水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第二章/七編


またまたまたまた


 我が家に、大番狂わせが起きた。日頃の行いの良さが、そうさせるのか?あまりにも居心地が良すぎて飛来するのか?コウノ鳥が、またまたまたまた、やって来るとの知らせが舞い込んだ。今年こそ奮起して、家族で韓国岳にでも登るべー!との決意も、3年先まで見送りになる。カヌーで家族5人、北川でも下るべー!との計画も先送りになる。車だって定員5人のランドクルーザーでは足りなくなってしまうのだ。しかし、またまたまたまた、赤ん坊を抱ける喜びには変えがたいものもある。
 冷凍室を覗いてたまげた!今期のヤマメは5匹しか貯まってない。考えてみれば2回の釣行しかない、これからキャンプの絶好シーズンを迎えるにあたって悲しいのだ。そう思った翌朝、4時に目が覚めた。秋の渓にはマムシが多いのが脳裏をかすめたが、新調したウェーディングシュズの紐を締める手には力が入った。いつものポイントは判っていたが、水量が少なくなっている渓流に対しルアーの選定は慎重になってしまった。いつものメップス・アグリアTWをジャパンセルタのスピナーに変えた。秋口のヤマメは食べて美味しいし、天気・時間・ポイント・ルアーの選定が合致すると荒食いに出くわす事があるのだ。20年もヤマメを追っていると、私も2・3度はこの荒食いに出くわした事がある。同じ淵で3匹も食いついて来たり、100mぐらいの流れの間で20匹程釣れたりするのだ。結局、その日は出勤時間に迫られながら、荒食いに出くわす事もなく、4匹のヤマメをリュックにキープしただけであった。       
 長男1才11ヶ月、最近の圧倒的スタイルは、カップ麺の空器かぶりである。元祖カップヌードルタイプの形は小さすぎてダメであるが、マルちゃんの赤いきつね・どん兵衛タイプにあご紐を通し、おもちゃの刀を振り回している。最近、カップ麺に少々遠ざかっていたわが家であるが、棚を覗くといろんな形のカップ麺の買い置きが増えていた。
 次女3才9ヶ月、リビングをスキップして走りまわるが、先日から40度近い高熱が4日も続いているのだ。さすがに走り回ると頭が痛い様で、不機嫌状態でもある。近所の子供達の声が外でしても、おりこうさんに家に居るようだ。おかげで、宮崎駿のアニメを何十回となく見せられる女房は、我が家のアニメ博士となりつつあり、最近では夢までアニメ画像でみているはずである。熱が下がり幼稚園へ行く朝、初めて抵抗を見せた。夏休み前までは、クラスで唯一人皆勤賞だったのであるが、幼稚園の通用門前に立ち止まり、じっと地面を眺めて動こうとしなかった。だいたい痩せゴロなので、カバンや制服が大きく見えてしまい、見ていると抱きしめたくなる程の次女である。理由を聞いてみると、『橋の付近に死んでいた大量のカゲロウが見たい!』と訳のわからない事を言う。嫌がる次女の手を引き、教室の近くまで連れてくると、友達が駆け寄って話しかけてきた。見ると、次女は下をむいたまま笑顔100倍元気リンリン状態になって、私の手を振り払い教室へ消えて行った。少し切ない父親心を引きずりながら、今から娘を嫁に出す心境気味に、会社へと車を走らせた。
 長女6才3ヶ月、幼稚園から戻って来たある日、こらえきれない怒りで大泣きを始めた。リビングのカーペットの上でバスタオルを噛みしめながら泣き、寝室へ走り込んではベットの上でのた打ち回って泣いていた。近所の同じクラスの男の子に、
「デブ。」
と、言われ、名前を呼び捨てにされたと言うのだ。゛そのくらい゛と大人は思うが、そうはいかない子供の世界である。長女は、その男の子が中途入園してきた時、何から何まで自分が面倒見てあげたのだ!と言うのが言い分らしい。彼女の中で今まで決められていた優越感と恩義を、彼女は一瞬にして打ち破られたらしい。
「そんなに悔しいのだったら、自分で言いに行け!」
と、私が言うと、
「わかった!今から行ってくる。」
と、言い、靴を履きだした。男の子の親は、気心知れた仲なので心配はないが、長女が言いつけた事に対し、親が男の子を叱ってはダメなのだ。これは、あくまで長女とその男の子だけの『子供の世界』なのである。臆病で甘えん坊の長女にしては、勇気のいる決断だったろうし、彼女のとった行動に私は感激してしまった。玄関で靴を履く長女に、
「今だったらおじちゃんも昼ごはんに帰っているから・・。」
と、私はまるで、言いつけて来ればいい様な事を言って、長女を見送ると、辛抱出来ずに庭をウロウロしてみた。
 晴れ晴れとした顔で戻ってきた長女に、
「どうだった?」
と、尋ねたが、
「ゴメンって言った。でも、私は許さんかいね。」
と、私に報告した。
 夜の晩酌時、女房に尋ねてみると、男の子の母親から聞いたその状況を教えてくれた。長女が泣き腫らした怒り顔で尋ねてきたので、何も聞かず男の子を連れてきてくれて゛話があるそうよ゛と、長女に面と向かわせたらしい。長女の怒り顔に圧倒されたのか男の子は、
「ゴメンネ。」
と、言いながら瞳を潤ませていたらしい。その後の長女の心境は確かめていないが、またまた魅力的な子供の世界に浸れた喜びと、男の子の母親のとった行動に感謝した。
 いつもいつも話題を振りまく長女であるが、また運動会豪華弁当父親制作必須の大役を獲得してきたのだ。運動会の閉会式の時、園児代表の挨拶をすると言うのだ。世間一般の親なら、この喜びを誰かに!とばかり、関係のない相手にまで世間話の端々に言いまわるケースが多い。女房曰く、その代表選手が私であり、この様に文章にしてまで人に読ませる人もめずらしく、我が子自慢鼻高々の大バカ親とは、
「あんたの事だ!」
らしい。
 ともかくも、嬉しい事を悲しいとは言えないのだし、嬉しい事を人に言っても違法ではないのだし、自分の子供が、かわいくない親などいないのだし、私の娘が園児代表の挨拶をする事は事実なのだし、父親が弁当作ったら当然女房は助かる事だし、・・・・だし、・・・だし、・・だし、・だし、だしはイリコと昆布でとった煮物がうまい。と言いながら、運動会豪華弁当プロジェクト総責任者として、恥ずかしくないよう万全の準備をもって取り組み、任務を遂行する事を、ここに誓うのだ。
  
 またまたまたまたの第4子、予定日を4月3日と診断された。病院のエコー検査の映像にしか登場出来ないが、着実に成長を続け、母親をツワリでゲロゲロゲーコゲーコ田の蛙状態にしている。3人の子持ちになった時、「もう、子供はいいですよ。」と周囲に言った手前、多少の羞恥は感じたが、私が一人っ子で育った分、これから先の喜びを与えられたのだと、感謝の気持ちで一杯である。ただ、どの親も願うように母子共に健康で、五体満足であれば、それだけでいいとまたまたまたまた願うのだ。


 
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