水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第五章/八編


腐ケーキ


 「不景気」。便利な言葉である。この言葉を振りかざし、経営者達は給与削減を正当化していくのである。しかも、雇用した責任とか、支払うべき賃金とか、「あー。もう、そんなもの関係ないジャン。自分が我慢するこたあネェ。従業員が餓死しようと、知ったこっちゃネェ。」態度である。この態度を誇示することが、「社長様」また、「しゃっちょさぁーん。」だと、哲学を語るのである。
「不景気だから、皆、がんばらないといけない。」
「不景気だから、少しでも経費節約しなさい。」
「不景気だから、決算手当は出ません。」
「不景気だから、休んではいけない。」
「不景気だから、家族団らんなどせず、会社が閉まっていても仕事しなさい。」
「不景気だから、給料は上げません。下がらないのを感謝しなさい。」
「不景気だから、ボーナスちょっとでも、出すだけいいだろ。」
と、言いながら、勤勉労働者の背後から暗黒の壁を、断崖方向へ押すのである。そして、翌年のセリフは想像できる。
「えーっ、前年は、皆さんもお気づきの様に、非常に業績が不振でした。このまま皆さんの努力不足で、業績の回復が出来ないと会社としても成り立っていきません。ちなみに、業績不振の中でも、経営者として経営努力を追求し、経費を半分に削減しております。」
おーい、まってくれぇー。その削減した数字ってぇー、減らされた給料の合計額と同じじゃないかぁーっ。
 私自信、不景気に対して楽天的だったが、クリスマスの時期になると、懐の寂しさにわが子達が不敏になる。今年の不景気は、我が家にも響き、出る物が出ないと、現状以上の節約を強いられる事となった。4人の我が子に対して、「塾」は行かなくてもいいと、格好良くスタイルとしてはいる。近所では、子供達の間で、塾に行っていない我が子達は、羨望の存在なのだが、金が無くて行かせることが出来ないのが事実なのだ。トイレの節水の為に、子供全員のオシッコの後、私が済ませて流す『一石二鳥ならぬ一石五鳥』は、オシッコのみならず、鼻摘みウンチに及ぶ事になる。子供服のお下がりローテーションは、その頻度を増し、穴開きは通常、男女関係なし、冬物が薄く擦り切れて夏物に変身する事態も発生する。着替え三日禁止令発令になる。食費は、切り詰めが高じて、不景気ダイエットと言わざるを得ない。
 負け惜しみに言わせて貰うなら、
「旅行は出来ないが、山頂目指して徒歩旅行でもするベェ。三ツ星西欧ホテルには泊まれないが、雪のチラつく草原で、霜に覆われながらテントに泊まるベェ。欧風ディナーは出来ないが、寒風よけながら、誰も居ないキャンプ場で、鍋でもつつくベェ。おかあさん。白菜あっただろ。ほら、近所で貰った虫のついた白菜。後は、鳥肉だけでいいベェ。」
「高級車でも、我が家の中古車でも、一緒だベェ。ほら、雨とか風とかしのげるし、目的地までちゃんと着くのは同じダァ。それから、カーナビとか無えんだけんどもょ、かあちゃんが隣で地図見りゃ一緒だぁ。だけんども、その地図、そろそろ買い替えねばなんねぇな。こん前、高速道路とかバイパスとか、載ってねぇ道が多すぎるって、かあちゃん言っとったもんな。まぁ、道走るってとこは、中古車も一緒だぁ。」
そんな、吹けば飛ぶような親を、しっかりと支えてくれるのは子供達である。正月旅行など、経済的に無理だし、増して「遊園地」など連れてもいけないのは判っている。
 そんな中、
「今年のお正月はどこへ連れていこうか。」
と、私はたずねてみた。すかさず、長女が言った。
「キャンプ。キャンプに行こうよ。ずっと行っちょらんわ。私、焚火がしたいっちゃが。」
次女が続いた。
「お父さん。キャンプの前には、どこかの山登ってからの方がいいが。」
長男も続いた。
「雪、雪、雪がある山がいいっちゃが。」
おまけに次男が、
「やま、やまいくぅーっ。」
ホテルや旅館、有料施設に行くことより、金はかからないが、その素晴らしさを、子供達は理解していた。ホテルの設備より、キャンプの焚火を選ぶのだ。だだキャンプするより、山登りの充実感を知っている。山であれば、雪がある方が楽しい事も知っている。金で買えない物、買えないけど素晴らしい物を選ぶほどに成長していた。
 数年前、子供達と「お金持ちで不幸な事と、貧乏でも幸せな事。」についての話しをしたことがある。以来、我が家は貧乏という事になっている。いつ、子供達にたずねても、大声で自信を持って「我が家は、ビンボー。」と答える。確かに、幸せな家族だと思える。


 
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