レコード芸術1983年3月号より
《宇野氏執筆月評》無印
リスト作曲、チャイコフスキー編曲による「ハンガリー協奏曲」の世界初録音である。リストの「ピアノ協奏曲第三番」に当たるこの曲は、彼の最晩年、弟子の女流ピアニスト、ゾフィー・メンターのために書かれたが、オーケストラ・パートはピアノ譜のまま未完に終わった。彼女はオーケストレーションをチャイコフスキーに依頼したが、この作曲家がリストを嫌っていたので自らの作といつわったため、長い間ゾフィー作曲として知られてきたのである。曲はコンチェルトというよりはオーケストラ伴奏つきの「ハンガリー狂詩曲」という感じで、極めて親しみやすい旋律が多用されている。
シプリアン・カツァリスは一九五三年生まれのフランスの若手で、一九七四年度のシフラ国際ピアノ・コンクールで優勝した。彼のテクニックは実にめざましく、音色は鈴のようであり、外面美では最高といえよう。つまり、リストを弾くために生まれてきたような演奏家であり、弱音がやや小手先に聴こえるのはこの種のピアニストの宿命か。
「ハンガリア幻想曲」も同様だが、ここではさらに見事なピアニズムを披露しており、特に後半の艶やかた輝きや、時には夢見るような音色美は愉悦感の極といえよう。「さすらい人」は冒頭の自信たっぷりなゆとりにおどろかされるが、その後は今一つ味がうすく、小型の演奏になってしまった。
オーマンディの指揮は相変わらず豪奢かつ雄弁である。そのパンチカは絶大だが、少しもうるさくなく、聴いていて溜飲が下がるようだ。 |
レコード芸術1983年3月号より
《高橋氏執筆月評》無印
このレコードの何よりの強味は、オーマンディ=フィラデルフィアの起用で、「ハンガリー協奏曲」冒頭の低音弦から表惰が豊かで聴き手をひきつけるし、木管の響きも明快で音色も明るい。トゥティも力強く、しかも決して重苦しくならないのはリストの場合には音楽を素直に受け入れさせる点で非常に効果的である。
カツァリスのタッチは粒が実によく揃っており、響きは明確でしかも硬くない。細かいパッセージでも強い集中力を持続するために迫力がある。しかし、決して単なるテクニシャンではなく、メランコリックな情感も充分に生かしている。解釈も常に音楽的で細かな感情に裏づけられており、それが前述の強い集中力と共に演奏に説得力をもたらす。
オーマンディの指揮も手馴れたもので、エネルギーが躍動している。「ハンガリー幻想曲」では木管ののびやかな響きが思いがけないほど豊かな拡がりをもたらしているし、「さすらい人」幻想曲でのオーケストラも力強さと軽快さで、爽やかな後味を残す。この爽やかな余韻という点ではカツァリスのソロも同様で、特にppでの細かいパッセージが魅力的である。異色あるピアニストの登場を喜びたい。 |