水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第一章/十四編


ナゾなぞ謎!


 長女五才、今の関心は人体である。クリスマスに買ってあげた『子供図鑑』を片時も手放さずに、いつも人体のページをながめている。第一に興味をもったのが、骨である。おそらく、おばあちゃんの火葬を経験した後だからであろうが、今夜も次女三才を寝かせ、本と照らし合わせながら肋骨を確認している。そして、私の肋骨より長男一才の肋骨の方が、やわらかい事に気がついたようだ。第二に精子と卵子の世界である。それが
「どこにあるのか?」
「なんであるのか?」
「どの様に結びつくのか?」
「どの様にして赤ちゃんになっていくのか?」
等々、疑問が山のようにある。しかし、無数の精子の中の一匹が自分になった事が、たまらなく嬉しいのだと言う。そして、結婚式をしないと子供が生まれない!と言う、今までの自分の考えに、すこし疑問符がついたみたいである。ある夜、私と風呂に入っていると、自分のアソコを指さし
「ここにおチンちんを当てると、赤ちゃんが出  来るんだよ!」
と私に教えるのである。なかなかの研究熱心に、思わず頬ずりをしながら誉めちぎってしまった。そして、次の夜に女房に対して
「おかあさん、私はどうやって生まれたか知ってる?」
と質問したらしい。女房は返答に困り
 「いったいどうやって生まれたのかなァ」
と、どこの親でもやるようなズルイ答え方をすると、長女五才、女房より数段上手で
 「あのね!おかあさん、私はお父さんとお母さんの喜ぶ顔が見たかったから生まれたんだョ!」
と、哲学者のごとく答え、女房は胸をなで下ろしたらしい。それから、人体以外での疑問は『人種』である。日本人、アメリカ人、オーストラリア人などいろんな人種がいる事に興味がある。自分の知っているベアーさんはアメリカ人だし、グレッグとエリアンはオーストラリア人だし、ただ一人、この質問の最後に出てくる『野呂圭介氏』だけは、何度教えても、どんな人種か理解出来ないみたいだ。
「ねぇ、おとうさん!野呂さんはナニジン?」
「だって、ほら!ピーターパンの海賊みたいな髭やわ!」
「ネバーランド人なのかも知れないね!」
と、言う事で落ち着いている。

 次女三才、彼女と怪我と大の仲良しである。股間節脱臼に始まり、肘の脱臼、おでこの三段タンコブ、そして左肘の骨折、ごく最近では長女の自転車の後ろに乗っている時、足をはさんで、足の甲を二a×五a擦りむいていた。子供はそうなのかも知れないが、とにかくよく転けるのである。ファミリーレストランの座敷から転がり落ちたり、道路で転ける、リビングで走り回っていたかと思うと姿が消え転けていたり、玄関でつまずいて転ける、新しい靴を買ってあげると、つま先をひっかけて転ける。とにかく転ける。膝には、いつでもカットバン!。おでこに作ったタンコブは、一aも盛り上がり、半年の内に同じ所を二回もぶつけ、三段タンコブの隆起を今も維持している。スカートよりパンツ好き!人形よりチャンバラ好き!仲良くするよりチョッカイ好き!長い髪よりショートカット好き!普通のおかずより酒の肴好き!広場で遊ぶより狭い空き地・雑草の茂った場所・他人の庭で遊ぶのが好き!犬と遊ぶより犬小屋で遊ぶのが好き!で、私が好むタイプ人間であり、適齢期にでも出合ったなら、きっと私は彼女に求婚していた!に違いない。そんな次女三才の好物は、『トウモコロシ』という食べ物らしい。    長男一才、最近は先輩・後輩の秩序に敏感である。近所の六ヶ月先輩のダイ君に対し、忠実にその関係を維持しているらしい。始めの頃の関係は、いつでもこの二人が集会を行うと訳もなく、ダイ君に突き飛ばされたり叩かれたりしていた。その環境下で、長男一才は《パブロフの犬》状態を学習したのだろう!まず、一緒に遊んでいても、常に距離をおいている。次に、ダイ君のオモチャで遊んでいる時、ダイ君の気配を感じると
「どうぞ!どうぞ!」
と、そのオモチャを譲り、その後、確実に距離をおくのである。なんとも面白くもあり、悲しい師弟関係を大事にしているのである。しかし、私と女房としては、長男一才より、数カ月後輩に当たる、近所の赤ちゃんが歩き出せば、階級昇格となり、今以上におもしろい三人の師弟関係が見られるのを楽しみにしている。
 仕事柄、世の中が『春休み』と呼ばれている期間には、私の休みが一日もない。私自身が遊べなくて一番可愛そうだか、近所が休みを利用してどこか出て行っている時、わが子達だけ、家のまわりで遊んでいる姿がいじらしい。
「よそがどこか行くので、うちも行きたい!」
という事は、一度も言わないのである。女房の教育がいいのだろうと思うが、とにかく関心な良い子達である。
 近所の三家族が土・日を利用してキャンプに出かけたので、我家も子供の為(本当は私の為)にと、仕事を済ませて夜より合流した。まだ四月の夜は、焚火なしでは少し寒かったが、満天の星空が湖面に輝き、久しぶりの雰囲気を味わえた。水際までイスを運び、ランタンの明かりを消すと、数個の流れ星やスペースシャトルの軌道が確認出来た。キャンプ初心者の三家族は、料理疲れと、飲み疲れと、子守疲れと、寒さで、早くテントに潜り込んだ。久しぶりに私と女房は、焚火の側で夜遅くまで話が出来た。家の中では思いも付かない、楽しい我家の、今後のフィールド計画を語り合った。
 今回のキャンプで面白かったのは、我が家の家族を含めて四家族が、夫婦+子供三人スタイルだった事で、四家族×五人=二〇人だった。私の願いは、オモチャなど道具でなく、自然の中で、自分で遊びを見つける事の出来る子供になって欲しい!。
翌朝、他の家族が起きる前に、帰り支度を済ませ、前夜より準備しておいた食事をとり、目覚めたての三家族に挨拶をして、出勤時間に間に合うように帰途についた。その時も、我が子は
 「もっと遊びたい!」
 「もう帰るの?」
などと、一言も言わなかった。


 
Copyright(C) 水流渓人 All Rights Reserved

戻る