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ROCK名盤カタログ

<第32回> THE CRIMSON IDOL / W.A.S.P.
(2005.11.5UP)
<1992年作品>
@The Titanic Overture 〜タイタニック序曲〜
AThe Invisible Boy 〜見えない少年〜
BArena of Pleasure
CChainsaw Charlie(Murders in the New Morgue)
                〜新・モルグ街の殺人〜
DThe Gypsy Meets the Boy
            〜ジプシーとその少年の邂逅〜
EDoctor Rockter
FI Am One
GThe Idol
HHold on to My Heart 〜私の心へ〜
IThe Great Misconception of Me
             〜私という名の虚像〜

 コンセプト・アルバムと呼ばれる作品がある。ロック初心者のために簡単に説明
すると、収録曲すべてがあるひとつの共通したテーマに沿った作品で占められてい
たり、アルバムを通してひとつのストーリー仕立てになっているようなアルバムのこと
をそう呼んでいる。つまり、単なる曲の集まりではなく、収録曲全部でひとつの作品と
捉えるトータル的なアルバム作りが行われた作品のことだ。
 古くはTHE BEATLESの「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND
('67)やTHE WHOの「TOMMY」('69)などがコレにあたる。以前このコーナーで紹介し
PINK FLOYDの「狂気('73)などは、コンセプト・アルバムの代表格と言っても良
い。そもそもプログレッシブ・ロック界にはこのテのアルバムが無数に存在するのだ
が、ヘヴィ・メタル界でも結構製作されている。
 HM/HR関係のコンセプト・アルバムとしては、QUEENSRYCHEの「OPERATION;
MIND CRIME」という作品が比類なき完成度を誇っており、一般的な評価も高い。
個人的にも、HM/HR系のコンセプト・アルバムとしては、もうこれ以上の作品は出て
こないと思っている。が、このアルバムの場合、心の底からの感動が味わいにくい。
やや難解であるため、完全なる感情移入が難しいのだ。
 そこでオススメするのがW.A.S.P.の「THE CRIMSON IDOL」('92)。ジョナサンとい
う名の少年が、ショウ・ビジネスの世界で成功し、翻弄され、最後に死を選択すると
いう、華やかで冷酷なレコード業界の犠牲となった少年の悲劇を描いた入魂の力作
である。(90年代の作品です。スミマセン)

 83年にデビューを飾ったアメリカ出身のW.A.S.P.は、直後からステージにおける血
まみれの過激なパフォーマンスなどで一躍名を挙げたが、その後は逆に「色物バン
ド」的なレッテルを貼られ、ミュージシャンとしての正当な評価を受ける機会が極端に
少なかった。バンドとしては不遇な時期が長かったといえる。
 こうした不当評価が見直され始めたのは、'89年に発表された「THE HEADLESS
CHILDREN」からで、このアルバムで往年のブリティッシュ・ロックに通ずる良質な正
統派ヘヴィ・メタルを展開したW.A.S.P.は、本国アメリカよりもイギリスにおいて高い
支持を得ることに成功し、一部の良心的な評論家からも絶賛を得た。
 そして、その評価を広く万人に認めさせる結果になったのが、今回ご紹介させて貰
う「THE CRIMSON IDOL」('92)である。
 実は本作が製作される頃には既にメンバーのほとんどが脱退しており、W.A.S.P.
といっても実際にはブラッキー・ローレス ひとりだった。もともと彼がソロ・アルバム
として構想していた作品を、レコード会社側からW.A.S.P.名義で発表するよう強要さ
れたというのが内情らしい。よくある話である。
 しかし本作を聴く上でそんなことは極めて些細なことであり、ひとつ確かなことは、
このアルバムはブラッキー・ローレス が全精力を傾けて完成させた一大傑作であ
るということだ。
 本作において彼は、作詞・作曲・アレンジ・プロデュースはもちろん、ボーカル・ギタ
ー・ベース・キーボードを担当し、ドラム以外のパートをほとんどを自分ひとりでこなし
ている。演奏面でドラマー以外に参加したのは、主にリード・ギターを担当したボブ・
キューリック のみだった。
 このアルバムに対するブラッキー・ローレス の情熱は並大抵ではない。特にボー
カルは凄まじいまでに壮絶で、鬼気迫る彼の「唄」は本作の聴き所のひとつである。
存分にご堪能いただきたい。


 @「The Titanic Overture〜タイタニック序曲〜」は、これから幕を開ける叙情
詩への期待感を膨らませる、まさに「序曲」というに相応しいドラマティックな小曲。
 続くA「The Invisible Boy〜見えない少年〜」で、ジョナサン少年の不幸な幼年
時代がさりげなく紹介され、聴くものの心を捕らえて離さない本編に突入する。
 B「Arena of Pleasure」とC「Chainsaw Charlie〜新・モルグ街の殺人〜」は
非常に質の高いヘヴィ・メタル・ソングで、特にCは本作前半のハイライトともいえる
名曲。この曲で「ショウビズ界の帝王」チャーリーが登場し、この男との契約によって
ジョナサン少年は、栄光と挫折、陰謀と裏切りの渦中に飲み込まれていく。7分を超
える作品だが、ドラマティックに進行する後半の展開は圧巻。
 D「Doctor Rockter」は逆に4分程度の小曲だが、凄絶なブラッキー・ローレス 
のボーカルが聴きものだ。
 アルバム後半では、終盤にGHIというクライマックスを飾るにふさわしい楽曲が
並んでいる。本作を名盤たらしめているのは、このラストの名曲3連発による功績が
大きい。
 G「The Idol」は、このアルバムに収録されてこそ光るバラードで、悲しみを湛えた
メロディと、狂おしいまでに切ないブラッキー・ローレス の歌声が秀逸な作品だ。効
果的なボーカルの重ね方や楽曲アレンジも見事の一言。名曲である。
 H「Hold on to My Heart〜私の心へ〜」も本作で聴いてこそ冴えるバラードだ
が、さらにいえば、ラストのひとつ手前という位置に収録されてこそ感動できる作品
である。本作中、唯一「怒り」も「悲しみ」も「悪意」もない楽曲で、明らかに他の収録
曲とは毛色が異なるが、このアルバムとは馴染まないはずの爽快なサウンドとボー
カルが、まったく違和感なく本作に溶け込んでいるところにブラッキー・ローレス の
優れたセンスが見え隠れする。ラストを迎える前の束の間の安息がこの曲で味わえ
る。これも名曲。
 そしてI「The Great Misconception of Me〜私のという名の虚像〜」。このア
ルバムの中で最も峻烈なボーカルが堪能できる曲だ。目前に迫ってくるような凄絶
な歌いまわしや、心をわし掴みにされるような苦しく悲しい声などが、およそ9分半の
間に次から次へと目まぐるしく登場し、たたみ掛けられる。ジョナサン少年が、ギター
の6本の弦で自らの首をくくるための輪を作る場面の描写などは、興奮を通り越して
寒気すら感じるほどだ。
 Dで「俺はなりたいんだ。俺は万人のクリムゾン・アイドルになりたいんだ」と歌
われたジョナサンの心境が、この最後の曲で、
 「俺はなりたくない。俺は万人のクリムゾン・アイドルなんかにはなりたくない
という悲痛な叫びに変わっていることも見逃せない。
 アルバム1枚を使って描かれた、この壮大なドラマを締めくくるにふさわしい感動的
な名曲である。


 シンガーとしてのブラッキー・ローレス を評価した場合、くどいようだが本作での
ボーカルは本当に素晴らしい。「音程が外れない」とかいうことではなく、感情移入の
度合いや声の使い方などが絶品なのである。Hでの暖かいボーカルと他曲のそれ
とを比べただけでも、声や歌い方の使い分けをいかに効果的に行っているかが分
かるだろう。
 このアルバムを初めて聴いたとき、彼はこれほど偉大なミュージシャンだったのか
と愕然とした。前作「THE HEADLESS CHILDREN」('89)からその才能に気付いて
いたつもりだったにもかかわらず、予想を遥かに超えた本作の傑作ぶりには驚きを
禁じえなかった。おそらく同じように衝撃を受けた人は、世界中にいたのではないだ
ろうか。野蛮で過激なだけのパフォーマーと見られていたブラッキー・ローレス が、
ひとりの優れたミュージシャンとして、その音楽的資質と知性を世界に知らしめたの
が、本作「THE CRIMSON IDOL」('92)であった。
 感動的な作品である。聴いたことのない方には強く一聴をオススメする。

 尚、英語に強くない人は、輸入盤ではなく必ず日本盤を購入して、訳詩を読みなが
ら聴いて欲しい。それだけの価値は絶対にある。

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