水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第六章/三編


誓いますか?誓います。


 宮崎発10時50分の飛行機で、大阪に向かった。空港まで、女房と次男3才が送ってくれた。大阪は、女房の実家であり、私も十年暮らした地でもある。当時、勤めていた会社の頃、部下であった西川くんの結婚式に招かれたのだ。前夜には、その頃の懐かしい顔ぶれで酒宴もあり、今なお残る震災の爪痕を感じつつ、時の流れを感じた。
 扉が開き、純白のウェディングドレスに身を包んだ新婦は、父親にエスコートされながら、バージンロードをぎこちなく進んだ。進む娘と父の視線の先に、晴れやかな顔つきで立つ新郎の姿が、印象的だった。と、同時に、今までに感じたこともない、言い知れぬ寂しさにつつまれてしまった。参列する結婚式では、新郎的感覚や、当事者的感動しかなかった。それがいつの日か、新婦の父親的感覚に、スイッチが切り替えられていたのである。切ない気持ちと、かすかな嫉妬心。そして、不安。なんだか、今にも自分の娘を嫁に出す気持ちで、目頭が熱くなった。
披露宴が始まり、私のスピーチの番が来た。何を話そうか、考えたりもしたが、マイクの前に立つまで考えはまとまらず、口を乾かして喋ったのである。 
 裕美さん、智映子さん、ご結婚おめでとうございます。
また、ご両家の皆様にも、お慶びを申しあげます。
 私は、宮崎県より参りました。宮崎の代表的な民謡の一説に、『もろたもろたよ、いもがらぼくと。日向かぼちゃの良か嫁じょ。』と言うくだりがございます。『働き者の男が、いいお嫁さんを貰った。』と言う意味になるのでしょうか。こう見ましても、裕美さんは、本当に《日向かぼちゃの良か嫁じょ》と結婚されるのだなあと思います。智映子さん。《かぼちゃ》と言われて、変な気分かも知れませんが、シンデレラでさえ《カボチャの馬車》で、王子様に会いに行ったのですから、《かぼちゃ》は、縁起の良い言葉だと思います。
 『スピーチをお願いします。』と、裕美さんから、ご依頼がありまして、何を話そうかと、色々考えてみました。会場で裕美さんのお兄さんにお会いしまして、あまりにもそっくりなので、まず、それを話そうと、考えていましたが、先ほど、上司の方に先を越され、言われてしまいましたし、10年以上もの歳月が流れておりますと、ネタさがしも大変です。
 《上手なスピーチの仕方》などと言う本を読みますと、結婚式での諸注意事項には、『失礼な事は、出来るだけ避けましょう。』、『出来る限り誉め言葉を使いましょう。』と、書いて有りました。裕美さん、結婚式では《誉め言葉》だそうですから、いったい何を話し出すやら心配しなくても、安心してください。
 裕美さんとは、もう12年も前になるでしょうか、同じ職場で仕事をしていました。当時の仕事ぶりをお話ししようと思ったのですが、お仲人様や上司の方のお話しを聞いておりますと、以前と、まったく変わってないなあと、感じております。 
 それより、12年も過ぎた今、こうやって裕美さんのご結婚式に、列席させていただき、はたまた、この様にお祝いが出来るなんて、本当に、有り難く、嬉しく思っています。
  現在、私は、郷里の宮崎に暮らしています。10才を筆頭に、『2姫2太郎』、4人の子供がいます。出来る限り、子育てに参加しようと、時間を作っては、一緒に遊んでいるつもりではあります。
 いつも子供達が話す言葉に、『父さんより母さんの方が好き。』『お母さんよりお父さんの方が嫌い。』というのがあります。別段、気にもしていなかったのですが、昨年、ふと、どうしてそう言うのだろうと聞いてみますと、当時、7才の次女が答えてくれました。
「お母さんの方がたくさん叱るけど、叱るときに、わけへだてなく子供達を叱るし、私は、叱られて、本当にゴメンナサイって思う。だけど、お父さんは、わけへだてて叱るし、恐いだけだもん。」
と、言ったのでした。私は、愕然としてしまいました。自分の子供だからとか、父親なのだからと言う態度で子供達に接し、子供達を一人一人の個性として、認めていなかったのだなあと、思い知らされました。子供達は、私の言う事を、何も納得していなかったのでは・・・と、反省させられました。 
 子育てに評価があるなら、それは、育てられたその子供が、評価するのではないでしょうか。その評価の一つとして、子供は、結婚式を迎えるのではないでしょうか。どうですか、裕美さん、智映子さん。今日のよろこびは、二人の結婚ということだけでないはずです。きっと、ご自分の、お父様、お母様に対する感謝の気持ちでいっぱいのことと思います。
 どうぞ、裕美さん、智映子さん。納得の出来る夫婦になってください。そして、納得のできる子育てをして、納得のできる家族を作って下さい。そのために、一日一日の会話を大切にしてください。お互いが納得していれば、しっかりと足が地についた生活を送れると思います。そして、私は、裕美さんが、それを出来る男だと、確信しています。
 本日の結婚式、本当の意味で、「素晴らしいなあ。」と、感じております。先ほど、チャペルで、ご入場された智映子さんのベールの隅に、裕美さんと智映子さんの名前が刺繍してあり、なんだか、とても感動してしまいました。
お幸せに。
 何か伝わっただろうか。思えば、この結婚式の前日は、私達の「結婚記念日」であったことを思い出した。11年が過ぎた。いくら考えても、年を重ねる度、加速度的に、女房や子供達を愛する気持ちは増している様に思う。


 
Copyright(C) 水流渓人 All Rights Reserved

戻る