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ROCK名盤カタログ

<第65回>BRAIN SALAD SURGERY〜恐怖の頭脳改革
/ エマーソン、レイク&パーマー
(2006.11.20UP)
<1973年作品>
@Jerusalem〜聖地エルサレム〜
AToccata
BStill...You Turn Me on
CBenny the Bouncer 〜用心棒ベニー〜
DKarn Evil 9 〜悪の教典#9〜
  a)1st Impression〜第1印象〜
  b)2nd Impression〜第2印象〜
  c)3rd Impression〜第3印象〜

 KING CRIMSONPINK FLOYDYES と共に、「プログレ四天王」に数えられる
EMERSON,LAKE & PALMERエマーソン、レイク&パーマー、略してEL&P)。
 以前<ロック名曲カタログ>でHoedownをご紹介したときにも述べた通り、超絶
テクニックを有したキース・エマーソン (key)を先鋒とする、プログレッシブ・ロック界
の代表的トリオ・バンドだ。
 で、のっけからこう述べるのも何だが、若かりし頃の私にとって、EL&Pはそれほど
好きなバンドではなかった。作品の質は別として、その音楽性がおそらく私の嗜好と
若干のズレがあったのだと思う。EL&Pは他のプログレ・バンドに比べると、私がプロ
グレ作品に求めていた「深み」や「構成美」からくる「感動」という要素が、やや希薄で
あった。
 初めて聴いたEL&Pのアルバムは、現代でも名盤との誉れも高い2nd「TARKUS
タルカス)」('71)だった。正直、何が良いのかさっぱり理解できなかった。
 次に聴いたのは、デビュー・アルバム「EMERSON,LAKE & PALMER」('70)だっ
た。これは悪くはなかったが、何か地味な作品だなぁ、というのが偽らざる感想だっ
た。
 こうした結果、たぶん私にはEL&Pの良さは理解できないのだと思い、しばらくは彼
らの作品に手を伸ばすことはなかった。そしてずいぶん経ってから、もう1枚試してみ
ようと思い、また別のアルバムを手にした。それが、「BRAIN SALAD SURGERY
〜恐怖の頭脳改革〜」であった。'73年に発表された、EL&Pの通算5枚目に当たる
アルバムである。
 これは一発で気に入った。KING CRIMSON や PINK FLOYD などに求めるもの
とは微妙に音楽性が異なっていたが、これはこれで良いねと思えるようになった。
 そしてそこから遡って、4th「TRILOGYトリロジー)」('72) や 3rd「PICTURES AT
AN EXHIBITION〜展覧会の絵〜」('72)を聴いた。どちらも「プログレ四天王」に
数えられるのも合点の行く名盤だと思った。このときになって、ようやくEL&Pという
バンドが私の中で存在感を増すようになった。(但し、未だに2nd「TARKUS」だけは
好きになれない)

 多くのEL&Pファンにとって本作「BRAIN SALAD SURGERY〜恐怖の頭脳改革
」の目玉は、アルバム後半を占める組曲「悪の教典#9」だろうと思う。彼らの技術
とアイデアの限りを尽くして創作された、傑作長尺曲だ。しかし私の場合は、そこに
行き着くまでに心を奪われていた。前半だけで、すでにこのアルバムに魅了されて
いた。
 何よりも、オープニング・ナンバー@「Jerusalem〜聖地エルサレム〜」の存在。
ウィリアム・ブレイク という18世紀のイギリスの芸術家の抒情詩を基とした教会音
楽調の楽曲で、「曲」というよりは「アルバムのプロローグ」といった趣の小作品だが、
壮大な詞に似合った重厚なメロディや、プログレ界のボーカリストとしては珍しく有能
グレッグ・レイク (b,vo)の歌声、勇ましくもドタバタとしたカール・パーマー (dr)らし
いマーチングリズム、そして様々な音色を駆使するキース・エマーソン (key)の手腕
によって、劇的で荘厳な雰囲気が醸成されている名曲だ。特に、エンディング近くの
きらびやかな音色をまとったキーボードが紡ぐメロディには、聴くたびに心を揺り動
かされる。個人的にはEL&Pのベスト・ソングで、自分でも不思議なくらい長年愛聴し
ている楽曲である。
 本作「恐怖の頭脳改革」('73)の最大の聴き所は、この@「聖地エルサレム」とD
悪の教典#9」だろうが、間に挟まれている3曲も決して悪くない。
 まず、A「Toccataトッカータ)」。これもEL&Pの100%オリジナル作品ではなく、
アルゼンチンのアルベルト・ジナステーラ という現代音楽家のピアノ・コンチェルト
をアレンジしたインスト曲だ。原曲を聴いたことがないので、どの程度アレンジし直さ
れているのか判らないが、かなりSFチックな仕上がりとなっており、キース・エマー
ソン (key)のシンセサイザーの独壇場といったところである。SF映画をそのまま「音」
に変容させたような趣き。「宇宙大戦争」といったカンジだ。
 続くB「Still...You Turn Me on」は、グレッグ・レイク (b,vo)のアコースティック・ギ
ターと叙情的なメロディが堪能できる小作品。EL&Pのアルバムには、大概こうした
牧歌的なアコースティック・ナンバーが収録されていて、「名曲」ではないが、アルバ
ムに良質な彩りを与える存在となっている。
 そしてジェントルなBとは打って変わって、西部劇に出てくる猥雑な酒場をイメージ
させるC「Benny the Bouncer 〜用心棒ベニー〜」。カントリー/ブギ・ウギ調の
お遊び的な楽曲で、これも「名曲」とはなりえないが、聴き手にとっては良い意味で肩
の力が降りる存在となっている。本作の中では、2分ちょっとの小休止といったところ
だ。
 で、ようやく次からEL&Pの集大成といえるD「Karn Evil 9 〜悪の教典#9〜」が
登場する。大きく3つに分かれた組曲となっており、a)「第1印象」がおよそ13分半、
b)「第2印象」が約7分、c)「第3印象」が約9分と、全編で30分弱の大作だ。古代神
話と最新鋭現代兵器戦争を混ぜ合わせたような、やはりSF映画的な雰囲気となっ
ているが、特筆すべきはキース・エマーソン (key)の「鍵盤の大嵐」的プレイだろう。
始めから終わりまで、オルガン、アナログ・シンセ、ピアノといったあらゆる鍵盤楽器
を自在に操り、ほとんど緩急なく力技だけで全編30分で押し切っている。このキー
ス・エマーソン (key)の渾身の熱演に、グレッグ・レイク (b,vo)とカール・パーマー 
(dr)も持てる技すべてを出し切って喰らい付いていて、冗長な構成の組曲であるにも
かかわらず、緊張感のある大作として完成されているところは、「プログレ四天王
EL&Pの面目躍如といえる。流石だ。
 尚、このDは「作詞家」として初期KING CRIMSON の正式メンバーだったピート・
シンフィールド が共作者として名を連ねている。同じく初期KING CRIMSON のメ
ンバーだったグレッグ・レイク (b,vo)とは旧知の仲であり、後の作品でも彼とEL&P
の共作はチョイチョイ見られることになる。(ちなみに本作Cにも、彼はクレジットされ
ている)

 全5曲。オルガンやシンセが嫌いという方にはお勧めできないが、個人的には本作
恐怖の頭脳改革」('73)こそがEL&Pの最高傑作だと思っているし、一般的な評価
も極めて高い。鍵盤楽器がこれほど効果的に使用された作品も、あまり他に例がな
いだろう。
 聴き手によって嗜好はマチマチであるため、このアルバムを「名盤」と思わない方
も当然いるだろうが、少なくともEL&Pというバンドの全精力が注入された「力作」で
あることは、間違いのないところである。


 EL&Pの作品は、プログレ・バンドとしては珍しく、内向的な「深み」に乏しい。難解
で知的な要素はあまりなく、また出し惜しみする構成もほとんど見られない。出しっ
放し、出っ放しといった音楽性だ。
 本作においてもそれは例外ではなく、大作D「悪の教典#9」でさえも、特別凝った
オープニングや感動的なエンディングで楽曲を「演出」することすら為されていない。
およそ30分間を、手を変え品を変え、ひたすら「演奏」だけで突っ切っているだけで
ある。
 たぶん彼らのこうした非様式美的な方法論が、私がEL&Pをなかなか好きになれ
なかった理由だと思われるが、それだけに彼らの音楽性は即効的で分かりやすい。
理解出来る出来ないといったことではなく、良いか悪いか、つまり好きか嫌いかだけ
だ。
 だからこそEL&Pの残した作品は、出来不出来がはっきりと判る。本作が彼らの作
品群の中でもトップクラスの力作であることは間違いないが、一般的に彼らの全盛
期は本作までとされており、事実これ以後の作品は、ライブ盤を別とすれば聴く価値
のあるものは皆無と断じても過言ではない。メロディや詞、演奏といった音楽本来の
もの、それら以外の要素を排した純度の高い音楽性で、長期間ハイ・レベルな作品
を創作し続けることは、EL&Pといえど困難だったのだろう。
 本作「BRAIN SALAD SURGERY〜恐怖の頭脳改革〜」('73)こそは、紛れもなく
EL&Pというバンドのひとつの到達点を示した作品であった。

 それにしても、キーボード・プレイヤーとしてのキース・エマーソン の演奏レベルは
驚異的である。もともとジャズやクラシック音楽、現代音楽に造詣の深かった彼は、
音楽に対するそれらの方法論をそのままロック音楽に採り入れて昇華させるだけの
充分な教養と技術を有していた。特にハモンドに関しては、彼以前にはまったくマイ
ナーな存在だったオルガンという楽器を、ロック音楽におけるひとつの武器として定
着させるほどに印象的で独創的なスタイルを築いた。
 しかし、当時オルガン以上に新鮮だったのは、シンセサイザーだったのではないだ
ろうか。まだまだ発展途上で実験的な楽器だったシンセを完全に掌中に収め、その
可能性をどんどん引き出していった彼の功績は筆舌に尽くしがたい。EL&Pの作品
を眺めても、アルバムを重ねるごとにシンセの使用頻度とその魅力が増大しており、
いかに彼がこの新しい機器を「楽器」として活用し、またその効用を世界に撒き散ら
して行ったかが実感できる。作品ごとに、「こんなコトは出来るか?」「こんな使い方
はどうだ?」と挑むように、新機器の可能性と斬新性を貪欲に追求している。
 キース・エマーソン (key)とは、鍵盤楽器を主体としたロック音楽の幅と可能性を
凄まじいまでに広げた、まさしく歴史的プレイヤーであった。'73年という時代に、例え
ば本作A「Toccata」、D「悪の教典#9」のような音楽性を作り出せたのは、世界で
唯ひとり彼だけである。

 本作「恐怖の頭脳改革」('73)は、EL&Pの作品の中でもシンセサイザーを効果的
に活用した最大の成功例となっている。勿論そこにはシンセそのものの進化という
要因も多分に含まれているだろうが、裏を返せば、'73年になって初めて、キース・
エマーソン(key)というプレイヤーに時代が追いついたということだ
 EL&Pの前身バンドNICEの時代からシンセサイザーに着目し始め、その機器がよ
うやく彼のアイデアと技術に叶うものとなった頃、EL&Pの「全盛」は終わりを迎えよう
としていたのである。ある意味、非常に残念な事実である。


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