水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第五章/十一編


こいつら


 猛威をふるった、今年のインフルエンザは、私に念願の禁煙を実現させてくれた。自分で自分に関心しているのだが、素晴らしく快適である。喫煙者が、喫煙場所を探していたり、自動販売機の前で小銭をチャラチャラさせているのを見ると、「可愛そうに・・・。」と、勝利の笑みを浮かべるハゲ親父なのである。
 いつもの3月渓流解禁時、しばらく釣り上がった渓谷の岩上で、ホッと一息の一服がうまかった。しかし、今年の渓流では、振るロッドの感触に浸りながら、吸うタバコの感覚が懐かしいが、禁煙している自分に浸りきっているので、大丈夫の様である。
 思い出せば8年前、『禁煙』を友人とチャレンジしたが、3日と続かなかった。同時に禁煙した友人は、未だに禁煙で、私は自分の意志の弱さに、かなりのコンプレックスを持ってしまった。しかも、女房に、馬鹿にされるのを恥じて、しばらくは隠れて吸っていたのだが、早朝トイレの一服タイムの時、ついにばれてしまった。完全に私を見下した、あの時の女房の冷ややかな視線に、未成年の喫煙者が警察官に尋問を受けているかの様な幻覚に落ち込み、立場が無くなってしまった。以来、タバコを手にするたび、吸うたび、嫌な視線と罵倒に耐えながら8年を過ごしてきたのである。
 最近では、口数の多くなった子供達4人も加え、車内で吸おうものなら、口頭暴力による『おやじ狩り』状態のいじめを受けていた。そして、今、その苦悩とコンプレックスの重圧から解放されている。本音を言えば、また禁煙を破ったとき、周囲の反応の方が恐ろしい。
 「こいつら・・・。」と、私が子供達に言ったとき、長女が
「『こいつら』の『こ』が私で、『こいつら』の『い』が次女で、『こいつら』の『つ』が長男で、『こいつら』の『ら』が次男やっちゃね。ちゃんと、名前があるっちゃけどね。」
と、ふてぶてしく言った。
 『こ』9才10ヶ月、小学4年生である。秘密めいた話を、私に聞こえないように女房としている。ちょっぴりオシャレに目覚めたのか、朝、洗面台の前で、何やらシュシュッとして、ブラシをかけていたりする。テレビ番組も、夕方のアニメから、だんだん夜遅めの番組へ興味が移っている。
 まだ、一緒に風呂に入ってくれる4年生でもある。
 『い』7才4ヶ月、気性が激しい。個性的ではある。協調性はチト乏しい。学校ではかなり気を使い、自宅での反動爆発はすさまじい。姿勢・行儀が相当悪いはずなのに、学校で、先生に『素晴らしく良い姿勢だ。』と、誉められている。給食がビリに近く、自宅で食事の時も、姉や弟の速度を気にしているのがよく判る。学校で泣いている姿を、時折見かけると長女が言っていた。
 外見『痩せゴロ』の次女は、『発見行動』が得意である。彼女に任せると、斜面の草に覆われた『ワラビ』も、たくさん採れる。森の藪に分け入り、たくさんのクワガタ虫とカブト虫を捕まえる。
 『つ』5才6ヶ月、成長のない遊びを、ひたすら続けている。成長がないと言ってしまうと、彼に失礼かもしれない。正確に言うと、飽きっぽい姉達に比べると、同じキャラクター遊びを頑なに続けている。『凝り性』なのかも知れない。闘争心の無い『マイペースさ』や、思い込んだらその通りでないと気が済まない『頑固さ』を駆使し、日々を過ごしている。
 朝、私に言った。
「ほら、お父さん。ボクのチンチンは、『きおつけ、前にならえ。』ができるっちゃが。すげえじゃろ。」
確かに、出来る。出来るからと言って、それを所構わずしないでほしい。
 『ら』3才1ヶ月、幼稚園の年少組には行かせなかった。3月末生まれの幼さもあるし、女房もしばらくそばに置いておきたいようだ。それより何より、私の考える最大の原因は、幼稚園の教育体勢にもある。3・4・5才の子供に、個性のない集団行動をさせ、感情抜きに物として扱う。幼稚園と言う組織が、それを操る大人の感覚で、円滑に、そして、『良い子』製造業と化すのである。長女以来、七年も関わっているが、三才という時期に、『どうしても幼稚園』でなくても、いいのではないかという気になってしまった。私は、幼稚園には通わせるが、どこにも連れて行かない親ではない。幼稚園に行かせなくても、『登山』や『キャンプ』や『川下り』に、連れていく親なのだ。私の勝手な判断かも知れないが、女房も納得してくれた。そして、彼は3才1ヶ月で、16山のピークを踏み、しかも、自分の足で3山目の『阿蘇/烏帽子岳』の山頂を踏む事になる。その価値の方を、大切にしたい。
それにしても、微妙に駆け引きを繰り返す姉妹兄弟の状態を、わがまま一人っ子のハゲ親父が、育てるのだからおもしろい。長女を誉めると、次女が、
「じゃ、私はダメって事やね。」
と、言って怒るのである。次女を誉めると、今度は、長女が、
「じゃ、私はダメって事やね。」
と、怒る。
「お父さんは、そう言う事をいっているんじゃない、ひとりを誉めたからって、もうひとりがダメって言う事じゃない。いい事はいいと誉めるのが当然じゃないか?ひとりだけを誉める事だってあるし、二人いっぺんに誉めることだってあるだろ?」
と、真剣に目くじらを立てて、いくら説明しても、姉妹兄弟は理解しようとしない。だが、それでどうだと言う事もない。姉妹は、気にしていて気にして無く、冷たくてやさしく、仲がよくて仲が悪い関係を、平然と続けている。一人っ子の私に、理解できない部分として、私は感覚にインプットする事にした。

 冷静に見て、『こいつら』は、親らしくなるように、私を育てている。


 
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