エジプトの旅

ファラオの夢を追いかけて


エジプトの旅は朝が早い。
睡眠があまり取れず、昼間の陽射しは強い。

モーニングコールが午前1時半に鳴った。
きょうはアスワンに立ち寄って、アブシンベルの神殿巡りをする。

エジプトは古代のはるか昔からリビア、ヌビア、ギリシャ、ローマ、
フランス、イギリスなどさまざまな国に支配されてきた。

アスワンはエジプト独立のシンボルのようなところだ。
歴史よりもナイル川の恵みを受けて自然が美しい。
アスワンからの眺め
カイロを4時半に発った飛行機は1時間半のフライトでアスワン
に着く。朝の日の出が鮮やかだった。

アスワンはカイロから南860キロのところにある。

ナセル湖をたどって、早朝のアスワンハイダムに行く。東京ドー
ム160個分という巨大なダムだ。

エジプト人は世界一と自慢するが、見た感じは黒部ダムの方が
はるかにスケールが大きく「なあんだ…」という感じがする。

カイロには少ない花もこの辺にはぽつりぽつりと見られる。
エジプトの人に「この花はなんの花?」と聞くと「はな」という答え
が返ってくる。「この木は?」。「木」。砂漠の名前を聞いても「砂
漠は砂漠」としか返ってこない。

それだけ不毛地帯ということなのだろう。

日本のような細やかな自然との触れあいというのはない。
石切り場の犬たち
街のはずれに石切り場があり、切りかけのオベリスクが放置さ
れている。

オベリスクと言えばパリのコンコルド広場にあるみごとなオベリス
クを思い出す。

ここで切り出していかだに乗せて、ルクソールなどへ運び出して
行った。

石切り場は観光客でごった返しているが、遺跡を守るように野良
犬が棲みついている。時折、岩の上から遠吠えしている。

えさを与える人もいるようだが、狂犬病の可能性も高く、絶対馴れ
馴れしくしない方がいい。
切りかけのオベリスク
放置されたオベリスクはとても巨大だ。

途中まで切り出したが、切り出し途中にひびが入り、像などに転
用を考えたのだろうか、また、それにもひびが入って、とうとう放
置されたままになった。

未完のオベリスクはトトメス3世時代のものと推定され、長さは41
メートルもある。赤っぽい花崗岩だ。

エジプトに残るどのオベリスクよりも大きい。

このオベリスクは本当はどこに使われることになっていたのだろ
うか。
ヨットが浮かぶナイル川
アスワンからずっと南はヌビア地方と呼ばれている。
カイロとはまた違ってひときわ色の黒いヌビア人が多い。

純白の衣装に身を包み、人懐こい笑顔を浮かべ、自分たちの文
化をとても大切にしている。

なにかあるとすぐ、ヌビアン・ダンスを踊り出す。

バレエ「シェーラザード」をはじめ、ヌビア人に踊りは日本人にも
おなじみだ。
ヌビア人の船頭さん
ナイルの風が心地よい。

ファルーカに乗った。

舵ひとつ、あとはナイルの風まかせ。ゆっくりと白い帆を張ると小
舟が動き出す。

けだるい陽射し。何もしない幸せを、ナイルの風が運んで来る。

岸辺には豪華客船が停泊している。

やがてヌビアン・ダンスが始まった。ヤギの皮で作った”タロ”と呼
ばれる楽器を叩きながら、掛け声を入れていく。

おばさんたちが腰を振って踊り出す。日本のおばさんはどこでも
臆することなく楽しみをむさぼる。
ファルーカから見たオールド・カタラクト・ホテル
隣のファルーカでもおばさんが楽しそうに踊っている。

ナイルの岸辺の風景が刻々と変わって行く。

ブーゲンビリアが咲き乱れる神殿の跡、行きかう舟、しゃれた洋館
はアガサ・クリスティーが「ナイル殺人事件」を書いたとき宿泊した
オールド・カタラクト・ホテルだという。

小一時間のファルーカはのんびりと、疲れを癒してくれた。
アブシンベルの遺跡
アスワンを正午に発ってアブ・シンベルに向かう。

アブ・シンベルはエジプトの一番南で、スーダンの国境にほど近い。
45分ほどのフライトで機内ではジュースだけが出た。

アブ・シンベル大神殿は今度の旅行で一番行きたかったもののひ
とつだった。

大神殿と小神殿は今から3200年も前、ラムセス2世の時代に作
られた。ラムセス2世はエジプトのファラオの中で最も有名な王だ。

24歳で即位し、在位は紀元前1290年から1224年まで66年に
及び、90歳で没するまで100人以上のこどもをもうけたといわれ
る。

エジプト中にラムセス2世の名を冠した遺跡があり、エジプトはこ
の王の遺産のお陰で食べているといってもいい。
ラムセス2世像が建つアブシンベル大神殿
壮大な神殿は1813年、スイスの探検家ブルクハルトに見出され
るまで砂漠の砂に埋もれていた。

しかし、アスワンダムの建設で今度は水没の危機にさらされること
になり、1964年から4年の歳月をかけて世界中の支援で64メー
トル高い今の場所に移設された。

移設そのものは大変な難工事で、3000年前のエジプトの建築技
術がいかに優れていたかがわかる。
アブシンベル小神殿
アブ・シンベルの神殿では10月22日と2月22日、年に2度だけ神
秘の”奇跡”が起きる。

この”奇跡”を見るために世界中からことしは5000人もの観光客
がエジプトにやって来た。

この日、ナイルから上がる朝日が神殿の奥深く射し込み、入り口
から60メートルも奥にあるラムセス2世、アメン神、そしてオシリス、
プタハの4神を真っ赤に照らし出す。

なぜ、こんな辺境にこんな壮麗な神殿があるのか。この神秘はな
ぜなのか。まったく分っていない。

胸躍らせて神殿を巡った。
大神殿の彫刻
大神殿の正面には4体の巨大なラムセス2世の像が建っている。

高さは20メートルもあり、威圧されるほどだ。

ホテルはセティ・アブシンベル(SETI Abusimbel)。ナセル湖に面
して建てられ、しゃれたコテージ・タイプだった。

ナセル湖のほとりを散策する。ブーゲンビリアが美しく咲きこぼれ、
なんかバリ島にでもいる幻想に陥った。

夕食の前に風呂に入ろうと思ったら水しか出なかった。隣の棟は熱
い湯が出たそうだ。
ブーゲンビリアの咲き乱れるホテル中庭
少し寝て、夕食の後、神殿の「音と光りのショー」に出かけた。

懐中電灯で足元を照らしながら岩山を歩く。星空がぞくっとするほど
きれいだ。

ショーは各国語で日によって違うそうだが、きょうは日本語だった。

ライトが落とされ、真っ暗になった神殿と周囲の岩山に光りが当た
る。ファラオの物語が巧みな映像で映し出されていく。

なかなか感動的だった。

帰り道、何度も星空を見上げ、あやうく転びそうになった。

 BACK   NEXT