何となく考察してみるコーナー・第1回


必殺シリーズ

中村主水・激闘の歴史〜その一〜


ありきたりな話で申し訳ないが、多くのオタク者の例に漏れず、筆者は「必殺シリーズ」が大好きだったりする。
必殺と言えば「中村主水」なのだが、コアな必殺ファンの中にはなぜか主水シリーズをあまり評価せず「非主水シリーズの方が面白い」という人が少なからずいる。ある見方からはそうとも言えるのだが、主水無しに必殺は語れないのもまた事実である。主水に関しては多くの人が語っているが、シリーズのつながりにおけるキャラクターの変化について語っている人は多いようで少ないので、とりあえず各シリーズの特色の話を交え、自分なりに思うところについて語ってみようと思う。なお参考文献として色々なものを読んでみたが、データハウスから出ていた「仕事人・中村主水の秘密」に関しては未読である。もし中身的に類似している部分があったとしたら、それは偶然か、たまたま参考にしているものが同じためだと理解していただきたい。それでは最初は主水が最初に殺しに手を染めた「仕置人」「仕留人」の時代から。


参考文献&資料
テレビジョンドラマNo.4「必殺大百科」、テレビジョンドラマ別冊号「必殺ポスター全集」、「必殺15年の歩み」:放送映画出版刊/明星デラックス「必殺仕事人」:集英社刊/必殺シリーズ完全百科:データハウス刊/同人誌「殺した奴をまた殺す」各号:必殺研究会・音羽屋刊/キングレコード必殺BGMシリーズ、各巻解説書/そして本編VTR(筆者所蔵の各シリーズ作品)




「必殺仕置人」スタート!

 ”必殺の顔”中村主水。ご存知の通り、その初登場はシリーズ第2作「必殺仕置人」(1973)からである。この「仕置人」が主水シリーズの1作目といわれているが、これもよく言われている通り「仕置人」時代は主役と言うポジションではなかった。正確には“主役の一人”ではあるのだが、主人公としてはやはり念仏の鉄であり、それを象徴するように「仕置人」では主水の登場しない回が二回ある(第20話「狙う女を闇が裂く」、24話「疑う愛に迫る魔手」)。しかし現代社会を反映させたキャラクター造形に於いて、一般層の人気を得たのは主水なのであった。

前作「必殺仕掛人」のメンバー構成は、表では口入屋を営む元締・音羽屋半右衛門(山村 聰)、鍼医師の藤枝梅安(緒形拳)、浪人・西村左内(林与一)が中心で、厳格な掟の元に「世のため人のためにならねえ奴」を葬る闇の仕掛師達の世界を描いていた。それに対し「仕置人」のメンバーは、佐渡金山帰りの坊主崩れで骨つぎ師の鉄(山崎努)、琉球生まれで同じく佐渡帰りの棺桶職人・錠(沖雅也)、元佐渡金山見回り役人で、現在は北町奉行所定町廻り同心・中村主水というメンバー。これに彼らの悪友である瓦版屋の半次(津坂匡章:現・秋野太作)、スリのおきん(野川由美子)が加わる。闇社会の掟に従い殺しを行う「仕掛人」と違い、「仕置人」は「金を貰って人を殺す」事を自分達で思いつき、自分達の裁量に於いてメンバーの合議制で殺しを行うという部分が対照的である。

事の発端は、悪逆非道の盗賊の首領・闇の御前が処刑されたことから始まる。さらし首になった無宿・刺青長次郎こと“闇の御前”は実は替え玉であり、実際に殺されたのは、郡山から江戸に出てきた百姓の松造という男だという。松造の娘・お咲の話から事の真相を知ることになった鉄らは、処刑になった筈の闇の御前が北町奉行と画策し、廻船問屋・浜田屋庄兵衛として生き延びていたことを知る。その事実にそれぞれの怒りと想いを馳せる鉄、錠、主水だったが、錠はお咲の父の仇を取らせるため「もし浜田屋を殺せばお咲が三十両の金を出す」と仲間を騙し、初めての“仕置き”を行う。
仕置き後、三十両の話が嘘だとばれ、錠は主水や鉄から激しく責められるが、そこに金を持って半次が現れる。お咲は、錠に約束を守らせるため自ら身売りして三十両の金を作ったのだ。愕然となる錠だったが、「これからもこういった仕置を続ける」という鉄や主水についていくことにした・・・・・・

第1話「いのちを売ってさらし首」は、三者三様の思いがそれぞれ交錯し、最後は「仕置」という行為に繋がっていくのだが、それぞれの理由付けが全く異なっているのが面白い。話の主軸を握っているのは錠で、お咲の父の仇を討つために、金を餌に鉄と主水を騙したのである(「金なんか一銭もない」というお咲に対し「こうでも言わねえとあいつら動かねえ!」と、明らかに後先考えない行動)。ほとんどは金目当てで動いている鉄に対し、主水は「自分の正義の正当化」という部分で行動している。

後期シリーズしか知らない人が「仕置人」を見ると、主水のキャラクターの違いに驚くというが、そもそもこの時代の主水は、基本設定自体、後のシリーズとはかなり異なっている。
「中村家の婿養子で、子種がなくて家では『種無しかぼちゃ』とバカにされる。奉行所では昼行灯だが、実は剣の達人」という部分は変わらないが、主水自身の過去に関わる部分がこのシリーズでは明確に描かれている。
主水は旧姓を北大路主水といい、実家は現在の千葉県のあたり。かつては佐渡金山の見回り役人を務めていて、鉄や錠とはその頃知り合った。同心株を得るために、代々八丁堀同心を務める中村家の婿養子になるが、うだつの上がらなさや育ちの悪さに家人からは馬鹿にされている。僅かなつてを辿って中村家の婿になったのは、同心という稼業に「世の不正を正す」という思いを持ってのことだったはずだが、腐敗しきった世の中と、金と力で全てがまかり通ってしまう奉行所の現実に挫折し、いつしかやる気をなくし昼行灯を決め込むようになった。インチキ商人をゆすって袖の下を集め、悪友とつるむのが生きがいのような毎日を送っていたが、闇の御前処刑の真相に顔色を変える。

仕置きされた闇の御前が実は松造であったという話を聞かされ、主水は鉄に言う。
「信じられねえ。そりゃあ、金さえありゃあ地獄の沙汰もなんとやらで、黒が白にでもまかり通るのが奉行所だが、いくら何でもこの話はひど過ぎるぜ」
鉄から、これは金になる話だ、闇の御前を殺ればお咲が三十両の金を出すという話を聞いた主水は顔を曇らす。
「鉄・・・俺は怖えんだ。もしその話が本当だったとしたら、俺は一体どうなるんだ?正しい事なんかねえ、キレイな事なんかこの世の中にありゃしねえと思いながら、心のどっかでそれを信じて今まで十手を握ってきたんだ。佐渡は良かったなあ。俺たち役人と、おめえ達島送りの金掘り人足と、言ってみりゃあくっきりとけじめの付いた善と悪の二通りしかなかったんだ。世の中それが本当なんだ。俺は江戸へ出てきたのを悔やんでるんだよ」
錠に「おめえの世迷言なんか聞きたくねえ」と言われながら、事の真相を確かめるために牢内の大親分・天神の小六を訪ねる。小六から、殺された闇の御前が偽者らしいと聞いた主水は、処刑場の砂利を手にしながらつぶやく。
「ひょっとして、この砂利に何の罪咎のねえ男の血が吸い込まれてるかもしれねえ。俺はそれを考えるとじっとしちゃいられねえんだ」。

このシリーズでの主水は、体制の中でなんとか自分の正義を貫こうとするが、金と力だけがまかり通る世の中ではそれが通らないことに対する怒りを「仕置」という行為によって具現化していた。奉行所役人として「表の顔」の方で何とかしようとも、平同心という身分から上役に逆らえず、みすみす上役の役人や商人達の悪行に目をつぶらなければならないことも多く、初期話数では、その胸の奥にしまった自分の静かな怒りと「正義心」を仕置にぶつけるという描写が多かった。
第一話でも、主水は自分がお縄にした商人の息子を上役・的場の一言で釈放しなければならなかった。それもその悪行を読み連ねている中、的場の「親が挨拶に来た」の一言で有無を言わさずである(ただし的場は錠に仕置きされる。後のシリーズあったらこれは主水の役目だったろう)。

散々既出ネタではあるが、やはり仕置き後に主水と鉄が錠に語るセリフが秀逸である。
鉄「俺達はこれからもずうっと今度みたいな仕置をしていくことに決めた」
主水「これは先の長い、汚ねえ仕事だ。向うがワルなら俺達はその上を行くワルにならなきゃいけねえ。俺たちゃワルよ、ワルで無頼よ、なあ鉄。磔にされてもしょうがねえくらいだ。へへっ、だがこう悪い奴等をお上が目こぼしするとなりゃあ、そいつ等を俺たちがやらなきゃならねえ。まあ、つまり、俺たちみたいなろくでなしでなけりゃ出来ねえ仕事なんだ」

「仕置人」時代の主水は自ら刀を抜く事は少なく、もっぱら仕置に当たっての作戦担当と「表の顔」を生かしたサポートに回ることが多かった。考えが単純すぎる鉄や、若さに任せて暴走しがちな錠にとって主水は仕置を成功させるための重要な千恵袋であったのだが、時に対立することもあった。特に錠は侍を毛嫌いしており、主水の表の顔の同心としてのふがいなさを何度もなじっていた。ある時の会話で、主水の消極的な態度に対し錠は、
「おめえの言う事はいつも同じだ。『無理だ』『出来ねえ』『仕方がねえ』・・・・もっと他に言うことねえのかよ」
記憶が定かでなくて申し訳ないが、確かこれに対して主水が返した言葉は、
「だからおめえ達がいるんじゃねえか」
役人である主水の事を、鉄や錠が本当のところどう思っていたのかは定かではないが、この時代、主水自身は仲間をかなり大事に思っていた。
それを象徴するのが、第19話「罪も憎んで人憎む」(「仕置人」中でもベスト3に入る傑作!)
老中の陰謀に巻き込まれ、罪もない無宿人たちが佐渡送りになろうとする中、それに巻き込まれた鉄と錠を救うため、この回の主水は自分の立場を捨てて助けに走ろうとする。主水のこういったシーンは後期シリーズではほとんど見られず(唯一、「新仕置人」最終回がイメージとして近いか?)、この時代の主水を象徴するシーンとして印象深い。

最終回、処刑されそうになった半次を救うため、刑場に乗り込んだ鉄と錠はお尋ね者となり、江戸を離れることになる。最後の別れの時、主水は家族を捨ててまで仲間達に付いて行こうとするが、仕置人メンバーは鉄の策略で結局散々になり、主水は江戸に残ることになった(鉄は「表が出たらみんな一緒に行く。裏が出たら別れる」と言って小銭を投げ、出たのは裏だった。みんな別れる事になるが、実はこの小銭は二枚を張り合わせたもので、必ず裏が出るようになっていたのだ。「みんな別れた方がいいんだ」という鉄の心遣いだったのだ)

中村主水のキャラクターは、大組織の中で自分を殺して生きる現代の(当時の)サラリーマンをモデルにしたもの。
『金と力が支配し、黒が白としてまかり通る世界。上司や組織に逆らえず、最初は燃えていた自らの理想もいつしかくすぶってしまった』という主水の苦悩は、多くのサラリーマンの苦悩を投影したものだった。また苦労して働いても家人には感謝されないという描写も痛烈で、この時代のせんとりつのいびりは実にリアルで痛烈、後年のようなコミカルさは薄い(この頃のせんは、主水をムコ殿ではなく「主水殿」と呼ぶ事も多く、本人のいないところでは「主水」と呼び捨てにすることも。無能なばかりでなく、田舎者である主水の無作法ぶりも軽蔑しているようだった)。

藤田まこと氏は後年のテレビバラエティ番組で良くこの頃のことを語られているが、主水役が定着するまではかなりの苦労があったようだ。あんかけの時次郎役が受けて大ヒットなった「てなもんや三度笠」終了後、時次郎役のイメージが強すぎて仕事に恵まれなかった藤田氏は、主水役が来た時に受けた理由を「当時全然仕事がなかったから」と後年語っている。主水役を藤田氏に推したのは、山内久司プロデューサーとも当時必殺に関わっていた深作欣二監督とも言われているが、それ程反対意見はなかったようである。ただし入った現場で藤田氏は、某監督から演技力不足を指摘され、みっちり個別指導されたこともあったのだとか(笑)ご本人もおっしゃられているように、この時代の主水はあまり演技が達者でないし、「剣の達人」と言うには剣捌きもぎこちないのだが、それがこの頃の主水には合っていた。まだ年齢的にも三十代の後半で、若かったためでもあったのだろう。

仕置人放映中に中に起きた有名な「必殺殺人事件」により、仕置人は26話で終了。シリーズは大幅な路線変更を余儀なくされ、タイトルから「必殺」の文字が外されるという事態になり、第3作「助け人走る」は当初かなり地味で大人しい内容でのスタートとなった。ところで中村主水のキャラクターは好評だったようで、昭和49年正月放送の「助け人走る」第12話「同心大疑惑」にゲスト出演している。殺しのシーンはなかったが、助け人の裏稼業を偶然知った主水が、文十郎ら助け人達に「一口乗せろ」と便乗する話であった。
そして次のシリーズ第4作「暗闇仕留人」(1974年)で再登板となるのだ。


黒船来航「暗闇仕留人」

この「仕留人」が制作された1974年は、前年からのオイルショックの余波や、高度経済成長の終わりとその社会的歪みによる世情不安が蔓延していた時代で、それが反映されるように「日本沈没」「ノストラダムスの大予言」などの映画がヒットし、世に終末思想が溢れていた。「仕留人」の背景設定は、それを幕末の“黒船来航”期に当てはめたもので、時代設定は嘉永年間となり、文政年間の仕置人とはそもそも時代が合わない。そのため「仕留人の主水は仕置人とは別人」とする説もあるが、そもそも始まり自体が仕置人の後日談としてスタートしているのでこの点はあえて無視しても構わないだろう。

第1話「集まりて候」が嘉永6年6月15日。ペリー浦賀来航が6月3日なので、黒船騒動から幾日も経っていない頃である。その日の夜、本所で夜鷹狩りがあり、夜鷹とは全く関係ない髪結いの娘・おそのもそれに混じって捕らえられた。その現場を見た石屋の大吉は同心に斬られそうになり、保身の為その同心を殺してしまい、夜鷹狩に参加していた主水はその場面に出くわす。大吉はかつて島送りになったこともある悪党で、主水にお縄になったことがあるのだ(大吉が島送りになった理由は第15話「過去ありて候」で語られる)。対峙する主水の目の前で大吉は素手で木の幹を握りつぶす。その怪力に驚く主水だったが、人の気配を感じて大吉は逃げ出す。主水に近付いた男・糸井貢は、主水に金を無心しようとするが、主水の刀と男のバチが相打ちになりその場は二人とも引いた(バチで袖を切られた主水が「バチだ、バチが当たった!」と叫ぶシーンは意味深)
この夜鷹狩の陰に何かの陰謀を感じた主水は、「こんな時、昔だったらなあ」かつての裏稼業を思い出すが、そんな中偶然にインチキ写真師をやっていたおきんと半次に再会する。かつてを懐かしむ3人だったが、また世の中の悪党が動き始めている予感を感じた主水は裏稼業再開の決意を決める。
やがて、この夜鷹狩の陰に、おそのを近江屋の妾にしようとする企みがあり、それに北町奉行所の与力・高畑と水口藩家老の湯川が結託していたことがわかる。
主水は大吉と貢をスカウトし新たなるチームを結成しようとするが、貢は「十手持ちは信用できない」と断る。主水が本当にやるんだったら信用するという貢。
その晩、料亭に集まった3人を仕置に掛ける主水と大吉。大吉が必殺の“心臓つぶし”で近江屋を葬り、主水が高畑を斬った後、それを見届けた貢がようやく参戦、獲物の二枚バチで湯川を仕留める。
こうして主水の新たなる新チーム“仕留人”が誕生した。

その後日の中村家、その日はせんの亡夫の13回忌だった。実はせんには、りつの他に二人の娘がおり次女・たえは仏門に入り、三女・あやは脱藩した浪士と駆け落ちしたという。そしてこの父の十三回忌に久しぶりの再開を果たすのだという。法事の席に今は尼僧・妙心となったたえとあやがやって来て、りつせんは再会を喜ぶが、2人の連れて来た男に主水は驚く。妙心の愛人は大吉であり、あやの夫が貢だったのだ。かくして仕留人チームの3人は、表の顔でも義兄弟の関係となったのだ(主水に「おにいさん」という大吉が笑える)

時代設定は違うが、第1話では主水が仕置人時代を思い起こすシーンに仕置人のBGMが流れたり、おきん・半次との再会シーンには「やがて愛の日が」のインストが流れ、主水の「鉄や錠もきっと江戸に戻ってどっかに隠れてるんだろう」というセリフからも、多分に“仕置人の続編”を意識した描写がある。
それとは別に、中村家の設定が改変されているのも特徴。
「仕置人」第2話では、せんの夫が亡くなったのは3年前であり、主水が婿養子に来たのはまだ中村家の主人が存命中のことであった。「仕留人」1話ラストの法事は十三回忌だが、仕置人と仕留人と間が10年も離れているのは考えにくいので、これはシリーズ設定に合わせるための改変だろう(実際、第25話「晒されて候」で10年前に主水が初めて知った女・お陽の話が出てくる。中村家の設定は時期によりいくつもあり、後の設定では「せんは早くに夫を亡くし女手一つで3人の娘を育てた」とあるが、せんの年齢を考えると、これは仕留人の設定とも合わない。さらに後のシリーズではたえ、あやの存在については触れられていない)

仕置人最終回、主水が仕置人をを辞めたのは、鉄と錠がお尋ね者になり、仕置人の存在がお上に知られたことによる不可抗力からだった。仲間の後を追おうとした主水は結局江戸に残るが、かつての熱い想いを忘れたわけではなかったのだろう。そして時代の動乱の中、再び悪党共が蠢きだし、主水は再会したおきん・半次に新たなる仲間を加え裏稼業を再開するのだった。別の見方をすれば、主水にとって“不完全燃焼に終わった”仕置人のリベンジと言えるのだが、その内容は「仕置人」とは大きくカラーが異なる。

仕置人に登場する悪人達は「誰がどう見ても極悪非道」な輩が多く、その怪物的とも言える悪党どもを鉄、錠等が豪快に仕置する部分が魅力の一つであった。それに対して「仕留人」は、特に初期エピソードに顕著なのだが、黒船来航の動乱に乗じて影ながら悪を企む者たちと、それに翻弄される犠牲者達の静かなる怒りと悲しみを描き、ストーリー自体も仕置人と比べるとより複雑に入り組んだ話が多かった。
仕置人を“動”とすると仕留人は“静” 石坂浩二演じるインテリ殺し屋・糸井貢のキャラクターを反映してか、「仕置人」の荒っぽさに比べ、スマートな作劇がなされていた。殺しのBGMもシリーズ初めてのスローテンポのものが使用され、仕置人とは異なる雰囲気を作り上げていた。

この「仕留人」の事実上の主役と言える糸井貢だが、主水との出会いとその末路が、ある意味この作品のテーマを物語っている。
貢は本名を吉岡以蔵といい、かつては蘭学者・高野長英の門下生だった。諸外国のことを学び、その中で日本の現状を憂いた吉岡は、高野長英を匿った罪から脱藩し名を“糸井貢”と改め逃亡生活を送っていた。中村家次女・あやと駆け落ちするも、あやは病弱で、日々の暮らしもやっとの状態では良くなるものも良くならなかった。第一話で主水を襲ったのはあやの薬代のためだった。
世の腐敗に怒り日本の未来を憂いた貢は、半ば生活のために殺し屋になるが、初期の頃は考え方の違いから主水・大吉と対立しがちだった。また貢は主水・大吉は異なる立場から、その行為に対して悩んでいた。
第2話「試して候」で、かつての仲間・須貝と再会する貢だったが、諸外国に対抗するための爆薬実験で平気で庶民を犠牲にする須貝を見た貢は、そのやり方に疑問を感じ、爆薬実験の犠牲になった者のため自らの手で須貝を仕留める。
日本の近代化という自らの理想を願いながらも、妻との生活を守りたいという葛藤の中、半ば生活のために殺しを続ける貢だったが、第17話「仕上げて候」で、仕留人ともう一つの殺し屋組織「仕上げ屋」の対立にあやを巻き込み死なせてしまう。妻を失った貢は、それまでの表の商売であった芝居小屋の三味線引きをやめ、その日暮らしのような生活を送るようになり、殺しの道具も二枚撥から仕込矢立に変わった。
その後は殺し屋としての裏街道を突っ走るが、最終回で一つの結末に達する(18話で、仕留人を辞めるのではないかと心配するおきんに、続ける意思を伝えているがその顔は半ば自暴自棄とも言える表情を浮かべている)

最終回「別れにて候」で、貢は開国派の若年寄の松平玄蕃頭を仕留めなければならず悩むことになる。攘夷派が多数を占める幕府の中で一人開国を主張する松平は、日本の開国の糸口となると期待していたのだが、松平は裏では阿片と女に溺れ、開国を主張するのも根岸屋と結託しての異人相手の商売での利権目当てだったのだ。
松平は高台の妾の家から「異国に続く海が真っ直ぐ見たい」とわがままを言い、視線上に邪魔になる庶民の家を無理やり取り壊させた。この騒動で犠牲になった鶴吉の娘・お初から根岸屋と松平殺しの依頼を受ける仕留人たちだが、貢は乗り気でなく、主水に胸の内を語る。
「なあ八丁堀、俺たちは今まで何をしてきたんだ?世の中動いてる。この川だってオランダやアメリカやイギリスの都・ロンドンのテームズ川にだってつながっているんだ。だから俺たちは何をしたかって言ってるんだ。少しでも世の中良くなったか?俺たちに殺られた奴らにだって妻や子がいたかも知れないし、好きな奴があったかも知れないんだ」

結局、これが最後と決めた貢は殺しに望むが、対峙した松平の「ワシを殺せば開国が遅れるぞ!」という言葉に手が止まり、返り討ちにあってしまう。主水と大吉により松平は倒されるが、深手を負った貢は仲間に看取られながら絶命する。主水達は貢の遺体を箱に入れ、貢の憧れだった外国に届くようにと海に流す。そして主水は、これが潮時かもしれないと仕留人を解散するのだった。

最終回で貢が言った殺しに対する疑問の言葉は、その結末と共に主水の心にのしかかることになる。
表の顔では果たせない自分の中の怒りを“仕置”という行為にぶつけてきた主水だったが、例え相手がどんな悪党だろうと人殺しは正義ではない。「仕置人」第1話で鉄が錠に言うように、正義だとか世のため人のためだとかそんなキレイ事を言ってのぼせ上がってはいけないのである。人の恨みを晴らすために殺しをすれば、その殺された者に関わる者からまた新たなる恨みを買うかもしれない。それにいくら悪党を始末したところで悪の種は尽きず、世の中が良くなるわけでもない。この稼業にどれだけの意味があったのだろうか、所詮自己満足でしかなかったのだろうか?
こういった殺し屋稼業の“業”と“苦悩”の部分は後のシリーズでも何度も語られているが、自分達がやってきたことに対する疑念と限界を感じた主水は、結局自らの手で裏稼業に終止符を打つことになる。ある部分では貢に自分と同じものを見出し、その貢の最後に自分の末路を感じたためかもしれない。

「仕留人」の時代設定は1853年で、明治維新まであと15年という時代である。江戸時代の中でも「もう後がない」時期であり、恐らく「必殺」が続いても中村主水の話としてはこれで終わりのはずだったのだろう。実際、「仕置人」のテーマを別の意味で否定するようなラストは当初から意識していたもの思われ、第1話でせんから見せられた「中村家先祖伝来の鎧」を着た主水が、時代の変化を感じながら浦賀の日米交渉の警護に当たるというシーンで終わっている。

腐敗した世の中、「仕置」という行為に自分の生きる道を見つけた中村主水だが、結局その内包する矛盾に限界を感じ、自ら殺し屋稼業に終止符を打った。そしてその物語はここで終わるはずだったのだが・・・・・・・・




主水と組んだ闇の仕事師達・その一


必殺仕置人 
1973年4月21日〜10月13日放映 全26本
暗闇仕留人 
1974年6月29日〜12月28日放映 全27本


念仏の鉄(山崎努)(仕置人)
世間から俗に“泥棒長屋”と呼ばれる観音長屋に住むで骨つぎ師。通称“念仏”。
かつては僧侶だったが、檀家の奥方に手を出して密通の咎で佐渡金山送りになったという過去を持つ。主水、錠とはこの時代に知り合った。佐渡での金掘り人足時代にケガ人を助ける中で接骨術を身に付け、江戸に来てからは骨接ぎを生業とするようになった。世の中に対してかなりドライな見方をし、自分の目の前の欲望に忠実に生きるという快楽主義者で、金と女には目がない。自他共に認める悪党ではあるのだが、社会的に底辺で生きる立場から、弱者に対しては何のかんのと面倒を見てしまう一面も。
殺しの技は、骨接ぎを応用した“骨はずし”右手の指で背骨を外したり首の骨を外したりする。また相手によっては、殺さずに骨を外して相手の能力をなくしてしまうことも(特に初期)。サディストであり、仕置という行為にも快楽を見出す。世の外道たちに怒りを燃やすが、鉄にとって殺しは世のためや人のためではない。“仕置き”は“仕置き”なのである。あまり口には出さないが、主水の事は理解しているようである。
チェックポイント!
鉄のキャラクターは、文章で説明すると本当に「どうしようもない奴」にしか思えないのですが、本編を見るとその存在感や「独特の哲学」に従っての生き方が実に魅力的なんですよね。山崎努氏が演じなければここまでのインパクトはなかったでしょう。「新・仕置人」の頃と比べると自由度があった分、好き放題やってるのがいいです。この時代の鉄は、まだ掟に縛られない破壊っぷりが堪能できます。個人的には第5話「仏の首にナワかけろ」あたりで見せる人間臭さがいいです。「仕置人」での“骨はずし”は主に背骨と首。もちろん“元祖レントゲン”です。


棺桶の錠(沖雅也)(仕置人)
鉄と同じく佐渡帰りの青年で、同じく観音長屋に住む琉球出身の棺桶職人。通称“棺桶”
ぶっきらぼうで荒っぽく見えるが、それは心に隠した優しさの裏返しである。女は苦手なようで、おきんが惚れてアタックをかけているにもかかわらず全く関心がないようだ(おきん曰く「メスと名の付くものは猫の子一匹近づけない」そうだ)。
過去に役人に苦しめられたせいか、役人や侍を極端に嫌い、主水とは対立することも多い。寡黙で世の中の事に関心がないようなそぶりを見せるが、悪に対する憎しみと怒りは人一倍大きい。金よりも情や正義心で動くことが多く、その先走りを鉄や主水に窘められることもしばしば。元々「仕置人」結成の発端となったのは、お咲の父の敵討ちのために錠がついた嘘からだった。若さゆえの怒りを“仕置き”という行為にぶつける。武器は鉄製の組み立て式手槍と空手技。相手の急所に手槍を叩き込む。
チェックポイント!
「必殺」で沖雅也氏がレギュラーで演じたのは、この錠と「仕置屋稼業」の市松、「からくり人・富獄百景殺し旅」の唐十郎の三人。後者二人がクールなキャラクターであったのに対し、錠は思いっきり熱いキャラクターであり、若さゆえの暴走と“外道どもを許しちゃおけねえ”という正義感が魅力的でした。第1話で、自分の狂言が「仕置人」という稼業を生み出したものの、約束を守るためにお咲が自分の身を売って金を作ったという結末に愕然となるシーンが良いです。ラストに鉄の言う「おめえみたいに世の為人の為なんてキレイ事言ってる奴はすぐへたばっちまうんだよ。これから俺達とやってくつもりがあるんならこの金とれ。やる気ねえんならどっかへ消えちまえ!」というシーンは錠と鉄のキャラの違いを明確に表していました。沖雅也のキャラとしては一般的には市松の方が評価が高いのですが、錠には錠の良さがありますね。


天神の小六(高松英郎)(仕置人)
江戸中のヤクザを束ねる江戸暗黒街の大物だが、派閥争いから逃れるために牢内に居座り、牢名主として悠々自適の生活を送っている。汚いやり口を嫌い仁義を重んじる性格で、牢内外を問わずヤクザ連中の信頼は厚い。牢内にありながら大金を持ち、茶の湯を立て、毎晩豪勢な食事を出され、牢番をアゴで使うといった身分。以前から主水の事は一目置いており、仕置人結成後も陰ながらサポートする。主水の良き相談役であり金蔓でもある。主水も小六の前では本音を出すようだ。その力の大きさは、第4話「人間のクズやお払い」で、外道ヤクザ・聖天の政五郎との対決時にまざまざと見せ付けられることになる。
チェックポイント!
小六「何でてめえの上役に聞かねえ」主水「御牢内のことで親分の知らねえ事はねえ」、小六「何だ知ってたのか」主水「奉行所の役人の目が全部節穴だと思っちゃいけねえぜ」とか、とにかく主水とのやり取りで、お互いの腹の底を知り尽くした濃密な会話が良いです。第3話で、敏腕同心・島本から守るために主水がわざと鉄と錠をお縄にしたとき、怒って全てをばらそうとしてした錠に対し「いいか、中村主水ってのはなあ、てめえが思っている以上に食えねえ男だ」「もし喋ってみろ、てめえの命はねえぜ」と言うあたり、主水に対する信頼感が窺えます。後半出番が減ったのが残念ですが、この世界で生きる“外道でない悪党”のしたたかさを象徴したようなキャラクターが素晴らしいです。後のシリーズには未登場ですが、話の都合上、「仕置人」だけのキャラにしたのは正解でしょうね。


糸井貢(石坂浩二)(仕留人)
かつては高野長英の弟子だった蘭学者で、本名は吉岡以蔵。反体制派の考えを持ち、高野長英を匿った罪で藩を追われ、妻と共に江戸に逃げ延びた。妻の薬代のために主水に金を無心し対決となり、それがきっかけで主水にスカウトされる。長年役人に苦しめられたため当初は主水を信用せず、学者肌のインテリであるため仲間とそりも合わないことも多かった。妻・あやはりつの妹であるが、第17話で仕上屋と仕留人の抗争に巻き込まれ死亡する。最初は芝居小屋の三味線弾きだったが、妻の死後はその日暮らし的に色々な仕事をやっていたようだ。暗いイメージが付きまとっているが、意外に明るい笑顔を見せることも多い。当初の武器は、薄い刃を仕込んだ三味線の二枚バチ。これで敵の喉を切り裂く。17・18話で簪、それ以降は太い針を仕込んだ矢立を使用するようになる。殺しを行う意義について考え悩み、足を洗うことに決めた最後の仕事で敵の返り討ちに逢い死亡する。
チェックポイント!
何ていうか、演じている石坂浩二氏のキャラを投影したような人物で、それまでのどの殺し屋とも違ったタイプでした。妻が存命中はそれなりに明るい顔も見せていましたが、あやの死後は何かに取り付かれたように“目つき”が代わって言ったのが印象的でした。最終回のセリフは「仕置人」のテーマに対する強烈なアンチテーゼで、主水自身のアイデンティティをも揺るがせるものでした。本作の主役的扱いなのですが、話の関係上第14話「切なくて候」には欠場。こういう観念主義的?に殺しを行うキャラクターは後にも登場しますが、貢はその魁でした。
ところで貢は高野長英の弟子ということですが、その高野長英自身も、シリーズ第11弾「新・必殺からくり人」で“蘭兵衛”と名を変え、からくり人の一人として登場します(演じるは近藤正臣)。



大吉(近藤洋介)(仕留人)
表稼業は石屋だが、実は村雨の大吉として知られる殺し屋。かつて主水にお縄になったこともある。りつの妹・たえこと妙心尼の愛人であり、立場的には主水の義弟である。素手で心臓を握りつぶす“心臓つぶし”。その技を応用して心臓マッサージで死人を生き返らせたこともあった。ごつい荒くれ男に見えるが、根は明るく人情に厚い男である。それゆえ、タイプの違う貢と対立することも多かった(それでも決して貢を嫌っているわけではない)。最終回、貢の死を見届けた後、妙心尼を置いて江戸を去る。
チェックポイント!
「いけませぬ、私は御仏に仕える身、なりませぬ、なりませぬ〜」「へへっ、いいじゃねえか」の時のスケベ面も良いですが、大吉は結構いい奴なんですよね。男気があるし、情に厚いというキャラに好感が持てます。その驚異的な握力は、毎回殺しの前に握っている二つの胡桃を握りつぶすというシーンで強調されています。必殺“心臓つぶし”はレントゲン+心電図の組み合わせで迫力満点なのですが、このシーンだけ見ると笑えます。「剣劇人」最終回ではこの技を松にパクられます(笑)


鉄砲玉のおきん(野川由美子)(仕置人・仕留人)
観音長屋に住む女スリで、威勢のよさと気の強さが取り柄。並の男は相手にしないようだが、意外に惚れっぽいところがあり、当初は錠に惚れていた。半次とつるんで仕置人の情報収拾担当を担う。お上に仕置き人の存在が知られたため一旦江戸を去るが、その後江戸に舞い戻り、インチキ写真屋をやっていたところを主水に再会する。
「仕留人」でも情報収拾担当だが、仕置人時代比べると明るさがなくなった。仕留人第9話「懸想して候」では文七という男に惚れ裏稼業から足を洗おうとするが、文七もまた殺し屋であった。仕留人達の関係が段々とドライになっていったせいか、後半では出番が減る。
チェックポイント!
野川さんは「仕掛人」〜「仕留人」まで4作連続出演です。それぞれポジションは違うけど、やはり似たような役どころが多いですね。おきんはそのインパクトの強いキャラクター性が後の“女情報屋”とは一線を画していました。


おひろめの半次(津坂匡章:現・秋野太作)(仕置人・仕留人)
表稼業はかわら版売りなのだが、劇中そのシーンはあまり登場しない(笑)おしゃべりでお調子者で失敗も多いが憎めない性格である。通称“半公”。おきんと組んで情報収集を担当したり、殺しのサポートをしたりする。「仕置人」最終回でお上に捕らえられ、打ち首寸前のところを鉄らに救われ、仕置人の存在がお上に知られることになったため江戸を去る。
「仕留人」で再登場するが、仕置人時代の明るさがなくなり性格も心なし暗くなった。仕留人では大吉とつるむことも多い。第2話「試して候」では須貝の爆薬実験の実験台となり死にかけるが、何とか生き残る。第14話「切なくて候」では、故郷の府中で家族を失った怒りから、仇である田村伝蔵を自ら仕置きした。舶来品を扱った怪しげな商売をしているようで、江戸と長崎を行き来しているらしく不在がち。第15話を最後に画面から姿を消し、最終回にも出てこなかった。
チェックポイント!
秋野氏も野川さんと同じく「仕掛人」〜「仕留人」までの連続出演ですが、「助け人」の利吉を除くとみんな似たようなキャラだったような・・・・(笑)「仕留人」後半でてこなくなったのは、やはりスケジュールのせいでしょうね



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