水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第二章/十三編


骨折り損のパソコン儲け


 第4子が誕生した。長男2才同様、出産現場に立ち会ったのだが、感動のシーンであった。前回と違っていたのは、まぬけな私ぐらいで、女房の頑張りは素晴らしく、陣痛の痛みをこらえながら若い看護婦さんに的確な指示を与え、可愛いオチンチンの次男を誕生させた。
 私のまぬけさは次男誕生の3週間前、長女6才が通った幼稚園最後のお別れ運動会の時に発生した。年少組の次女4才を折り畳んだダンボールの上に乗せ、親がそれを引っ張り、旗のところまで行って戻る競技である。次女に、
「しっかりつかまっておけ!」
と、命令した所までは良かったのだが、一歩踏みだしたトタン、足首をカクンとひねってしまった。トレッキングシューズを履いていたのが悪かった。横走りの体勢は、靴底のデコボコを芝生に引っかけたのである。きっと捻挫だ!と、自分に言い聞かせてはみるが、それとは反対に私の足首はミルミル腫れ上がって来た。じっとしていてもズキズキうずき始めたが、プログラム序盤で起こしたアクシデントに冷や汗を流し、長女6才と綱引きに参加し、飛んだり跳ねたりのダンスに、長男を抱きながら参加したのであった。
 臨月を迎えた女房は、冷ややかな目で私を見据え、お先真っ暗な顔をし、お別れ運動会からの帰路は、まあるいお腹の女房の運転で家に戻った。痛みをこらえたニガ笑いは、簡単に女房に見破られ、
「今年はスキーにも行ったし、山登りもしたし、渓流解禁にはしっかり沢を歩きロッドを振ったし、体調はいいはずなのになァー。」
と、言い訳をする私を、病院のレントゲン台送りにした。
「ウゥーン、折れてる。」
との先生の一言で、その数分後には石の様な靴下を包帯でグルグル巻きにされ、脇の下で支えるヘンテコな握り棒を渡され、しばらくは靴下一足・靴一足でまかなえる生活を始める事となった。
 とにかく、陣痛の高まる女房を車に乗せ病院へ向かい、松葉杖の間に入院荷物を抱え込み、分娩控え室で片足で飛び回りながら、痛がる女房を元気づけ、情けないが父親としての役目は終え、生まれたての次男を抱かせてもらいながら、ギプス姿のパパと一緒に記念写真を写してもらった。シャッターを押す看護婦さんの手元が笑いをこらえていたかどうか、現像に出せば判別できるはずだ。
 世はまさにコンピューター時代である。マスコミは流行の如くその価値を訴え、広告は反乱している。私も13年前初めてワープロを使いはじめ、7年前からパソコンを仕事で使用しているので、欠かすことのできないツールになっている事は間違いない。その機械は、日夜進歩を続け、7年前のものと比較すると、夢のような事がかなう程である。そんなパソコンを、わが家に導入する事になった。日夜女房を口説き、とうとう念願のマイ・コンピューターとなった。
 第1に、やはりインターネットである。そこは情報の宝庫で、田舎暮らしを最前線に変えてくれる空間なのである。第2に、子供達である。今度、小学校に行く長女6才、近所でファミコンが増える中、どうしても欲しいとダダをこねなかった。買って上げたのはランドセルだけで、友達が学習机を揃えていく中で、妹が入学する2年先まで、我慢しなさいと言う親の言葉にうなずくのである。なんだか聞き分けの良すぎる長女がイジらしくなり、
「入学祝いにパソコンが家に来るぞ!」
と、喜ばせたくなったのだ。パソ通の文房具屋の幼なじみに選んでもらい、頭金少々残金ボーナス信用払い利益なしの横流し特価で、ついにテーブルの上にアイ・ビー・エム社のパソコンが並んだ。
「おとうさんが教えてあげるから待っとけ!。」
と言う言葉も聞かず、自分勝手に話題のウィンドゥズ95をたち上げ、絵を書いたり、覚えたてのひらがな・カタカナを入力してみたり、そんなゲームいったいどのプログラムから引っ張りだしたの?と私を驚かせたり、私も復元出来ない程にメチャクチャな内容に変えてみたり、ここを押すと元に戻るョーと、私に教えてみたりしている。ランランと輝く瞳を見ていると、残金払いの事を忘れてしまいそうになったりするのである。


 
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