水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第三章/十一編


鼻につっこんだ指


 世間と同様、わが家にもグゥオオルデンウイイクがやってきた。以前務めていた流通業では、休日=繁忙期であった。したがって、平日休みとなり、どこか行くにしても、混雑などという事は考えても見なかったが、宮崎に戻って以来、世間一般並に、混雑を考慮し行動しなくてはならないのは、苦痛以外の何者でもない。しかしながら、家族一体の遊びと言う点では、恵まれているのだし、感謝せねばならない。
 なぁーんかアウトドア・ブームである。ぬぅあーんだかキャンプ・ブームである。あのタープ・テントの場所取り合戦みたいな、野外大料理申し合わせバーベーキューとカレー大会みたいな有名キャンプ場は、どうしても敬遠しがちである。だいたい文句ばかり言っている私と女房は、よけいストレスがたまってしまった事が何度もあり、今回のグゥオオルデンウイイクの場所の選定に、相当頭を痛めていた。
 久しく阿蘇・久住方面に出かけていないので、行きたいのだが『やまなみハイウェイ』とか『湯布院』近辺とか、最近流行の『ミルクロード』など、行かずして混雑を想像出来る。しかし、『大観望』も見たい。時間帯を選ばないと、雄大な眺望が、人間の数に圧倒されるだけだろう。結局、夕方出発して夜間走行、深夜『大観望』着、そして車中泊の上、早朝に雲海にうもれた山々を日の出のスクリーンの中で鑑賞する事に決め、山頂付近まで車道のついた『万年山』あたりでテントを張れば・・・と計画してみた。
 そして、当日。当日は雨。道具満載の愛車は、夕方の出番待ちで、カーポートの下でひっそりとしていた。
「女房?女房はあれですよ。いやあれでなくあれですよ。朝から39度も熱を出した次男を連れて医者ですよ!」
と、つぶやく私が一人家にいた。幼稚園から帰宅組の次女・長男コンビ
「キャンプは?」
学校から帰宅の長女
「キャンプは?」・・・・・
「行けない!み・た・い」
翌朝、いつにない早起きの長女・次女・長男組
「キャンプは?」
次男の様子を尋ねる私に、結論のない女房の返事。当然そうであろう、連休めがけて子供達に、キャンプ気分を盛り上げた私と女房であるが、行けないのも可愛そうだし、高熱の次男に無理させるのも可愛そうである。それにしても、いつにない元気3人組の早起きは、今日は絶対キャンプなのだ!的態度で、私を攻めまくり、近所(車で20分)の、木城町・川原キャンプ場ならいつでも救急病院に行ける距離だからと、女房を説得し、熱の次男まで一緒に連れて行く事になった。

 木城町は武者小路実篤がこの地の豊かさにひかれ、青年たちと開村した『新しき村』もあり、最近では世界の絵本を集めた『えほんの郷』なるものを開設している。役場の人間達が積極的で、私の関わる遊び仲間の連中も、手伝い応援しており、3年前には町がカヌーを数十艇購入、まずは役場の人間からだ!と、プールで夜間練習に取り組み、川下りを体験した。そして、今年キャンプ場横に発艇場を建設し、カヌー仲間でもあり国体県代表の友人を、職員として引き込んでくれた。一般の人達に広く解放するため、町を上げて頑張っている姿勢が素晴らしいと思う。
 雨の中、テントを張り準備完了状態を整えつつ、次男は女房に抱かれたまま状態で、いつものキャンプ簡単メニュー手間いらず料理で昼食を済ませると、顔見知りの友人が、
「こんな所でいったい何してるんだ!」
と断続的にやってきて、その度、事の顛末を説明する羽目になってしまった。なんでいろんな仲間が来るのかとも考えたのだが、職員となった仲間の様子うかがいと、カヌー発艇場の下見のようだった。早くも長女・次女コンビは、池のアヒルの赤ちゃんを見に行き、いつものごとく腹減るまでもどらないパターンを決めこんで、またまたいつものごとく手当たり次第友人作り作戦を開始している。テントで眠り始めた次男を確認し、長男を連れ発艇場へ行ってみると、彼がお客さんをカヌーに乗せていた。その手伝いに、これまた友人が連休返上でやってきており、私までライフジャケットやヘルメットを運ぶ始末となってしまった。びっくりしたのは、いつも臆病者の長男3歳が
「僕も乗る。」
と言いだし、1人で乗り、パドルを漕いだ事。教えてもいないのに漕げるのには多少の感動もあったが、1歳から私の前に乗っているのだし・・・とも思えば、当然かも知れないが、単にまだ無理だろうと、私が決めつけていただけで、これまた一つ勉強になった。夜は、ここの職員となった彼と、彼の採用を決定づけてくれた役場の担当課長家族と酒宴となり、楽しい話しに多少満足感もアップした。
 翌日、帰り支度を済ませ、カヌー発艇場に行くと、さすがコールデンウイーク!沢山お客さんが集まっていたが、収まりのつかない我が子の為に、そこらへんのカヌーを引っぱり出し、乗せては漕ぎ乗せては漕ぎの反復運動を繰り返し、私も今年初のカヌーに
「やっぱエエなぁー。」
とひとしきり汗を流した。

 人の多いキャンプ場に行くと、数多くの事が見えてしまう。それを批判したり蔑むつもりではないし、何の主義主張もないが、その顛末を記述だけしておきたい。水場に野菜の残飯を置き去りにしたまま、家庭用合成洗剤で食器を洗う1家族キャンプベテラン風とともに同行していた他3家族。到着次第、まずブルーシートで場所確保、次第に持ち込む道具の中に充電バッテリーと蛍光灯とCDラジカセを持ち込み、やたら他の人のテント近くに設営を始めた人。水遊びしている人達がいるにもかかわらず、子供がそこに向かって石投げを始めても、知らぬ顔している親。風上で、わざわざ湿った枯葉と枝で炭に焚き付け、煙もくもくでる脂の多い肉を焼き、そのほとんどを奥さんにさせ、ずっと飲み続けるお父さん、ってな人々がいらっしゃった。いい悪いは言わないし、何の主義主張もないが、ただの情景として記録しておく。それより、長男幼稚園入園以来、初めての参観日で、泣く事もなく、走り回る事もなく、先生の手を煩わす事もなく、先生の話しや歌やお遊戯に何ら反応もせず、椅子に立て膝をしたまま机に片肘をつき、始終鼻に指をつっこみハナクソをとっては、制服の胸にこすりつけていた長男の方が、あのキャンプ場で見た人達より、ずっと偉く素晴らしく思えた。


 
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