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鬱病親和性性格


クレッチマーの循環器質
 クレッチマー(Kretschmer)は臨床精神医学から出発し、精神分裂と躁鬱病のそれぞれに親和性のあることを指摘しています。それぞれ分裂気質(schizothyme)、循環気質(cyclothyme)と呼ばれますが、これらの気質には正常から異常までの連続性があり、両方の極に精神分裂病と躁鬱病が存在するという考え方です。生物学的アプローチを中心とする現代精神医学においても、精神疾患とこれらの気質傾向の関連性は今もなお重要な見方のひとつとされています。
 クレッチマーの循環気質の基本的特徴は、@社交的、善良、親切、情味深い、A明朗、ユーモア、活発、激しやすい、B寡黙、平静、気重、柔和であり、@群の社交的、善良、親切、情味深いは循環気質全体にみられる最も基本的な気質とされています。A群、B群はそれぞれ躁病性、鬱病勢を示す特徴です。循環気質は、周囲と感情的に共振しやすいことが特徴であり、現実的、妥協的な側面を持っています。
 これに対して、分裂病気質の基本的特徴は、@非社交的、静か、内気、きまじめ、変り者、A臆病、はにかみ、繊細、敏感、神経質、興奮しやすい、B従順、善良、行儀よい、無頓着、鈍感、遅鈍であり、@群が分裂病気質全体にみられるもっとも基本的なものとされています。A群、B群はそれぞれ過敏性、鈍感さを示す特徴です。


テレンバッハのメランコリー型性格
 ドイツ圏内ではテレンバッハ(Tellenbach)によるメランコリー型性格(Typus Melancholicus)の概念がよく知られています。メランコリー型性格はドイツと日本では有名な鬱病親和性性格と位置づけられています。この構成要素は「秩序の上に成り立つ生活」と「他者のための自己の存在」の2点です。
 メランコリー型性格の人は、秩序性を重んじ、その上に成り立つ状況構成を重視します。その基本的な構成は、生活規律としての秩序愛です。たとえば、几帳面で責任感のある生活態度を重んじます。そして、彼らはその秩序の上において初めて安心して生活を送ることができ、秩序の外にある世界は不確かな世界であり、そういう世界を回避する傾向を有します。
 彼らは孤独を恐れ、調和のとれた秩序社会での安住した生活を求めます。そして、自己の存在は他者の存在があって初めて成立します。彼らは責任転嫁することなく、総じて自責傾向が強く、良心を過度に有する性格特性と言えます。
 メランコリー型性格の人が鬱状態を呈するのは、秩序が崩壊し、その維持が困難な状況に追い込まれたときです。この状況は前鬱状況と呼ばれることがあります。


下田の執着気質
 下田の執着気質とは、「一度起こった感情が冷却することなく、長くその強度を持続、あるいは増強する」という異常体質を前提とした仕事熱心、几帳面、正直、凝り性、強い責任感や正義感などの性格特性を有するもので、熱中性と徹底性を特徴的とします。ごまかしやずぼらができずに、他者から模範生、優等生と言われることが少なくないです。


英米圏内
 日本とドイツ以外の国々では、メランコリー型という呼称はほとんどみられません。一般的に、英米圏内では、鬱病のパーソナリティとして、@自己評価が低い、A強い超自我を持つ、B依存傾向が強い、C成熟した対人関係がとれない、などの特徴が挙げられています。とくに鬱病と強迫性格との関連性を指摘する報告が散見されます。しかし、これらのパーソナリティが必ずしも鬱病に特異的なものではないという論文も散見されます。最近の欧米圏の研究動向としては、鬱病とパーソナリティの関連性を検討するものは徐々に少なくなっており、それに対して、ライフイベントと鬱病に関する実証研究が増加しています。


逃避型、欲求過多型
 テレンバッハによるメランコリー型性格と下田の執着気質にはみられない鬱病親和性性格として、逃避型、要求過多型の存在を指摘する報告が散見されます。逃避型の人たちも鬱病、あるいは鬱状態を呈することは今では周知の事実です。逃避型は、抑鬱感情や罪悪などが乏しく、安易に責任転嫁をし、限局性の抑制や無気力を中心としたものです。彼らの病前性格は、プライドが高く、一見完全主義的で几帳面のように見えますが、実は体面の維持に汲々とし、耐え難い場面に遭遇すると、あっさりと問題解決の努力を放棄するという特徴を有します。さほど努力しないでもいい相手にはリーダーシップを発揮できますが、上司や対等なライバルにはむしろ疎遠であり、回避的です。