緯度0大作戦(LATITUDE ZERO 1969年)

日米合作映画である本作品の企画の発端は実はアメリカのラジオドラマであったことから始まった。
50年代のアメリカのモンスター映画の秀作である「放射能X 」( THEM!1954年 ゴードン・ダグラス監督作品)の脚本を担当していたテッド・シャードマンが戦前に発表していたラジオドラマである「緯度0の物語」が原作でありこれをハリウッドに映画化を企画する事から始まったのである。
この「緯度0の物語」は戦争の暗い雰囲気を一時的にであるが吹き飛ばし戦争で絶望的になっていた国民に希望を見出した作品であった。
緯度0のユートピアという概念が暗い世相を払拭させられるのに十分だったのだろう。
当然ながら当時既に映画化の企画があったことだろう。しかし、海を舞台にした上、科学のユートピアである緯度0を映像化するには当時の特撮技術では無理な事であったことだろう。
結果的には相当後になったのだがある程度の表現が可能となった1960年代に映像化することとなった。
そこでシャードマンは気鋭の監督であったドン・シャープに本作品の企画を打診することとなったがここでも問題となった。
ドン・シャープはプロダクションを所有しているとはいえ大予算の映画は不可能であったのだ。
そこでドン・シャープは東宝に共同制作を申し入れるという方法を取り映像化する事を思いついたのである。
ドン・シャープのプロダクションはアメリカで低予算映画を製作していたAIPの管轄のプロダクションであり同社は東宝映画を輸入してある程度の収入を得ており同時にアメリカ作品に比べて低予算であるがそれらを凌駕する円谷特撮にも精通していたので同氏の所属している東宝にオファーが回ってきたのだろう。
こうして本作品の企画は動き制作費も東宝とアメリカとの折半、撮影もパナヴィジョン70mmの導入での製作となった。
脚本はシャードマンの原案を基に関沢新一が執筆し日本映画らしからぬ仕上がりのシナリオとなった。
だが、ここで問題が発生し暗礁に乗ってしまうこととなっていく。
まず、制作費が折半の予定がアメリカサイドでの資金調達が困難となり事実上製作費を出す事が不可能となりアメリカサイドが製作から手を引いてしまったのだ。
これには当然現場にも響き折角アメリカから来日してきたジョセフ・コットンらアメリカサイドの俳優たちを早く帰国させなければならなくなり本多監督も流石に苦労の連続だったという。
しかも70mmの撮影も予算の関係上、不可能となりハリウッドスタイルの撮影も出来なくなり火に油を注いだほどだったのだが幸い、最終的に東宝の単独製作となりキャラクターや特撮に必要なエレメントの予算は予めキープ出来たためかそれが救いとなった。
さて、撮影の一切は東宝スタジオで行われ5名の外国人俳優が来日し芝居は全編英語で行われたため、日本側キャストも宝田明、黒木ひかる、中村哲といった英語が出来る俳優をキャストに選ばれており本多監督も通訳であるヘンリー大川氏を立てて演出を行っている。
特撮面では冒頭の海底火山のシークエンスは「海底軍艦」などで既に使われているテクニックである水槽に絵の具を落として更にそれを逆さまに撮影したものであるが今回は海底という設定のためか気泡などが生じて雰囲気を更に高めることに成功している。
また、アルファー号、黒鮫号という2大潜水艦の対決が最大の見せ場となっているがこのシークエンスは本作品の特撮シーンでは最もベストの出来映えとなっており従来の潜水艦映画では魚雷を発射しても航跡を引かないのだが本作品ではこの点が改善されており見ごたえのあるシーンとなっている。
更に円谷監督はメカニックに関してかなりのこだわりがあったので潜水艦の動きなどにもこだわりを見せ画面構成やデザインなどでも冴えを見せており「地球防衛軍」から始まったスーパーメカ路線の作品の集大成的作品に相応しい作品となっていた。
また特筆すべきは波の動きのリアルさである。
東宝では海のシーンは「太平洋の嵐」以降大プールを使うのがセオリーだったのだが大抵は夏に撮影されるために質感ということでは今一つであったが今回は冬に撮影されたためにベストの質感となり本作品を語る上で重要な要素となっている。
だが、原作にも登場する怪物たちの造形に難があり出来映えがまるでイベント用の着ぐるみに見えてしまったのは残念である。
このように出来不出来が混合してしまった作品となってしまったが円谷英二最後の空想科学映画であるので一刻も早く映像ソフトになって欲しい作品だ。
本作品は最終的に英語版、106分の輸出仕様版が完成し国内では89分の短縮版で公開されたのでなおのこと本作の全貌を知る上でも発売して欲しい。
権利の関係か幾度か企画されながらも頓挫してしまった本作品だが実質は東宝の作品の為に権利関係もクリア出来るのではないだろうか。
スタッフ
製作 田中友幸
脚本 関沢新一
原作、脚本 テッド・シャードマン
撮影 完倉泰一
美術 北猛夫
録音 藤好昌生
照明 隠田紀一
整音 下永尚
音楽 伊福部昭(サウンドトラック 東芝レコード)
監督助手 谷清次
編集 武田うめ
音響効果  西本定正
現像 東洋現像所
製作担当者 坂本泰明
スチール 山崎淳
特撮スタッフ
撮影 富岡素敬、真野田陽一
光学撮影 徳政義行
美術 井上泰幸
デザイン 井上泰幸、豊島睦
照明 原文良
操演 中代文雄
合成  向山宏
監督助手  中野昭慶
スチール  中尾孝
キャスト
宝田明、ジョセフ・コットン、シーザ・ロメロ、岡田真澄、リチャード・ジェッケル、中山麻理、平田昭彦、中村哲、大前均、リンダ・へインズ、黒木ひかる、黒部進、西条康彦、中島春雄、関田裕、納谷悟朗、村越伊知郎、富田耕生、平井道子、勝部義夫、越後憲、伊藤実、松原靖、篠原正紀、アンドリュー・ヒューズ、エンベル・アルテンバイ、キャシー・ホーラン、オスマン・ユセフ、岡部正
特技監督  円谷英二
監督 本多猪四郎
製作 東宝、ドン・シャーププロ提携作品
カラーシネマスコープ  89分
同時公開「巨人の星」(一部「ニュージーランドの若大将」)
リバイバル版「海底大戦争 緯度0大作戦」公開 1974年12月14日
カラー68分、同時公開「モスラ」「燃える男 長島茂雄 栄光の背番号3」
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