【序説】


――第三次戦国時代。

 それは神州国・天乃華学園にて、《武神》と呼ばれた少女たちが互いの覇権をかけ、領土紛争に明け暮れた戦乱の時代――その終結期である。





「さあ、準備は全て完了しましたよー? ちなみに信友さんたちも今頃、別方面から《合戦場》入りしている筈です。織田さん、貴方たちは本当にその人数で、信友さんたちに挑むのですか?」

 戦場を構築し終えたもっちゃんから、恐らくは最後の確認がなされる。

「――ああ。但し、最後にはどうなっているか分からないけどな」

「……分かりました。ならばせんせーとしては何も言いません。行ってきなさい」

「応よ」

 最後くらいは教師らしい声に送られ、俺と藤吉郎は足を動かし始める。
 途切れたアスファルトの道路、その気にある《合戦場》へと臆することなく歩を進める。
 さて随分と長くなってしまったが、そろそろ始めるとしよう。

――では、開戦だ。








第六話 『尾張統一〈下〉』


【1】


「どうだサル? 何か見えるか?」

 尾張国安食あじきの地――を再現した《合戦場》の一角。「く」の字型に折れ曲がる平地を遮って広がる林の中に、俺たち二人は潜んでいた。そして藤吉郎とうきちろうは一番高い木に昇り、そこから周囲を見回している。ちなみに下からはパンツが丸見えになっていたが、色気はゼロに等しい。

「はい、ここから東の方向に天乃華あまのはなの制服を着た一団が見えるであります。数は……30人くらい?」

「30人? 尾張組のほぼ全員じゃねーか。
 ……と云うことは敵は信友だけじゃない。織田伊勢守家にかつての信行派も加わっている訳か。
 おうおう皆様、お暇な事で」

「そのくらい殿を脅威と考えているのでありましょうな。うふん、流石はそれがしの殿、もうモッテモテ❤」

「確かに全員女の子だけどさ……こんな切った張ったの関係は望んでいないぞ」

 どうせなら《合戦場》以外で会敵したいものだが、悲しいかな今が現実。
 そして彼女たちは全て、妥当すべき敵と来たものだ。むざむざ敗北すれば、俺が男であることがバレてしまう可能性だって高い。
 どちらにしろ、この戦いを勝利で飾らない限り、俺の今後はノーフューチャー。
 適当に済ませるにはいかないが、それにしたって彼我の兵力差は1対30と云う絶望的な数字である。ちなみに藤吉郎は戦力として数えられない。だとすれば現時点で唯一の兵力は俺一人。我ながら馬鹿げた話だが、現時点ではこれ以上の戦力増強が望めなかったのもまた事実。だから、自分一人でどうにかするしかない。その為に策は練ってあるし、藤吉郎も藤吉郎なりに役に立ってもらうだけだ。

「いくぞサル、先ずは――“籠城”だ」





 「く」の字型の平地。その先端部に陣を構えるのは二人の少女に率いられた軍団であった。
 一人は髪を肩で切り揃えた、綺麗と云うよりは強面の少女――
織田信友おだ のぶとも。その隣で退屈そうに足を組んでいたのは、派手なメイクと脱色したブラウンの髪が目を引く少女、織田信賢おだ のぶかた。二人ともに尾張国を二分して支配する織田大和守家と、織田伊勢守家の頭首であった。
 だが《合戦》に挑むにあたり緊張感を漂わせる生真面目な信友とは対象的に、信賢のほうはいささか気を抜き過ぎているようにも映る。信友はそれが気に食わないらしく、信賢がくちゃくちゃと音を立ててガムを噛むたびに、眉間に皺を寄せていた。

「――で、誰だっけぇ? その織田何とか家の誰かさんって」

織田信長おだ のぶながよ。斥候班の報告ではこの先の林に身を潜めているみたい」

「えー、なにそれ超しょぼくない? コソコソ隠れててゴキブリかっつーの。キャハハハハハ!」

 自分の例えに笑い声をあげる信賢を見て、信友は不快感と同時に不安が沸き出すのを感じていた。
 織田の宗家であることにあぐらを掻き、その自尊心だけは決して減少することのなかった織田伊勢守家――その権化とも呼べるのが現党首の信賢だった。美濃国の斎藤氏、三河を
併吞へいどんした今川氏と云う強大な《武神》に挟まれながらも、この信賢は何も行動を起こさなかった。
 南西部の織田弾正忠家先代当主の信秀が美濃国と同盟を結び、今川の侵攻を防いでいなければ、今頃尾張から織田の一族は追放されていたに違いない。

(尾張は間違いなく最大の危機にある。誰かが織田家をまとめなければいけないのよ……)

 今、信友を動かしているのは律儀までの責任感であった。但し彼女は“大うつけ”と呼ばれた信長でも、愚鈍で知られた信賢でもなく、自分自身がその任を背負わねばならないと決意していた。野心とは異なる頑な志――だが、それが揺れ動いていることを彼女はまだ知らない。

「それでどう動くつもり? 兵力差は圧倒的よ。全兵力を投入して信長を討つしかないわ」

「……えー、相手はたった二人でしょ? そんなことしてアタシんとこの兵隊減らしたくないしー。
 信友さあ、この《合戦》あんたが言いだしたんだから、人に云う前に自分でやれっつーの」

「あのうつけが脅威だとみなしたのは貴女も同じじゃない。ここにきて共闘を否定するつもり?」

「脅威ぃ~? たかが分家の落ちこぼれが、宗家のアタシに勝てる筈ないじゃん。
 アタシはあんたの顔を立ててここにいるの。勘違いすんなよ、所詮はアタシらの分家のくせに」

「…………くっ」

 信賢の横柄な物言いに、信友は返す言葉を持たなかった。
 家の格を重視するという意味においては、信友もまた信賢と変わることは無い。宗家と分家――この縛りに心まで囚われてしまっている。
 それが決して正しくないと、頭では理解していても……

「――分かった、私が出る。ただし、何かあればそちらも軍団を動かすのよ。いい?」

「はいはーい、わかってまーす」

 何処までも人を小馬鹿にした信賢の態度に業を煮やし、信友はその場を離れた。
 向かう先はすぐ隣に集まった自軍の陣地である。

「――ああもう、まるで話にならない! 家柄、家柄って、あの信長がそんなものを気にするとでも思っているのかしら!」

 陣地に戻るや否や、信友はたまった怒りをぶち撒けていた。だがその怒りを受け止める者は存在せず、部下たちは主の激昂を目の当たりにしてただ戦くしかなかった。以前ならば
林通具はやし みちともが主の感情を受け止め、理知的に宥め、諭してくれていた。だがその彼女も先日、信長への私怨に我を忘れた挙句返り討ちにされてしまった。
 それを思うと、信友の心の中でどす黒い感情が渦巻き始める。
 信長、信長、信長――!!
 うつけ者と嘲笑の的にされていた分際で通具を討ち、尾張国に更なる混乱を招こうとしている鬼子。
 気付けば信友の心の中には、信長への強烈な憎悪が芽生えていた。

「進軍よ! あのうつけ者を引きずり出して、私の前に連れて来なさい!」

 主の命令を受け、部下たちは一斉に動き出した。
 頭首と本陣を守る従者を除いた12名の《武神》が今、信長が籠る林へと向かおうとしていた。






「来ました! 《武神》が少なくとも十名以上、こちらに向かってきたであります!」

 藤吉郎の報告を受け、俺は木陰に潜んだまま両の目を閉じた。
 視界を閉ざし、その分の意識を足元に向ける。足裏から感覚が広がり、大地に流れる不可視の《力》を想うと――《地脈》の《力》が全身を駆け巡る。《力》は丹田と呼ばれるへその下で蓄えられ、渦を巻きながら己の力へと変換する。
 存分に《力》を蓄えたところで、今度はその力を拡散させる作業に移った。自分の全身を思い描き、そこに蓄えた力を流し込んでいく――想像が身体を駆動させ、イメージを具現化する。胸、背中、腹、腰、大腿部、膝、脛、肩、腕、手甲――思い描いた体に《力》を分散し、その《力》に満たされる身体を想像した。
 すると――いつもとは異なる感覚にふと、目を開けてしまう。

「なんだ――これ?」

 天乃華学園の制服、その表面に光の線が浮かび上がっていた。いくつものラインは幾何学的な文様を描き、その表面に薄い光の膜を張っている。胸、背中、腹、腰、肩、腕――制服が蓋う箇所全てに光の線が走り、同色の光の膜を浮かび上がらせていたのだ。
 《地脈》の《力》を全身に付与させる《武神甲》という技術があるが、あくまでその対象は肉体に限られ、衣服を守護することはできない――その筈だった。しかし今、天乃華の制服そのものが《力》を生地に走らせて、視覚化が可能なほどに高められた《武神甲》を形成している。

「もっちゃんが言ってたのは、こういうことか」

 何故制服で《合戦》に挑む必要があるのか。その答えが今、目の前にあった。
 《武神甲》と原理を同じくする装甲機能、それが天乃華学園の制服に仕込まれていたのだ。
 なるほどこれならば制服の汚れや破損を気にすることも無い。そればかりか、この制服が自動的に装甲を形成してくれれば《武神甲》で蓋う箇所もぐっと少なくなり、使用する《力》の節約にも繋がる。
 思わぬ贈り物に嬉しくなったが、裏を返せば天乃華の《武神》は全て、強固なこの装甲服に身を包んでいることになる。だとすれば例え規約を破って外部から武器を持ち込んだところで、まるで意味を成さないだろう。
 《武神》に対抗できるのは同じ《武神》のみ。
 そして《武神甲》に対抗できるのは、同じ原理の《武神技》のみということになる。

「また、こいつの世話になる時が来たか――頼むぜ、相棒」

 再度《力》を吸い上げて、《武神技》でもある愛刀"圧し切り長谷部"を精製する。
 それを構えるとすぐ、林の向こうから複数の足音が聞こえてきた。常人の数倍の速度で走る《武神》は、その分足音も大きくなる。
 大きく息を吐いてから、意識を研ぎ澄まして戦闘に備える。
 草を踏みしめる音は、すぐ傍まで迫っていた――。





 その林は生い茂る木々が陽光を遮り、昼であっても尚暗い陰気な場所であった。
 信友の命令を受けてやってきた十二人の《武神》は、ぽっかりと空いた林の入り口を前にして暫く立ち尽くしてしまう。敵を恐れていた訳ではない。相手は"うつけ"と呼ばれていた落ちこぼれの《武神》であり、事前に集めた情報では部下は多くて二、三人と云う小集団である。
 だがその敵が籠っていると思われる林の中は実に陰気臭くて不気味な空間であり、足を踏み入れることすら躊躇われる異界として彼女たちの目に映っていた。

「三人一組で、四班に分かれて捜索しなさい。
 敵を発見したら深追いせず、一人は他の班に連絡することを優先して」

 十二人の中では《合戦》の経験が豊富な最上級生が支持し、信友の部下たちは四つのグループに分かれて林の中へと足を踏み入れる。彼女たちの表情が冴えないのは、何も陰気な雰囲気の所為だけではない。少なくとも最上級生である数人の少女は、敵方の戦力を兵の数だけで判断していなかったのである。
 少人数が多人数の敵と戦う場合、基本は相手の戦力を分散することから始まる。更に機動力で勝っていれば、分散した敵を各個撃破することで劣勢を覆すこともできる。そうした観点からすれば、林に潜む敵と云うのは実に厄介な相手だと彼女たちは知っていた。
 信友や信堅といった主君は能力こそ高いが、家の当主であるが故に実戦の経験は然程多くない。例え出陣していたとしても、最前線に立つことは皆無に等しかった。
 だが――少なくとも敵である信長は、多人数を相手にする為の鉄則を心得ているようだ。小人数とて決して油断はできない。彼女たちは古参の《武神》であるが故に、林の奥に潜む敵を誰よりも警戒していた。

「きゃあ――!」

 林の中に甲高い悲鳴が響き渡る。一人の少女が突然、足を引っ掛けて転倒していた。
 その班を指揮していた上級生は転んだ後輩を助けようとして――ふと、その足に絡みついていた草に気付く。蔓状の茎にカモフラージュ目的で草を巻き付けた物が、ご丁寧に樹と樹の間に張られていた。明らかに自然に成った物ではない。足を引っかけてくださいと云わんばかりの単純な罠。だが罠が仕込まれていたことを知った途端、上級生の背に嫌な汗が伝う。
 上級生は班員の後輩に足元を注意するよう呼び掛ける。だがその時にはもう、林の奥から別の悲鳴が響いていた。

 別の場所を捜索していた班の頭上から突然、何かが落下してきた。
 慌てて頭上に構えたものの、落ちてきたのは無数の草を刈り取ったもの。殺傷能力はゼロに等しい。その班の最上級生は何のつもりかと首を捻っていたが、その直後、二人の後輩が悲鳴を上げて体を激しく捩り始めた。
敵の襲撃を予測して身を固くしたが、その様子はない。
 ならば何事かと後輩に近付くと、その髪や制服の一部に無数の毛虫が張り付いていた。毛虫が動く度、後輩の少女はあられもない悲鳴をあげて、毛虫を落とそうと激しく身を捩っていたのである。最上級生は呆れ、そして怒り、結局は仕方ないと諦めて後輩に張り付いた毛虫を剥がしにかかった。いくら《武神》とは云え年頃の少女が毛虫を嫌う気持ちは理解できる。
 しかしそうした心情を汲んだとしても、こんな森の中で悲鳴を上げれば自分の位置を敵に知らせるようなものだ。パニックに陥った後輩を宥めつつ、手早く毛虫を摘んで投げ捨てていく。

「いいから落ち付きなさい、敵に位置を知られます」

「で、でも虫が虫がっ、ひぃやぁ~~~~~~~!」

「あ、バカ!」

 一人の毛虫を取り除いていたところ、もう一人の後輩が毛虫が体を這いまわる感触に耐えきれず、その場から走り出してしまった。既にここは敵地。そこではぐれてしまえばどうなるか――舌打ちを零しつつ、上級生が後を追いかけようとした瞬間。

「は? うひゃああああーーーーーーーーーーっ!」

 逃げ出した下級生が足を滑らせた――と見えた次の瞬間、彼女は背中から地面に倒れ、そのままずるずると前方に引きずられていく。気付いた時にはもう、下級生は近くの大木に逆さ吊りにされていた。その片足には蔓で編んだ縄ががっしりと絡みついている。

「先輩、助けて! 助けてくださーい」

 罠にかかり逆さ吊りの憂き目にあった下級生は、完全なパニックに陥っていた。
 大声をあげ、手足をばたつかせて余計な体力を消耗していく。上級生は呆れはしたものの、彼女を助けなければ自分たちまで危うくなる。そう判断して動き出した――その直後、彼女の耳は、何か重い物が落下した音を聞き取っていた。
 理性よりも先に、体が反応する。
 慌てて振り返ったその先に――黒く染まった剣を抜き放った、美しい少女の姿があった。

「――ひとり!」

 回避も防御も間に合わなかった。
 少女が放った一閃が疾かっただけではない。初めて目にしたその少女の貌があまりにも鮮烈で――知らぬ間に意識を奪われていたから。
 乾いた音を立てて、上級生の首から《武神》タグが落下する。滅多なことでは傷一付けられないハイテク機器はしかし、真っ二つに割れて綺麗な切断面を晒していた。それを視界に捉えた瞬間、上級生は全身から力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
 もう一人の後輩が上級生を助け起こす頃には、黒刀の少女は幻のように消え失せていた。






「むっはーっ! 奴ら、面白いように引っかかってくれましたな!」

 背後から連続して聞こえてきた悲鳴に、藤吉郎が快哉を上げる。幾つかの単純な罠だけで予想以上の成果をあげたことには、俺も素直に喜びたい心境だったが……

「それでも二人か。思ったより減らせなかったな」

 罠にかかった敵を頭上から不意打ちし、既に二人の《武神》を無力化してはいたが、できることならあと二人くらいそこに加えておきたかった。しかし敵もなかなかやるもので、三人一組で固まって動いているものだから、仕掛けるタイミングはどうしても限られてしまう。既に倒した二人も結局は偶然の産物でしかなく、改めて俺は絶望的な兵力差を痛感していた。
 今、俺と藤吉郎は森の中を一直線に駆け抜けている。
 仕掛けた罠の数は決して多くなかった。だが罠は少数でも一向に構わなかった。罠を張った本当の目的は足止め――敵の行軍の速度を遅めることであった。足元に罠が仕掛けられていると知れば、人はどうしても足元を警戒して進まざるを得なくなる。また、常に周囲を警戒しながら林の中を歩くと云うのは、想像以上に心身に負担をかけるものだ。過去の経験から、俺はそれを良く知っていた。

「しかし殿、よくこんな策を思い付いたものですな?
 相手が《武神》なら、あんなチャチな罠は意味が無いと思っていたのでありますが」

「あほう、《武神》だって同じ人間だ。歩行中に足をひっかければ転ぶし、いくら身体能力を強化したところで人体の構造からは逃れらない。
 それにな――連中は野戦に関してとんだ素人だ」

 俺が見たところ、敵の《武神》はそろって《合戦》の経験が浅い。
 藤吉郎がまとめてくれた情報から、俺はそのことを確信していた。

「はあ……でも殿、どうしてそんなことが分かったのでありますか? 相手の個人情報なんてロクに調べなかったくせに」

「そんなこと、いちいち調べなくても分かるんだよ。
 ……いいかサル、情報ってのは額面通りに受け取るだけじゃダメだ。裏の意味、、、、を読み取ることで、一つの情報はその密度を増すんだ」

 藤吉郎はいまいち理解していないようだったが――彼女がまとめてくれた情報の中にこそ、全ての答えは眠っていた。
 前日、《武盗》――領土を持たないはぐれ《武神》が徒党を組み、犯罪行為に手を染めた者をそう呼ぶ――にまつわる事件の中から、以下の要素を抽出してまとめるように俺は命じていた。

一、《武盗》の規模と装備。
二、《武盗》退治に当たった《武神》の名前と所属。
三、過去十年間に於いて発生した《武盗》関連の事件の総数を、地域別に割り出す

 先ず大前提として、《武盗》を退治するのは、その土地の《武神》と相場が決まっている。《武神》に対抗できるのは同じ《武神》しかいないからだ。故に討伐された《武盗》の規模と装備から、その土地の《武神》の実力をある程度量ることができる。
 次に実際に退治に赴いた《武神》を知ることで、逆に参加しなかった《武神》を割り出すことも可能だ。
 そして最後に、過去十年間に於いて発生した《武盗》関連の事件の総数を地域別に割り出すことで、その土地で起きた《武神》同士の衝突の数と頻度を量ることができ――そこから、その土地に居る《武神》の戦場経験と練度を推し量る――これらの解析を通じて、俺は敵方の《武神》の殆どが《武盗》との野戦を経験したことがなく、この五年前後で《武盗》の規模も、起こす事件も減少していることを知った。

 何も馬鹿正直に敵方の個人情報を調べなくとも、必要な情報は別角度から集めることができる。諜報の基本なのだが、信友や他の織田家の《武神》が知っているとは思えない。奴らは生まれたその時分から「将」であることが定められており、下っ端が行う諜報や野戦の知識には疎い。下級の《武神》として諸国を渡り歩いてきた藤吉郎や、生活費を稼ぐために《武盗》を狩っていた俺とは踏んだ場数が違うのだ。
 単純だが効果的な罠の配置、地形を活かしたゲリラ戦術、そして相手の心理を読んだ撹乱戦法――それらは全て俺が実際に味わったものばかりで、その効果も折り紙付きである。

「――とは云え、小細工もそろそろ品切れだな」

 仕掛けた罠が敵の足を鈍らせてくれたが、圧倒的な兵力差を覆すには到底至らない。どれだけ林の中に潜んだところで、何れは敵の兵力に燻し出され、狩り立てられるのは目に見えている。
 だから今、俺は藤吉郎を伴い林の中を移動している。
 進入経路を逆に辿り、この林から抜け出すのが目的だった。

「殿、それでどこへ移動するつもりでありますか?」

「入口だ。そこまで後退するぞ?」

「は、はあ…………」

 藤吉郎の返答はやや重い。
 それもその筈だ。林の中と云う少人数に有利なフィールドを捨てて、見晴らしの良い平地に移動しては敵に討ってくださいとお願いするようなものだ。
 だが、それでも俺にはここに留まっては要らない理由があった。

「出口だ、一気に駆けるぞ!」

「は、はいっ!」

 視界が開き、夕日に染まった平地が目の前に広がる。
 ここからは足元の草木を気にせず全力で走ることができた。敵に気付かれることなく林を脱した俺たちは、この《合戦場》の入り口に向けてひた走った。





「……で、殿? それがし達はいつまでこうしていれば良いでありますか?」

「まあ、もう少し待とうぜ」

 無事に林から脱出し《合戦場》の入り口まで一気に後退した俺たちは、そこで何をするでもなく、見晴らしの良い場所に腰をおろして寛いでいた。
 藤吉郎にすら「何を呑気な……」と呆れられたものだが、休憩して体力を回復させるくらいしかやることが無い。敵は未だに林の中を捜し回っているらしく、姿は一人も見えなかった。
 だがそれも時間の問題。林を抜けてしまえば、俺たちが入口まで後退していることは明らかになる。

「――と、殿っ! 敵が、敵が近付いて来ましたぞ!」

 藤吉郎が上ずった声で報告すると、俺の視界にもこちらに向けて駆け寄る敵の姿が移る。彼女たちは林の出口で合流し、合わせて九人の《武神》がその脚力を活かして迫ってきた。
 これ以上の後退は戦場離脱と見なされ、その時点で敗北は確定する。自分の首ひとつは守れるかもしれないが、侵攻を退けなかったことで織田弾正忠家の領土は信友に奪われてしまうだろう。

「思ったより早かったな。さてサル、自分の身は自分で守れよ」

 敵が迫ってくるというのに、何時までも寛いでいる訳にはいかない。
 ゆっくりと立ち上がり、"圧し切り長谷部"を構え直す。対《武神》戦では役に立たない藤吉郎に、それとなく撤退を命じたが、藤吉郎は慣れない手付きで《地脈》の《力》で精製した槍を構え――

「首は挙げられないかもしれませんが、少しばかり殿の負担を減らすことはできますぞ! 
 うう……恐くない、恐くない」

「無理すんな。誰もお前には期待してない」

「それでも、それでもそれがしは殿への愛に殉ずるでありま――あ、痛っ!」

 震える声で勇ましい台詞を吐く藤吉郎。その頭を俺は刀の柄で小突いた。

「いたた……何するでありますか殿」

「不吉な台詞を吐くな、あほう。俺がこんな所で死ぬものかよ。だからお前も死ぬなんて考えるな」

「うう……殿、その台詞に今、全それがしが涙したとかしないとか!」

「どっちだよ!」

 どっちでもいいんだけどさ。
 いつものやりとりを交わしている内に信友の配下は接近し、俺たち二人を半円状に囲む。
 何れも手には刀や槍を構え、用心深く間合いを詰めてきた。林通具を討ちとった俺を警戒してのことだろう。そちらからは決して仕掛けず、じわじわと包囲を狭めて一斉に襲いかかるつもりに違いない。
 戦法としては実に正しく、俺にはまるで打つ手が無い。自棄になって仕掛けたところで左右から槍で突かれ、あっさり討ちとられるのは目に見えていた。

「これで終わりです信長、大人しく降伏しなさい」

 周囲を囲む《武神》のうち、一番年上であろう少女が降伏を勧告する。

「やなこった。手前から負けを認めるなんざ死んでもごめんだね」

「ならば――討ちとるまでです」

 彼女はあくまで冷徹に包囲を狭め、一斉に襲いかかる瞬間を伺っている。
 厄介な相手だ。挑発したところで決して乗らないだろうし、かと言ってこちらが隙を見せれば容赦なく攻撃をしかけてくるに違いない。その少女が槍を構えたまま、目で周囲の《武神》に合図を送る。すると槍を構えた《武神》が三方からじりじりとにじりよって来た。
 包囲殲滅のタイミングは間近に迫っている。それでも俺に打てる手は一つも残されていなかった。
 打つべき手は既に――打ち尽くしていたのだから。

「――覚悟!」

 そして、遂にその瞬間は訪れた。
 三方から槍で牽制されたまま、刀を構えていた《武神》たちが一斉に襲いかかって来たのだ。
 万事休すと思われた、その直前――襲いかかって来た《武神》の一人が突然横転する。彼女は左肩から地面に激しく打ちつけられ、その衝撃で立ち上がれなくなってしまった。。
 思わぬ反撃はしかし、俺が意図したものではない。

「どうした――――!?」

突然の攻撃を受けた仲間に顔を向けた一人が、今度は後ろに吹き飛ばされた。
それと同時に空気が爆ぜた音が鼓膜を打つ。その音を――俺は良く知っていた。

「――信長、伏せろ!」

 背後から響く涼やかな声。藤吉郎の襟首を掴んで地面に倒れ込むと同時に、破裂音が連続で響き、周囲を囲んでいた信友の部下たちが慌てて退いて行く。顔を上げた俺の目に映るのは、天乃華の制服を着た、眼鏡の女の子。冷たい北風を思わせる引きしまった美貌、冷徹な瞳の輝きは意思の強さを如実に物語っていた。
 眼鏡の少女は右手で指鉄砲を作り、左手を底に当てた姿勢で、信友の部下たちと対峙している。
 《武神技》――"空蝉乃弾うつせみのたま"。
 圧縮した空気を亜音速で打ちだす不可視の狙撃を前に、信友の部下たちは後退を余儀なくされる。
 そこに――もう一つの影が迫っていた。

「そこを、どけぇーーーーーーっ!」

 刀を抜き放ち、横合いから走りよる少女が一人。
 突然の不意打ちに驚きながらも、信友の部下の一人が襲撃者に向けて槍を構える。
 だが――襲撃者は地面を蹴りつけ、その身を大きく宙に舞わせていた。常識外れの大跳躍。呆気にとられる槍使いの頭上に向けて、襲撃者の長い足が迫る――! 
 敵が気付いた時にはもう遅い。襲撃者のスニーカーが槍使いの顔を踏みつけ、そのまま槍使いは地面に崩れ落ちた。

「信長さま、ご無事なんだよね?」

 長く伸ばした髪を三つ編みにし、一本の長い尻尾を背中に垂らす少女の側で、仲間を打たれた少女たちが迎撃に動き出していた――が、遅い。左右から振り下ろされた刀を、三つ編みの少女は背後に飛ぶことでかわし、着地と同時に刀を構えて走り出した。

「――破ッ!」

 一人の無防備な側面に刀を振り下ろし、相手の体勢が崩れたその瞬間――三つ編みの少女の足が閃いた。体を回転させてのハイキック――腕で防いだ相手をそのまま吹き飛ばし、瞬く間に一人の《武神》を無力化してしまう。
 続いて刀を突き出した敵に対し、三つ編みの少女は腰を屈めて避けると同時に片脚を前に伸ばした。
 敵が刀を引き戻すよりも速く、前に伸ばした足で体を引き寄せ――

「――破ッ!」

 刀の柄尻を、下から敵の顎に打ちつける。例え《武神》と言えど、人体の急所を強打されて無事で済む筈も無い。
 程なく敵は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

「と、殿っ!? もしかして、もしかするとこれは!?」

「ああ、やっと来やがったな――あいつら、、、、

「援軍ですって? まさかこのタイミングで――退くわよ! 二年生以下はすぐに退却、三年生は殿を務めなさい!」

 突然の襲撃を受け、信友勢の下した判断は実に的確なものだった。
 実力的に優れた上級生で壁を作り、その間に半数を占める下級生たちを撤退させようとしたのだ。援軍の規模が分からない以上、無理に留まっても被害は大きくなるばかり。そうした意味では実に正しい判断と言える――殿を務める者たちの前に、長い槍を構えた少女が踊り出たりしなければ。

「なに――中学生?」

 その少女は随分と小柄な体格の持ち主で、制服は藤吉郎と同じ中等部のもの。だがその手に構えた構えた長槍は小柄な体格を遥かに圧倒する長さである。
 冗談としか思えない組み合わせを前に、敵が訝しんだのも無理はない。
 しかし――

「そうだよ。だからってボクのこと舐めたらお前――死ぬよ?」

 挑発的な台詞を吐いた次の瞬間、少女は手にした長槍を大きく振り回していた。
 その速さは尋常なものではない。
 完全に不意を打たれた敵は長槍の払いを受けて、吹き飛ばされていた。

「な――!?」

 他の上級生が驚きの声をあげる隙に、小柄な少女は振り回した槍を後ろ手に構え――

「うおりゃああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーー!」

 吠えるや否や、そのままもう一人の《武神》に跳びかかった。長大な長槍を軽々と振り回し、上段から振り下ろすと直撃を受けた地面は大きく陥没。飛び散った砂塵が敵の目を奪う。
 だが長槍の少女は止まらなかった。自分の背丈の倍もある長槍を器用に振り回し、敵を確認するや否や、思いきり突き入れる。甲高い音を立てて敵の手から刀が飛んだ。槍の一撃で敵の武器を弾いた少女は引き戻す勢いで体ごと槍を回転させ、横合いから槍の柄を敵に叩きつける!
 直撃を受けて吹き飛ぶ、信友軍の上級生。
 その光景を目の当たりにした他の部下たちは今度こそ、脇目も振らずその場から逃げだした。

「追うか?」

 眼鏡の少女が追撃の伺いを立てるが、俺は首を横に振った。
 絶好の機会ではあるが、それよりもこちらの体勢を立て直すことが先決だった。

「殿、との~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 敵を全て追い払ったあと、長槍を構えていた小柄な少女が俺に抱きついてきた。
 自慢の得物は姿を消し、小さなその体でひしとしがみついては離れようとしない。

「うう、ぐすっ……殿ぉ~、ボクさびしかったよお~」

 先程までの気迫はどこへやら。鼻をすすりながら甘える姿は年相応の女の子でしかない。

「悪かったな、犬千代いぬちよ。何分急な話だったからさ……いや本当に」

 色々ありすぎて感覚が薄れていたが、天乃華への転校が決まってまだ一週間も経っていなかったのだ。新しい学校と生活に追われて、仲の良い連中に連絡のひとつもしていなかったことを詰られているような気がして、お詫びに小柄な少女――犬千代の頭を撫でてやると、彼女は満面の笑顔を浮かべる。
 大きな瞳と林檎の様なほっぺたが実に愛らしい犬千代は、その名の通り子犬のような少女だった。左右に結った髪の房は、垂れた犬の耳を連想させ――キャラ作りのためにわざとやっているんじゃと疑いたくなったが、それはさて置き。

「ぐぬぬぬ……犬千代の分際で、それがしの殿にベタベタひっつくなであります! ええい離れろ、離れんか―い!」

「べーーーーーーーーーっだ! 
 サルちゃんだけ殿に付いてくなんてズルい。ボクだって殿がだーいすきなんだから!」

「はん! 殿が犬千代みたいな発育不良娘を相手にするとでも思ってるでありますか? 
 殿の好みはもっと年上でありますよーだ」

「そうなの? でもボクがお嫁さんになりたいって言ったら、殿はOKしてくれたもんっ」

「は、ははは…………そんなベタベタな嘘、誰が信じるでありますか」

「いや、本当だぞサル。犬千代はこう見えて将来有望だからな。お前と違って」

「…………………………………………と、殿のロリコンっ! バックベアード様に言いつけてやる! 
 あれ? でも犬千代がオッケーならそれがしにも希望があったりしませんか?」

「いや、それは無いな。断じて」

「何で、きっぱり断言しやがりますか! 殿はもっとそれがしの可能性を信じて!」

 涙目で抗議する藤吉郎だったが、こいつより二歳年下の犬千代が既にブラを付けていることを知ったら、どれだけショックを受けることやら。

「とにかく、離れろであります犬千代! 池田殿も丹羽殿も、こんなロリっ娘に殿を寝取られても良いのでありますか?」

「それは信長が決めることだ。私には関係ない」

「考え過ぎだって藤吉郎、殿にとって犬千代は妹みたいなもんだってば」

「はん! 妹だって立派な恋愛対象なのは凡百のギャルゲーが証明しているであります!
 というか恋愛対象じゃない妹なんて存在しねーであります!」

 どうしてこいつは恥ずかしげもなく、ギャルゲ―を例えに出せるのだろう。しかも大いに間違っているし。

「妹じゃないもん、お嫁さんだもん! それにさっきから犬千代犬千代って、ボクもう元服して名前だって変わったんだもん!」

「あれ? そうだったか?」

 俺としては初耳だったが、犬千代の年齢(※12才)を考えればそろそろ元服して、新しい名前を貰ってもおかしくはない。

「そうだよ。ボクはねぇ――利家としいえ! 前田利家まえだ としいえなんだよ!」

 犬千代――もとい利家は誇らしげに名乗りをあげる。
 勇壮な響きの名前と、甘えん坊で知られた犬千代のイメージがなかなか結び付かなかったが、本人は大いに気に入っているようだ。

「それにしても木下と二人だけで《合戦》に望むとは、天乃華に来て無茶振りが上がったようだな、信長」

 呆れているのか、それとも感心しているのか、どちらとも読めない言葉を投げかける眼鏡の少女。
 その名は、池田恒興いけだ つねおき

「そうそう、でも……恐いくらい違和感ないよね、信長さまの女装。なんだか私、女であることに自信がなくなってきたよお」

「うるせえ、俺だって好きで女装している訳じゃねえよ」

「うう……口調は全然変わらないのに、どこからどう見ても女の子にしか見えないなんて、そんなの卑怯だよ~」

 一人で勝手に嘆く三つ編みの少女の名は、丹羽長秀にわ ながひで
 女性としては人並み以上の容姿をしているが、クールな恒興や愛くるしい利家に比べればどうしても影が薄くなりがちで、本人もそれを気にしている……らしい。
 池田恒興、丹羽長秀、前田利家――幼い頃から俺と行動を共にしている家族同然の仲間たち。
 その三人が今こうして、天乃華の《合戦場》に集っているのは決して偶然ではない。

「――ともかく、これで俺の軍団が揃ったな。お濃さんに頼んでおいたから心配はしなかったけど、それにしたって登場が遅くないか?」

 あと一歩遅かったら、俺は信友の手下に打ちとられていたことだろう。
 それを批難すると、恒興の目が僅かに吊りあがった。

「……信長、たかだか二日で強制的に転校させられた身にもなれ。
 それにお濃さんもお濃さんだ、まさか白昼堂々拉致されてそのまま天乃華に連れて行かれるとは思わなかったぞ」

 流石はお濃さん、やり口が容赦ねえ!
 まあ、そうでもしなければ、この《合戦》に間に合わなかったのだろうけど。

「そうそう、私も信長さまの命令だって知ったのは、ここに着いてからだったし。
 ……まあ、もう慣れたけどねー」

「うん! だってボクたち、昔から殿のムチャクチャに付き合ってきたもん」

 長秀と利家の言葉には思い当る節があり過ぎて俄かに反論できなかったが、それはそれ。これはこれだ。

「ま、過ぎたことをグチグチ行っても仕様がない。――だから、最後まで付き合ってもらうぞお前ら。先ずは俺に喧嘩を売って来た連中を、まとめて叩き潰す」

「最初からそのつもりだがな。織田本家の《武神》とは一度手合わせしたいと思っていたところだ」

「ま、信長様のやることに反対しないから。私は私でやるべきことをやるだけだし」

「殿ー! ボクがんばるよー!」

 昔から二つ返事で俺の無茶に付き合ってくれた三人は、再会した今も変わらぬ忠義を尽くしてくれる。
 それが無性に嬉しくて、強引にでも天乃華に呼び寄せたのは決して間違いではなかったと、改めてそう思った。

「と、殿? それがしだって変わらぬ愛と忠義をですねえ――って、
 うぎゃああああああーーーーーーーーーーーーーー!」

「なんだオイ、それならアタシだって負けちゃいねーぞー、木下ァ!」

 突然、藤吉郎の悲鳴が響いたと思ったら、小柄な藤吉郎を抱き寄せて、頬を擦り寄せている背の高い女が出現していた。

「くっそう相変わらず可愛いナァ。お前に会えなくてアタシゃ、超絶に寂しかったんだぜー♪」

「いやあーっ! 頬を擦り寄せるなであります、この百合女! 
 それがしにそんな趣味はねぇーーーーーーーっ!」

「オイオイ、つれないこと言うなよ。そうか、これが噂のツンデレってやつだな? 
 ああもう可愛すぎてこのまま食べちまいたいぜ木下ァ!」

「うっせー! 誰がツンデレでありますか! 
 殿、助けてーーーーーー! 変態女がそれがしの操を狙ってるーーーーー!」

 じたばたともがく藤吉郎をがっしり抱きとめて、興奮気味に頬を擦り寄せる背の高い女性――彼女は俺が良く知る人物だった。

「なんだ小六、お前も来てたのか」

「よう信長様。いやな、お濃さんから木下がピンチだって聞いて、慌てて駆けつけた訳よ。
 なにせこの蜂須賀小六はちすか ころく――木下の一の家臣だからなあ」

「誰が家臣でありますかっ! 殿、こいつはそれがしに付きまとう、ただのストーカー女でありますぞ! 
 それがしの為を思うなら、一刻も早くこの世から退場させて~~~~~~!」

 藤吉郎の台詞は恐らく本心からのものだろう。
 傍から見ても小六が藤吉郎に寄せる好意は、常軌を軽く逸している。
 でも――

「面白いからいいや。おい小六、サルを頼むぞ」

「云われるまでもねえ! だってさ木下、信長様が公認したからもう離れないぜ~~~~」

「ぎゃあーーーーーーーっ、キスすんなーーーーーーーーーーーーーー!」

 うん、やっぱ最高の漫才コンビだよお前ら。
 その性癖はさておき、小六の《武神》としての実力は確かだ。味方になってくれれば頼もしいことこの上無い。
 池田恒興、丹羽長秀、前田利家、木下藤吉郎、蜂須賀小六――そして俺、織田信長。
 合わせて六人の小軍団だが、これだけ揃えば最早敗北など考えられない。依然として兵力差は敵方に傾いているが、こちらは戦場経験も豊富な少数精鋭の軍団だ。

 さて――ここからは俺のターン。
 これより反攻を開始する――!





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