水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第二章/十五編


河童の河流れ


 私の子供の頃、言うことを聞かない時には、
「ひょうすんぼが連れに来るぞ。」
と、親やバアちゃんに、よく言われたものだ。この『ひょうすんぼ』なる生物は、カッパのようだが、どうもそれより恐ろしいイメージがあった。どう恐ろしいかは、どうも子供を捕まえ、尻の穴から内臓を吸い取る、と言うのだ。いつもバアちゃんがそう言っていたのを記憶している。当時、どこの便所も汲み取り式(いわゆるポッチャン便所)であり、大きな溜め壷めがけて所用を済ますのであるが、この溜め壷が、ある時期、水気の多い満タン状態になると、糞の落下とともにポッチャンなのである。いわゆるオツリが跳ね返って来るのである。技として、便所に常備してある週刊誌・漫画本を数枚破り先に落下させ、その上に糞を命中させるのである。
 子供心に理解していたのは、このポッチャン便所の溜め壷と、家の横を流れる川が、つながっており、溜め壷から『ひょうすんぼ』が出て来そうな気がしてならなかったのだ。おのずから、早糞・早飯を得意としていた。現在、『ひょうすんぼ』の話をめったに聞かなくなったが、現代実存するひょうすんぼならぬカッパとは、普段は整髪料などで隠していた頭の皿が、水に飛び込んで浮上してきた時出現するのである。

 第4子の妊娠・出産劇に翻弄されていたカッパの所に、仲間から県民体育大会:カヌー・ワイルドワォーターに出場しないか?との話が来た。前年は、都合と自信の無さから、エントリーはしたものの欠場し、1年間どこかにひっかかるものがあった。今回こそ挑戦だけはしてみなくては・・と、覚悟を決めた。それにしても、今年も声をかけてくれる仲間がいるのは、本当に有り難い。大会当日まで練習する時間はないが、とりあえず前々日ぐらいから胃が痛くなったりもした。
 そして、大会当日。森滝監督率いるカッパ3人組が、大淀川に集結したのであった。第1のカッパ:阿万は、持病の膝痛気味。第2のカッパ:稲田は、私同様練習なしのぶっつけ本番だが、去年の球磨川・川辺川でなにかしら掴んだ物があるらしく、余裕すらうかがえる。そして、第3のカッパ:私は、ファルトボート(折りたたみカヌー)を持ち込み、沈だけを恐れていた。しかし、緊張気味のカッパ3人組は、他の参加者にカッパを隠すべく、ヘルメットの中にしっかり帽子をかぶり込んでいたのだ。
 開会式を終えて、各選手がウォーミングアップをする中、いよいよスタートが始まった。当然、森滝監督は上位出艇で最初の荒瀬に突っ込んでいった。第2のカッパが16番目、第3のカッパが33番目、第1のカッパは46番目のスタートである。私のスタートの順番まで、友人が連れてきてくれた、ママちゃんと我子4人の応援組と、緊張気味で会話を交わしたり、子供をカヌーに乗せたりしていた。
 そしてスタートである。ここまで来ると、腹は座り、後は野となれ山となれ・・・ゴールまでひたすら漕ぎ続けるだけである。初めの荒瀬、ここをクリアできれば沈はしない!と、自分に言い聞かせ、不沈の二人艇ファルトボートで瀬の中央につっこんだ!バランスの悪い第3のカッパは、バランスのいいファルトボートに助けられ、3年前の球磨川激沈ツーリングの感を少しずつ取り戻しながら、ひたすら漕ぎ続けた。私の2分前のスタート者は、この瀬で沈脱していた。第2の瀬を過ごした所で、私の3分前にスタート者に50mまで近づいた。「よし!いいぞ!これはいい成績だ!」何を勘違いしたのか、この大会は私の為に開かれたのだ!と思いこみ、第3のカッパがヘナヘナと最後の力を振り絞った。ゴールで待つ我子と最愛のママちゃんに、勇士を見せようとがんばる第3のカッパの大きな勘違いは、成績表を見て現実となったのだ。
 沈脱の人と50mまで追いつけた人が、単に遅かっただけで、第3のカッパが見た一瞬の夢であったのだ。成績は当然の如く、第1・第2のカッパ達よりはるかに悪かったのであったが、昨年欠場のモヤモヤと、久しぶりの緊張感と、一応何かをやり遂げた満足感に浸ることが出来た。
 ガクガクの腕にフラフラの腰でゴールを迎え、子供達に近づくと、すかさずカヌーに乗り込んできた。ゴールする後続の人たちに、元気のいい声援を送っていた。
「あっちへ行って!むこうに行って!」
前に乗った3人の子供を眺めていると、この上ない爽快感が私を包んだ。
そして、この宮崎が入梅する頃、我が家の庭には8年間使い込んだタープが出現する。人間が偏屈なせいか、わざわざこんな時に外で食事しなくても・・・と、言う時が我が家のガーデンダイニングなのである。キャンプに行った時は、食事に手間暇かけたり、お決まりのバーベキューが嫌な分、自宅の庭でぐらいバーベキューでもしておかないと・・・と、考えるのかもしれない。それなら、晴れた日より、雨の中のタープの下が最高なのである。雨音を聞きながら、モクモクと煙をあげ、食べる肉のうまい事!美味い事!キャンプでも雨降りの方が好きでたまらない。そんな偏屈な考えの親を持つ子供の意見がおもしろい。
「今日は雨降りだから、動物園とか遊園地にいけないわ!キャンプにでもしとこうか?おとうさん。」
「キャンプがダメだったら釣りでもいいよ!」
キャンプにでも・・とか、釣りでも・・と言う所が、おもしろい。


 
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