
トランジスター・アンプの時代は、20年足らず、その時代に傑作が生まれた。80年代以降は、化石化するトランジスター市場から、生き残りを拾い集め、メーカーはどうにかこうにかマニアを満足させる製品を作ってきたのである。山水の隆盛と経営危機が、この20年のトランジスター時代を象徴している。
つまり、トランジスター・アンプの一番いいものは、70年代に作られたのだ。その後は、日進月歩ではない。ICアンプは進歩し、軽薄短小時代をもたらすが、音質は軽視される。トランジスター・アンプはたそがれを迎え、やがて、真空管アンプが復興することになるのだ。上杉アンプのブームがやってくる。
80年になるとCD時代が始まる。ソフトはせっかく高音質時代になったのに、皮肉なことに、すでに音質のいいアンプは市場から退場していた。このへんてこな時代に、うまく自分の座を占めたのが、今をときめくアキュフェーズだ。トリオという会社は、実に賢いと思う。時代の先が見えている。
僕は、古くて新しい宝物700Cをオーバーホールしようと思った。しかし、30年前の製品のOHはしないのが常識だ。それで、アキュフェーズに相談した。言葉を尽くして、手紙を書いた。丁寧な返事が返ってきた。丁寧に断られた。しかし、その文面には、ケンウッドがOHをしてくれるというニュアンスがこめられていたのだ。はたして、その通りだった。
それまで、僕が持っていたものの中にトリオの製品はなかった。トリオは、高級音響部門をアキュフェーズに引き継いだので、トリオの製品を持たない代わり、アキュフェーズの愛用者だった。僕が自由に金を使えるようになったとき、すでにトリオはアキュフェーズ時代だったから。
やはり、おもしろいもので、700Cの音は200Xと同じなのだ。同じ人が設計をしたのだろうと思うほどだった(実際そうではないのか)。僕が、アキュフェーズにOHを依頼しようと思ったのも、それもあったからだ。
ケンウッドという会社は偉い。アキュフェーズの顧客を大切にする精神は、トリオから引き継いだのだとこのときに知った。そして、それはケンウッドにも引き継がれている。経営者が偉いのだ。春日さんはすでに、経営の一線からは退かれているが、今もオーディオマニアであり、音楽愛好家だ。そのことと無縁ではないはずだ。
ケンウッドにも言葉を尽くして手紙を書いた。ある日、渋谷の顧客相談室から一人、神奈川のテクニカルセンターから一人、お二人が我が家を訪れてくださった。そして、丁寧にお話を聞いてくださり、アンプを持っていってくださった。赤子を扱うように、丁寧に包んで持って行かれた。うれしかった。
半月ほどして、700Cは帰ってきた。大切に梱包され、テクニカルセンターのTさんといっしょに。TさんはOHについて丁寧に説明をしてくださり、検査データ・回路図も置いていってくださった。
そのとき、Tさんはこんな話もしてくださった。
「いつか、ペアになるアンプが出てくるかもしれません。もし、それをお求めになるときがきたら、ご注意なさってください。700Mというパワーアンプは、パワートランジスターがとぶことがあり、すでに、メーカーには、この在庫が尽きています。ですから、お客様には、代替のトランジスターでよければ直しますとお断りして、それでもよいという場合には、現在も修理をお受けしています。このパワートランジスターは、NECですでに製造していないのですが、秋葉原に行くと、流通の売れ残り・在庫の放出などで、売りに出されることがあるのです。ですから、それを買っておくことをお勧めします。」
700Mの回路図もおいていってくださった。僕は、さっそくトランジスターのストックを始めた。そして、いつかこの古くて新しい恋人が現われるのを待ったのだ。意外にも、3年も待たねばならなかった。
SY88も愛用しているが、クラシックを聞くときは700Cに限る。そして、いつかもう一人の700Cが我が家にやってきている。これからも一生このアンプと音楽の喜びをともにしていくのだろう。

ジャンクではなかった。テストしなかっただけだ。セパレートアンプの、しかも、セットでないものは、テストに手間がかかる。だから、リサイクルショップではジャンクで店頭に出してしまう。
僕は、家に帰って4343Aにつないだ。パワーは、4343のために作られた(春日さん、違いますか)P400。驚いた。一聴歴然。200Xよりも3倍くらいいいのだ。当時は、僕はまだ、技術革新神話を疑っていなかったので、初めは信じられなかった。 しかし、今にして思えば、こんなことになるのではないか。
トランジスタの全盛期は、短い。1960年代にトランジスターは、飛躍的に生産を伸ばす。それまでの真空管に代わって、電気製品の心臓部の主役になる。各社は、高性能のトラジスター開発にしのぎを削った。JBLに始まったトランジスター・アンプの隆盛は、日本のアンプの技術開発に火をつける。そして、ソニーの1120のような傑作が生まれ、山水の777がベストセラーになる。日本の大手家電メーカーも新進の音響メーカーも日本の経済力の発展と寄り添うように、新製品アンプの開発・販売に精力をつぎ込むようになる。ステレオサウンド誌もそんな中で誕生する。70年代はトランジスター・アンプの黄金期だ。きら星のように傑作が生まれた。どの家でも、ステレオを買うことが家族会議の話題に上るようになる。音響メーカーの成功組は、発展する。しかし、トランジスター・アンプも、音響メーカーの隆盛も、ここまでだった。ICの開発が、トランジスターを時代の主役から引きずりおろし、80年代に入るとトランジスターは化石化していく。アンプにも、ICアンプの時代がやってくる。
700Cとの出会いは、どきどきした。今もはっきり覚えている。彼がその店に置かれていたときのことを。スチール棚の一番上のそのまた上に、じゃまもののように置かれていた。
もう5年ほど前になる。通勤の帰り道に、ときどき立ち寄るリサイクルショップがあった。何の運命か、巡り巡ってそこにあった。しかも、ジャンクだった。そのとき、あろうことか、僕はこのアンプを知らなかった。ただ、思ったのだ、その外観から、もしかすると……。(このアンプは、あとで知ったが、フロントパネルがステンレスで、削り文字だ)
その脚で、Hotzmaに寄った(当時はまだ古い店名を使っていた)。そして、おじさんに話し、SSのガイドの古いのを探し始めた。びっくりした。30年前の20万である。僕は、ガイドを片付けるのも早々に、車に乗った。まだ、売られないでいてくれ。……そうして、彼は僕のところにもらわれた。500円だった。

なつかしい思い出 The amp of うたのくに 700C