人の脳・神経、機能と構造
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中枢神経系
  人のからだを構成する無数の細胞や組織が、人間として秩序ある生命活動を営むためには、これらの細胞や組織が連携してその機能を調整する必要がある。
 脳神経系は、思考・記憶・運動・感覚等に関係する脳脊髄神経(動物神経系)と、主として内臓器官の調整に関する自律神経(植物神経系)とに大別される。脳脊髄神経はさらに中枢神経系(脳・脊髄)と末梢神経系(脳神経・脊髄神経)から、また自律神経は相反する2つの神経、すなわち交感神経と副交感神経からなる。脳や脊髄には自律神経の中枢があり、それぞれ近くの末梢神経に自律神経線維を送っている。神経系は生命活動を行う為、全身くまなく網の目のように分布している。神経系は身体末梢からの刺激を受けとり、これに対する反応を末梢に伝える中枢神経系central nervous system と、中枢神経系と身体末梢とを連絡し、神経刺激の伝達を司る末梢神経系peripheral nervous systemとからなる。
神経系 脳脊髄神経(動物神経系) 中枢神経系
脊髄
末梢神経系 脳神経
脊髄神経
自律神経(植物神経系) 交感神経
副交感神経
1 神経組織
 神経組織 nervous tissue は、神経細胞 nervecell(またはニューロン neuron)とそれを支持・栄養する神経膠細胞とで構成される。神経線維は広く全身に分布しているが、大部分は頭蓋と脊柱管の中に収められている。頭蓋内にあるのが脳brain、脊柱管内にあるのが脊髄spinal cord であり、両者を合わせて中枢神経系central nervous system という。一方、それ以外の身体各部に広がっている神経を総称して末梢神経系peripheral nervous system という。中枢神経系は末梢からの求心性情報を処理し統合して遠心性の神経に伝達し、再び末梢へ情報を送る場所である。すなわち、中枢神経系は末梢神経系を駆使して身体機能を神経性に統合・調節する部位であるといえる。
(1)神経細胞(ニューロン)
 神経細胞は、細胞体 cell body(核周部 perikaryon)と樹状突起 dendrite および軸索axon(神経突起neurite)という2種類の突起からなる。そのうち樹状突起は、刺激を細胞体の方向へ伝え、軸索は神経細胞の興奮を細胞体と反対の方向へ伝える。神経系は無数のニューロンがお互いに鎖状に接続してできている。このようなニューロンとニューロンとの接続部をシナプスsynapseといい、ここで一つのニューロンから他のニューロンヘ興奮の伝達が行われる(同一神経細胞内で興奮が伝わることを伝導conduction、シナプスを介して興奮が伝わることを伝達transmissionという)。 神経細胞の形は星形、錐体形、紡錘形、球形とさまざまであるが、一般にほかの組織の細胞に比べて大型のものが多い。しかし例外として、小脳には小顆粒細胞という赤血球よりも小さなニューロンがあるし、大脳にはベッツBetzの細胞という150μm以上の大きなニューロンがある。 ニューロンは突起の数によって、単極unipolar、双極bipolar、偽単極pseudounipolar、多極multipolarの4つに分けられる。このうち双極ニューロンは細胞の両極から樹状突起と軸索を1本ずつ出し、偽単極ニューロンは双極ニューロンの2本の突起が根部で合一して1本になっている。そして偽単極ニューロンも樹状突起と軸索を1本ずつ出し、また多極ニューロンは、1本の軸索と2本以上の樹状突起を出している。
 軸索は、その末端部以外を神経膠細胞(中枢神経系では希突起膠細胞oligodendroglia、末梢神経系ではシュワン細胞Schwann's cell )で包まれている。このように、神経膠細胞に包まれた軸索を神経線維nerve fiber という。シュワン細胞は、脳や脊髄以外の末梢神経線維にみられる神経膠細胞で、神経線維が損傷・切断されたとき、その再生に重要な役割を果たす。神経膠細胞が軸索を包む場合、その細胞質は薄く引きのばされて軸索の周囲を幾重にも取り囲み、ついには同心円状の層板構造になり、これを髄鞘myelin sheathという。そして髄鞘をもつ神経線維を有髄神経線維myelinated nerve fiber という。一方、神経膠細胞が髄鞘をつくらず、直接に軸索を包んでいるものを無髄神経線維unmyelinated nerve fiber という。有髄神経線維は、脳・脊髄の白質や脳・脊髄神経にみられ、無髄神経線維は自律神経や、脳・脊髄の灰白質にみられる。末梢の有髄神経線維を取り囲むシュワン細胞の層をシュワン鞘Schwann's sheathという。また、髄鞘は神経膠細胞の境い目では不連続になっていて、ここをランヴィエの絞輪node of Ranvier という。
 ニューロンの細胞体はチオニンthionineのような塩基性染料で染めると、細胞質の一部が濃く青色に染まり、虎の斑紋のようにみえる。これをニッスル小体Nisslbody(虎斑物質tigroid substance)といい、その本体はよく発達した粗面小胞体の集まりで、ここで盛んに蛋白合成が行われる。ニッスル小体は神経細胞が変性したり、軸索が切断されたりしたときに消失することがある(虎斑溶解tigrolysis)。
 ニューロンとニューロンの接続部をシナプスsynapseという。そしてシナプス前の軸索末端には、カテコールアミン、アセチルコリンなどを含む小滴(シナプス小胞synaptic vesicle)が含まれている。これらの神経伝達物質neurotransmitterが軸索の末端部から放出されることが、神経の興奮伝達に重要な役割を果たす。シナプス部では、神経の興奮は軸索から他のニューロンヘ伝わり、けっして逆の方向へは伝わらない。 知覚神経が組織の末端に終るとき、特別な構造をもたず枝分かれして終るもの(自由終末free ending)と、特別な構造をもって終るもの(終末装置end apparatus)とがある。その装置には、触覚を感じるマイスネル小体Meissner's corpuscleや、圧覚を感じるパツチーニ小体Pacinian corpuscleなどがある。また、運動神経が骨格筋線維に接続するところ(神経筋接合部neuromuscular junction という)では、楕円板状の運動終板motor end plateがみられる。
(2)神経膠細胞
 神経膠細胞neuroglial cell (神経膠neuroglia)には3つの系統がある。
 1.中枢神経系、すなわち脳・脊髄の内部にあって、神経細胞を支持・栄養する星状膠細胞astroglia(astrocyte)、有髄線維の髄鞘をつくる稀突起膠細胞oligodendroglia、そして血管の周囲に分布して食作用を営む小膠細胞microglia(オルテガHortega細胞)である。
 2.末梢神経系にあるシュワン細胞と、末梢神経節内にあって神経細胞を取り囲んで支持・栄養する衛星細胞satellite cell とである。
 3.脳室系に分布して脳を内部から支える脳室上衣細胞ependymal cell と、脳脊髄液を産生・分泌する脈絡叢上皮細胞choroidal epithelial cell とである。
 神経細胞は出生後はもはや分裂能力をもたない。したがって、外傷や病気などで神経細胞が破壊されても再生しない。このようなときは、神経膠が盛んに増殖して、損傷部を補うのである。
2.神経系の発生と区分
 脳と脊髄(中枢神経系)は、外胚葉性で、中腔の神経管neural tubeから発生する。神経管の前方部からは、前・中・後脳胞anterior、middle and posterior brain vesicles という3つの膨らみができる。発生がすすむにつれて、前脳胞は終脳telencephalon(大脳半球cerebral hemisphere)と間脳diencephalonに、中脳胞はそのまま中脳mesencephalon(mid brain)に、そして後脳胞は腹側の橋pons、延髄medulla oblongata と背側の小脳cerebellumになる。また、神経管の後方部は、延髄に続く脊髄spinal cordをつくる。人では終脳がとくによく発達していて、左右に大きく膨らんで左右の大脳半球を形成する。中脳、橋、延髄を総称して脳幹brain stem という。小脳はこの脳幹の背側にあり、その上面はほとんど大脳半球で覆われている。
 神経管から脳、脊髄ができるとき、その内腔は変形して脳、脊髄のなかに腔所として残る。これが脳室と中心管である。脳室ventricleのうち、左右の大脳半球内にあるものを側脳室lateral ventricle、間脳にあるものを第三脳室third ventricle、中脳にあるものを中脳水道cerebralaqueduct(シルビウスSylvius)、そして橋、延髄、小脳によって囲まれたものを第四脳室fourth ventricleという。また、脊髄の中を通るものを中心管central canalという。これらの脳室と中心管の内面は脳室上衣細胞で覆われている。そして側脳室、第三脳室および第四脳室の上衣細胞の一部は、毛細血管とともに脈絡叢choroid plexus を形成している。この脈絡叢は脳脊髄液cerebrospinal fluid(髄液) を産生・分泌するが、側脳室→第三脳室→中脳水道→第四脳室の順に流れた脳脊髄液は、第四脳室の正中口(マジャンディーMagendie)と左右の外側口(ルシュカLuschka)から脳室の外に出たあと、脳と脊髄の表面を取り巻くクモ膜下腔を灌流する。クモ膜下腔の髄液は頭蓋内の静脈洞を通って静脈中に吸収される。したがって、血液中のイオン濃度の変化などが髄液にも敏感に反映される。とくに血中の酸素や炭酸ガスなどの変化が速やかに髄液中にも現われるので、呼吸の中枢化学受容器が髄液のガス成分に反応することは生理的に非常に有意義である。人の髄液は、総量で約100〜250 ml、pHは7.5、イオン濃度、浸透圧は血漿とだいたい等しいが、蛋白質濃度はかなり低く、0.002%程度である。
 神経管から発生する脳、脊髄の壁の厚さは部位によって大きな差異がある。また、その壁のうち神経細胞が多数集まっているところは、肉眼的に灰色にみえるので灰白質gray matter という。この灰白質は大脳半球や小脳では壁の表層にあり、大脳皮質cerebral cortex、 小脳皮質cerebellar cortexという。一方、脊髄の灰白質は、壁の内部に集まってH状をしている。また、脳幹の灰白質は、壁の内部に分散していて、これを神経核nerve nucleusという。神経核は、脳幹のみでなく大脳や小脳の深部にもある。一方、灰白質以外の肉眼的に白くみえるところは白質white matter で、これは有髄神経線維の集まりである。
 末梢神経の一部に、神経細胞が集団をつくってコブ状にみえる所があり、これは神経節nerveganglionという。また末梢神経のうち、神経線維が多数集まったり枝分かれしたりして、互いに交通・吻合するものを神経叢nerve plexus という。
3.髄 膜
 脳と脊髄は3層の結合組織性被膜、すなわち髄膜meningesで包まれている。そのうち最外層の強靭な膜を硬膜dura mater、 その下の膜をクモ膜arachnoid、脳・脊髄の表面を直接覆う血管に富む薄い膜を軟膜pia mater という。また、この構造は脊髄でも同じである。クモ膜と軟膜は無数の細い結合組織の繊維で結合されており、両膜の間には、クモ膜下腔subarachnoid space という脳脊髄液で満たされている。
 脳の硬膜は、発生学上2葉からできている。そのうち外葉は、頭蓋骨内面の骨膜であるが、頭蓋骨とは密着していない。一方、内葉は脳の表面に沿って分布している。この内・外両葉は、硬膜静脈洞が分布していないところでは、密着して1枚になっている。また、硬膜は左右の大脳半球の間に大脳鎌falx cerebri、 左右の小脳半球の間に小脳鎌falx cerebelli、 そして大脳後頭葉と小脳との間に小脳テントtentorium cerebelliという3つの膜状突起を出している。
 硬膜静脈洞venous sinus of dura mater は、脳から帰る静脈血の主要な通路であり、上・下矢状洞superior and inferior sagittal sinuses、 海綿洞cavenous sinus、 上・下錐体洞superior and inferior petrosus sinuses、 直洞straight sinus、横洞transverse sinus、 S状洞sigmoid sinus などがある。いずれも頸静脈孔jugular foramen を出たあと、内頸静脈に注ぎ込む。
 脳脊髄液は、第四脳室の3つの孔から脳室を出たあと、クモ膜下腔に注ぐ。そしてクモ膜下腔を灌流したあとの脳脊髄液は、大脳鎌の上端に点在し、上矢状洞内に頭を突っ込んでいる多数のクモ膜顆粒arachnoid granulation(パキオニPacchioni)を通って静脈血に合流する。クモ膜下腔は随所で広くなって、クモ膜下槽subarachnoid cisternsを形成する。その主なものとして、小脳と延髄の間の大槽cisterna magna (小脳延髄槽cerebellomedullarycistern)、大脳後頭葉と小脳の間の上槽superior cistern、橋槽pontine cistern、 脚開窩槽interpeduncular cistern、 迂回槽ambient cistem、 視交叉槽chiasmatic cisternなどがある。
4.脊 髄
 脊髄spinal cordは脊柱管の中にあって、その全長は40〜45 cm、 太さは小指大の索状物で、部位によって頸髄、胸髄、腰髄、仙髄および尾髄に分けられる。脊髄の断面は、肉眼的に白くみえる周辺部の白質white matterと、灰色でH形をした中心部の灰白質gray matterに分けられる。白質は神経線維(神経の伝導路)の集まったところであり、灰白質は神経細胞の集まったところである。 灰白質をH字形の角によって前角anterior(ventral)horn、後角posterior(dorsal)hornと名づける。そして前角からは、前根anterior(ventral)rootを通って運動神経が出ており、後角へは後根posterior(dorsal)rootを通って知覚神経が入っている。このように運動腺維が前根から出て、知覚線維が後根へ入ることをベル・マジャンディーBell-Magendieの法則という。白質は脊髄の灰白質を囲む部分で、脳から末梢に向かう下降伝導路と、上行伝導路がある。下行路には随意運動を司る経路である錐体路および無意識的な運動調節を行う神経路があり、上行路には各種感覚を伝える伝導路がある。
 脊髄の中央部には前・後に裂け目があり、前にある前正中裂anterior median fissure はとくに深く切れ込んでいる。なお、前根には運動性の自律神経線維が混ざっている。これは胸髄から腰髄上部にかけて分布する中間灰白質が、わずかに外側に突き出した側角lateral horn (交感神経細胞の集まり)からの線維で、前根を出たあと脊柱の両側に分布する交感神経幹sympathetic nerve trunk に連なる。後根へ入る知覚神経(偽単極ニューロン)は、脊髄神経節spinal ganglion 内に細胞体を有し、2本の長い突起を有する。そのうち1本は末梢の刺激をうけ、他の1本は脊髄後角に入り込む。後根へ入る線維は、中間灰白質から前角の細胞に直接終ったり、後角の細胞に連絡したあと、介在ニューロンを経て他のニューロンに連絡したりする。
 白質は、主として多数の縦走する有髄線維からなり、前根と前正中裂との間にはさまる部分を前索anterior(ventral)funiculus、前根と後根とにはさまれた部分を側索lateral funiculus、 後根より後方の部分を後索posterior(dorsal)funiculusという。前索は下行神経路(錐体前索路、内側縦束、外側前庭脊髄路、橋網様体脊髄路、視蓋脊髄路)、上行神経路(前脊髄視床路)および固有束が通る。側索は下行神経路(錐体側索路、赤核脊髄路、延髄網様体脊髄路)、上行神経路(前・後脊髄小脳路、脊髄視蓋路、外側脊髄視床路)および固有束が通る。また、後索は固有知覚proprioceptionの主要な伝導路をなしていて、頸髄のレベルでは細い溝で、内側の薄束gracile fasciculus (ゴルGoll束)と外側の楔状束cuneate fasciculus (ブルダッハBurdach束)に分けられる。
5.脊髄神経
 左右の脊髄前角・後角からは、それぞれ運動線維と感覚繊維が脊髄前根および後根となって発し、それぞれの側で合流して脊髄神経となる。脊髄神経は、頸神経8対・胸神経12対・仙骨神経5対・尾骨神経1対からなる。これらの神経は推問孔から脊柱管の外に出て複雑な神経叢をなす。すなわち頸部には頸神経叢と腕神経叢があり腰仙部には腰神経叢と仙骨神経叢が、また尾骨には陰部神経叢と尾骨神経叢がある。
 交感神経は、胸髄・腰髄の灰白質に発し脊髄前根を経て交感神経節にはいる。交感神経節は脊柱に沿って鎖状に連なり(交感神経幹)、頸部には上・中・下の頸部交感神経節がある。このうち下頸部交感神経節は星状神経節とよばれ、ここからの線維は頸部の血管・瞳孔・涙腺・唾液腺などに分布している。その他、交感神経は心臓・大動脈・気管支に分布して腹部では腹腔神経節と上および下腸間膜神経節が消化管・膀胱・性器などの機能を支配している。
 副交感神経は、脳幹と仙髄の灰白質に発し、主として頭頸部や体幹の腺・内臓に分布する。動眼・顔面・舌咽・迷走などの脳神経にはこの系統の繊維がはいっているが、とくに迷走神経は強力で胸部・腹部臓器に広く分布している。一方、仙髄からの繊維は骨盤神経となり下部消化管・腎臓・膀胱・性器に分布する。視床下部は自律機能を支配する中枢といられるが、ほかに前頭葉下面・島・運動領周辺なども自律神経と関係が深い。
 自律神経の興奮の伝達は化学物質の放出により行われ、交感神経ではノルアドレナリン(内臓・血管)とアセチルコリン(汗腺)の2種類、副交感神経ではアセチルコリン(腺・内臓)による。これらの神経は同時に視床下部と関係が深く視床下部はまた下垂体後部と直接つなかっているので内分泌機能とも密接な関係をもつ。生体の自律機能は、このように自律神経系と内分泌系の双方によって調整されている。
6.中 脳
 中脳midbrainは、橋と小脳の上方に位置する部分、
中脳水道の背側部を中脳蓋tectum、中心部を被蓋tegmentumという。また腹側部は大脳脚cerebral peduncleという左右1対の白質の隆起でできている。中脳蓋には上下2対、計4個の半球状の隆起(四丘体)がある。そのうち上方のものを上丘superior colliculus、 下方のものを下丘inferior colliculusといい、それぞれ視覚と聴覚の反射中枢がある。被蓋は網様体を構成するとともに、錐体外路系extrapyramidal system の赤核red nucleus、 黒質substantia nigra のほか、動眼および滑車神経の核がある。大脳脚は、大脳皮質から下行する錐体路や錐体外路などの通路になっている。
7.橋
 橋ponsは、延髄と中脳の間にあり、その背側部は菱形窩の上半分にあたる。背側部は被蓋網様体を構成し、ここに脳神経の三叉神経、外転神経、顔面神経、内耳神経の諸核や孤束核がある。一方、腹側部には大脳半球の刺激を小脳へ中継する神経核(橋核pontine nuclei)のほか、延髄の上行性と下行性の伝導路が通る。
8.延 髄
 延髄medulla oblongata は、頭蓋内にあって脊髄のすぐ上に位置する部分、前正中裂の両側は、錐体路の線維が集合して長方形の塊、つまり錐体pyramisをつくっている。その外側に長さ1.5cmの卵円形の隆起(オリーブoliva)があり、その中に(下)オリーブ核(inferior)olivarynucleusが入っている。人のオリーブ核は、小脳とともに直立歩行に深く関わっている。延髄の腹側部は上行性および下行性伝導路(神経路)が通っており、背側部は第四脳室の底(菱形窩rhomboidfossa)の下半分をつくる。この背側部は被蓋網様体を構成し、その中に生命維持に重要な自律神経の諸中枢(呼吸中枢、心臓中枢、嘔吐中枢など)のほか、舌咽神経、迷走神経、副神経、舌下神経などの脳神経の核、味覚を司どる孤束核nucleus tractus solitarii、 固有知覚核(後索核nuclei funiculi posteriores)などが分布する。
 下行性伝導路のうち、随意運動を司る錐体路pyramidal tractは腹側部の錐体を通り、その大部分が延髄下端で交叉している。肉眼的に錐体交叉pyramidal decussation として認められる。よって右脳を障害すると左半身に障害が出る。上行性伝導路のうち固有知覚を司るものは、後索核を出たあと腹側部で内側毛帯medial lemniscusをつくり、間脳の視床へ連なる。さらにオリーブの内部に位置するオリーブ核は、小脳、核、脊髄と連絡していて、身体の平衡など無意識的、反射的な運動の調節に関与している。
9.脳幹の働き
 脳幹は大脳と脊髄の間にあり、解剖学的に脊髄に近いほうから延髄、橋、中脳に分けられるが、機能的にはすべて神経の連絡があり一括して脳幹という。脳幹には嗅神経と視神経を除くすべての脳神経の核が集まっているばかりではなく、生命維持に必要な基本的な中枢機能が存在している。
 [1]姿勢反射とその統合
 動物が姿勢を維持するためには伸筋と屈筋が同時に収縮し緊張を保っていなければならない。これは脊髄の反射では不可能で、脳幹の作用ではじめて成り立つものである。
 @持続性頸反射:頭を左に回すと左の上肢と下肢が延び、右の上肢と下肢が縮む反射である。あたかも弓を引くときの姿勢である。
 A持続性迷路反射:空間における頭部の位置関係によって伸筋の緊張が支配される反射をいう。
 B立ち直り反射:ネコを逆さに落とすと、空中で姿勢を立ち直らせて着地するような反射をいう。
 [2]自律神経中枢
 @呼吸中枢:呼息ならびに吸息の中枢が延髄網様体にあり、さらに橋に上位の呼吸調節中枢がある。
 A心臓中枢:心臓抑制中枢と心臓促進中枢があり、これらによって心拍数が調節されている。
 B血管運動中枢:橋から延髄にわたる網様体にあり、末梢血管を収縮させて血圧を上昇させる。
 C消化に関する中枢:消化管運動および消化液分泌はこの部で統合されている。すなわち、唾液分泌、嚥下、嘔吐などの反射中枢がある。
 D発汗中枢:脊髄の発汗中枢に対する二次中枢がある。
 E排尿中枢:仙髄の排尿中枢に対して、橋に促進野があり、中脳に抑制野がある。
 [3]眼に関する中枢
 @光反射:眼に光を当てると瞳孔が縮小する。反射弓は視神経、中脳(動眼神経核)、副交感神経である。
 A眼瞼反射および角膜反射:急に眼に物が近づいたり、角膜が刺激されると眼瞼が閉じる。反射弓は視神経、三叉神経、中脳、動眼神経である。
 [4]脳幹網様体
 網様体は脳幹全域にわたって存在し、神経細胞と神経線維が網の目のように絡まり合って複雑な構造を呈している。網様体は運動の調節や、生命の維持のための神経性調節を司るばかりでなく、いろいろの感覚刺激を受けるとともに大脳皮質にインパルスを送り賦活化している。これを上行性網様体賦活系といい、この系によって意識を保持し、そのレベルを調節している。
10.脳神経線維
12対の脳神経はそれぞれ固有の神経をもち、それらは特有の局在を示すので脳神経の障害はその病変の部位を知るうえで意味が大きい。第T(嗅神経)鼻腔上部にある鼻粘膜の嗅細胞から発する嗅糸は篩骨板を通って前頭葉下面の嗅球にはいる。第U(視神経)下垂体背部で線維の内側は交差(視交叉)し反対側の非交叉線維とともに合一して視索となり中脳四丘体・側頭葉を経て後頭葉の視中枢に終わる。第V(動眼神経)・第W(滑車神経)第Y(外転神経)外眼筋のうち第Wが上斜筋を、第Yが外直筋を、第Vの動眼神経が残りの諸筋を支配する。これらの神経は脳低部から眼窩内にはいり、それぞれ支配する筋肉にいたる。第X(三叉神経)咬筋(咀嚼に関する)を支配する運動線維と顔面の感覚を支配する感覚線維とからなる。橋から脳低部にあらわれるが、その核は脳幹を通る。眼枝・上顎枝・下顎枝がある。第Z(顔面神経)顔面表情筋を支配し、舌の前2/3の味覚を支配する。核は橋にある。なお、前額部の筋は両側顔面神経の、また顔面下2/3の表情筋は一側顔面神経のそれぞれ支配下にある。第[(聴神経)蝸牛から蝸牛神経と半規管から前庭神経からなり、延髄上部・橋・中脳・側頭葉に及んでいる。第\(舌咽神経)第](迷走神経)喉顔・咽頭の諸筋をするとともに、舌咽神経は舌後1/3の味覚にも関係する。迷走神経は心臓、肺、消化管に分布する副交感神経線維からなっている。第]T(副神経)胸鎖乳突筋・僧帽筋を支配する。第]U(舌下神経)舌の運動を支配する。第\〜第]U神経は延髄に発する。
11.小 脳
 小脳cerebellumは、橋と延髄の背側にあり、その上面は大脳後頭葉が覆いかぶさっている。正中部の小さなくびれを虫部vermis、外側の大きい半球状の部分を小脳半球cerebellar hemisphereという。小脳の表面には、横に平行に走る多数の溝(小脳溝cerebellar fissure)がみられる。そのうち特定の溝は深く切れ込んで、小脳小葉(小脳回が集まったもの)を形づくる。人の小脳は、深い水平裂horizontal fissureによって上面と下面に分けられる。また、虫部とそれに対応する半球は9つの小葉に区別できる。
 一方、小脳を系統発生的にみると、前葉anterior lobe、後葉posterior lobe、 片葉小節葉flocculonodular lobe の3部に分けられる。そして前葉と後葉は第一裂primary fissureで境される。そのうち片葉小節葉は、系統発生的にもっとも古くて原始小脳archicerebellumといい、前庭系との結びつきが強い。前葉は系統発生的に古く、古小脳paleocerebellumといい、脊髄小脳路、副楔状束核小脳路、オリーブ小脳路、網様体小脳路などを受け入れる。また、後葉は系統発生的にもっとも新しく、新小脳neocerebellumという。後葉のうち半球部は虫部より新しく、視床、橋核、オリーブ核などを介して大脳半球の新皮質と連絡する。
 小脳の表層は灰白質で皮質といい、内部は白質で髄質という。髄質の深部には小脳核cerebellar nucleiという4対の神経核(室頂核fastigial nucleus、球状核globose nucleus、栓状核emboliform nucleus、歯状核dentate nucleus)がある。このうち球状核と栓状核は中位核nucleus interpositusともいう。室頂核は第四脳室の室頂にあるきわめて古い神経核である。一方、歯状核は、他の神経核に比べて新しく、動物が高等になるにつれて発達がよくなる。歯状核はシワシワの袋状をしていて、その出口は歯状核門といい、この核から起こる神経線維の通路になっている。これらの小脳核から出る遠心路には、歯状核や中位核から起こる小脳視床路、小脳赤核路、室頂核から起こる室頂核延髄路、室頂核脊髄路などがある。
 小脳核は、小脳皮質のプルキンエPurkinje細胞から抑制性線維を受けている。これには局在性が認められ、原則として虫部皮質は室頂核に、虫部傍皮質は中位核に、また半球部皮質は歯状核に線維を送っている。これに対して興奮性線維がオリーブ核、外側網様体核、前庭神経核、脊髄などから入ってくる。そしてこれらの求心性線維は、局在性をもって小脳核に終る。
 小脳は、小脳脚cerebellar pedunde によって、中脳、橋、延髄と連絡している。これは小脳を出入りする神経路そのものの集まりで、上・中・下の3つの小脳脚からなる。
 小脳には深部感覚器、耳、眼から線維がきており、筋緊張・平衡機能、協調運動・姿勢反射の総合的な調整を行っているとともに、随意運動の調整を行う。すなわち、小脳は絶えず姿勢に関与する筋肉に信号を送ることによって筋肉へのよけいな刺激を抑制し、運動を円滑に行えるようにしている。小脳の疾患では、運動失調・筋緊張低下・眼振などがみられる。
12.間 脳
 間脳diencephalonは大脳と中脳をつなぐ位置にある間脳には第三脳室を囲むようにして視床とその背後にある視床上部、腹側にある視床下部なと神経細胞の集合した部分があり、左右の大脳半球にはさまれている。第三脳室の側壁をなす大きな灰白質の塊が視床thalamus、視床の後上方が視床上部epithalamus、視床の前下方で第三脳室の底に相当する部分が視床下部hypothalamusである。また、視床下部の後方にあって、中脳の被蓋に続く狭い領域が視床腹部subthalamusである。
 [1]視床
 視床は、数種類の神経細胞の集団で構成されている。主なものに次のものがある。
 (l)前核(群)
 前核(群)anterior nuclei は、前端の視床前結節をなす。乳頭体や脳弓からの線維を受けたあと、大脳半球の帯状回に連なる。この核群は辺縁系の中継所で、情動の発現や記憶のメカニズムに関与する。
 (2)内側核(群)
 内側核(群)medial nudei は、内側髄板の内側にある核群で、背内側核が主な核。視床下部、扁桃体、淡蒼球、視床腹外側核群などからの体性・内臓性知覚の情報を統合し、前頭葉へ伝える。
 (3)腹外側核(群)
 腹外側核(群)ventrolateral nuclei は、視床枕の前方で、内側・外側髄板の間にある。主に脊髄や脳幹から上行する体性知覚の中継所である。ここから出る線維は大脳皮質の知覚中枢へ連なる。
 (4)後核(群)
 後核(群)posterior nudeiは、視床枕pulvinarと内側・外側膝状体medial and lateral geniculate bodiesからなる。そのうち視床枕は、体性知覚、視覚、聴覚の統合に関与する。また、内側・外側膝状体はそれぞれ聴覚と視覚の中継所に相当する。
 (5)横様核
 網様核reticular nuclei は、外側髄板と内包との間の視床網様体内にある核で、脊髄や脳幹の網様体に連なって、意識の調節を司る網様体系の最高中枢をなしている。なお、視床間橋などに分布する中心正中核centromedian nuclei も、網様核とともに視床網様体系を構成する。
 [2]視床上部
 視床上部epithalamusは、後交連posterior commissure、松果体pineal body、手綱habenulaからなる。そのうち手綱にある手綱核habenular nucleus は、視床髄条striamedullaris of thalamusを介して中隔核septalnucleiおよび視床前核から線維を受けたあと、手綱脚間路habenulointerpeduncular tract(マイネルトMynert)を介して中脳被蓋へ線維を送る。この神経回路は嗅覚反射路の一つを構成する。
 [3]視床下部
 視床下部hypothalamusには多くの自律性神経核がある。主なものを下表に示す。視床下部は、このような神経核によって全身の自律性機能(体温・水代謝の調節、性機能の調節、循環・呼吸の調節、睡眠と覚醒のリズムの調節など)に関与し、生命の維持、種の保存をおこなう。
 [4]視床腹部
 視床腹部subthalamusには、赤核前野prerubral field (フォレルForelのH野)、視床下核subthalamic nucleus(リュイLuy体)、不確帯zona incerta、 視床束thalamic fasciculus (フォレルのH1野)、レンズ束lenticular fasciculus(フォレルのH2野)などの神経核と線維束がある。不確帯は視床の外側にある視床網様体核の最下端部に相当する。これら視床腹部の神経核とその線維束は、大脳核、視床、中脳被蓋などと密接に連なり合って、骨格筋のさまざまな不随意運動の調節をおこなう。
13.間脳の働き
 [1]視床
 視床は嗅覚を除くすべての感覚伝導路の中継点である。外側膝状体は視覚に、内側膝状体は聴覚に関係しており、視床枕は聴覚と視覚の連合作用に関係している。視床にある感覚系以外の核(非特殊核)からは大脳皮質の全野に投射する線維系があり、これを広汎性視床投射系といい、意識の保持に重要な賦活系である。このほか視床は大脳基底核より線維を受け取り、大脳皮質運動野に線維を送っている。
 [2]視床下部
 自律機能の調節、下垂体のホルモン分泌の調節など、自律機能の総合中枢である。体温調節を司る温熱中枢と寒冷中枢、摂食調節を司る満腹中枢と空腹中枢、飲水に関係する飲水中枢などがある。また、恐れ、怒り、喜び、悲しみ、驚き、愛情、憎しみなどの情動表出の中枢もある。
視床下部の自律性神経核とその働き
視索前野 内側視索前野核medlal preoptic nucleus
外側視索前野核lateral preoptic nucleus
性欲中枢の一部
視索上野 視索上核supraoptlc nucleus
傍室核paraventricular nucleus
平滑筋の収縮、水代謝調節
視交叉上核suprachiasmatic nucleus 視床下部の活動リズムの調節
隆起野 腹内側核ventromedial nucleus
背内側核dorsomedial nucleus
食欲、体温調節、睡眠調節
引状核arcuate nucleus 性欲中枢の一部
乳頭体野 内側乳頭体技medial mamillary nucleus
外側乳頭体核lateral mamillary nucleus
辺縁系の機能に関与
14.大脳半球
 人の大脳は脳のうちもっとも大きい部分で、終脳の大部分を占める。その体積は中枢神経全体の70%以上ある。大脳は大脳縦裂longitudinal fissureによって、左右の半球に分けられており、脳梁corpus callosum によって連絡されている。大脳半球cerebral hemisphereは前頭葉frontal (anterior)lobe、頭頂葉parietal lobe、 後頭葉occipital(posterior)lobe、側頭葉temporallobeおよび島insulaに区分される。半球の表面には多数の大脳溝cerebral sulcusがあり、溝と溝の間の隆起した部分が大脳回cerebralgyrusである。前頭葉と頭頂葉の境にある深い溝は中心溝central sulcus (ローランドRolando溝)で、この溝の前方に中心前回precentral gyrus、後方に中心後回postcentral gyrusがある。前頭・頭頂葉と側頭葉との間の溝はとくに深く、外側溝lateral sulcus(シルビウスSylvius溝)という。また、頭頂葉と後頭葉は頭頂後頭溝parietooccipital sulcus によって境される。島は外側溝の奥にあって、前頭葉、頭頂葉、側頭葉によって覆いかくされているから、これらの各葉を押しのけないと外からは見えない。大脳半球の表面は、厚さ約3mmの灰白質の層(大脳皮質)からなる。また、半球内部は髄質であるが、その深部にも相当大きな灰白質の集団があり、これを大脳核cerebral nuclei という。
 脳全体の重量は体重のわずか数パーセントにすぎないが、脳を流れる血液の量は身体全体の20%で、酸素消費は20〜25%にも及ぶ。したがって、脳の血行を遮断すると、わずか1〜2分で意識がなくなり、痙撃や昏睡に陥るし、血行の遮断が数分以上にもなれば脳実質の不可逆的障害を引き起こす。脳内の毛細血管の膜透過性は他の組織と異なり、イオンに対する透過性が非常に低い反面、水、酸素、二酸化炭素などに対する透過性が非常に高い。なお、このように血液の物質のうち、特定のもの以外は容易に脳の中に入ることができない仕組みを血液脳関門という。これにより、脳内の神経細胞を取り囲む環境は常に一定に保たれている。
 [1]大脳皮質
 細胞構築の面からみると、大脳皮質cerebral cortexはごく一部分を除き、6層の細胞層からなる。その上、皮質内の神経細胞の大きさ、形、配列などは部位によって異なり、それぞれ異なった機能を営んでいる。つまり大脳皮質は、その部位ごとに構造上の差があるとともに、それに対応する機能的局在がみられる。
 (1)運動中枢
 運動中枢motor area (錐体路中枢)は、随意運動に関与する中枢である。中心前回とこれに続く半球の内側面にある。この中枢の身体部位的局在は、たとえば右手の運動中枢は左半球にあり、下肢の中枢は上肢のものより上方にある。この中枢から錐体路が出ている。
 (2)知覚中枢
 知覚中枢sensory areaは、皮膚知覚(触覚・温度覚・痛覚)や固有知覚(関節覚・筋覚・腱覚)などの体性知覚を司る中枢である。中心後回postcentral gyrus にあり、この中枢の身体部位的局在は運動中枢のそれとほぼ一致する。
 (3)視覚中枢
 視覚中枢visual area (有線領striate area)は、後頭葉の内側面にある鳥距溝calcarine sulcusとその付近の皮質にある。
 (4)聴覚中枢
 聴覚中枢auditory areaは、側頭葉の上側頭回の上面、すなわち外側溝の下面に一致する皮質(横側頭回transverse temporal gyrus)にある。
 (5)嗅覚中枢
 嗅覚中枢olfactory area は、前頭葉の下面にある嗅球olfactory bulb、 嗅索olfactory tract を含め、側頭葉の内側面前方にある海馬傍回parahippocampal gyrus や、扁桃体amygdalaなどに広く分布するらしい。
 (6)味覚中枢
 味覚中枢gustatory area は、中心後回の下方部(顔面知覚の領域)にあるとされる。
 (7)言語中枢
 言語中枢centers of speech には、運動性(ブローカBroca)、聴覚性(ウェルニツケWemicke)、視覚性の3中枢がある。そのうちブローカ中枢は、運動領域前方の下前頭回(area 44)にあり、ここが障害されると、発声器や筋が健全でも言葉を話すことができない(運動性失語症motor aphasia)。ウェルニッケ中枢は側頭葉の後端部(area 40)にあり、ここが障害されると、知らない外国語を聞いているようで、言葉を理解できない(感覚性失語症sensory aphasia)。また、視覚性中枢は頭頂葉の下方後部(area 39)にあり、ここが障害をうけると、文字を見てもそれを文字として理解できない(失読症alexia)。
 [2]大脳核(大脳基底核)
 大脳髄質の深部にある灰白質の塊りを大脳核cerebral nuclei という。これには尾状核caudate nucleus、レンズ核lenticular nucleus、 前障claustrum、扁桃体amygdalaの4種がある。このうちレンズ核と前障は視床の外側に位置する。そして尾状核は視床を前方、上方、後方から取り巻くように配列したあと、扁桃体につながっている。レンズ核は外側の被殻putamenと内側の淡蒼球globus pallidusとに分かれている。そのうち被殻は、尾状核と発生起源が同じであって、この両者をあわせて線条体striate body (striatum)とよぶ。線条体と淡蒼球は錐体外路系の主要な中枢であり、骨格筋の緊張や不随意運動の調節にあずかる。したがって、これらの神経核が障害をうけると、緊張性(パーキンソンPerkinson病)または開放性(舞踏病chorea、アテトーシスathetosis)の不随意運動が起こる。
 [3]大脳髄質
 髄質には左右の半球の皮質間を連絡する交連神経路commissural tract (例:脳梁、前交連)、同一半球内の皮質間を連絡する連合神経路association tract (例:上縦束、帯状束)、半球皮質を出入りする線維が小脳や脊髄などと連絡する投射神経路projection tract(例:皮質橋核路、視床皮質路)などがある。とくに投射神経路には、レンズ核と視床、またはレンズ核と尾状核の間の狭い通路を通っているものが多い。この狭い通路を内包internal capsule といい、脳の水平断面では「くの字形」をしている。ここを栄養する血管は出血しやすく、その結果、対側半身の運動および知覚麻痺、いわゆる半身不随hemiplegiaをきたしやすい。
 [4]大脳辺縁系
 大脳辺縁系limbic systemは、生命の基本的機能を司ることによって、自己保存や種族保存にあずかる脳である。その領域は、側脳室と第三脳室の周辺を取り囲むようにひろがっており、嗅覚に関与する部分(嗅球、嗅索、海馬傍回、扁桃体)のほか、帯状回、終板傍回、梁下野、海馬釆、中隔核、脳弓、歯状回、小帯回、脳梁灰白質などが含まれる。さらに、辺縁系と機能的な結びつきの強い前頭葉の眼窩面、側頭葉の前部、視床前核、手綱核、視床下部なども辺縁系の関連領域として考える必要がある。この辺縁系は嗅覚に与えるだけでなく、情動行動(恐れ、怒り、不安、抑うつ、温和化など)、本能行動(摂食反応や性的行動など)、さらには記憶の保持、覚醒度の調節など、生命維持に重要な機能にあずかっている。
15.大脳の働き
 [1]大脳皮質
 大脳皮質とは、大脳半球の表面の灰白質の部分をいい、約100億以上の神経細胞が含まれている。大脳皮質の神経細胞は縦横に結合しており、最外層に位置する新皮質と、新皮質の発生により内に押し込められた辺縁系とに区別される。辺縁系は原始的な機能を営む部位であり、固体維持や種族保存の本能などに関係する。一方、新皮質は人でとくに発運しており、運動や感覚に関係する機能が特定の部位に限局している。これを大脳皮質の機能局在といい、それらの主なものは以下のとおりである。
 @運動野:随意運動を司る中枢であり、中心前回と大脳縦裂に面した半球内側面にまたがる部分である。運動野の各部は身体の部位と対応している。微妙な運動をする部位と対応する運動野の部位は広い。
 A体知覚野:中心後回にあり、運動野同様反対側の半身の皮膚の感覚と深部感覚を司る。知覚野と身体各部位との対応は運動野とほぼ同じである。 
 B視覚野と聴覚野:ブロートマン第17野(後頭極)は視覚中枢であり、側頭葉外側溝に面する部分(第41、42野)は聴覚の中枢である。
 C味覚野と嗅覚野:体知覚野の下方には味覚中枢が、また前頭葉下面には嗅覚野がある。
 D連合皮質:前頭葉の広い部分で、人では非常によく発連している。連合皮質はいろいろな情報をもとに思考、推理などに基づいて判断を下すという高等な精神作用を行う部位である。
 [2]脳の機能
 (1)覚醒と睡眠
 人には覚醒と睡眠の周期があり、この周期は大脳皮質全域に対する情報の多寡によって決まり、覚醒の状態は網様体賦活系の活動状態によって制御されている。すなわち、網様体賦活系が活動している場合には覚醒状態となり、この賦活系の疲労による活動の停止が睡眠状態をつくり出す。この活動停止状態は一定期間持続し、疲労の回復により再び興奮性を取り戻すと覚醒する。完全な睡眠状態にあっても不意に呼吸や心拍数が増し、不随意の筋運動や、急速な眼球運動を起こすときがあり、このとき、たいてい夢もみている。このような睡眠状態をレム(rapid eye movement、REM)睡眠といい、1〜2時間間隔で現われ、約10〜30分間持続する。成人ではレム睡眠が全睡眠時間の20%程度であるが乳幼児では50%もある。
 (2)意識
 自分が現在何をしているのか、どんな状況におかれているのかなどを自覚しうる状態を意識があるという。覚醒は意識のある状態、睡眠は意識のない状態の典型である。
 (3)脳 波
 脳の活動は頭蓋の皮膚の表面において電極から周期的電位変動としてとらえることができる。これを脳波という。脳波には次のような成分がある。
 α波:約10 Hz の規則的な波で、安静時に現われる。振幅は50μV程度。
 β波:興奮時α波が消失すると現われる14〜30 Hz の不規則な波で、振幅は小さい(5〜30μV)。
 θ波:小児に出やすい。4〜7 Hz。
 δ波:小児脳波の基本成分であり、成人では睡眠時にみられる。0.5〜3 Hzの遅い波。
 (4)記憶
 脳内に保持されている情報を記憶という。記憶の形成には側頭葉が関与していると考えられる。記憶には情報が脳の中に数分間保持される短期的記憶と、何年もの間脳内に保持される長期記憶とがある。後者は、持続的なまたは反復的な入力情報によって獲得されやすい。
 (5)学習
 動物が過去の体験を記憶し、それをもとにして与えられた環境での行動を適応的なものに変化させる働きを学習という。
16.神経路(伝導路)
 脳や脊髄の各部にあるニューロンがお互いに連絡し合うことによって、個体の有機的な活動が可能になる。その有機的な結びつけを行う神経線維の束を、神経路(伝導路)nerve tract という。多数の伝導路のうち、主要なものについて述べておく。
 [1]錐体路
 錐体路pyramidal tractは、随意運動にあずかる伝導路である。すなわち、大脳半球の中心前回にある運動性ニューロン(巨大錐体細胞、またはベッツBetz細胞)が集まって下行し、内包→大脳脚(中脳)→橋底部→延髄維体に達する。そして、ここで大部分の線維は左右交叉(錐体交叉)したあと、脊髄の側索を下行し(錐体側索路lateral pyramidal tract、 または外側皮質脊髄路)、脊髄のいろいろな高さで前角細胞に連なる。一方、非交叉の線維は、そのまま脊髄の前索を下行しながら(錐体前索路ventral pyramidal tract、 または前皮質脊髄路)、いろいろな高さで交叉したのち、反対側の前角細胞に連なる。前角からは運動線維が出て、頭頸部を除く全身の骨格筋に分布する。このほか、中心前回からは運動性の脳神経核に連なる神経路が出ていて(皮質核線維corticonuclear fibers)、頭頸部の骨格筋を支配している。
 [2]錐体外路
 錐体外路extrapyramidal tract は、骨格筋の反射的、無意識的な運動を調節したり、筋緊張を調節することによって、錐体路とともに筋運動を円滑に遂行させる働きをする。その中心的な役割を演ずるのは、線条体striate bodyと淡蒼球globus pallidusである。これらの核は、中脳の赤核や黒質などと綿密な線維連絡をするばかりでなく、視床、視床下部、小脳、延髄オリーブ核とも直接、間接に接続して、全体として複雑にからみ合った神経路のネットワークを形成している。さらに大脳皮質の錐体外路中枢(area 6、8、9など)が、より高い次元で筋運動の調整に関与していることを忘れてはならない。これら錐体外路系のうち、大脳皮質→橋核→小脳皮質→小脳核→赤核→視床→大脳皮質と連なる一連の神経回路は、大脳皮質の随意運動支配に対する小脳の微調節作用のためのもので、人でよく発達している。
 [3]知覚性神経路sensory nerve tract
 (1)脊髄視床路
 脊髄視床路spinothalamic tractは、脊髄から視床に連なる表在知覚の神経路で、前脊髄視床路と外側脊髄視床路の2つがある。両者ともに後根の求心性線維は、脊髄に入るとすぐ後角の細胞に連なる(第1ニューロン)。後角からの線維はすぐ交叉して、対側の前索(前脊髄小脳路)と側索(外側脊髄小脳路)を通って脊髄を上行する。そして延髄の内側毛帯の背外側を通り、視床の腹外側核に連なる(第2ニューロン)。さらに第3ニューロンは、内包の前脚を経て知覚中枢(中心後回)に終る。この伝導路は、痛覚、温度覚のほか、識別力を伴わない触覚を伝える。
 (2)長後索路(触覚路と固有知覚路)
 後根の求心性線維は、脊髄に入るとそのまま同側の脊髄後索を上行し、延髄の後索核に連なる(第1ニューロン)。後索核を出た線維は、毛帯交叉したあと内側毛帯medial lemniscus を経て、視床の腹外側核に連なる(第2ニューロン)。さらに第3ニューロンは、内包の前脚を経て知覚中枢(中心後回)に終る。この伝導路は、筋・腱・関節からの固有知覚や、識別力を伴う触覚を伝える。
 (3)脊髄小脳路
 脊髄小脳路spinocerebellar tract (深部知覚路)は、脊髄から小脳へ連なる神経路で、筋・腱・関節などからの固有知覚を小脳へ伝える。後根の求心性線維は、同側の脊髄側索に出たあと上行する。そのうち前脊髄小脳路は、全身の固有知覚を小脳へ伝えるもので、胸髄あたりまで上行して後角固有核に連なる(第1ニューロン)。ついで同側または対側の側索を上行して、橋、上小脳脚を経て小脳に終る(第2ニューロン)。一方、後脊髄小脳路は、下肢と体幹の下半分からの固有知覚を小脳へ伝えるもので、胸髄あたりまで上行したあと胸髄核に連なる(第1ニューロン)。ついで同側の側索を上行して、延髄、下小脳脚を経て小脳に終る(第2ニューロン)。
 (4)前庭小脳路vestibulocerebellar tract (平衡覚路)
 内耳の有毛細胞からの興奮は、前庭神経を通って延髄の前庭神経核に連なる(第1ニューロン)。ついで下小脳脚を通って、小脳の片葉小節葉に終る(第2ニューロン)。
 (5)視覚路optic tract
 第1ニューロンは、眼の網膜にある視細胞層である。網膜内で第2ニューロンの双極細胞、第3ニューロンの神経節細胞層に中継されたあと、視神経となって眼球を出る。次に、網膜の内側(鼻側)半分からの線維だけが視交叉で交叉して対側の視索を後方へ走り、外側(耳側)半分からの線維は非交叉のまま、同側の視索を後方へ走る。その後、両線維は視床後部の外側膝状体に連なったあと、第4ニューロンとなり、内包後脚→視放線optic radiationを経て後頭葉の視覚中枢(鳥距溝の付近)に終る。また、視索の一部は中脳で視蓋前野pretectal area→上丘→動眼神経副核(エジンガー・ウエストファールEdinger・Westpha1核)を経て、光反射light renex の反射弓をつくる。
 (6)聴覚路auditory tract
 第1ニューロンは、内耳の蝸牛軸にあるラセン神経節細胞で、これが蝸牛神経となって橋に入り、蝸牛神経核に連なる。第2ニューロンはこの核を出て上行し、外側毛帯lateral lemniscus となって、視床後部の内側膝状体に入る。第3ニューロンは、内包の後脚→聴放線auditory radiation を経て、側頭葉の聴覚中枢(横側頭回)に終る。
 (7)嗅覚路olfactory tract
 第1ニューロンは、鼻腔の嗅粘膜内にある嗅細胞で、ここから嗅神経となって頭蓋内に入り、嗅球に連なる。第2ニューロンは、嗅球の憎帽細胞mitral cellから起こり、嗅索、嗅三角などに連なったあと、さらに外側嗅条を経て、海馬傍回の前方部と扁桃体の一部に終る。
 (8)味覚路gustatory tract
 第1ニューロンは、舌の前2/3は鼓索神経chorda tympani、 後1/3は舌咽神経である。鼓索神経は顔面神経となって橋に入り、舌咽神経は延髄に入るが、どちらも橋から延髄にかけて分布する孤束核に連なる。第2ニューロンはこの核を出て上行し、視床の腹外側核に連なる。第3ニューロンは、内包の後脚を通って中心後回の下方部(顔面知覚の領域)にある味覚中枢に終る。
18.脳血管
 脳の血流は内頸動脈と推骨動脈の2つの動脈系によって維持され、内頸動脈を経て環流する。脳は、2本の内頸動脈と2本の推骨動脈によって心送血量の1/4が供給される。両動脈系は脳低部でウィリス動脈輪をなし互いに代償されやすくなっているのが特徴である。左右の内頸動脈と推骨・脳低動脈系は前交通動脈と左右の後交通動脈によって連結されている。動脈輪をつくっている主要動脈が閉塞すると脳低部異常血管網症(いわゆるモヤモヤ病)となる。脳を灌流しおわった血液は内外2層の硬膜で腔をなす静脈洞に注ぐ。大脳鎌の上縁には上矢状静脈洞、下縁には下矢状静脈洞が走り後者は直静脈洞と横静脈洞、S状静脈洞を経て内頸静脈に注ぐ。
参考:
     図説・ヒトのからだ
     脳・神経疾患患者の看護学