水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第二章/四編


発車オーライ!


 長女、幼稚園生にして2泊3日の、夏休み子供ツアーに参加すると言い出した。本当に一人で、知った友達もいないのに参加出来るのか、女房と顔を見合わせ考え込んでしまった。結局、本人が行きたい!と言うのだから、申し込みをしてみた。出発日が近づくに従って、私の方が不安になってきてしまった。予定では大分方面を、アクアビートと言う大プール・アフリカンサファリ・城島遊園地などを楽しむらしい。宿泊はホテル。交通手段はバス3台。3日分の着替えとお小遣い2,000円を持たせ、集合場所の佐土原駅前に女房が送って行った。だいたい、小遣いを持って買い物をさせた事がなく、10円玉と100円玉の値打ちすら判らないので、お金をどの様に使用してくるかも、興味深いところである。
 そして、長女の留守中いろんな事を考えさせられた。私の親が、私を送り出す時、どんな気持ちだったのか少し判った様な気がした。私の初めての冒険は、3才の時であった。馴染みの床屋の兄ちゃんが、隣町で自分の店を持ったので、私の母にバスに乗せられ、一人でその床屋まで行ったらしい。そして、私の父母は、商売をしていたので、一人寝・外泊は1才から馴れっこだったらしい。物心付いた5才ぐらいからの記憶には、夕食を、ばあちゃん家で食べたあと、しばらくいとこ達と遊んで、一人暗い家に戻り、明かりをつけ、用意された布団にもぐり込みテレビをつけたまま眠りにつき、私の父母の間で目を覚ましていた。その反動なのか、私の場合は、何をするのも家族一緒でないと気がすまない。そんな訳で、長女一人欠員状態の3日間は、イラ立つ私となだめ役女房状態が過ぎた。
 会社早退を宣言し、長女の到着する佐土原駅へと残り家族を全員従え車を走らせた。頭の中には、3日間私に会えない長女が、寂しかった!と言いながら駆け寄り、私の胸に飛び込み、ウルッと涙を瞳に溜め、もういい!ちゃんと父さんはここにいるのだから・・・と答えながら、あわよくば私まで涙などひとすじ光らせて、周囲の人達を涙の渦の中に巻き込んで行く・・・感動的瞬間を想像していた。車を止め、待合い室にかけ込む私の目に映ったのは、麦わら帽をかぶり、リュックを背負ったまま疲れ果てた様子で、ベンチにふん反り返っている長女だった。ヨシヨシここからが大事だ!感動はこれからだ!と、長女の前に進み、言葉を半端湿らせながら
「どうだ、旅行は楽しかった?。」
と、私は尋ね、長女の頭を撫でてみた。ヨシヨシ、きっと私の顔を見た安心感に浸っているのだと思い、長女の言葉と態度を待った。もたれかかったベンチから起き上がりながら、彼女は言った。
「お父さん、アイスクリームが食べたいっちゃがー。」
それでも、期待を込め
「寂しくて泣いただろ?。」
もう一度聞いてみた。彼女は言った。
「ぜんぜん泣かなかったよ。それよりアイスクリーム買って!。」
・・・・結局、涙なみだナミダの感動対面式は、はかなく崩れてしまい、帰宅車中では、事細かく質問する私に「うん。ウン。」とだけ答え、美味しそうにイチゴのアイスクリームをなめていた。
 納得いかない私に話しをしてくれたのは、風呂に入る頃からであった。長女の乗った1号車のバスには、幼稚園生は彼女一人で、小学校のお兄ちゃんやお姉ちゃん達がよく面倒見てくれ、人気者であった事。アクアビートと言うプールは、広くて深くて、泳げない彼女には苦痛であった事。アフリカン・サファリでは、前回、家族で行った時に見たジャングルバスに乗り、実際に動物達に餌付けをし、大興奮した事。行く前から、第一目的であった、アフリカン・サファリで動物ヌイグルミを買おうとしたが、キーホルダーとネックレスを買ってしまい、お小遣いが残り少なくなって寂しかった事。城島遊園地では、身長が足りずジエットコースターに乗れず、ミニコースターに乗り、スリル満天だった事。就寝時にお姉ちゃん達が怪談話をしたが、話しが恐くなる以前に眠ってしまった事。枕投げをした事。お昼は、3回ともお弁当が出たが、自分には食べきれない程の量で、どうしていいか判らなかった事。ホテルの夕食は、配膳されたのを見ただけで、その圧倒的な量の料理に参ってしまい、家でいつも残してはいけない!と言う教えが頭の中で渦まき、腹痛を訴え涙まで流した事。などを教えてくれた。いつもは、叱ってもなかなか言う事を聞かぬ子供だか、親の教えはしっかり覚えているものだ!と、気持ちの良い感覚が、私に残った長女冒険旅行であった。
 日曜日、三納川へ水遊びに行った。たかが水遊びだが、水着・アクアシューズ・浮き輪・子供ボート・水中メガネ・クーラーボックス・ビール・ジュース・昼食・ロープと準備しているうちに、ポリ製カヌー・パドル・ライフジャケットまで積み込んでしまった。最近、友人の好意により頂いたカヌーとスプレーカバーである。ファルトボート(折り畳みカヌー)とカナディアンカヌー(オープンデッキカヌー)を所持し、家族で楽しめる事を考えていたが、今回の頂き物は、私の楽しみの1つになった。不安定だが、素晴らしく回転性が良く、たちまち気に入ってしまい、カヌーならファルトと決め込んでいた私だが、意志の弱さに定評のあるいつもの私の態度を、女房はどう受けとめ、興奮気味のカヌー乗り乗りハゲ隠しバンダナ巻き巻きダンナを見ていたのだろうか?
 半日を川で過ごし、翌朝には3人の子供を従え、ホンノリと4人目の子供の予感を漂わせながら、女房達は宮崎発10時20分の大阪行の搭乗口に消えて行った。田舎に居て、大阪へ里帰りとはなんとなく変な話しだが、確実に現実なのは、私が自分で自分の世話をしなければならない10日間があると言う事だ。


 
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