1998年1月1日

    頭が痛い。
   立ち上がるとわずかなホテルシップの揺れが頭に響く。
   食事も喉を通らない。
   おせち料理が今日が元旦だと教えているがそれどころ
  ではない。
   行けば治ると言い聞かせて出発することにした。

   湾内でも波がある。空は雲がしだいにとれ青空が覗い
  てきた。
   揺れが頭痛を呼び起こす。
   結構波があるぜ、何処まで行くんだ?
   とりあえず湾の出口まで行き様子を見ることにした。
   進めば進むほど波が高くなり、先行するおっさん艇が
  見え隠れする。
    どーせ引き返すことになるのだからさっさとやめよう
  ぜ。
   湾の出口まで来てさらに波は高くなった。逆光に左手
  の野羊(やぎゅう)山が暗く荒波の上にそびえている。 
   波の頂点に立ったおっさん艇を見上げると後ろに倒れ
  そうになる。
   こうなると頭が痛いなどと言ってはおられない。風が
  ないのが幸いである。仲間がいるという心強さからか、
  不思議と恐怖感はない。
   しかし長閑なトロピカルの海は何処にもなく、陽の当
  たらない島影はいっそう暗い。
 
    やめよーぜ。
   「波も少し小さくなってきたぜ、行けるとこまで行こう
  や。」             
   その事は俺も気づいていたが、午後から北風に変わると
  いう。これから島の南側から東側に廻ると、その北風の攻
  撃をもろにくらいそうで怖かった。
    ホェールウォッチングの船も今日は出ている。心配する
  ほどでもないか。
   饅頭岬を過ぎると本島と南島の間に、無数の岩礁が立ち
  ふさがった。そして海面は少し残った水を桶ごと揺すった
  ように三角の波が踊っている。
   何処を行けば良いんだ?
   ジョンビーチの白い浜が俺の気持ちも知らずにまぶしく    
  光っている。
   思案しながらも風に背中を押され、じわじわと核心部に
  近づいて来てしまった。
   あの岩と岩の間を抜けよう。覚悟を決め、波にさらわれ
  て岩に叩きつけられないように全速で漕ぐ。
   でやぁー。
   スピードに乗ってきた時に後ろから声がかかった。
   「ブタ海岸に引き返そう。」
   えっ?行けるのに。
   アドレナリンが身体を駆けめぐって三角目になった俺に
  は、その言葉が一瞬信じられなかった。
   でもどーせ引き返すことになるのだから、O.K 異存は
  ないぜ。
    できたらもっと早く言ってくれよな。
   大きく波の砕ける岩の間で舟を回すときには、アドレナ
  リンはすっかり引いてしまった。急に弱気になり、やっぱ
  りやめて良かったと思った。
   細く口を開いたブタ海岸に逃げ込んだ。珊瑚の白浜にヤ
  ドカリが迎え、今日はここで遊ぼうと誘っている。

                

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