☆医療問題を注視しる!その6 医療報道後編☆


 「さて、後編だ。

 「・・・。」

 「なんだ、題字をまじまじと見て・・・。」

 「いや、中編とか書いてやしないかと思ってね・・・。」

 「そ、ソンナコトアルワケナイジャナイカ、ハハハ。」

 「表情を見せなさいよ。」

 「と、とにかく本題を始めましょうか。」

 「ああ、今回はいきなり奈良大淀病院事件について紹介する。まずは経過からだ。」

 「あら?いつもは新聞記事を紹介してからじゃない?」

 「今回はその新聞報道の検証がメインだからな。実際どんな事件だったか紹介してから、新聞記事をチェックすることにしよう。」

 「オッケ〜〜まあ舞台は奈良の大淀病院で間違いないのね。」

 「う〜む、舞台としては大淀病院というか、奈良県全体というかな。まあとにかく紹介しよう。
2006年8月、奈良県の大淀町立大淀病院でとある妊婦の分娩中、妊婦が頭痛を訴えて意識を失ったんだ。そこで担当の産科医は、子癇(しかん)発作と診断して、その処置を行いつつ奈良医大病院に搬送しようとした。」

 「子癇発作?」

 「妊娠,分娩,産褥期に出現する強直性あるいは間代性痙攣と昏睡を主症状とする特殊型妊娠中毒症である.このうち分娩子癇が最も多い.妊娠中毒症の早期発見・治療により,子癇の発症は減少した.1,000〜2,000分娩に1件といわれている.前駆症状として脳症状,眼症状,胃症状が出現する.高血圧,蛋白尿,浮腫は高度であるが,時にこれらの症状がみられないこともある.まず,意識が消失し,強直性あるいは間代性痙攣がみられる.痙攣がおさまった後に昏睡がしばらく続く.脳・肝臓内の出血がよくみられる.予後は速やかな治療法により改善されてきているが,母児ともに非常に危険であることに変わりはない

 「わかんねーっつの!

 「妊娠中にも分娩中にも産褥期に、主に突然の昏睡と痙攣が症状として起こる。分娩1000〜2000に1件の割合で起こり母児ともに非常に危険な発作で、もし治療しなければほとんど致命的だが、速やかな治療を施すことによって改善されてきてはいる。 」

 「まあ、なんとかわかるかな。」

 「子癇発作のように重大な症状の場合、高次病院・・・つまりもっとすごい病院にすぐ搬送しなくてはならないのはその4の加古川心筋梗塞事件の紹介のときにもやったとおりだ。ところがここでまずいことが起こった。」

 「へ、何?加古川事件の時みたいに時間がかかったとか?」

 「あの事例では5件ほどの病院に断られて、約70分かかったんですけどね。」

 「ところがこの奈良大淀事件では、18件の病院に断られ、最終的には19件目の国立循環器病センターに搬送された。依頼を開始してから搬送先決定まで2時間ほどかかったという。」

 「えーっ18件!なんでそんなに?」

 「まずこの件、起きたのが深夜なんだ。深夜は病院以外でもどこでも行きにくいってのは誰でもわかる話だろう。」

 「まあそれ自体はね。けど病院ってなると事情が違うんじゃ・・・」

 「同じですよ。単純に日中と深夜じゃ、病院にいる医師の数も看護師の数も違います。」

 「ま、深夜でも昼間と変わらない治療が出来る病院ってのは理想的だ。出来れば欲しいのは山々だろうが・・・そんなことが出来るほどの医師数も医療費も無いってのはその1その2でやった通りだな。」

 「オンコールといって、すでに家に帰って寝てる医師を呼び出すこともあるんですが、当たり前ですがものすごい負担です。実際に呼び出されるのも大変ですけど、呼び出されなくても「いつ呼び出されるか」という不安があっては落ち着いて休めませんよ。」

 「酔って病院に行くわけにはいかんから、晩酌もできないしな。」

 「そ、それはつらい・・・。」

 「身に染みてわかっていただけて嬉しい。本題に戻るぞ。
もちろん深夜だからってただそれだけで18件に断られたんじゃない。どこの病院もすでにベッドがいっぱいだったり、すでに手術中だったりしたんだ。つまりとても受け入れられる状態じゃなかった。」

 「ベッドがいっぱい??なによそれ、緊急事態なんだしベッドがいっぱいだったら床に布団でも敷いて対応しなさいよ。」

 「・・・ま、そのあたりは誤解が根強いところですね。救急搬送で「ベッドが無い」ってのは、「対応できる医師・スタッフがいない」って意味なんですよ。物理的にベッドが空いてるかどうかは別問題です。」

 「え、そうなの?」

 「普通に考えても、例えベッドだけ空いていたとしても、治療できる医師がいなかったらただほっとかれるだけになっちゃうだろ。だったら手が空いてるスタッフがいる病院に行ったほうがいいのは自明の理だな。」

 「ああ、そりゃそうね。」

 「でだ。なんとか搬送は完了したが、循環器病センターに到着してからCTを撮ってみると実はこの妊婦は脳内出血を起こしていた事がわかった。すぐに帝王切開と開頭手術が行われ、児は奇跡的に助かったが、妊婦は残念ながら亡くなっている。」

 「ちなみにこの分娩中の脳出血は子癇と併発することも多いらしいのですが、それでも子癇発作から脳出血にまで至る例は1%も無くて、先に言った様に子癇発作自体が1000〜2000分娩に一つなものですから、分娩中に脳出血を起こすのは極めてまれと言えますね。」


 「そして残念ながら、脳出血も致命的な症状だ。この件では妊婦は亡くなっているが、例え救命できてもまず間違いなく植物状態児が助かっただけでも奇跡と言われている。」

 「なるほどね。これまでのコンテンツの大野事件とか加古川事件に当てはめたら、まあ残念な事例ではあるけどしょうがないっていうか、病院とか医師の側からすれば精一杯やってるんじゃないかとは思うわね。」

 「ふむ。それじゃあ新聞報道でこの件がどう取り上げられたか見てみようか。まず初期の報道だな。」

 「まあ、典型的な医療報道だな。」

 「え、どういう点が?」

 「基本的に、患者の側からしか事情を見ない。病院側の都合を知らずにこれだけを読んだら、なんだかサボっていたように感じるだろう。」

 「患者側の主張はそのまま載せただけでしょうが、他の部分でも「拒否」とか「ようやく」とかの細かい言葉の使い方でいかにも病院が悪かったかのような文章を作っていますね。」

 「そうだ。受け入れは理由無く拒否したんじゃなくてどうしても無理だったんだし、ようやくと言っても全力で処置や連絡をしつつの搬送だったんだ。」

 「あれっ、さっきの解説では「依頼を開始してから搬送先決定まで2時間ほどかかった」ってあったけど・・・記事では6時間になってるわよ?」

 「それは、妊婦が意識を失ってから搬送が完了するまでの時間だ。搬送要請にかかった時間だけなら2時間ほどで、他の時間は診断や治療、それと移動そのものにかかっている。それを無視して6時間と書くのは、いかにも「たった60km動かすのに6時間かかった」と思わせるだろう?」

 「なるほど・・・巧妙ね〜。けどあんた自身が典型的だって言ってる通り、これくらいなら無知なマスコミのスタンダードでしょ。これだけではこの奈良の件が、それほど酷いマスコミ報道だとは思えないけど?」

 「うむ、なかなかの毒舌だな。そして確かに、この件の報道には続きがある。次は日刊スポーツの記事だ。」

 「恥を知れとは・・・すごい言いようね。」

 「この記者は、助からなくてもいいから受け入れろ、と言ってるんだろうか?この妊婦は確かに不幸な転帰をたどったが、この妊婦を助けるためなら他の切迫早産の妊婦は見殺しにして良かったと言うんだろうか。」

 「まあ本当にそんなことしたら、その時マスコミはその切迫早産の妊婦の方を取り上げて病院を批判するでしょうね。批判のネタなんか100でも1000でも探せます。」

 「それと一つ言っておくが、この件は大野病院事件の後の出来事だ。産科業界にあの事件のショックが生々しく残っている時、いちかばちかで引き受けないなんて恥を知れ、と言えるか?福島地検はまさに、「いちかばちかでやってもらっては困る」と言って医師を逮捕したんだぞ!

 「そもそもこれって病院の責任なのかしらね?18の病院がそれぞれ、夜間なのにものすごく忙しい状態だったってのは個々の病院じゃなくて、もっと広い意味での医療体制の問題よね。」

 「その通りです。医師や病院は、目の前の患者さんに対応するので精一杯です。たくさんの患者さんがいても、それに対応できるだけの医療システムを作るのは病院じゃなくて国や自治体の責任です。」

 「こんなこともわからず調べもせずにこんな記事を書く記者のほうによっぽど恥を知れと言いたいよな。で、実際にそんなことを言った人は大勢いて、実は同じ記者から弁明記事も出ている。」

 「ま・・・医師たちの心に石は投げ込めたんじゃないか?そうとうの棘付きだったが。」

 「これって、以前のはまるで調べもせずに感情的に書きなぐっただけの文章だったって認めてるのよね。」

 「ムカついたら、調べてなくてもとりあえず書いておくほうがいいだろう、って意味ですかね。」

 「まっ弁明するだけマシかもね〜抗議の内容にもちゃんと一理は見出せたようなことも書いてるし。」

 「それにしても「恥を知れ」は無いと思いますけどね・・・。」

 「反省の態度を見せるだけで偉いと判断されるマスコミってのもよく考えたらすごいがな。反省するマスコミ人ってのはヤンバルクイナより少なそうだし・・・。
そして次が、いま話題の毎日新聞だ。さっきのは所詮スポーツ新聞のコラムだが、毎日と言えばもうすぐ潰れる恐れもあるが一応五大紙の一つ、クオリティペーパーだぞ。」

 「最初の毎日インタラクティブの記事より詳しく書いてあるようね。」

 「どこが・・・。まあより無言のうちに病院を非難するようにはなっているな。各病院が搬送依頼に応じなかったとか、断ったとか・・・けど満床や処置中だったら受け入れられないのは当然なんだよ。」

 「これだけ読むと、医師の誤診が原因だと思わせるような書き方ですよね。しかし子癇に対してはちゃんと対処していたし、脳出血を併発する可能性は非常にまれであることは最初に説明したとおりです。子癇発作中は、軽々しくCTなどを撮らない事も指摘しました。」

 「それとな、この記事には後に繋がるような酷い誤報があるんだよ。」

 「こんな事実は無いんだ内科医はその時、CTを撮らなきゃなんて一言も言ってないんだよ。」

 「っはあああ?記事の捏造じゃない!」

 「確かにもしCTを撮っていれば脳出血が判明した可能性はあります。しかし子癇発作には光などの刺激を与えると続けて痙攣が起こり、なおさら致命的な症状になることがわかっていますし、CT室までの移動にはこれまた振動なども伴いますので危険です。」

 「そもそもCTなんて、スイッチを入れたらすぐ動き出す機械じゃないんだよ。動かすのは専門の技師なんだが、夜中の病院でCTをスタンバイ状態でずっと待機させておくわけがない。CTが動くまでに1時間くらいはかかるんだ。もしCTの技師がいなきゃ不慣れな医師がマニュアル片手に動かすことになるしな。」

 「こ、こいつ、動くぞ!?

 「違うから・・・。」

 「ちなみにこの部分には当初、当時の大淀病院には深夜にCT技師は待機していなかったと書いてあったんですが、どうも夜間でも技師はちゃんといたようです。もっとも、それでもCTを撮るまでに50分はかかるらしいので全体のお話に影響はありませんが、この部分をなくすとガンダムネタが消えちゃうのでやや苦しく改変しました。ご理解のほど宜しくお願いいたします。」


 「なるほど、当時の状況では、CTは撮らなくて正解だったのね。そりゃ後出しじゃんけんで見れば、外れに見えるけど。」

 「だいたいCTって検査であって、治療じゃないからな・・・CT撮ってたってしょせん、絶望的な症状が判明しただけに終わっただけかもしれん。
というわけで記事に戻るが、ここも酷いぜ。」

 「いや、話しているだけならいいさ。けど妊娠中の脳出血なんて、悪いけど、起きた時点でもうほとんど助からないんだよ。」

 「それともう一つ、脳外科医がいれば脳出血に対応できるわけではありません。当時の大淀病院で子癇を判断して脳出血までは診断できなかったのは誤診とはいえませんが、それでも仮に脳出血まで診断できていたとしても、それに対処するには
産婦人科医
脳外科医
小児科医
麻酔科医
ICU(集中治療室)の空き(当然スタッフも)
NICU(新生児集中治療室)の空き(当然スタッフも)
看護師たち
・・・とまあすごいスタッフが必要なわけですが・・・。」

 「しかも脳外科医と言っても、分娩中の妊婦の手術なんて経験は無いだろう。少なくとも一人で対処できる事例じゃないだろうな。つまりこれらのスタッフが一人ずついたくらいでは、とてもじゃないけど太刀打ちできないんだ。」

 「まあ対応は限りなく不可能なわけね。じゃあやっぱり、できる施設へ搬送しようとした判断は正しいんじゃないの。」

 「とにかく「診断ミス・医療ミスがあったに違いない」と言う予断を持って書けばこんな記事になるって見本みたいな文章になっちゃってるんだよ。それは後日書かれた記事からも明らかだ。」

 「あのな。」

 「なんでこの記者、医療ミスがあったなんて前提で見てるんだ?ミスがなければミスを認める発言なんか無くて当然だろう。」

 「それに、医師や病院には守秘義務があるのを知らないはずが無いと思うんですけどね。遺族の氏名や所在なんて、軽々しく言う方が問題ですよ。」

 「マスコミなんて、取材源の秘匿にはチョーうるさいくせにね〜〜。」

 「病院側の都合を無視して遺族にだけ取材して、それで記事の信頼性なんて得られるものか・・・何が身にしみたんだろうな。」

 「そして次の記事ですね。」

 「青木絵美記者や毎日新聞には、さぞかし相当の批判が届いたんだろうなと思わせる記事だが。」

 「ほとんど遺族への取材だけでかかれた記事と言うのは変わっていませんが、いきなり「医師だけを問責するな」というスタンスに変わっていますね。」

 「医師だけを問責したのは、そもそもこの記者の方じゃないの?

 「それともう一つ、前の記事では内科医が薦めたはずのCT撮影を、この記事では家族が薦めたことになってるな。」

 「え・・・てことは、記事の捏造を何の謝罪も訂正もせずにしらばっくれたって事?医師には100%の正確さを要求する割には、自分たちのミスはオッケーなのね。」

 「そして、医師や病院を叩きまくっておいて、反論が寄せられたら「いや、医師だけを問題にしたわけじゃなくて、システムの問題なんだ」って・・・どの口が言ってるんだ!って感じですよね。」

 「この記事で記者は、医療システムを整備しなくちゃダメだと言っているだろう。そして実は実際に、この報道の後に大淀病院がある奈良県南部ではお産の事故の発生がゼロになったんだ。素晴らしい成果だろう?」

 「ええっそうなの!?すごいじゃない!なんで??」

 「・・・なんかネタにマジレスされたような恥ずかしさだな。」

 「な、なによ。」

 「突然だが、ニセ科学の主張に騙されないための初歩を一つ教えよう。ゼロとか100%とか言われた時はとりあえず疑え。疑うためには、分母と分子にいったいどんな数字が入るか具体的に想像してみろ。」

 「えー・・・この場合、仮に100件の分娩で1件の事故があったとしたら1/100で1%とすると・・・ゼロって事は0/100よね?あれ??」

 「分子じゃなく、分母がゼロになったとしたらどうだ。」

 「県南部から産婦人科そのものが無くなったんだ。だったら分娩事故なんか起こりようがないだろう。」

 「ああっそうか!システムがうまく整備されたわけじゃなくて、システムそのものが消滅したのね。」

 「おかげで奈良県南部の妊婦さんは、北部や県外などの遠隔地で出産することを迫られています・・・もちろん不便ですし、事故自体も増えていますよ。周辺の地域・・・大都市である大阪でも、産科医療の手はとても充分とはいえませんからね。」

 「このように、医療そのものがなくなることによって医療事故が消滅することを、No doctor,no errorと言うことがある。」

 「はー、これこそまさに医療崩壊よね。マスコミが医療を潰すって、本当にあるのね。」

 「ちなみに関連記事はほかにもあるが、これらの奈良大淀事件の報道に対して毎日新聞の当該記者・グループは

第11回新聞労連ジャーナリスト大賞の特別賞
第14回坂田記念ジャーナリズム賞


を受賞している。」

 「奈良県の産科医療を崩壊させた功績でしょうか・・・。」

 「ま、毎日新聞には懲罰的昇進ってのがあるらしいから、これだってきっと懲罰的褒賞なんじゃないの?」

 「今ならそんなことも言えるかもなぁ。この当時はさすがに、昇進した方が責任も増えるのである意味罰則でもある、とまで言い出すとは夢にも思わなかったしな。」

 「で、実はこの大淀事件はこれでもまだ終わらず、訴訟にまで発展し、現在係争中です。」

 「さらに、産経新聞などのマスコミからはほとんど流行語にも近くなった「医療機関のたらい回しという表現まで飛び出し、様々な場所で医療システムが限界を見せてくる。そして奈良県でまた、産科医療業界の側面の一つを思わせる事件が起きるんだ。」

 「へぇ〜、じゃあまず裁判の話から教えてよ。」

 「うん・・・次回にな。」

 「えええっ!?」

 「新聞記事の引用が多いからだが、すでにこのテキストは歴代最長だ。」

 「・・・と言うことは、次回も大淀病院やるってことで・・・やっぱりこれって事実上中篇になるんじゃないの!!」

 「いやいやいや、今回と前回はマスコミ報道編だろ?次回からはマスコミ編と言うよりむしろモンスターペイシェント編なんだ。扱う事件は同じでも、側面が違うんだなぁ〜。」

 「く、苦しそうな言い訳・・・じゃあマスコミはあんまり関係ないのね?」

 「う・・・急に胸が苦しく・・・AMIちゃんかな・・・。」

 「AEDをぶん投げて、ぶつけて治して差し上げるわね。」

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