水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第七章/五編


秋さがし


 長男1年生、基本に忠実な男である。以前から、おもちゃをまっすぐ並べたり、包装箱を大事にしたり、名前を正確に覚えたり・・・、几帳面だとは思っていた。
 そこに登場したのが、彼の担任の先生である。定年を間近に迎えるベテラン先生で、細かい指示事項と注意があるので、周囲の父兄から注目されていた。これだけ決まり事が多いと、大変だろう?と思ったりもしたが、長男は違っていた。型にはまってしまうことが大好きなようである。家庭での過ごし方にも、担任の先生の指示を守るようになった。
 教科書・ノートの置き方に始まり、本の読み方、漢字・計算ドリルの置き方・書き方、食事の仕方まで忠実に教えに従うのである。親である私達が言っても、なかなか聞いてくれない。最後には、喋る口調を真似するようになり、学校での先生の一挙一動を報告するようになった。この融通の利かない性格は、私個人としては、あこがれの『偏屈』の部類に属すので好きだが、彼の姉2人はイラついていた。
「あんた、いい加減に、その『○○先生がねー。』って言う喋り方はヤメナイ!!」
「先生のやり方だけじゃなくて、自分でも考えてみたらー、少しは。」
「うるせーが、あんたには工夫って事がわからんとねー。」
「学校は学校、家は家。ちゃんと使い分けんとイカンがぁ。」
決して、言われた通りにはしない、姉2人の勘に触れたらしい。
 そんなこんなでも、私個人としては、興味深い点が多い。彼は鉛筆が、3センチまで短くならないと、新しい鉛筆を使わない。今時、長さ調整できる、鉛筆キャップを使用しているのは、クラスでもそういない。そして、3センチになった短いえんぴつを、嬉しそうに貯めている。この、コレクションは捨てがたいと評価できる。
 他にもたくさん奇妙なコレクションがあるが、「金属質ゴミ収集」「落ちている輪ゴム収集」「セミの抜け殻収集」などなど、魅力的な性格としか言いようがない。そして、特筆すべきは、流行の「カード収集」である。「ポケモン」や「デジモン」や「遊戯王」のカード収集が、巷で大流行しているが、彼は、貴重な種類のカードでないとダメ!って言うことがない。友達が、カード購入後、
「これは持っている!」
「このカードは、ザコや!」
などと捨てたり、もらったりするのを大切に収集する。そして、今や、収集枚数だけは、誰よりも多い。時折、友達に披露して自慢げにしている。しかし、友達も、息子の価値の無いカードだらけ、あまりにも貴重カードの少ないのにびっくりして、
「これ、あげるわぁ。」
と、結構いいカードも貰ったりする。どうも、いいカードは、別管理で大切に保管してあるようで、それは、あまり見せないそうだ。
 この魅力的というか、融通の利かない男の欠点も多い。日記を書くとき、先生に
「何について書くのか?題を決めてから、書き始めなさい!」
と指導されていた。だから、題が決まらないと、何時間でも日記に取りかかれず、勉強が終わらない。知っている限りでは、題が決まるまでに、5時間近くかかったことがある。その間、遊びに行ったりしたわけでなく、ノートと鉛筆を握りしめながら、
「題がー。題が決まらんとよー!」
と泣きわめいていたことがある。最後には、女房に
「『日記の題が決まらない』って題で書きなさい!」
と、怒鳴られていた。

 そんな、学校・先生大好きの長男である。最近、さぼらせにくくなってきた。しかし、そのチャンスは向こうからやってきた。それは、先生の宿題が、『秋見つけ』のテーマとなったのだ。平野部は、まだ紅葉していない10月下旬である。
「なぁ、宿題の秋さがしをしに、父さんと山登りに行こうか?」
「じゃけん、学校休まんといかんわぁ!」
「クラスの友達より、先に秋が見つかるんだけどなぁ・・。」
「おとうさん、ボク行くわぁ!」
「おかあさん、学校への連絡ノートに書いちょって!」
「何って書いときゃええんや?」
「高千穂へ秋を探しに行きます!って書いとこか?」
「そうやな!」

 長男と二人だけの登山は、「二ツ岳」以来である。今回、祖母傾山系の「古祖母山」を選んだ。高千穂の天岩戸から県境を目指し、大分側へトンネルを抜けたところが登山口である。濃いガスが立ちこめ、雨も落ち始めた。縦走路へ突き上げると、そこは幻想的な紅葉の世界が広がっていた。山頂へ向け、1時間ほど歩くが、雨足が強くなってきた。トレッキング用のストックに、傘を縛り付け、親子で頭をつっこみ行動食を食べた。私の顔を見上げながら、
「お父さん、帰ろうか?」
「ここまで来て、戻るんか?あと、1時間ぐらいで山頂やぞ!」
「・・・・・・・。」
「よっしゃ!車に戻って、温泉に行こうか!」
下山していると、次第にガスが薄くなってきた。明るくなってきた。天気も回復傾向だが、それはそれでいいと思った。そろそろ、山頂だけの登山を見直す時期でもあった。引き返す勇気は、きつい登りより大変だ。でも、何が大切か?何が本質か?・・・。今日は、長男が私につき合ってくれたことが、一番の喜びなのだから・・・

 学校の連絡帳、先生の返信に、『授業の秋さがし、そこまでされて、負担になっていませんか?』と書かれていた。先生すんません。


 
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