水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第七章/四編


かんばん娘


 ママちゃんの腰痛は、椎間板ヘルニアと診断された。おまけにだ!私の膝痛は、疲労骨折寸前だと診断された。闇が広がった11月・・・・・である。
 夏休みに、ママちゃんは、腰痛のまま四国の山を縦走した。私は、テント泊縦走だったので、調子に乗って20s近いリュックを背負った。それだけだったら良かったが、その後も、二人はガマンしたまま山行を繰り返していたのだ。頭の中で否定を繰り返してはいたが、病名が特定されて、ママは活動休止を宣言した。
 水曜日の休日がやって来るたび、変化のない、一日を過ごす事となった。女房は、腰痛といえども、家事はある。子供を学校へ送り出したりもする。私自身、家事の手伝いはする方だと思うが、全面的に手伝えるはずもなく、痛そうな顔で、辛そうに日々を送る女房の存在自体が、プレッシャーとなる毎日になってしまった。朝起きて、朝食を作るにも、洗濯物を干すにも、立ち座りをするにも、顔をイガませ、
「あっ痛たたたたっ。」
と、近くで言われると、
「私は腰が痛くてたまらないのに、あんたは、会社に行くだけで、家に帰ると何もしてくれない・・・。」
と、聞こえてしまう。実際、私の膝痛は、山登りが出来ないだけで、通常の生活には支障はないのである。いくら、会社でふんぞり返って、座っているだけかも知れないが、自宅でくつろぎたい気持ちはチョコッとはある。それにまして、女房の顔は、一重瞼の、トンガリ口の文句顔で、態度もデカイ!
 今まで、会社から家に帰ると、犬小屋の掃除と餌やりを済ませ、食事が出来るまで、勉強中の子供をからかったり、メールチェックをしたりしていた。夕食が配膳されると食卓へ座り、全員で食事。チト、アルコールなども舐めたりして、食事後はゴロンとしてみたり、パソコンをいじってみたり、入浴して寝る。そんな、パターンであったはずだ。
 しかし、流し台の中には、朝食からの食器が溜まる。家族6人だから、1日分では山盛りとなる。とにかく、少し前かがみの姿勢が痛いようなのだ。パソコンの机に座っていても、背後から「うっ。」「痛たたたた。」「よっこいしょっと。」「あ゛ー、も゛ー。」と聞こえてくると、気が気ではない。何か手伝わない自分が、やさしさのない卑劣な夫に思えて来るのだ。胃も痛くなり、酒まで飲めなくなってきた。遊べないいらだちと、女房の家庭内圧力のいらだちで、ストレス塊化してしまった。

 ストレス解消策を講じなくては、生活がギスギスしてしまう。ならば、休み毎に、なんやかやとやってみることしてみた。
◎ストレス解消策、第一段。
 登山のない「キャンプ」をしてみようと、えびの高原へと向かった。車横付けのオートキャンフ場へ行けばいいのに、静かなサイトを選んだ。焚き火の煙に燻される夜は、心地よい。じっと夜と向かい合う事をしばらく忘れていた。いつもキャンプは、翌日の登山に思いを馳せる一時であった。翌朝、目覚めても、また火を起こし空腹を満たすだけである。子供達は、鹿と戯れ、草に分け入った。もう一つ確認出来たのは、キャンプと言えども、野外行動。女房は腰痛、私は膝痛を再確認する行事になった。
◎ストレス解消策、第二段。
 「近場の史跡・温泉巡り」である。山城跡を覗き、弁当を広げ、帰路疲れてもいない体を温泉に浸す。イライラ。
◎ストレス解消策、弟三段。
 「観光地で昼食」である。綾町にある「酒仙の杜」にて食事に出かけた。ここは、地酒・ワインが無料にて試飲できる。ウイックと言いながら、飲む食べ行動後、ママちゃんの運転で帰宅。今日はいったい何してたんやろ?
◎ストレス解消策、弟四段。
 「海釣り」である。釣具屋で餌を買い、釣り場へ到着すると、釣り座を構えて、ビュワーンと投げ込む。すると、気持ちが「さぁ、何しようか?」となるのである。釣りに来て釣りをしているのだから、それでいいはずなのに、落ち着かない。近くの岩場をウロウロしては、膝の痛みを確認し、港の町を徘徊してみたりするのだ。なんら魚信もなく、
「そろそろ子供達も学校から帰って来るなぁ・・・。」
と、家路をたどる。
◎ストレス解消、第五段。
 「映画」。結婚後、初めての夫婦映画鑑賞となった。折しも、山岳映画「バーティカル・リミット」が公開中である。手に汗握るシーンの連続に、関節中が浮いたような感覚となったりもしたが、結果、登山装備の充実を図る事も大切と思ったりした。登山道具を見渡せば、欲しい物だらけで、山への思いは膨らむばかり・・・。
「いったい、俺は何してるんやろ!」
と、バーティカル・リミットならぬ「ストレス・リミット」となっている自分に気がつく。

 焦る気持ちはうらはらに、年末が迫り来て、何も計画が立たない正月を迎えるのである。でも、我が家で一人ブツブツと現状を嘆き、騒ぎしているのは私だけで、子供達はいつものペースである。つい(椎)に、かんばん(間板)娘ママちゃんが切れた!
「あんた、いい加減にしときやぁー。」
「黙って聞いてりゃ、自分の事ばかり文句言って。体の調子悪いときは、ジッとしていたらいいねんて。そういう時もある!ここは、じっくり治して春に備えたらええんやて。」
と、言われるとシューンと縮こまるハゲ親父。次男4歳が、
「ボクが、幼稚園休んで一緒に遊んでやるわ!
僕ちゃん、41歳のハゲ親父。一番のワガママです。


 
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