Maid & Earl



 昼食は食堂ではなく弁当だったり、飲み会の誘いを断るついでに林檎を持ち帰ったり、というふうに慎しい大学生活をしていても、一応、僕は貴族ということになっている。
 一応と付いているのは伊達ではなく、他の貴族に比べたら経済基盤ははるかに弱小で、下手をしなくても、食料や日用品を届けてくれる出入りの商家の方がいい生活をしてると思う。
 おまけに、家督を継ぐという話が出るずっと前に両親を亡くし、さらに大学生活途中で軍に入って、復学したのはほんの一年前。他にもいろいろとあったので、すっかり貴族らしい生活を忘れてしまった。



 財産のほとんどを親戚に奪われてしまった「僕」。
 なんとかとり返せたものは、小さな領地と、郊外の館だけだった。
 見栄えがいいのは爵位だけ。お金にも、貴族の生活にも縁の遠い毎日。



 背中まである長い髪の毛。姿を隠そうとしている夕日を浴びて、艶やかさがより増して見える。
 少しくせがあって、それが本人は気になるらしいけど、僕は悪くないと思っている。
 なんとはなしに街並みを眺めている眼鏡の奥の瞳は、性格そのままに理知的な光をたたえていた。
 整った顔立ちと身に帯びた雰囲気が相まって、一見しただけでは冷徹さを感じさせる。背が高くてスタイルもいいからなおさらだ。
 実際のところ、冷徹なことは全然ないのだけれど、いつも落ち着いていて、あまりおしゃべりしているような人じゃないから、分かりにくい性格であることは否めない。
 いつでもきちんとしているエプロンと深い紺色のスカートが、夕方の赤みを帯びた景色を流れるゆるやかな風に揺れている。



そんな「僕」の生活を支えているのは、一人のメイド。



 その横では、とある縁で我が家の一員となった猫のベルベットが顔を洗っていた。



と、一匹の猫だった。




発行日:
2010年 コミックマーケット79(12/31)

頒布スペース:
12/31 金曜日 東3 ケ-14b 「boox」

タイトル:
「Maid & Earl」

サイズ:
A5



表紙/挿絵
執筆



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