水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第一章/八編


「雪の約束」


 長女四才、次女二才、彼女達の近ごろの遊びは、もっぱら泥遊びである。あるポカポカ冬の日、次女が庭でけたたましく泣きだした。いつもの姉妹喧嘩だ!と、思っていると、近所の子が事の状況を報告に来た。その説明によると、妹が姉の遊んでいる物を横取りしたので、姉が妹を蹴ったらしい。しかたなく女房が庭に出て、長女を叱った。長女に、何故そんな事をしたのか問いただすと、
「人の遊んでいる物を横取りすると手をパチンするよ!。」
「泥で汚れた手で人を触ってはいけません。」
と、いつもお母さんが言うから、仕方なく足で蹴ったのだと言った。非常に難しい親の判断であるが、その時、女房が何と言って決着を付けたのかは確かめていない、かわいい我が子の一言であった。

 昨年の暮れに、コウノ鳥が我が家に長男を運んできた。長女・次女・長男という順番で最強の子供軍団が揃った。長男が出来るまで、長女は、
「お父さんと結婚式をするよ!。」
と、よく言ってくれた。が、しかしである、突然、長男と結婚式をする!と言い出したのである。弟が赤ん坊でかわいいからだと思っていたら、理由は違っていた。長女四才いわく
「私は見たっちゃかいね!お母さんはピンクのドレス着て、お父さんは白のお洋服着て結婚式したわ!写真見たっちゃかいね!一回結婚式した人はもうだめっちゃかいね!。」
しかし、姉弟が結婚式を挙げられない事を、彼女はいくら説明しても分かってはくれない。

 先日、友人が
「スキーに行こうや!。」
と、誘って来た。長男出産騒ぎで、今シーズンはあきらめていた私のお尻がピクピクしはじめた。誘いの電話口で女房の顔を見ずに、
「うん、いいよ!。」
と、小声で答えた。これから一週間何を言われても神妙にしていればいい!と、腹を決めた私に、夜家計簿を眺めながら、
「スキーに行くんだったらチェーン買えば!あんたに何かあると、三人の子どもが路頭に迷うといけないし・・。」
と、女房がぽつり。スキーに行ける上に欲しかったチェーンまで手に入れる事が出来るなんて・・、私の女房は神様、大黒様、夷様。しかし、調子に乗って一番高いチェーンを買い、おまけにスキーキャリアまで買いたいと言ってしまった私に、
「いい加減にしてょ!。」
と、怒った女房の顔は・・・だった。(コワクテカケナイ)そして、いよいよスキー出発当日、長女四才が連れて行けと言い出した。なかなか騙しのきかない年齢になってきた。親として『かわいそうだ!。』と思う心と、うずうずするお尻の板挟みになりながら、スキー板・スキー靴・ストックを担ぎ上げた。当然足には泣き叫ぶ長女がぶら下がっている。「おみやげに雪を持って帰るから。」
この一言で、足にぶら下がった泣きわめき生物は、にこにこ元気印の良い子に豹変した。かくして、後ろ髪ひかれお父さんは、ランドクルーザーにクーラーボックスを登載し、スキー場への夜道を走る事となった。スキー場からの帰り道、積もった雪を、シェラカップでクーラーに入れる親父の後ろ姿には、いじらしい哀愁と、家族への後ろめたさがあふれていた。
 我が家に到着し、下ろした荷物の中から、クーラーを取り出し中を覗いた娘が、縁側で、
「うぁー、雪だ!お父さん約束守ってくれたんだね!。」
「約束守ってくれたんだね!。」
何度も夜空に大声で叫んだ。翌朝、近所の人に、
「何か約束されたんですか?。」
と聞かれ、私は薄黒い顔を、薄赤黒く赤面させてしまった。しかし、なんだか嬉しい気持ちで会社へ車を走らせた。


 
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