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2003年1月28日(火) 良し
 さて,これが今期最後の本間屋古本堂である.春以降極貧生活に突入する私にもはや(古本的)未来はないだろう.ということで本当の最終回になりかねない.よろず仕事引き受けます.

 年末年始の古本市の最後の大イヴェントである東急渋谷大古本市が東急の渋谷駅ビルで行われた.ここは規模も大きく,質も高い.会場もそれほど狭くなく,通路が適当な広さで,本棚が低いので見通しがよい.ただ,どうも私が買うような本とちょっとずれる(既に持っているとか)のが残念.そんな中でちょっと珍しい物として
ラテン文学
河底尚吾
理想社 1999.12
¥3500+tax
これは題名通り古代ローマのラテン語文学についての教科書.まあ,こういう教科書があれば便利だな,と思ったので購入.ルクレティウスとストア派について1章割いているのがうれしい.参考文献あり.キケロー選集,京都大学のLoebの翻訳シリーズなど,日本語で読めるラテン文学は近年驚異的に倍増している.こんな古典を読まずにいられようか?
富士川游
富士川英郎
小澤書店 1990.10
¥4500+tax
富士川游(ふじかわ・ゆう)は,この世界では有名な人.医学上の業績はともかく,日本で「医史学」(医学史にあらず)を確立したということで,私などの大先輩にあたる人物である.著者は游の息子.この著作は富士川游の伝記にして資料集である.科学史家として持っておいて損はない一冊.しかもこの本はB本であり,ご近所の古本屋に出回っている可能性が大なので探してみよう.値段としては半額以上で買うべきではない.こういう本は文庫本にはならないと思うので(なるかもしれないけど)見つけた時に購入しておこう.

 今期は割と本当に古い古書を紹介しようと思ったのだが,途中から新しい方の本ばかりになってしまった.大きな古本市ではなかなか古くて安い本が手に入らないためである.もし次期があるとしたら,見つけた古い本の話でも.
2003年1月19日(日) 良し
 全然関係ないことなのだが,最近,私の利用する某大学図書館(日本一大きい)が所蔵していない本ばかりに当たる.意外な本が存在していないのである.ゴドウィンの『交響するイコン』(平凡社)もスペンサーの『ピルトダウン』(みすず書房)もないのである.あなたは信じられるだろうか? なのに,『金持ち父さん』は所蔵しているのである!

 今週は五反田の南部古書会館での古本市へ.ここでは意外な本に出会える.
近世イギリスのやぶ医者の社会史 一つのヨーロッパ流氓譚
岡崎康一
象山社 1995.12
¥5000+tax
ここでいう「やぶ医者」とはクワックquackのこと.16-17世紀のイングランドの医療従事者の階層の中でもっとも下層にある人々である「やぶ医者」たちについて論じた著作らしい.同じような医者たちは同時代のオランダにもいました.こういう人々についての研究は最近多くなってきているようですが,日本語で読めるのはこれが初めてでしょう.著者は英文学の専門家で医学史家ではないが,英文学研究の内的必然性からこのような学際的な試みを行ったのだという.私は以前どこかでこの本を見たことがあって,機会があったら買おうと思って忘れていたのを,偶然見つけることができた.古本市よ,ありがとう.
化学機械と装置の歴史
加藤邦興
産業技術センター 1978.6
¥3000
これは『ケミカル・エンジニヤリング』という雑誌に連載していた文章を集めたもの.題名通り化学装置についての歴史を書いた著作である.私の不得意な道具系の歴史というのが,日本語で読めるというのはとてもありがたい.この本は現在は手に入らないようなのだが,便利そうなので何らかの形で復刊しても良いのに.

 同じ日付で神保町でも古本市をやっていた.こちらでは,若干良い本があったのだが,ここで紹介するほどではない,ということで省略.
2003年1月12日(日) 少し
 このページはもう少し続く.

 東京では恒例の普通の古本市がこの週末に始まった.安くて良い本を求めて,じじいおっさん(ここに私が含まれる)だけの世界へと立ち向かうことになる.

 まず,神保町教育会館7階で行われている古本市へ.特に年初めという感じはなく,実に普通.掘り出し物として見つけたのは,
Die Geschichte der Medizin im Spiegel der Kunst
Albert S. Lyons & R. Joseph Petrucelli II
Köln: DuMont Buchverlag 1980
原価不明
『芸術に反映された医学史』,1978年に英語で出版されたもの(Medicine: An Illustrated History)のドイツ語訳で,1980年に日本語訳も出版されている(『図説医学の歴史』学習研究社)が,現在は両方とも入手できないようである.34×27cmで615ページという大著.美術書の紙質なので,これだけの大きさだとらくに5kg以上あると思われる.題名通り,様々な美術品(主に絵画)に現れた医学表象を利用して医学史を論じた著作.図版が1000以上ある.とりあえず内容はともかく,図版集として利用できるな,と思っている.驚いたことに,この本は日本で印刷製本されたものである.昔は(日本の人件費が安かったので)こういう本が多かったのだが,1980年代にねえ.今ネットで調べると,この本は121ユーロという値が付いているが,買ったのは20年以上前の初版なのでいくらか安かったと思われる.そして,古本として売っていたこの本は,特に書き込みもハンコも入っていないのだが,驚くほど安かった.一桁間違えているのでは,とレジでどきどきしたほどである.まあ,英語ならともかく,ドイツ語を読もうという人が少ないからという値付けなのだろう.
 こういう変わり種に出会えるというのも楽しいところ.

 高円寺の西部古書会館でも古本市が開かれた.こちらはいつも期待していくのだが,今回はあまり良いものがなかった.まあ,これからを期待しよう.
2003年1月3日(金) 結構
 新年が明けた.東京は最初の3日連続雪が降るという天気だった.田舎とかわらないので楽しい.

 今年最初の大古本市として,新宿京王百貨店にて新春蔵開き古書市が開かれている.7日までである.去年もここで大きな買い物をした.何かと縁起の良い古書市である.今年も良い品揃えだった.

 今年最初に見つけたのは
中国化学史話 上・下
曹元宇 (木田茂夫・山崎昶訳)
裳華房 1990.12
¥1300×2
これは題名通り中国化学史の本.類書があまりない(ニーダムのは高い)ので,便利な著作.これは裳華房のポピュラーサイエンスというシリーズに含まれていて,図書館などではよく見かけるが,古本屋ではあまり見ない.値段も妥当だったので購入.内容は専門的な科学史(誤字ではない)というよりは,一般的な読み物という性格だと思われる.
三位一体論
アウグスティヌス (中澤宣夫訳)
東京大学出版会 1975.8
¥3600(当時)
この本は版を重ねるたびに値が上がり,今は9500円ほどする.こうなるともはや私の手の届く世界ではない.別の古本屋で見た時は,だいたい5000円とかそれくらいだったので私は迷わず購入しなかった.今回は,それが思わぬ値段だったのでびっくりした.3600円という値段から古本値がついたのであろう.多少汚れてはいるが,ハンコも傍線もない.これはかなりの掘り出し物だと思っている.内容は特に説明することもないだろう.現在刊行中の『アウグスティヌス著作集』(全30巻予定,教文館)にはまだ入っていないようなので買う価値ありと見た.

 デパートの古本市というのも楽しいのである.正月休みに立ち寄るのも一興かと.
2002年12月30日(月) まあまあ
 今年最後の古本屋巡りにて.

 今年最後ということなので,何か大きな買い物でも,と勢い込んでみても,なかなか良いものは見つからない.ので,普段はあまり覗かないようなところにも行ってみることにする.

 意外なところで見つけたのは,
近代日本思想体系9 丘浅次郎集
編集・解説 筑波常治
筑摩書房 1974.9
¥1800
最近進化論ものにこっているので,その範疇として.何故かキリスト教関係の本の中に埋もれていたのを発掘した.この本自体は決して安くなかった(つまり3ケタでなかった)が,『進化論講話』が収録されていて,文庫本(昔講談社学術文庫に入っていた=品切れ本なので古書値が高い)を買うよりは安いということで購入した.できれば『進化と人生』(これも昔講談社学術文庫に入っていた)も入っていて欲しかったが,それは無し.日本における進化論受容についての重要な一次文献で,これを収めているこの本は文科系の思想体系シリーズには珍しい巻となっている.大きな図書館なら所蔵しているだろう.じっくり探せばもっと安い値段のものが手にはいると思われるが,古本の世界では出会い頭が大事なのである.

 別の話.東京堂書店がリニューアルしたが,洋書のコーナーがなくなってしまった.あそこには科学史の棚があって良かったのに.まあ,ネットで洋書が買えるようになったので,ああいう不当に高い手数料を取る商売は成り立たなくなったのだろう.以前売り場は4フロアあったが,新しい店では3フロアになっていた.

 別の洋書古本屋(というとあそことあそことあそこしかないが)に立ち寄ると,
Cahiers Spinoza 1-5
Éditions Réplique 1977-1985
不明
これはフランス語の雑誌.確か6冊目まで出ていたはずだが第5巻までまとめて売っていた.値段が微妙でかなり買うのに迷ったが,思い切って清水の舞台から飛び降りた気持ちで(さっき大きな買い物をしたいと言っていたような気もするが),購入.家に帰ってネットで調べると,6巻まで全巻揃いで買う値段の半分くらいだったので一安心.題名通りスピノザものだけで論文集ということなのだが,やはり途中でネタ切れたのだろう.日本のスピノザ雑誌も苦労しているようだ.こういう意外な出物があったりするので,日本の洋書古書屋はあなどれない.ちなみに第6巻は1991年に出ていて,現在は入手困難なようである.

 まあ,今年の最後によい買い物ができたと言えるだろう.今年は驚くほど古本を買ったが,来年はもうこんな贅沢はできない(もうすでに買いたい本も無くなってきている).暗い来年の幕開けがもうすぐやってくる.

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2002年12月27日(金) あまりなし
 昨日から新宿伊勢丹にて大古本市が開かれている.年内最後の大イヴェントである.ただし,年明けすぐに続々とイヴェントが続くのだが.ともかく,伊勢丹をのぞいてみよう.

 ただ,あまり期待はできない.基本的にこういった即売会では値段が高いのである.日頃数百円の本ばかり拾い慣れていると,4つならぶ数字には生理的に拒否感が起こる.基本的に,安くて良い本を探すのではなく,良くて価格的に妥協できる本を探すのが百貨店の大古本市での心得である.

 大きな古本市になると,全国の古本屋からの出店がある.それが魅力といえば魅力である.が,大概高い.今回も京都のお店から科学史系の古書がいくらか出ていた.そして,高い.科学史という学問も時代の推移に従って内容が改善されていく.もしこれがうんと古くて,19世紀とか18世紀のものだったりすれば,一次文献として有用になりうるが,ちょっと戦前とか戦後すぐくらいの時代の本は目下ところ役に立たない.日本でこういった本を買おうなどと思う人はまずいないだろう.そんな本を買う物好きは,そう,私くらいしかいない.その私が高くて買えないというのだから,結局本は売れないのである.文芸書や日本史の歴史書のように一定の市場があって,年代自体が価値になりうるものとは質が異なるのだ,ということを強調しておく.あの本が2500円というのは馬鹿げている.私の趣味で集めている別の方面の本も,某古本屋のおかげで安いものが見つかりにくくなった.その店では驚異の値付けがされているが,その当然の結果として,この1年半1冊も動いていないのである.

 ある古本エッセイの著者が,古本エッセイは私憤と悔恨である,というようなことを書いていたが,あなたはここでその実例に出会ったわけである.

 ともかく,買う本はあった.
フランシス・ベイコン 産業科学の哲学者
ベンジャミン・ファリントン (松川七郎・中村恒矩訳)
岩波書店 1968.4
¥500
これは非常にメジャーな本なので,ちょっと探すとすぐ見つかる(特に岩波には専門古書店が多い)が,値段で折り合わない.今回はまあ安い感じ.どこかのワゴンで100円で売っていたら買った方が良いと思う.
宇宙精神の先駆 クザーヌス
坂元堯
春秋社 1986.7
¥3600
クザーヌス関係の本は,実はかなり日本でも出ている.キリスト教関係の出版社から出ていると,私が見落としてしまう場合こと多い.今,1冊狙っているのがあるのだが,それも高い(元々の値段が高い).ともかく,この本も現在は手に入りにくいようである.こういう半端な年代の本などは百貨店古本市で入手しやすい類だ.大概は雑然と並べてあるので注意して探そう.

 伊勢丹の大古本市は30日まで開かれている.初日を過ぎれば,変な人も少ないと思うので新宿に出た折には立ち寄ってみよう.

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2002年12月22日(日) ほとんどなし
 神保町での一年最後の古本市は,例年あまり私にはありがたくない.ちょっと高級な和綴じ本(江戸時代の本)が中心で,私などが買うようなものがないからである.ということが判っていても,ひょっとしたら,という気持ちで出かけてみて,涙さしぐみ帰りきぬ.

 同日に五反田の南部古書会館で月1回の古本市が開かれている.こちらはいつも意外な本を用意してくれるのでいい.
日本の科学界
大日本文明協会
大日本文明協会事務所 1917.5
非売品
 さて,以前から私が知りたいと思っていたことがあった.思ったのなら調べればいいのだが,きちんと調べてみようと思うほど知りたいとは思っていないので調べていない.それは「大日本文明協会」という組織のことである.私好みの古本を物色していると,しばしばこの「大日本文明協会」に出くわす.或る本の場合は,この本のように非売品(おそらく会員に配布したもの)だったり,別の本の場合は買価のついているものだったりする.恐らく,かつて非売品だった(大正頃)の本を後に一般に販売したのだろう.出版に規制があった時代,特に規制にひっかかりそうな本(アッチな本ですな)を出す場合,会員制にして「一般には売らない」ということで規制逃れしようとしたことがあった.これはそういう関係ではないらしい.月一で内外の著作を配布するというシステムだったようで,たとえば大正6年の刊行予定書物にはゾンバルトの『資本主義の精髄』,ヒッピウスの『児童生活と其教養』,ヘンリー・ド・アルセーユの『暗黒面の独逸』(抄訳),ホルムスの『人格養成論』,そして,この本という順番になっている.分野は多様である.さらに,この会自体もよく判らない.会長は侯爵大隈重信,編集長は浮田和民,理事長は市島譲吉,編集顧問には石川千代松,新渡戸稲造,嘉納治五郎というような人物が含まれています.この組織は一体どんな由来でどういう歴史を持っているのだろうか? ご存じの方のご教授を乞う.
 ともかく,この本自体は日本科学史の本である.江戸時代から当時までの日本科学の歩みについて略述してあるようである.日本が西洋諸学を輸入した時代から独立した時代になりつつある(あるいはなって欲しい)という見通しで書かれているらしい.まだ科学史という学問が日本に確立していなかった(今だってそうかもしれない)時代の話.日本科学史史というのにも若干興味を持ってみよう.

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2002年12月15日(日) 少々
 博論も提出終了.一応ほっとした.しかし,まだ口述試験が残っている.修論の時もいじめられたからなあ.

 ということで,若干時間が空くことになったので,古本ものの話を少しの間だけ復活する.年末年始は大きな古本市がいくつかあるからである.
 ただ,若干古本市ズレしてしまった私は,大きな古本市にはあまり掘り出し物がないということを知ってしまった.いいものはあるのだが,安くないのである.最近は,定期的に開かれる古本市が一番なのだな,と思っている.

 この週末にも古本市は開かれていた.最近ヤボ用で忙しくて古本市めぐりを行っていなかった私は,久しぶりに買いにまわれて嬉しい限りである.まず神保町の古本市では,
早稲田文学社文学普及会講話叢書第四編
日本戯曲史講話(伊原青々園述)
ダルヰン進化説講話(西野彌三次述)
文学普及会 1914.8/1917.8
定価不明
を見つける.最近ダーウィンものを読みつけているので目に入ったもの.決して貴重品ではない値段で出ていた.なにより,この取り合わせがおもしろい.戯曲の歴史と進化論という組み合わせを両方楽しめた人が大正時代にはいたのだろうか.風雅な話である.論述者の西野彌三次という人物のことは知らない.最後のところに参考文献を挙げているのは,このシリーズの恒例らしい.ただ,若干古い文献(ほとんど英語のもの)を参照している.石川千代松や丘浅治郎の著作もしっかり参照している.この本の日本の進化論受容史にとっての重要性はどうあれ,少なくとも一般(恐らく大学生)向けに語られていたことの一端が判るだろう.

 そして,高円寺の古本市もある.私としてはこちらの方が好みだ.ここでは
生存競争の哲学
賀川豊彦
改造社 1922.11
¥2
という本.著者はキリスト者として有名な人物.この本がおもしろいのは,大正11年11月8日に初版が発行されると,翌日には再版,以後13日まで毎日版を重ね,19日からまた毎日版を重ねて21日には9版に達している.初版から13日目のこと.これは,この本がよく売れたのか,あるいは出版社の予想以上に売れたのか.「版」という表記は実際には「刷」のことなのだろうが,それにしても妙な話.著者の序文の日付は1922年11月10日となっていて,日付に関してはうさんくさいことこの上なしである.題名に見えるように社会ダーウィニズムの影響が微妙にありそうな感じだったので購入.それよりも購入に踏み切った理由は,全8章のうちの最後の3章のタイトルであった:第6章「雌雄淘汰より見たる女人文明の回復」,第7章「顔の歴史」,第8章「衣装の進化とその心理」.どーよ? おもしろそうだと思ったら,図書館で探そう.

 というわけで,ゆるゆると古本の話を再開していこうと思っている.おそらく古本世界にはまれるのも今年度が最後だろう(来年から無職かつ極貧になるので).消える前の最後の輝きということで.

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地獄の古本録はこちら.

By Eio Honma