水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第六章/二編


盗聴合唱会


 長女、小学校の合唱部に在籍している。夏休み中に、『NHK合唱コンクール宮崎県予選』があるので、夏休み前半は練習のため学校へ通った。アルトだのメゾだの言って、音痴の私はピンと来ない。課題曲『ホホウ』・自由選択曲『教室は宇宙だ』をひっさげて、『宮崎県・芸術劇場』へ乗り込もうとしていた。衣装も、上が白、下が黒の指定があるらしく、ワザワザ大阪の母が、黒いスカートを送ってくれたようである。毎夜の練習にも熱が入り、今では、次女・長男・次男もそのメロディーが頭から離れ無いらしく、気を抜くと口ずさんでしまっている。
 大会当日、運良く私も休みであった。県内の小学校が、順番に歌うのを全部聞いている程の余裕もなく、我が娘の出番近くを見計らい出かけた。前夜、長女の注意事項の中に、喋ったり、騒いでは行けないことや、ビデオを撮ったり写真を写したりしてはイケナイと、言われていた。当日の、録画・録音テープが、全国の大会に持ち込まれるそうである。
「折角の記念なんだから、ビデオぐらい撮ってもいいだろ。」
「先生が、ダメって言うんだから、絶対にだめだよ。約束破ってそんなことして、失格にでもなったらお父さんのせいやからね。ビデオは、学校で買うから、後から回覧するって。」
「そうか。NHKだもんな。放送局だもんな。」
長女に、しつこく注意を授かった私は、注意事項にはなかった『テープレコーダー』を忍ばせていた。写真・録画がダメでも、録音は聞いていない。なんとなく、こそ泥気分で『盗み録り』の為のセコい仕掛けを準備した。13年前に購入した『録再タイプ・SONYウォークマン』に、『タイピン型ステレオマイク』をセットし、女房のバックに忍ばせたのである。1つ前の学校の歌の時、会場入りをし、娘の出番を待った。いよいよ出番である。拍手の間にスイッチを押さねば、シーンとした会場に「カッチャ」の音が響き、係員に両腕を捕まれ、歌う娘の前から連れ去られる『薄らハゲ親父』となるのである。運良く、長い拍手に救われ、早送りボタンやら、巻戻しボタンやら、再生ボタンやら、イジェクトボタンやら、さんざん押したあげく、本体をバックから取り出し、堂々と録音ボタンのスイッチを入れてしまったが、隣のオバちゃんにジロと見られただけで、退場にもならず、完ぺきな録音を完了させた。結局、帰りの車の中で聞いてみると、近くの人の拍手の音や、咳払いや、バックの中でガサゴソする音の方が大きく、遠くでBGMの様な合唱が響いていた。
「ほらほら、お父さんが頑張って、テープに録音してやっといたぞ。きっとテープは、ただ1本しかないテープのはずやが。」
と言う私の言葉など誰も聞いているはずもなく、皆、アイスクリームにしゃぶりついていた。
 夏休みが終わる頃、家族で『尾鈴山』に登った。尾鈴山は、住んでいる街中からも、自宅からも望める。海岸から一気に1,405メートルの標高へ、太平洋プレートが押し上げて出来ている山であることが判る。海岸から延びた尾根は、約15キロメートルで山頂を作り上げている。いつもは、自宅から近い所で『山女魚』に出会え、数々の瀑布群を楽しませてくれる。雄々たる巨岩の渓谷美は、懐深い源流の趣が、海岸線よりわずか15キロの地点で味わえる。 登山口からは、自然林の中にきれいに整備された道を、これまたきれいに設置された合目の標識に従い、息を切らせば確実に高度が上がる。子供達の文句の回数もピークを迎える頃に、山頂の三角点を踏めた。展望は無いが、気持ちは壮快で、いつもの山頂ランチだった。歩行中、チクリチクリと軽い痛みと、少しの出血を伴った虫の噛み跡は、ブヨだったらしく、以後、3週間ほど私達家族を、ボリボリ・ポリポリの状態にさせた。
 文句の多い家族登山であるが、長男5才ですら、下山の速度は女房より速くなった。長女10才も、子供用のトレッキングシューズでは、サイズが小さくなり、女房の足サイズになってきた。色々な変化と、子供の成長を感じながら、いつまで続くか分からない家族登山に、思いを巡らし、もっともっと私のわがままに付き合っていて欲しいと願っての下山であった。

 やはりおかしいと思うようになってきた。今まで、なんとなく変じゃないかなと思っていたが、考えれば考えるほど納得できない。そりゃ、現代の環境において、私達が育った環境と違っていることは、十分理解出来る。経済と福祉が発達した現代において、少なくともわが子達は、飢える事はない。好きや嫌いを主張できなかった頃とは違い、好き嫌いを言う事が、贅沢ではなく自己主張として、良い判断へと印象づけられている。残さず食べる習慣は、今や病気の原因でもある。そんな観念の変化が、子供を取り巻く環境まで変えてきたのであろうか。良い悪いは別として、私がおかしいからおかしく感じるのかも知れない。
 幼稚園にて
 〜運動会の練習で、子供達は疲れているので、できるだけ迎えに来てあげてください。〜・・・・・疲れる事はとてもいいことに感じるし、そのくらいで子供が疲れるとも思わないが・・・・・
 小学校より
 〜運動会のハチマキを、最近は結べない子供が多いから、結ばなくてもいいように帽子に縫いつけて下さい。〜・・・・・結べないのだったら、結べるように練習させた方がいいと思うのだが・・・・・
 参観日・父兄懇談会にて
 〜先生。自分の子供が、学校で何をしているか分からないので、もっと分かるように、写真やビデオを撮ってはどうですか。〜・・・・・そのうち、子供に映像付き発信機を内蔵させ、常時、子供が観察される時代が来るかも知れない。
 小学校にて
 〜時間割りは、親が見てあげてください。忘れ物をさせるのは、親の責任です。〜断固言う。忘れ物をするのは自分の責任だ。わが家では、私も女房も、絶対・意地でも、子供の時間割は確認しないことにしている。聞けば、忘れ物をしたとき、親のせいだと暴れる子供がいるらしい。その様なことを、わが家でしたらどうなるか、わが子達はよく知っているので、親に文句を言ったことがない。しかし、忘れ物はするらしいが、長女に至っては、それが結構平気になりつつあるのも、チト困るものだ。
 小学校入学前の説明会で
 〜左ききの子供は、右ききに直しておいて下さい。〜・・・・・なんで。


 
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