【序説】


――第三次戦国時代。

 それは神州国・天乃華学園にて、《武神》と呼ばれた少女たちが互いの覇権をかけ、領土紛争に明け暮れた戦乱の時代――その終結期である。





通具みちともを止めてくれたことは感謝するわ。……けれど経緯はどうであれ、貴女は私の部下を討った。
 この罪は貴女の首で贖ってもらう」

「おいおい、自分から仕掛けておいて恐いこと言うなあ。怪我一つ負わせなかったんだから、逆に感謝してほしいくらいだぜ?」

 人に恨まれているのには慣れているが、理不尽に憎悪されて良い気分になる筈も無い。
 手前勝手な言い分を非難すると、信友は更に表情を強張らせ――

「本気で言っているとしたら、大した悪党ね。
 貴女は今、通具から《武神》としての命を奪ったのよ。それだけは憶えておきなさい――」

「《武神》としての命? なんだそりゃ?」

 信友は俺の疑問には答えてくれず、代わりに自分のIDタグをその手にかざした。

「私=織田信友おだ のぶともは、貴方=織田信長おだ のぶながに宣告します」

 タグにはめ込まれていたIDカードの表面を親指で押し込みながら、信友は俺に通告する。

「学園法に基づき代理闘争の開戦を通告。これは私から貴方への――宣戦布告です」

 代理闘争の開戦。
 確かに信友はそう言った。まるで伺いを立てるようにIDタグを翳しながら。
 決して認められない私闘とは違う、承認された《武神》間の闘争――それが始まると云うのか。
 俺は一拍の間をおいて返答した。

「――いいぜ。やってやるよ、俺とお前の闘争をな」







第五話 『尾張統一〈中〉』


【1】


「――そう言えば、今度《合戦》することになったんだけど、準備って何をすれば良いと思う?」

 抜けるような青空の下、中庭で弁当を広げながら、俺はその場に居た全員に尋ねかける。
 返答は無かった。藤吉郎とうきちろうはカレーパンを手にしたまま口をあんぐりと開け、千代も驚きで箸を止めてしまっている。そり中で唯一、千代の家来である本多忠勝ほんだ ただかつだけは、もくもくとおにぎりを頬張っていた。食べ残しの米粒がほっぺに張り付いてたが、その姿が妙に可愛らしいので敢えて指摘はしなかった。

「……吉姉さま、だ、誰と《合戦》することになったのですか?」

 尋ね返した千代――幼名なので今は徳川家康とくがわ いえやす――の声は確かに震えていた。

「ん? 尾張の同じ織田家の奴とだよ。こっちは分家だから織田本家になるな。
 そいつがさ、部下がやられた仕返しに合戦を申し込んできたってわけ」

「た、たたたたたた……大変な事じゃないですか!?」

 千代は悲鳴のような声を上げるが、当事者である俺は自分でも不思議なほど落ち着いていた。
 《合戦》――正確には代理闘争と云う。神州の法にて《交戦権》を与えられた二国間以上の《武神》が参加して行われる代理性の領土紛争であり、天乃華あまのはな学園に於いてのみ認められた私闘システムである。
 つい四時間ほど前、俺は同じ尾張国に領土を持つ《武神》――織田信友より宣戦布告を受けた。
 その後で担任教師から説明を受けたところによると、《合戦》は学園上層部に申請して認可を受けなくてはならないらしい。認可を受けずに《武神》同士が争えばそれは私闘であり犯罪行為と見なされ、学園の法律で処罰されることとなる。
 かく言う俺も転校初日から織田信友の配下と交戦になり、《合戦》以外での使用が禁止されている特殊能力《武神技》を使ったことでペナルティを受けていた。尤も私闘そのものは何かと言い訳をして、不問にしてもらったのだが。

「それで殿、合戦の日取りは何時でありますか? まさか今日すぐに?」

「いや、あっちも準備があるんだろうよ。合戦の日取りは明後日だそうだ」

 そう報告すると、藤吉郎が呆れたと云わんばかりに大きく息を吐いた。

「明後日って……もうすぐ先のことでありますぞ? たった二日でどう準備をする気でありますか?」

「だからお前らに相談してるんだろが。千代は何か良い案があるか?」

「え? 千代ですか? ……う~ん、先ずは味方を集めることくらいでしょうか。
 ちなみに吉姉さまの家来は今、何人くらいいらっしゃるのですか?」

「尾張には何人かいるけど、天乃華にはサルくらいしか連れてこなかったな」

「つまり吉姉さまとそこの猿一匹……ほとんどいないじゃないですか!」

「うん、まあそうなるな」

 千代に指摘されて、俺は改めて自分が不利な状況に置かれていることを実感する。
 法の規定では《合戦》に参加する《武神》の数に制限は無く、集団戦になることは自明の理だ。味方がたったの一人と云う状況で、売られた戦争を買ってしまった――笑い話にもならない失敗だが、何度冷静に考えても焦りや不安はまるで感じられない。「何とかなるさ」と云う根拠のない楽観だけが、確かに存在していた。

「ヘイ、そこの腹黒女。さりげなくそれがしを猿呼ばわりしやがったでありますな? 
 こう見えてもそれがし、殿の一の家臣として華々しい武功を――」

「上げたことは無いから黙ってろサル」

「あっさり事実をバラさないで! 殿はそれがしの味方でなかったの?」

 はっきり言って《合戦》になれば、藤吉郎は戦力の内に入らない。弱いからではない。対《武神》戦では足手まといに過ぎないものの、こと集団戦に於いて重要な役割を担っているのだが――それも兵隊の数が揃ってこその話である。

「とにかく、誰でも良いですから仲間を集めることが大切です。
 ごめんなさい……本当なら千代もお手伝いしたいところですけど」

 そこまで行って千代は口を噤んでしまう。
 俺を実の兄のように慕ってくれている千代は尾張と隣接する三河の《武神》だが、現在は同盟を結んでいる今川氏に人質として出されている身だ。勝手に他国の紛争に参加することはできないし、そもそもこうして俺と弁当を食べていることすら危うい立場にある。

「ありがとな、千代。でもこいつは俺の問題だ。まあ、何とかするさ」

 お礼に軽く頭を撫でてやると、千代は恥ずかしそうに目を伏せてしまう。
 ふわふわした手触りの髪に触れていると、彼女がまだ小さかった頃を思い出す。
 あれは確か七年前――藤吉郎が織田家に仕える遥か以前の話だ。人質として身を潜めるように過ごしていた千代の手を引き、俺はよく屋敷を抜け出していた。織田家の重臣連中は良い顔をしなかったが、俺は街に繰り出して商店街のおばちゃんや行商人のおっちゃんたちと言葉を交わし、同じ年頃の子供を引き連れては、あちこち遊び回っていたものだ。
 農民も商人も国の内外も関係なく、気に入った奴とつるんでヤンチャばかりしていた俺を、母さんの部下たちは"うつけ"と呼んで蔑んでいたが……まあ、遊ぶことに夢中で気にはしていなかったな。
 そう言えば、あの頃つるんでいた連中は、どうしているだろうか。
 同郷の友人知人には女装した自分を知られたくないので、敢えて連絡はとらないつもりでいたが……その中で数人、良く見知った顔がぼんやりと浮かび上がる。仮の話であるが、こいつらなら今の俺を見ても、尾張に居た頃と変わらず接してくれるのではないか。
 或いは――

 次の瞬間、俺は事態を楽観視していた理由に思い当った。それと同時に携帯電話を取り出し、登録された番号に電話をかける。
 昼休みならば繋がるはずだと考えたのだが、どうやらその考えは間違っていなかったらしい。

『――はーい☆ こちら、ご主人さまのおのうですよー♪』

 無駄に甘ったるい声に思わず頭痛を訴えそうになったが、そこは堪えて用件だけを伝える。

「お濃さん、悪いけど時間が無いんだ。今すぐ――あいつら、、、、を招集してくれ」





 昼休みの終了を告げるチャイムが流れるころ、俺は自分の教室に戻って来た。
 尾張国の《武神》、その中でも高等部の二年生が集まる「二年尾張組」――ほんとう、そのネーミングだけはどうかと思う――は、今や完全な敵地と言っても過言ではない。
 教室に戻って来た俺を出迎えるのは、敵意の籠った視線の数々。
 それと言うのも、クラスメイトの大半は俺に合戦を申し込んだ織田大和守家、織田信友の家臣であり、それ以外は宗家に当たる織田伊勢守家の勢力で占められている。実家である織田弾正忠家の人間は俺一人だけ。唯一の部下である藤吉郎も中等部の校舎で孤立無援の状態だ。

「…………」

 親しげに口を開く奴はいない。誰もが黙って俺を避けていた。
 実力行使こそ禁じられているものの、精神的なプレッシャーは相当のものだ。なるほど戦いはこの時点から始まっていると云う訳か。
 窓際の奥に用意された自分の席に腰を下ろすと、ふと机の中に折り畳まれた紙が挟んであるのを発見した。
期待せずに中を開くと、予想通りそこには俺を中傷する文句で溢れていた。
 乱暴な筆致で書かれた"うつけ"と云う悪罵。
 だが子供の頃に散々その悪口をぶつけられた御蔭か、どれだけ目にしようともまるで堪えない自分に気付く。それどころか、発想からして陰湿な手段に憐れみすら覚えていた。

「――信行のぶゆきも、こんな目に合っていたのか」

 俺の妹の一人、織田信行はかつて同じように家を背負い、この天乃華に通っていた――尤も今は心労が祟って退学し、家で休養をしている筈だ。《武神》として情けないと、世間はあいつを笑うだろう。だが俺はもう信行のことを笑えない。生真面目で要領が悪くて、馬鹿みたいにお人よしなあいつは――あいつなりにこの地で戦っていたのだから。

「あほうが。無理しやがって」

 同じ織田家とは云え、互いに反目し合っている現状では血の繋がりなどあってないようなものだ。
 後継者争いで信行を指示した重臣たちは、自分の娘を信行の部下として送り込んでいた筈だが、その内の一人、林通具が信友に寝返っていたことからも、味方としては到底期待できそうにない。
 正に四面楚歌。
 だが――頭では冷静に戦力差を分析していても、心は穏やかな凪の状態にある。

「ま、どうにかなるさ」





 初日の授業が終わったのは、午後三時を半分ほど過ぎてからのことだった。
 ショートホームルームが終わり、職員室へ戻ろうとした担任教師――今日は猫耳メイド服の小学生(風)ファッションに身を固めた――を、俺は廊下で呼び止めた。

「あらら、このセクシーティーチャー・毛利元就26歳略してSTM26歳に何か御用ですかー?」

 格好良いとでも思ってるのかその略称――とツッコミたくなる気持ちを堪え、口を開く。

「なあ、もっちゃん。《合戦》について洗いざらい教えてくれ。今からすぐボランティアで」

「教職を舐めくさった態度には感心しませんが、自ら進んで学ぼうとする姿勢はせんせー評価しちゃいますよ。 ……で、何が知りたいのかなー?」

 安芸国を支配する《武神》、毛利元就もうり もとなり公。愛称は「もっちゃん」。
 それがどう見てもちんちくりんな小学生で、しかも26歳と云う年齢であることは俄かに信じがたいが、それでも彼女が天乃華学園の教師であることは確実だ。またその立場上、与える情報は公正でなければならない。情報を入手するにはうってつけの相手である。

「全部といきたいところだけど、面倒くさいからこの三つについて頼む。
 ひとつ、宣戦布告から実際の合戦までの流れ。
 ふたつ、場所と時間。
 最後は、ルール上、禁止されている項目についてだ」

「はいはい、わかりましたよー。
 でも織田さん? そういった基本的な事はせんせー、入学前にレクチャーしたと思うけど」

「うん、聞いてなかった」

「あはははー、次にその台詞を口にしたら命が無いと思ってくださいねー♪ 
 ……てめえ公務員の薄給舐めんなよ」

 額に青筋を十文字に浮かべるもっちゃん。給料の額について大いに不満があるようだが、それなら居酒屋ハシゴするのを辞めろよと言いたいが黙っておいた。

「はあ……仕方ありませんね。じゃあ手短にいきますよ?
 先ず一つめ、宣戦布告から実際の戦闘までの流れに付いて復習しちゃうぞー!
 天乃華学園の生徒には全員《交戦権》が付与されていることは知ってますね? これは相手が誰であっても代理闘争を行うことができるという公的な権利なんですよー」

「相手が誰でもってことは、それが自分の味方であっても良いということか」

「はい正解―! 詳しく話すと長いから、《交戦権》についての説明は割愛しますよー。
 それで、その《交戦権》を使って他の《武神》に代理闘争を挑んだ場合、受ける側に拒否権は与えられないの。実際の戦争と同じですね―。例え主君が病気や怪我で入院していたとしても、喧嘩を売られたからには買わなきゃいけない。悲しいけどこれ、法律なのよね……」

「そいつはその……中々ハードだな」

 学園社会における合法的な闘争と聞いて、スポーツ的なものを想像していたのだが、現実はそれほど甘くなかったようだ。普通の学校ならば体調を崩したところで、困るのはせいぜい授業を受け損ねて勉強が遅れることくらいだが、ここ天乃華では自分が背負う領土の危機に繋がるらしい。
 さらに問題なのは学園と云う環境上、当主の体調などの内部情報は比較的簡単に漏洩してしまうことだ。例え学内で私闘が禁止されているとは云え、弱みを見せれば他の《武神》が《合戦》を挑んでくる――実にスリリングな学園生活もあったものである。

「ふふん。こんなもの、実際の戦乱期に比べれば温い温い。
 ……とは云え、天乃華はあ・く・ま・で教育機関ですからねー。血で血を洗うリアル抗争は求められていないのです。それはさておき、説明を続けますね?」

「おう、だが喉も乾いたな。
 何か飲み物を買ってくるから、もっちゃんが飲みたいものを教えてくれ。俺の奢りだ」

 財布を取り出して中身を確認すると、思ったより小銭が入っていた。

「おおう、織田さんは気が効きますねー。じゃあせんせーはファンタのグレープで」

「俺は午後ティーのミルクな、サル」

「あいあいさー……って、挨拶も無しにいきなりパシリを命じますか殿はっ!? 
 その前に気付いて、それがしの愛と存在に!」

「悪い、どちらも見えなかった」

「愛は見えるものと違うであります! それより殿、わざわざ迎えに来た可愛い部下に労いのチューを! 
 舌を入れてもそれがし構いませんぞ?」

「邪魔だから帰れ。ああ、ジュースはちゃんと買ってこいよ」

「しどい!」

 本人が言ったとおり、説明の最中に高等部の校舎までやって来た藤吉郎。
 パシリを命じて早々に追い払ったが、あいつのことだ。すぐに戻ってきて俺にまとわりつくことだろう。
 だから今の内に、出来る限り情報を聞き出しておく必要がある。あいつが側にいるとどうにも話が脱線しやすいからな……

「――それで、《合戦》はどうやって教師に申請するんだ? まさか書類に描いて出すとか?」

 自分で言ってから、間抜けな話だなと思う。

「あははー♪ それだと緊張感が薄れますねー。
 そんなことしなくても、首にかけてるそれを使えばすぐにできますよー」

 そう言ってもっちゃんが指し示したのは、学生証をはめ込んだIDタグだった。

「そのタグ、せんせーたちは《武神》タグと呼んでいるんですけどね。
 前にも教えたようにその《武神》タグには生徒の詳細な個人情報が記録されていて、《レイ・ネット》への接続機能も備えているんです。ですから《武神》タグから《レイ・ネット》に接続することで、いつでもダイレクトに代理闘争を申請できるんですよー」

 もっちゃんの説明を聞いて、俺は今朝の信友の行動を思い出していた。
 確か彼女も自分の《武神》タグを掲げながら、俺に宣戦布告をしてきた。そのことを話すと、もっちゃんは「うんうん」と頷き

「《武神》タグには個人識別機能も付いてますからねー。信友さんのように《武神》タグに指を押し当てて、あとは音声で代理闘争を行う旨を告げればオッケー♪
 別にそんなに難しいことじゃないのです。た・だ・し……合戦を申告した場合、相手にも《レイ・ネット》を通じて宣戦布告が強制的に行われるんですよー。そうでもしないと合戦場の用意とか、不意打ち横行で収拾が憑かなくなってしまいますからね」

 試しに自分の《武神》タグを操作してみると、確かに信友から代理闘争を挑まれたと云う情報が、日時と共に表示されている。

「あとは指定された日時に《合戦場》に赴くだけ。これが宣戦布告から《合戦》までの流れですねー。
 ちなみに《合戦》が行われるのは学園内の《合戦場》だけ、時間は放課後か休日に限られています。
 そんな訳で《合戦》する時は最低でも前日の午前中までに申請してくださいねー。それ以降はせんせーたちが強制的に日時をずらしちゃいますので」

「了解。で、三つめに聞いたことなんだけど、ルール上禁止されている項目は?」

「はいはい。とりあえず原則的に禁止されているのは武器・防具・各種兵器の持ち込み禁止ですねー。
 ナイフ一本、弾丸ひとつ持ち込んだ時点で《合戦場》の使用許可が取り消されます。他に武装として代用できる日用品まで挙げると際限が無いので、原則的に制服と学園指定の着用品、一般的な装飾品以外は持ち込み禁止です」

「制服で戦うのかよ? まあ鎧とかそういうのは必要ないけどさ」

「もちろん、体操着や水着でも可能ですし、何なら下着姿でも構いませんよ―、うふふ。
 ……まあ、男の子がいないのにサービスしても仕方ないんですけどね」

「そりゃまた素晴らしい……ああいや、何でもない。
 とにかく脱ぐのは構わないが、制服以外の着用は禁じられている訳か」

「そうですねー。まあ実際に《合戦》してみれば分かりますけど、制服もなかなか悪く無いものですよ?」

 もっちゃんはそう言うが、天乃華の制服は一般的なブレザータイプで、肩や肘の部分は思った以上に動きやすく作られているのだが、何せ生地からして高級な一品なのだ。破れたり汚したりしても、替えはせいぜい一着くらいだし、戦いの最中に制服の心配までしたくはない。
 それでも、それが「決まり」というなら従うしかない。どうせ脱ぐことになるだろうしね。

「それ以外の禁止事項は特にありませんね。一応顔面への積極的な攻撃は避けるように言ってますが、そこまで悠長な事言ってられませんから、一種の淑女協定だと思ってね?」

「分かった。明文化されているのはそれだけなんだな?」

「はい、ですから織田さんもよーく考えて、合戦に挑んでくださいね☆」

 もっちゃんが説明してくれた合戦の基本的なルールを、簡単にまとめると以下のようになる。

 一、《合戦》を行うのは学園内の《合戦場》に限られ、日時は放課後と休日のみ。それ以外の闘争は原則として禁止されている。
 二、《合戦》を挑まれた側には拒否権が存在しない。相手が休校中でもそれは変わらない。
 三、《合戦》を行うには前日の午前中までに申請して許可を得る必要がある。それ以降は学園側で開催日時をずらされてしまう。
 四、《合戦》時は制服と学校指定の着用品以外の持ち込みは厳禁。

 学園で行うだけあって、スポーツじみた決まりが存在しているが、これを額面通りに受け止める必要はないだろう。特に武器の持ち込みを禁止しているからと言って、必ずしも素手で戦う必要はないのだ。
 何故なら俺たち《武神》には《武神技》――《地脈》の《力》を吸い上げて使用する、魔法の様な超常能力が備わっており、例えば俺の"し切り長谷部はせべ"はその銘を冠した刀を精製することができる。
 但しそれはあくまで個人の身体的能力であり、決して武器ではない――と言い張ることも可能だろう。明文化されたルールは具体的なだけに、それ以外の事項を禁じられないと云うレトリックが通用してしまうのだから。

「他に聞きたいことはありますか? もうここまで来たらせんせーも付き合っちゃいますよ?
 あ、でもプライベートな質問は勘弁してね☆ それでも聞きたいワルイ子ちゃんは、ここにアクセス!」

 もっちゃんが懐から取り出した名刺には、《レイ・ネット》内のアドレスがQRコードと共に印刷されていた。

「実は先生、ブログやってるんですよー。毎日更新してるから気軽にアクセスしてくださいねー。
 ちなみに踏み逃げと読み逃げは禁止だぞ☆」

「しねえよ、絶対」

 内容以前の問題でな。

「それよりありがとな、もっちゃん。いきなり喧嘩売られても、天乃華でのルールは知らなかったからさ」

「いえいえー。これもせんせーの仕事ですからねー。……で、勝ち目はあるんですか?」

 《合戦》が申告制である以上、俺が抱える事情を見抜いていたのだろう。
 含むような視線で問いかけるもっちゃんだったが、俺は物怖じすることなく答えた。

「負けはしないよ」

「そーですかー」

 もっちゃんは笑顔で頷き、その場を去っていった。俺の言葉はけっしてハッタリではない。そうと言いきれるだけの根拠――は無いのだが、揺るぎない確信だけが胸の奥に宿っている。
 だが、それだけでは決して勝てない。
 やることは理解した。あとは、やるべきことを済ますだけだ。

「と、殿ぉ~~~~~、お、お待たせしたであります~~」

 両手に三本のジュースを抱えて、藤吉郎が戻って来たのはそれからすぐのことだった。

「――ってあれ? あのガキちゃま教師は何処に? 人をパシらせておいて良い度胸してますな」

「もっちゃんならもう戻ったぞ。それよりサル、そのファンタはお前にやるよ。責任もって片付けろよな」

 藤吉郎からミルクティーのペットボトルを受け取り、俺は先に歩きだした。
 どうせもっちゃんとは犬猿の仲の藤吉郎のことだ。ここに来るまでファンタの中身を相当シェイクして、暴発するように仕掛けてあるだろう。そんなものを渡されてはたまったものじゃないし、万が一にも破裂したら巻き添えを喰らいかねない。

「ま、待ってくだされ殿~、ほーら、このファンタ人肌で温まってもう今が飲み頃ですぞー! 
 蓋を開ければグレープの芳しいかほりが……って、しまったぁーーーーーーーー!」

 背後から悲鳴が聞こえたが無視して歩く。
 悪いな藤吉郎。俺、ファンタはピーチしか飲まないことに決めているんだ。





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