水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第六章/九編


すのぼー


「で、それで、お前はくやしくないんか?」
「いくら言っても、聞いてくれんし、やめんとよ。」
「言っても判らんヤツは、やっつけてしまえ。」
「お前も、自分の妹が嫌がっているのに、なんで、助けてやらんとか。」
「おねえちゃんは、いつも笑って見ているだけやもん。」
「よし、どうしても許せないんだったら、お父さんが、そいつをボコボコにやっつけてやる。二度とお前にイジワルできないようにしてやる。」
次女は、少し落ち着きを取り戻し、涙がこぼれなくなった。
 しばらくして、学校での下校時の指導の時間、先生の
「何か、質問や意見のある人はいませんか。」
の声に、2年生の次女は、6年生から1年生までいる場で挙手し、やめてほしい自分の主張を訴えたそうだ。本人も姉も、その事を女房にも私にも言わなかった。近所の子の親が、自分の子供が『勇気がある』と、言っていたのを話してくれた。
「で、それで、その子はしなくなったとか?」
「うんにゃ、前と全然変わっちょらんよ。」
「そうか。」
しかし、もうその事で、彼女の瞳から涙はこぼれない。自分なりに問題を解決出来たのかは判らないが、行動を起こした彼女の勇気を誉めてあげたい。そして、『親は何があっても、お前の味方なのだ。』と、最後の保険として、子供を包んでいてあげたい。

 この時期、年に1度は、『家族スキー』をと考えている。去年同様、『大分・九重スキー場』に行った。去年、滑れる様になった長女に続き、次女も初心者ゲレンデを滑り降り、リフトにも乗れるようになった。欲を出して、長男までと、私の間にはさんでボーゲンの感触を教えてもみたが、挑戦派の長女・次女とは違い、慎重派の長男はの顔つきが、
「スキーは、あぶねが。」
「スキーは、おじが。」
「なんで、ボクがスベらにゃいかんとや。」
「ソリのほうがおもしりが。」
「勝手んあそぶっちゃかい、かまわんでくだい。」
と、言っていた。そんな中、次男は待望の『雪』に、まみれまみれて遊んでいた。
 で、我慢していたと言うより、封印していた感情の箱が、大きな音をたてて崩れ落ちて行った。それは、場所設定・同行者の確保から始まり、ウエアー・板・金具・靴の購入におよんだ。そして、平日出発組として、広島の『端穂スキー場』に『ミレニアム41歳スノーヘボーダー』が誕生した。
 で、それには外部からの刺激もあった。仲間達数人が、早々とスキーに見切りをつけ、両足揃える事に熱中するより、はじめから1枚板で足が揃った『スノーボード』へ転向したのだ。しかも、私より年上『50歳40歳ボーダー軍団』である。『クソッ。』と思う気持ち反面、『どうせ、休みは無いんだし。』と思う気持ち反面。しかし、『クソッ。』が、『クソクソッ。』になり、ついには『クッ、クッ、クックソソウオーッーッーッ。』と、爆発してしまった。以来、やったこともないのに勝手なイメージトレーニングで、いきなり滑れる自信さえ備わってきた。結果、2日ほどで、上級者コースでも格好悪くターンを決めながら、一応滑れる『ハゲ親父ボーダー』が仕上がった。
「頭の帽子はダテじゃねぇ。薄い頭が寒いから。おまけに。かぶれば年齢知らず。帽子を取り巻くゴーグルも、大事な役目を果たしてる。外れちゃいけない『ハゲ隠し』。しっかり押さえているんだぞ。」
・・・と、鼻歌混じりにスピードを出し、曲がりきれずに1回転半してしまった。まぎれもなく、『骨折保険』支払いの対象として、12回目の『肋骨ヒビ』を広島土産にした。
 で、なんで「スノーボード」なのか。それは、子供と遊ぶ時のスタンスの問題なのだ。子供と関わるとき、同じ目線で『子供の世界』を見たい『水流渓人的まがまま』なのかも知れない。できるかぎり現役で子供と関わりたい。
「お父さんが若かった頃はなぁ・・・。」
などと、子供の前で実行せずに口だけで説く『過去自慢的態度』では、ダメだと思う。可能な限り同じスタンスで、同じ目線で付き合う為に、スノーボードを始めたのだと思う。プラス、今後、子供達がスノーボードを始めた時、
「ほーら、父さんの方が上手だ。」
と、自慢したい気持ちもある。
 そして、自然に子供達は親を乗り越えていくのである。現に、私が小学3年で乗れた自転車に、長女は6歳、次女は5歳、長男は4歳で乗れた。私が小学校で2回しか跳べなかった『縄跳び・2重飛び』を、4年の長女は50回、2年の次女は6回跳べる。そんなとき、私は自分が出来なかった事を正直に話す。そして、誉める。これからの成長過程において、親を乗り越える事の方が多くなるはずだが、それはそれでいい。それでいい関係を、親子として続けていきたい。正直、いつまでも子供の世界に関わり、いつまでも遊んでもらいたい気持ちで一杯なのだ。やりもしないで、しない・出来ない・面白い・面白くないなどと言う事はやめたい。やりもしないで結果を決めつける親を、認める子供は少ないと思う。私の子供は、絶対的に認めないと思う。
 今までに無かった私の世界に、スノボの世界が広がった。そこから、見えてきたものが多い。なあーんか、ダブダブのズボン。ぼそぼそっとしたジャケット。毛糸の帽子にゴーグル。ブカブカのグローブ。派手な色のボード。スキーの邪魔になる動き。そのすべてが格好良く見えてきた。重ねて、ハゲ親父には羨ましい、チリチリの茶髪も格好良い。見るからに煩わしそうだった彼らの格好も、それなりに意味あるものに思えてきた。格好悪く転倒し、ハゲを隠していた私の帽子を、格好良く拾い上げ
「大丈夫ですか。」
と、ニコッと笑った茶髪ドレッドの兄ちゃんは、ミラーゴーグル越しに可愛く思えた。実にさわやかな気持ちになれた。いままで以上に、長女の話しを理解してあげれるような気持ちになれた。

「お母さん、お父さんにだけは言わないで。」
と、靴を握りしめた長女10歳。
「どおして。」
「だって、お父さんに言うと、すぐ修理するもん。」
とにかく私は、修理好きである。修理出来ない物以外は、何でも修理する。たまに壊す。縫い目の擦り切れた運動靴を、縫い合わせると、また2ヶ月ぐらいは履ける。長女曰く、修理してある靴を履いているのは私だけだそうだ。しかし、私は、いろいろな素材を縫合できる『特殊針セット』を所持している。

「お母さん、体操服のゼッケンを、そろそろ漢字の名前にして。」
と言った。もうすぐ5年生になる彼女のゼッケンは、1年生から使用しているのでクラスの所だけ毎年、白く塗られて訂正されるが、名字はひらがなのままである。今、ひらがなゼッケンは自分だけだと言う。考えてみれば、体操服の下が、ブルマーからショートパンツに変わって1年以上も経つが、長女だけブルマーで過ごしていた。
「父さん、そろそろショートパンツに変えたいっちゃけど、お母さんは、着れる間は買わないって言うっつよ。パオがポイント2倍セールの時まで待ちなさいって・・・。もう半年も前にそう言ったっちゃけん。」
パオは近くのショピングセンターだが、その間十数回は『ポイント2倍セール』のチラシを見ている。
「まあっ、それは自分でお母さんに言いなさい。」
とは言ったものの、こっそり女房に購入を指示した。


 
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