水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第四章/六編


少中年の登山学


 我が家に『キャンプなら、トイレがあってシャワー設備があって車を横付け出来てぇー、寒いのはイヤだしぃー、道具が全部揃ってないとイヤだしぃー。』みたいな奥様的感覚はない。この十一月、人が激減する時期が、キャンプ最高の時期だと思うのだ。標高一、二〇〇mの『えびの高原キャンプ場』に出かけてみた。テーブル・イス・タープは必要なく、テントの中に座卓を入れ、ひとりひとりがシュラフに足を突っ込んで、ランタンの明かりで食事をした。そして、子供達が大好きな『焚火』をした。明るい間に、松林を歩き薪拾いをして、天然の着火材『松ヤニ』を、集めた松葉に点火させ、小枝を燃やし、大きな薪へと火を移した。火が落ち着いた所で、男組が露天風呂へ、その後女組。焚火の炎は、最小限にする事が大事である。風情が違うし、楽しみが良い。私はウイスキーをチビチビとラッパ飲みし、女房は梅酒。子供達は、始終焚火を枝の端でつついていた。すいた腹が極限に達した頃から、コッフェルを出し飯を炊く。食事準備完了とともに、テントに潜り込んで晩飯を食うのである。鹿の鳴き声が遠くから聞こえ、焚火を囲む子供達の笑顔を見ながら、最高に旨い酒が飲めたと思った。ゆっくりした時間が流れ、翌日は始めて次男を背負い子に乗せ山を登る。家族全員で山頂に立つ計画だ。全員登山は次男が三才になってからの計画であるが、山頂での記念写真が、始めてアルバムを飾る事となる記念すべき日である。満足いくキャンプだとつくづく思った。そして、深夜マイナス二度を記録し、霜の降りたテントが嬉しかった。
 今年になってから、山登りが楽しくてしかたない。七回の山行で、十二山のピークを踏めた。何が楽しいのか具体的に説明しにくいが、山頂での昼食も、景色も、息を荒立てての急な登りも楽しいのだ。何より、家族で行動出来るのが嬉しい。手段を車だけに頼り、キャンプだカヌーだ釣りだと言っていた頃より、『歩く』と言う原始的行動を通して、同じ空間・時間を共有出来る事は、本当の意味で、素晴らしいと感じる。近頃では、夜になると五万分の一や二万五千分の一の地図を片手に、登山ガイド本を眺め、女房と話しをする事が多くなった。
 次男一才八ヶ月、私の背中に乗って『甑岳』『白鳥山』の山頂に立った。家族六人、山頂での記念写真が出来た。彼の歩行は未だヨチヨチであるが、感情表現も益々豊かになって来る中、姉・兄へ大声で意味不明の攻撃をしている。四人姉妹兄弟の末っ子(?)として、どんな人生なのか不安と希望が渦巻くが、親としては、彼の左足に障害があるかどうか、医学的判断が判らない現在、未知の不安が圧力となり壁となっている。しかし、全員登山は、たとえ杖をつこうと這ってでも、彼の足と体で山頂を究めさせてみせる。それは、将来において絶対的プラス体験となることは間違いない。親の欲や見栄でなく、何かを成し遂げるという行為そのものが、たとえ三才の子供でも、素晴らしい自信となって行くことを、他の姉兄は実証してくれている。ただ心配なのは、私自信である。もし、障害が原因となり正常な歩行が出来ない息子が、自分の足元の地面にひれ伏し山頂を目指す姿を、心を鬼にして、
「ガンバレ。」
と言えるだろうか、見ていられるだろうか。抱き上げると、頬を擦り寄せ、小さい両腕を私の首に巻き付かせ、
「パパパパ、チュキチュキ。」
と言う。すべて守ってあげないとならない現在の彼を見て、
「歩け、頑張れ、自分の足で登れ。」
と言っている私の姿を想像することは出来ない。
 長男四才、現在八つの山頂を踏んでいる。霧島縦走の時、三才だった彼は、四山のピークを八時間かけて踏破する頑張りを見せてくれた。九月の運動会では、仁王立ちスタイルを貫徹し、その頑固さと将来への不安を親に与えてくれた。最近では、入園八ヶ月にして『朝の体操』が出来るようになったと主張するので、女房が偵察したらしいが、全員の行動とはまるで関係ない、自分スタイルの勝手な体操を、得意顔で貫徹しているらしい。まもなく催される幼稚園の『おゆうぎ会』で、どんなおゆうぎを披露してくれるか楽しみでしかたない。
 次女五才十一ヶ月、現在十二の山頂を踏んでいる。疲れても、楽しそうに登る彼女の登山スタイルは、『何でも発見!』的行動で、いつも私に感動を与えてくれる。珍しい植物も虫も動物の排泄物も、最初に発見するのは彼女なのだ。未だ、彼女の得意技『オモラシ』は、最低一日パンツ三枚を維持しているが、確実に来年ランドセル姿が待っている。
 長女八才五ヶ月、現在十三の山頂を踏んでいる。もう親が手を出す事無く、たくましい足どりでピークへたどりつける。登山靴もしっかりとしたゴアテックスの軽登山靴を履き、十リッターのリュックを背負っている。彼女の登山スタイルは、いつも五合目までは『文句歩き』、五合目を過ぎると『元気百倍歩き』に豹変するが、いつの間にか下りの歩きは、女房より安定している。
そして、長女の夏休みの宿題であった『一ツ瀬川にごりしらべ』が『統計グラフコンクール』に入賞し、近日、県庁にて表彰されるらしい。私の勝手と強要で、彼女の夏休み自由研究の課題は『一ツ瀬川』をテーマに選んでいる。一年生の時は、カヌーで川下りをして『川地図』を作成した。六年間を通して統一したテーマでさせたい私のこだわり』かもしれないが、彼女にとって何かしら感じてもらいたい『私の提案』でもあるのだ。
 ママちゃん三十七才十ヶ月、九つの山頂を踏んでいる。今年から登り始めたのだが、ウエアーもリュックも靴もすっかり板についている。なかなか家族登山を気に入ってくれているらしく、最近では高度・気圧計のついた時計まで購入した。・・・・というより、すべて私が勝手に購入する傾向も多分にある。


 
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