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『バグダード・バーニング』の魅力

続編刊行 『いま、イラクを生きる』

山本史郎 2006年6月記
 書籍『バグダッド・バーニング』の続編が近く刊行されるそうだ。バグダード・バーニングの日本語サイト(http://www.geocities.jp/riverbendblog/)に近刊予告が掲載されている。

 書籍版は日本語だけでなく、アメリカとイギリスでも出版されていて、昨年10月、ルポルタージュ文学に贈られるユリシーズ賞の3位を受賞し、さらにブログそのものも賞を獲得するなど、リバーベンドのブログ『バグダード・バーニング』は、今やイラク発のブログとして、世界的にも注目されるものになった。

 ちなみに、Yahoo英語版の<Iraq War Blogs and Diaries>でも、バグダード・バーニングはずっと上位に掲載されつづけている。比較的に早い時期から、日本でもこのブログが女性有志によって翻訳され、日本語サイトで読むことができるようになったのは嬉しいかぎりで、私自身もその恩恵に浴してきた。

 占領下イラクにおける日々のニュースや重大事件の評価・分析といった点では、他の情報源からもニュースや評論、レポートなどさまざまな情報を得ているのだが、やはり、バグダード・バーニングならではという貴重な内容(質)がある。

 他にはないリバーベンドの文章の特徴とは何だろうか?

 言うまでもなく、これはブログである。つまり、とりあげるべき重要なできごとやテーマを選んで、それに関して取材してレポートするというのではなく、現にイラクの首都バグダッドに住んでいて、日々の生活のなかで筆者が感じたこと、外の世界に伝えたいことが時を移さず書かれていく。

 当然ながら、そこには筆者自身の感じ方・考え方が反映されるし、その筆者の感性にもとづいて周辺のことがらも拾いあげられる。あくまでリバーベンドという1人の生きた人間の感性を通しての作業である。しかし、そうでありながら、他の個人ブログとは異なって、家族や隣人たち、さらには相互に訪問しあう親戚・知人などとの会話も再現され、あるときには物語りのように構成されることさえある。そうすることによって、自分たちの主張や思いを客観視しつつ、イラクからのメッセージとして世界に発信しているのだ。

 普通のイラク国民の常識と米国産プロパガンダの影響を受けている人々との間のギャップを埋めていく手段として、リバーベンドはそのような構成を意図的にとっているのではないか、と、ふと感じることさえある。世界的な賞を受賞する理由の一つに、このようなブログ全体の構想力のすばらしさもあるのかもしれない。ブログといえば、インターネット上での日記的なサイトと説明されることも多いが、リバーベンドのブログはそのような個人日記的な水準ではなく、文学の域に達しているのかもしれない。

バグダード・バーニング
筆者: riverbend リバーベンド
居住地: バグダッド (イラク)
ブログ: 原文・英語  日本語版
書籍: 『バグダッド・バーニング』
続編: 『いま、イラクを生きる』
英語版: Marion Boyars
Amazon Baghdad Burning 
受賞: ユリシーズ賞 ほか
 それは例えば、次のようなことにも効果的にあらわれている。

 書籍の続編に収録される時期は、ブログ更新の日付としては2004年の6月以降になるのだが、実際の内容としては、懐古や体験談といった形での叙述もからめながら、今の占領の直接的な契機となった2003年3月の米軍によるイラク侵攻以降の重要なポイントもおさえられている。しかも、そうした日々を自分や家族はどのような体験として、どのように感じながら生き延びたか(あるいは、生き延びることのできない人がいたか)というふうに描いており、年表的に何がいつあったかと確認するのとは決定的に違う。

 だから、占領下イラクの実情について、またイラク国民の側からの受けとめ方として、仮にニュース等で概要は知っていることであっても、一定の評価を自分で持っていることであっても、あらためてリバーベンドが描くものを読んでみたくなるのだ。そこには他の報道やレポートでは得られない内容と質がいくらもある。

 ここで実際に、続編に収録される期間、つまり2004年6月以降に何が問題になってきたかを簡単に振り返ってみよう。2004年6月といえば、ファルージャで米軍の攻撃に対して住民蜂起ともいえる戦いが起こった直後である。この頃、イラクではファルージャの人々をたたえる歌が全国的な評判にもなったほど、バグダッドその他の地でもファルージャへの連帯感が高まった。そして秋から冬にかけては、ファルージャを始めアンバル州やユーフラテス川上流地域で米軍の大がかりな包囲・掃討作戦が展開されていく。

 それは2005年1月末の暫定国民議会選挙にむけた「治安」対策でもあったが、実際には昨年10月の憲法承認の国民投票、12月の国民議会選挙へと政治プロセスが進行しても、イラク国民の生活はなんら改善されず、それどころか一般市民にまで対象を広げたテロ・誘拐・拷問・殺害が吹き荒れるばかりだった。それも内務省の治安部隊や警察、あるいはそれと連携する民兵による犯罪がエスカレートしており、バグダード・バーニングを読むとよくわかるが、一般の報道で伝えられる「宗派間抗争」などではない。(リバーベンド自身がイスラム教徒を自覚しても、宗派を意識することなく、また宗教の違いを超えて人々が平和的に共存するイラク社会で育っている。宗派や民族への帰属意識を最優先のものとする感覚は平均的イラク国民にはない。)

 そしてこのようなニュースになりそうな問題だけでなく、その地に住んでいる人々はなんら改善される気配のない毎日の生活に直面しているのである。電気、水、ガソリン、砂嵐のあとの掃除、冬が終わって夏を迎える前の片付け、ラマダーンを迎えラマダーンを終えるときの家族・親戚のならわし、あるいは街のあちこちで誰かが体験する自動車爆弾や警察の捜索等々、どれ一つをとっても生活と切り離すことができなかったり、のっぴきならない深刻なできごとだったりする。

 リバーベンドは政治的に重要なテーマについて果敢に筆をとる(キーボードをたたく?)だけでなく、身の回りのできごとや日々の生活に根ざした視点からも、「占領」という現実を浮びあがらせ、政治の動向を見すえている。このことも『バグダード・バーニング』が読者をひきつける理由の一つだろう。

 これらの一つ一つについては、結論めいた文章でここに紹介するより、実際にリバーベンドがどのように伝えているか、彼女のメッセージをじかに受けとめてほしい。そのメッセージの全体を受けとめるという点では、同じ姿勢でPCと向きあって読むよりも、書籍の方が親しみやすいだろう。ゆったりしたり、かじりついたりして読むのにふさわしい文章でもある。
 

   

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