水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第五章/十編


父の陰謀、子の抵抗。


「エーッ、まぁーた山登りぃー。」
「疲るっかい、いやじゃー。」
「私は、ぜえったい行かんかいね。」
「休みは、いっつも山登りやわぁ。遊びに連れていってよぉ。」
最近は、文句が多くなった子供達である。11月、次男が自力で登った『感動の黒岩山』、次男を背負い、長女・次女・長男が粘った阿蘇の高岳・中岳縦走での『5時間登りの仙酔尾根』、正月旅行の時、全員が風邪でダウンしていく中、私と長女だけが登った『普賢岳』。子供達に印象の悪い家族登山である。
 2月は、スキーと雪遊びに集中し、3月末に『高千穂峰』を、霧島東神社側から計画した。
 霧島山系の中でもロングコースなので、当然、自宅を早朝に出発したが、登山口付近でコースアウトし、近くの林道を2時間以上も歩かせてしまった。振出に戻り、山頂を目指すが、6合目付近で昼食、そして、断念。
「おとうさんが、道、間違ゆっかいいかんとやわぁ。」
「山、山、やま、やま、ばっかし。お父さんの休みは、いっつも、山登りばっかいじゃわぁ。」
「なんで、子供達の行きたい所へは、連れて行ってくれんとぉ。」
次男が、数日で3才を迎える前に、もう一度山頂を踏ませたかった。私の欲でしかなかった様な気分になり、下り道を悶々と歩いた。『強要の家族登山』『父親、一人よがりの家族登山』『楽しさのない、辛いだけの家族登山』・・・と、頭の中で渦巻いた。
「楽しかったやんか。たくさん歩いたし、山頂まで行くことだけが、山登りじゃないやろ。」
女房の言葉に、私は心底うなずいた。家族で、同じ時間を共有するために、手段として選んだ田舎暮らしであるし、キャンプや山登りのはずである。考えを変えないと、子供達も、長くは私に付き合ってくれない様な気がする。念仏の様に、『楽に登れる山』ブツブツ『楽しさ』ブツブツと、自分に言い聞かせた。
 そして、四月末、今年3回目の家族登山を計画してみた。新聞やニュースでは、尾根筋を彩る『アケボツツジ』の開花が報じられ、登山意欲をかき立てられてしまうが、前回の山行の教訓をふまえて、楽しさの演出も欠かす事はできない。そして、選定したのは、県北『速日の峰』『九左衛門峠』『真弓岳』『諸塚山』『赤土岸山』『二上山』の6峰を結ぶ道で、『六峰街道』である。
*『楽の演出』・・・山頂までの距離が短い。
*『楽しさの演出』・・・速日の峰には『ETOランド』 と言う遊園地施設がある。
ポイントが子供達に的中したのか、
「簡単に登るっちゃがねぇ。」
「山、登ったあと、ETOランドに行くっちゃがねぇ。」
「ETOランドには、遊ぶとこがあるがねぇ。」
「遊具やらアスレチックやらゴーカートも、あるっちゃがねぇ。」
と、大好評である。
「山に登ってからでないとダメだよ。」
という私の声もかすれ、いつしかETOランドの評判だけが、子供達の話題になっていた。
 自宅5時出発、延岡を過ぎ、五ヶ瀬川沿いに、ETOランドに建つ国内最大の風力発電の『風車』が、朝日を浴びて見えた。『速日の峰』は、その名の通り朝日に輝きを増し、街道からの素晴らしい景色は、快晴に恵まれ、『阿蘇』や『祖母・傾』の山並を、ほぼ全景に渡って見渡すことを許してくれた。絶景に歓喜の声をあげる私とは対象的に、連続したカーブ道に、袋に顔を埋める子供達は、悲痛な叫び声をあげていた。
 『諸塚山』で、自力2山目を記念した次男は、私と手をつなぎ、姉兄の誰より先に山頂三角点を踏んだ。可憐な『アケボノツツジ』に誘われて、県内外から、多くの写真愛好家達がいたが、私達より先行の登山者はいなかったようである。楽な登山道に、気を良くした長女・次女組は、始終、楽しそうに歩いてくれた。下山時、すれ違う人達に、挨拶と愛嬌を振りまく次女は、
「言っておきますけど、私は男の子ではありませんからね。」
と、先制攻撃をしていたのには、笑ってしまった。いつも、
「こんにちは、がんばってるネェ、・・・・・僕。」
挨拶後に続く『僕』を、排除するためだ。
 続いて『赤土岸山』『二上山』登り終え、昼食を迎えた。諸塚山の登山口に戻り、近くの広場で食べる事にした。食事をしながら、私は、今回の秘密計画を実行するか否か、迷っていた。『六峰街道』は、六つの峰から成り立つ。ならば、全山登山が出来ないものかと考えていた。
「昼からも登るとぉー。」
「もう、3つも登ったかい、早くETOランドに行こう。」
「もお、つかれたぁ。」
今度は、私へ対する先制攻撃が始まってしまった。とりあえず、昼食後、広場付近で、しばらく遊んで良い事にして、その場の雰囲気を変えた。林道でゴソゴソ遊び始めた長女・長男、昼寝を始めた女房・次男、私とワラビ採りを始めた次女、心地よい風が木々の間を吹き抜けていた。
 車で移動を始め、『真弓岳』『九左衛門峠』を探すが、調査不足で確認できなかった。内心、『もういい、やめよう。』と、思うが、意地になってしまい、閉園1時間前に『ETOランド』に到着してしまった。それでも、子供のパワーは全開で、まずアスレチック、次ローラー滑り台、次の次ゴーカート、仕上げにレストハウスで、ゲームとアイスクリームである。登山では見せたことのないパワーとスピードで、広い園内を走り回り、坂を登り下りしていた。
 現在、女房の指導により、子供達は、『ごはん』を食事のメインと思っている。メインだから『ごはん』だけしか、食卓に並んでなくても、誰も文句を言わない。変と言えば変だが、この不景気には効果絶大である。だけど、その『ごはん』にもこだわりがある。山へ行くときなどの食事に、コンビニのおにぎりや弁当ではダメである。何も入っていないが、母親のおにぎりでないとダメなのである。だから、私は、この偏屈な子供達が大好きなのである。


 
Copyright(C) 水流渓人 All Rights Reserved

戻る