描くのではない,と著者は言うのですが,下の著作に比べれば充分に聖人化されています.
 フランス革命前後というフランス人の常識レヴルの高いところの話なので外国人にはなかなかついていけません(私だけ?).科学史的には得るところが多くないので,これは参考資料程度の著作ですが,そのわりに索引がないので不便(参考文献はあります).
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727. 科學史をつくる人々 ラヴォアジエ
原光雄
弘文堂 1950.7
★★★
 著者は戦前から化学史に携わっていた人物.
 ずいぶんと古い本ですが,たまたま手に入ったので読みました.戦前に翻訳されていたグリモーの伝記などを基に,ラヴワジェの伝記と科学的業績を140ページほどにまとめた著作.手始めに読むには非常に適していました.超入門書です.ただ,半世紀以上前のものなので,あくまでもこれを出発点に,と考えて起きましょう.
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726. ブレインサイエンス・シリーズ6 脳と情動 感情のメカニズム
堀哲郎
共立出版 1991.9
★★★
 著者は九州大学名誉教授で神経生理学などが専門.
 もはや20年近く前に出たことになってしまった脳科学教科書シリーズの1冊.なので,コンパクトな記述になっていて,予備知識がないとちょっときつい感じです.いわゆる脳科学メインなので心理学系の話はあまりありません(第8章情動体験だけ).基本的には,感情は脳内過程のモニター出力である,という考えのようです.
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725. 感情を知る 感情学入門
福田正治
ナカニシヤ出版 2003.5
★★★
 著者は富山医科薬科大学行動学教授.感情に関する心理・生理・精神医学的な知見を集めて整理した教科書.わかりやすい.著者は歴史的・哲学的考察も含めようとしていますが,それは若干弱いのは日本でのその方面の研究不足に由来するので仕方ありません.140ページほどの小著に,感情発生についての進化学的仮説に基づく分類,感情の生理学,感情のコントロールという医学的見解,そして感情の社会心理学まで詰め込んでいます.感情について簡単に一通り知っておきたいと思う人にはお勧めです.索引あり.参考文献も豊富.
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724. 感情の心理学 脳と情動
安田一郎
青土社 1993.2
★★★
 題名よりは副題に忠実な内容で,実際には「感情の生理学」といったような内容です.「感情の生理学」という題名はもともとは編集者の要望で,それを著者が(生理学の専門家ではないという理由で)避けたために,現行の題名になりました.
 ともかく,ジェイムズ=ランゲの仮説から始まり,キャノンとバードによる批判,マクリーンの三位一体説などのマクロ解剖学,そして感情の分子生物学にまで行き着く前半と,個々の感情について扱う真中,感情と認知・言語および脳での局在論について扱う後半,という内容になっています.文章も読みやすく,歴史的な順序にほぼ従った叙述なので「感情の生理学史」としての価値もあり,この分野の手軽な入門書となっています.索引はありませんが,参考文献は豊富です.
 この著者が翻訳した本ジャン・ディディエ・ヴァンサン(安田一郎訳)『感情の生物学』(青土社 1993.8)はもっとはっきりと分子生物学的な感情(?)論です.ただし,こちらはあまりおもしろくない.
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723. 感情心理学パースペクティブズ 感情の豊かな世界
畑山俊輝 編集代表
北大路書房 2005.2
★★★
 下よりちょっと古いですが,やはり,感情心理学のサーヴェイ.この論文集の特色は,社会心理学的な感情の扱いを最初に持ってきている部分でしょう.通常は還元主義的に,個人内部での感情の生理学から徐々に拡がっていくパターンなのでしょうが.認知の問題よりは,臨床に多くを割いているのも特色でしょう.
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722. 朝倉心理学講座10 感情心理学
鈴木直人 編
朝倉書店 2007.9
★★★
 最も新しい感情心理学のサーヴェイ.このような研究がなされていますよ,という総覧です.非常に判りやすく書いてありますし,参考文献も豊富なので,興味のある人はこのあたりから手をつけてみるべきでしょう.少なくとも,私にとっては非常に参考になりました.
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721. ファラデー 王立研究所と孤独な科学者
島尾永康
岩波書店 2000.3
★★★
 ファラディものはこれでほぼ終わり.この著作は,ファラディとその周辺についてかなり詳しくまとめられていて,英語の本を数冊読む手間を省いてくれます.王認研究所の成立事情から,ファラディと同時期の科学者リービヒとの対照(学派を形成したリービヒに対して,ファラディは「孤独な」研究者でした),ファラディの宗教的背景,デイヴィの釣りの本の話まで書かれています.
 下の著作よりは,科学史っぽい感じになっています.それにしても,ファラディについての本は,ファラディの話だけでに収まらないのですね.参考文献付き.
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720. ファラデー 実験科学の時代
小山慶太
講談社学術文庫 1999.5
★★★
 ファラディの業績を中心に,その業績が後の科学に与えた影響を紹介した著作.かなり入門的な著作であり,下の2冊に比べたらかなり速く読み終わることができました.もし,関心があるのなら,この著作から読んでみるべきでしょう.
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719. 発見者ファラデー
ジョン・チンダル(矢島祐利 訳・編)
現代教養文庫 1978.7
★★★
 John Tyndall, Faraday as a discoverer (1868; 4th ed. 1884)の訳に「ゲーリュサック宛の手紙」を添えて訳者の解説を付けたもの.この文庫の悪癖で原著の書誌表示がないので,私が調べました(不正確かもしれません).
 著者は「ティンダル現象」で有名な物理学者で,王認研究所でのファラディの同僚でもありました.ファラディ最後の十数年を共に過ごし,その縁もあって,ファラディの亡くなった(1867年)直後にこの原著は出版されました.ただ,直後の出版ということもあって,ファラディの「伝記」というほどではなく,ファラディの残したノートを読みながらの業績の説明と個人的な思い出を記したものです.また,電磁気学の発見に関する先取権を巡る書簡が訳者によって付録として翻訳されています(かなり長い).
 19世紀中頃の話なので,今は妥当でないとされていることや,今なら解っていることもあれば,今もって解かれていない問題(電磁気と重力の統合)までファラディが取り組んでいたことは知ることができるのですが,ファラディの業績の正確な評価というのは物理学に明るくない私にはよく解りません.訳者も気をつけていてくれますが,もうちょっと解説が欲しいところです.
 科学史の一次資料として貴重でしょう.せっかく翻訳があるのですから.原書に関してはe-textで容易に入手可能なので,訳の不明瞭で疑問なところは原文と照らし合わせてみることが容易です(私はしませんでしたが).
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718. マイケル・ファラデー 天才科学者の軌跡
ジョン・M.トーマス(千原秀昭・黒田玲子 訳)
東京化学同人 1994.12
★★★
 John Meurig Thomas, Michael Faraday and the Royal Institution: The genius of man and place (1991)の訳.著者は物理化学者で,The Royal Institution(「王立研究所」と訳されることが多いが,やはり「王認研究所」の方がよいと思います)の所長だったこともあり,つまりはファラディ直系の人物.
 19世紀前半英国の科学者ファラディを中心に,王認研究所の成立からファラディ後の展開をまとめた著作.ということなので,日本語の題名よりは原題の方が正しく内容を表しています.ラムフォード伯爵による王認研究所設立,優れた科学者デイヴィの活躍(なのに,ファラディにいじわるしたばかりに歴史的にはあまり評判がよくない),ファラディの業績と人となりと講演について,そしてファラディ以後(20世紀初頭くらいまで)に王認研究所にいた主な研究者,金曜講演に参加した科学者や他の人々(H.G.ウェルズなども含まれる)たちのエピソードが語られます.
 特に後半は,王認研究所とその様々な講演がいかに英国の科学振興に役立ったかについての実績に裏打ちされた自慢話です.こういう仕組みを欠く日本の我々はうらやましい限りですよ.最近はサイエンスカフェとかがありますが,まだまだ日が浅いこともあって,定着しているとは言えませんし.その意味でも,この施設の役割を研究することは日本の現状を改善するために資すると思います.
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717. 心理学史入門
M.ヴェルトハイマー(船津孝行 訳)
誠信書房 1971.12
★★★
 Michael Wertheimer, A brief history of psychology (1970)の訳.著者は心理学者で,この著作にもしばしば名前の出てくるゲシュタルト心理学で有名なマックス・ヴェルトハイマーの息子.
 原題通り,主にアメリカ心理学の短い歴史.三部構成で,1870年以前のヨーロッパの前心理学時代,1870-1900年のドイツ中心の初期心理学時代,20世紀のアメリカ心理学諸派の時代,をそれぞれ扱っています.教科書として使用することを考えているので,註はほとんどなく,参考文献を参照する仕組みになっています.アメリカ人の考える標準的な学説史・制度史を表現していると考えて良いでしょう.認知革命が始まりかけている時代ですが,それについてはほとんど触れられず,無論ヴィゴツキーなど全く出てきません(ピアジェですらほとんど出てこない).歴史こそが時代を映している,という良い例でしょう.だから,「アメリカ心理学史」なのです.
 滅多に手に入らない本ですが,まあそれでもしょうがないかな,という本.
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716. 迷信と科学 科学新入門下
板倉聖宣
仮説社 2007.11
★★★
 下巻といっても,上巻はかなり前に出版されています.1975年に出版された『科学新入門・科学の学び方教え方』(太郎次郎社)の後半部分に池波正太郎についての文章を加えたもの.迷信の話を振り出しに,科学とは何か,という本質的な話題から,科学の本の読み方などが述べられています.科学書に関しては,子供向けが意外によいとか,新しいものが必ずしも良くなっていくのではない,という指摘があります.著者の体験からの言葉なのですが,私も全く賛成です.古本屋好きなあたりも共感度高し.
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715. ウマはなぜ「計算」できたのか 「りこうなハンス効果」の発見
オスカル・プフングスト(秦和子 訳)
現代人文社 2007.3
★★★★
 Oskar Pfungst, Das Pferd der Herrn von Osten (Der Kluge Hans): Ein Beitrag zur experimentellen Tier = und Menschen = Psychologie (1907)の訳.著者はドイツの動物心理学者(1874-1932).
 特に心理学に関心が無くても聞いたことはある「おりこうハンス効果(the Clever Hans effect)」の最初の研究.今からおよそ百年前のドイツの話になります.学校教師だったフォン・オステン氏の飼馬ハンスが「人間の話言葉を理解し,計算もできるし文字も読める」ということで話題になりました.フォン・オステン氏が簡単な算数の問題を出すと,前足で地面を叩いて答の数値を返し,イエス・ノーの質問には首を振ることで答えるというのです.多くの人の前で実際に行われて,その正確さは認められていました.フォン・オステン氏は,これを興行に使うのではなく,動物の持つ知性と特殊能力(しばしば,声に出さない問題もハンスは答えたから)を証明するものだと考えていました.この点では,ドイツ進化論者のヘッケル派によって知性進化の例と考えられたり,N線のような未知の光線の例と考えられたり,と肯定的に捕らえる人々もいた一方で,宗教的理由で否定した人々もいました.そして,多くの人はインチキだと思っていたので,心理学者やサーカス興行主(インチキのプロ)などが自発的に集まって調査することになりました.その成果が1904年9月の「9月鑑定書」(本書に含まれています)として公表され,「意図的な」インチキはないことが認められました.ただし,自覚のない指示をウマに与えていた可能性は残されていました.
 感覚心理学を学び,動物心理学にも明るかった著者は,協力者たちと共に,フォン・オステン氏や他の人々がハンスに「無自覚な指示」を与えていたことを発見します.具体的には,ハンスへの質問者が,質問の答(の回数分の前足の叩き)に至ると頭を微妙に上げることが確認され(ヴィデオの無い時代なので確認が難しかった),それをハンスが「終了の印」と見なしていた,ということなのです.著者たちは頭の動きと叩き終了のタイミングを測定して,時間的前後関係を明確にしています.さらに,誰も答を知らない問題(たとえば,2人が互いに相手に数を教えずにハンスだけに聞こえるように囁いて,両者の数を足し算させる)だと偶然レヴル以上の正解率が出ないことを確認しています.これらをまとめて,ハンスへの「無自覚な指示」がハンスの「反応」への刺激であったことを1904年12月の「12月鑑定書」(本書に含まれています)で明らかにしました.
 本書は,動物心理学の歴史から始まり,ハンスへの実験の詳細を記述して,さらに実験室状況で,実験者が被験者に与えてしまう効果を再現しています(後に「おりこうハンス効果」と呼ばれることになる).心理学上の古典で,訳者によると「フロイトの著作と並ぶ重要性を持つ」というくらいに評価する人もいるほどです.意外に読みやすく,おもしろい著作.なぜ今翻訳なのか,とは思いますが,この種の古典が訳されることには充分な意義があります.また,ネットなどでの「おりこうハンス効果」の史的由来についての説明には間違いが多いので,この本を参考にすることをおすすめします.
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714. 心の発生と進化 チンパンジー,赤ちゃん,ヒト
デイヴィッド・プレマック+アン・プレマック(長谷川寿一 監修/鈴木光太郎 訳)
新曜社 2005.5
★★★
 David Premack & Ann Premack, Original intelligence: unlocking the mystery of who we are (2003)の訳.著者たちはアメリカの比較心理学の専門家.
 チンパンジーの心理学実験を元に,人間の心の起源について考察する著作.著者の1人が「心の理論」という分野を作り上げただけあって,この著作の後半でもその話を取り上げていますが,それほどたいしたことは書いてありません(その点で期待はずれ).ただ,それ以外のアナロジーや道具についてのチンパンジーとヒトとの比較がかなり興味深い論点を含んでいるように思えます(もし,熱病にかかっていなかったらもう少しがんばって理解したでしょうが).
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713. 人間発達の認知科学 精神のモジュール性を超えて
A. カミロフ-スミス(小島康次・小林好和 監訳)
ミネルヴァ書房 1997.4
★★★
 Annette Karmiloff-Smith, Beyond modularity: a developmental perspective on cognitive science (1992)の訳.著者はイギリスの発達心理学者.
 著者はジャン・ピアジェの下で学んだピアジェ派から出発し,後に離れて生得論・モジュール論に近づき,それらを総合するRRモデルという発達のモデルを構築し,コネクショニズムに期待を寄せています.20世紀末の思想だな,という感じ.
 RRモデルとは,Representational Redescription(表象の書換え)モデルで,人間が知識・技能を獲得する際に,いくつかの段階を経て知識が「書き換え」られていく,と考えるものです.著者が例に出すのはピアノのレッスンとルービックキューブの解き方です.両方とも一定の練習(試行錯誤)によって実行は可能になりますが,最初に修得したものを再現することができるだけで,たとえば曲の途中から演奏するとか,主題の変奏曲を演奏するなどはできない,というレヴルがあります.これを第I水準(おそらくimplicitの頭文字で,なぜかこれだけ「第」が付く)と呼び,その知識・技能に固有の領域のみで通用し,それを超えない(それどころか,メタ認知できない)ものです.手続き的にひとまとまりとして符号化されている状態,とも著者は言います.この水準の知識が,言語的で明示的な表象に書き換えられると,その段階に応じてE1水準E2水準E3水準となり,手続き的な知識が分節され,明示的な表象で固有領域を超えて利用できるようになっていきます.著者は抽象的に各水準の違いを説明してますが,それが明確ではありません.
 ともかく,ポイントは「領域」になります.これはチョムスキーやフォーダーなどのモジュール(他と独立したユニットのようなもの)とは異なり,もう少しゆるやかに相互に独立している,というもののようです.しかし,それが大脳皮質の解剖学的領域を示すのか,それとも他のものなのか,著者は明言しません(おそらく,ピアノ領域,ルービックキューブ領域といったものがある,と考えているのでしょう).それらの領域には生得的な制約があり,これが学習を容易にしている(この点がピアジェ派と異なるらしい),と著者は考えます.
 おそらく,現象を整理するために著者はRRモデルを考えているのでしょう.なぜ表象を書き換えなければならないのか,書き換えの水準がなぜ3つなのか,といった問題はこの著作では論じられていません.この意味で,この著作を読んでも満足は得られません.ただ,歴史には応用できそう,というだけでこの著作を読んだ甲斐があった,と思うことにします.
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712. 学習のエスノグラフィー タンザニア,ネパール,日本の仕事場と学校をフィールドワークする
川床靖子
春風社 2007.5
★★★★
 著者は大東文化大学文学部教授.専門は状況論.
 人間の「学習」を実験室などのコントロールされた人工的環境下ではなく,現実の現場での「学習」がいかなるものであるかをエスノグラフィーの技術を使って分析し,学習が文脈に依存し,文脈を作り出していく相互作用であることを明らかにした著作.1997年に出された著者の博士論文を基に,テクノサイエンスのエスノグラフィーについての最近の研究を加えたものです.おもしろい.
 最近,学習だのリテラシーだのに関わることが増えてきたおかげで,あらためてこういう基礎的なことを学ぶ必要がありました.この著作の第2部が「リテラシー」に関する興味深い観察と考察になっています.
 私見では,リテラシーとは結局,終わり無き探求を始めることだし,極言すれば「驚く感覚」です.ただ,プラトン的教育理念を抱いてしまった私にはなかなかカリキュラムをどうするとかいうことに馴染めないのです.まあ,この違和感が大事なのだとも思いますが.
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711. E=mc2 世界一有名な方程式の「伝記」
デイヴィッド・ボダニス(伊藤文英・高橋知子・吉田三知世 訳)
早川書房 2005.8
★★★★
 David Bodanis, E=mc2: a biography of the world's most famous equation (2000)の全訳.
 著者はアメリカ生まれでイギリスで教え,歴史からポピュラーサイエンスまでの著作を持つ人物.科学史関係がいくらかあります.最近『エレクトリックな科学革命』が早川書房から翻訳され,シャトレ夫人についての著作もあります.
 題名通り,エネルギーと質量の等価性を表すアインシュタインが見出した方程式を巡る科学史.読みながら,どうしてこういうネタで私自身が科学史の講義を組み立てられなかったかな,と思いました.おもしろい.エネルギー,質量,光速度,と17世紀から19世紀までの前史から入り,アインシュタインと相対性理論,放射能の発見,核分裂と核融合,ドイツとアメリカの原子爆弾開発(日本の原爆開発の話は出てこない),ブラックホールとビッグバンまでの科学史エピソードを非常に判りやすくおもしろく語っていくので,飽きることがありません.ご丁寧に最後には,登場人物の「その後」までが簡単に描かれています.抽象的な科学概念だけでなく,科学者の人となり,時代との関わり合いも描いているので,現代物理学史の入門として充分です.
 全体的にシニカルな人物描写の中,特に女性研究者に対する同情が目を引きます.その意味でシャトレ夫人についての評伝などもおもしろそうです.
 非常に詳細で参考になる註と豊富な参考文献もきっちり翻訳されています.欲を言えば索引も欲しいのですが,まあ,一切無視するようなひどい「翻訳書」よりは遙かに良心的です.だから,2ヶ月半で再版ですよ.
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710. ナノカーボンの科学 セレンディピティーから始まった大発見の物語
篠原久典
講談社ブルーバックス 2007.8
★★★★
 著者は名古屋大学教授でフラーレンやカーボンナノチューブの専門家.
 20年ほど前に突如人類の前に現れた新たな物質フラーレンとカーボンナノチューブの発見から発展を判りやすく,かつ最前線にいる研究者として直に見聞きしたリアルな体験を交えて描いた著作.おもしろい.この話題についての超入門書であり,現代科学史の良い一例となっています.フラーレンfullereneがバックミンスター・フラーFullerの名前に由来しているとか,フラーレン構造を最初に予測したのが日本人だとか,誘惑的な細部にも満ちています.関心のある人は是非読んでみるべき.
 この著作のキィワードは「セレンディピティ」です.著者はパスカルを引用しますが,私だったら楳図かずおでしょう.けれども,「セレンディピティ」とは時々起こる珍しい現象ではなくて,科学史の本質であり,整序された歴史こそが捏造だ,と私には思えます.あるいは,「セレンディピティ」とすることこそが科学の歴史を歪めているのかもしれません.その辺のことも考慮して読むとまたおもしろいでしょう.
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709. ニュートンの海 万物の真理を求めて
ジェイムズ・グリック(大貫昌子 訳)
NHK出版 2005.8
★★★
 James Gleick, Isaac Newton (2003)の訳.著者はアメリカ人サイエンス・ジャーナリスト.
 ニュートンに関しては,1980年代以降の研究の進展のおかげで,それ以前の伝記ははっきり時代遅れになってしまいました.その割には,日本ではウェストフォールの大著以来,適切なニュートンの伝記がなく,この著作がほとんど唯一の例外です.なにせ,ウェストフォールの2冊本は腕が折れそうな分量なので簡単には読めませんが,この著作は短く平明なので非常に読みやすくなっています.なので,ニュートンについて入門的に知りたい方にはお勧め.これで基礎体力をつければウェストフォールも読めるかもしれません.
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708. 文章理解の心理学 認知,発達,教育の広がりの中で
大村彰道 監修
北大路書房 2001.9
★★★★
 20世紀末までの文章理解に関する心理学的研究についてのサーヴェイ.認知科学的な(すなわち,大人が普通に文章を理解する仕組みについての)研究,子供の読書発達についての研究,学校教育での読書の方法と,心理学や教育学などを横断する広い視野を養うことができます.参考文献も豊富で,まさに,この本から出発することができる優れた入門書になっています.
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707. 読む心・書く心 文章の心理学入門
秋田喜代美
北大路書房 2002.10
★★★
 著者は東京大学教育学部教授.読み書きやリテラシーに関する心理学の研究者.
 この著作は高校生向けのブックレットで,非常に判りやすく書かれています.その意味でリテラシー関係の心理学への超入門書と言えます.そして,かなり実用的な読書法・作文法へのアドヴァイスにもなっています.
 最近は「どう誤読するか」にばかり気を遣っているので,普通に理解する方略について読むと心を洗われるようです.心理学者ではない私は,読むことの一般ではなく,読むことの特異な歴史的事例を追求することに関心を持っています.なので,心理学と教育学からは有益なサジェスチョンを戴きつつ,事例の分析で恩返しするつもりです.
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706. マルクス主義と言語哲学 言語学における社会学的方法の基本的問題 【改訳版】
ミハイル・バフチン(桑野隆 訳)
未來社 1989.4
★★★★★
 В.Н.Волошинов,Марксизм и философия языка(1929年初版,1930年第2版)の第2版からの訳.著者はヴォローシノフ名義ですが,バフチンの作品であることが認められています.バフチンは,一時期著作を出しにくかったことがあり,そのために友人たちの名義で著作を著しました.なので,バフチンの友人たちの出版物の中のどれがバフチンの真作かという,「著作権問題」が生じてしまいました.ともかく,この著作はバフチンのものであることはほとんどの人が認めているものです.
 バフチンの言語論関係の著作としては『バフチン言語学入門』 (せりか書房)や『ミハイル・バフチン著作集第8巻』(新時代社)がありますが,この著作がもっとも詳しく書かれています.そして,扱う範囲の大きさも魅力です.第1部が心理学批判を通じての内言論,第2部が言語学批判を通じての社会学的言語論,第3部がジャンル論となっています.特に,心理学でのヴィゴーツキーとの親近性は印象的です.ホルクウィストによれば,共通の影響源があるとのことです.
 基本的にはテーゼの提示なのであって,納得いくほどの論証も具体例もないのですが,それでも何か訴えてくるものがあります.これを説明しろ,というと,とてもつまらなくなるか,とても複雑になる(おそらくバフチンの説明より)か,なので何も言わず.バフチンに答えることで私は私の問いかけを作り出します.
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705. 愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎
小宮正安
集英社新書ヴィジュアル版 2007.9
★★★
 著者は横浜国大の准教授.専門はドイツ文学.
 ルネサンス〜近世初頭のヨーロッパ史をやっていると必ず出てくるヴンダーカマー「驚異の部屋」.現在もヨーロッパに残るヴンダーカマーを取り上げながら,その変遷を論じた著作.ヴィジュアル版なのでカラー図版多数.
 実際に現存するヴンダーカマーを巡る,ということが「ヴィジュアル版」に共通したフォーマットのようなのですが,本書は必ずしも旅行記・印象記になっているのではなく,歴史的経緯でヴンダーカマー衰亡史を論じています.このテーマで手軽な本がなかったので喜ばしい.参考文献もあり.
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704. 科学の社会化シンドローム 岩波科学ライブラリー131
石黒武彦
岩波書店 2007.5
★★★
 著者は固体物理の専門家.京都大学名誉教授で同志社大学の教授.
 岩波の雑誌『科学』に掲載されていた文章をまとめたもの.現代の科学がおかれているバランスを欠く状態を様々な角度から解りやすく論じています.
 科学のミスコンダクト(日本語の「不正行為」は法的な違反のニュアンスがあるので,最近はこうカタカナ書きする場合が多い)から初めて,科学者コミュニティの肥大・細分化によるピアレヴューの困難化,知財であるからこその破壊的な影響力の増大,研究者の就職難(それを実感しているのが私)など,今日的な問題が一通り描かれています.現代科学論の入門書にはちょうど良い分量でしょう.参考文献は本文中に埋め込まれています.
 宗教の代わりとなってしまった科学の悲劇.科学が個人の信仰から集団を支配する宗教に変貌したことが多くの問題を引き起こしているのだ,と言えます(ならば,宗教のなりゆきを見れば科学もどうなるかは予想できそう).解決になるかならないかは別として,「神は死んだ」ということを理解すべきなのでしょう.
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703. ドストエフスキーの詩学
ミハイル・バフチン(望月哲男・鈴木淳一 訳)
ちくま学芸文庫 1995.3
★★★
 М.М.Бахтин, Проблемы поэтики Достоевского (2nd ed. 1963)の訳.
 昨今のドストエフスキーばやりにのっかるわけではなく.文庫本にして600ページ弱,その最初の100ページに1週間かかりましたが,残りは3日で読めました.バフチンは馴れるまでがそうとう辛いのです.しかし,これはバフチンにしては読みやすい方の著作だと思います.バフチンに関しては,著作を年代順に読もうとすると痛い目に遭います.だから,この著作がもっとも良い入り口となるでしょう(入門的,という意味ではなく).それは,話が抽象的ではなく,ドストエフスキーの著作というきわめて具体的な例によって説かれているからです.
 ドストエフスキーの著作が「ポリフォニー的」である,というポリフォニー文学論と,カーニヴァル論というバフチンの有名な2つのテーゼが共に論じられています.そういうことなのだな,とは思うのですが,今の私にはちょっとピンとこない.むしろ,モノローグ的な小説などあるのか,と思ってしまうからです.モノローグかポリフォニーかは,テクストの問題ではなく,そういう読みなのではないかと.無理矢理対話的に読んでみる,という手法もおもしろかろうて.
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702. 心の理論への招待
ピーター・ミッチェル(菊野春雄・橋本祐子 訳)
ミネルヴァ書房 2000.2
★★★
 Peter Mitchell, Introduction to theory of mind: children, autism and apes (1997)の訳.著者はイギリス人発達心理学者で,同姓同名のノーベル化学賞受賞者とは別人.
 「心の理論」に関する日本語で読めるもっともまとまった入門書.ただし,超入門書ではないので,などを読んでからの方が良いと思います.
 拡散する心の理論戦線の主要3方面である,進化心理学・自閉症・発達心理学を順番に取り上げて,バランスよく論評しています.特に論争の多い自閉症と心の理論との関係は,賛否両論を挙げて,最終的に著者はその関係を肯定的に判断します.さらに,著者の主要な研究領域である発達心理学での心の理解の問題についてはさらに込み入った賛同・批判が検討され,それぞれの実験的証拠について言及されていきます.馴れてないとちょっと大変です.
 心の「理論」というよりは心の「理解」という方がしっくりくるので,結局「理解」しているかどうかが問われることに(少なくとも発達心理学では)なっていきます.それはそれで問題ありません.ただ,部外者の気楽な感想としては,心理学上の論争はおもしろいな,ということがこの著作を読むと解ります.
 訳は,特に固有名詞の音訳が良くない(正しくはどうとは断言できないのですが,少なくともその可能性はないという読みが多い).
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701. 自閉症と発達障害研究の進歩 1997/Vol.1 特集 心の理論
高木隆郎+M.ラター+E.ショプラー 編
日本文化科学社 1996.12
 この著作の前半が特集で「心の理論」に関しての一次文献の翻訳(抄訳含む)が入っています.題名通り自閉症との関連に関心があるので,それ中心の論文のセレクトになっていますが,最初のヴィマー&パーナーの論文は「心の理論」を人間に応用した初めての論文として知られますし,バロン=コーエンらの1985年論文も非常に有名です.読むかどうかは別として,とりあえず参考のために手元に置いておくべきでしょう.
 ただ,以下の論文の文献註は一括して最後の「文献リスト」を参照させているので,部分的に取り寄せる場合には注意してください.

 石坂好樹「《展望》自閉症と「心の理論」 自閉症は心を読めないか」 3-21

 H. Wimmer & J. Perner(内藤美加 訳)「信念に関する信念 年少児のだましの理解における誤信念の表象と制約機能」("Beliefs about beliefs: representation and constrainig function of wrong beliefs in young children's understanding of deception", Cognition, 1983, 13: 103-128) 22-40

 Simon Baron-Cohen, Alan M. Leslie & Uta Frith(全智奈・門眞一郎 訳)「自閉症児には「心の理論」があるか?」("Does the autistic child have a 'theory of mind'?", Cognition, 1985, 21: 37-46) 41-47

 Simon Baron-Cohen(幸田有史・門眞一郎 訳)「自閉症児の心の理論 特異的発達遅滞説」("The autistic child's theory of mind: a case of specific developmental delay", Journal of Child Psychology and Psychiatry, 1989, 30: 285-297) 48-60

 Josef Perner, Uta Frith, Alan M. Leslie, & Susan R. Leekam(内藤美加 訳)「自閉症児の心の理論の検討 知識,信念およびコミュニケーション」("Exploration of the autistic child's theory of mind: knowledge, belief, and communication", Child Development, 1989, 60: 689-700) 61-76

 Sally Ozonoff, Bruce F. Pennington, & Sally J. Rogers(菰田哲・神尾陽子 抄訳)「高機能自閉症者の実行機能障害 心の理論との関係」("Executive function deficits in high-functioning autistic individuals: relationship to theory of mind", Journal of Child Psychology and Psychiatry, 1991, 32: 1081-1105) 77-88

 Dermot M. Bowler(山際英美・斎藤聡明・石坂好樹 訳)「アスペルガー症候群における「心の理論」」("'Theory of mind' in Asperger's syndrome", Journal of Child Psychology and Psychiatry, 1992, 33: 877-893) 89-104

 Francesca G. E. Happé(神尾陽子 訳)「心の理論の高次テスト 能力の高い自閉症,精神遅滞そして正常な児童と成人を対象とした登場人物の考えや感情の理解についての研究」("An advanced test of theory of mind: understanding of story characters' thoughts and feelings by able autistic, mentally handicapped, and normal children and adults", Journal of Autism and Developmental Disorders, 1994, 24: 129-154) 105-124

 Candida C. Peterson & Michael Sigal(杉原絹江・斎藤聡明・石坂好樹 訳)「聴覚障害,会話および心の理論」("Deafness, conversation and theory of mind", Journal of Child Psychology and Psychiatry, 1995, 36: 459-474) 125-138

 Roslyn Sparrevohn & Pauline M. Howie(小笠原一能・神尾陽子 抄訳)「自閉症児における心の理論 発達的進歩の証拠と言語能力の役割」("Theory of mind in children with autistic disorder: evidence of developmental prgression and the role of verbal ability", Journal of Child Psychology and Psychiatry, 1995, 36: 249-263) 139-148

 「心の理論」の文献リスト 149-164


 これらの論文を並べてみると,自閉症=心の理論の障害,というバロン=コーエンらのテーゼがだんだんと崩されていく過程がよくわかります.
 このほかにも自閉症と「心の理論」つながりで,

サイモン・バロン=コーエン, ヘレン・ターガー・フラスバーグ, ドナルド・J. コーエン編著(田原俊司 監訳)『心の理論 自閉症の視点から』(上下巻 八千代出版 1997)

という本があります.しかし,私はこの辺にあまり深入りしないので読みません.
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