水流渓人エッセイ集「父さんに教えて」
 

第一章/七編


「おばちゃん遊ぼ」


 長女四才、彼女の近所での交友関係は三姉妹+二姉妹+姉弟+兄妹=合計九人である。わが家の姉妹合わせて十一人が大集合して庭で遊び始めた。すばらしくうるさいのである。そうこうする間に親まで集まり始めた。結局、総勢十八人で、わが家で『お好み焼き』という結末になった。こうなりゃもう大惨事である。春夏はよく庭で、持ち寄り昼食親父ビール会が実施されたが、家の中は初めてである。子供達が腹をふくらますと、長女が
「カラオケを歌う!。」
と、言いながらマイクを引っ張り出してきた。そうなると、もうマイク争奪合戦が始まる。そうなると力関係が物を言う。そうなると犠牲者が出てくる。結局一曲だけと言う事で、画面のスイッチを入れる事となり、マイク奪い合い状態、鳴き声わんわん状態、親に言いつけ状態の中でイントロが始まった。そして、曲中盤にして、各親お叱り状態で歌声がなくなった。女房に、
「こうなる事ぐらい分かっているでしょう。なんでカラオケなんかするの?。」
と、私が叱られてしまった。そんな状況の中、スピーカーからまた奇妙な声が流れてきた。誰だ誰だと探してみると、いつもみそっかすの最年少・次女二才が、テーブルの下で、マイクを口一杯に押し込んで、歌みたいな唸りを上げていた。

  しばらく経ったある日の午後、女房が長男におっぱいを飲ませていると、リビングのガラスを、ノックする音が聞こえ、開けて見ると、仲良しのまゆみちゃん5才が立っていた。わが家の姉妹は、近所に遊びに行っているので、そこへ行きなさいと言うと、
「私はおばちゃんと遊ぶ。」
わが家に上がったまゆみちゃん、どうもTVの前でうろうろするので、
「TVつけようか?」
と、聞くと、待ってましたとばかり
「うんにゃ!カラオケ」
と、言ったらしい。そう言えばあの時、まゆみちゃんは、力・主張不足でしくしく泣いていた。そして、力強く『お久しぶりね』を、誰にも邪魔されず、最後まで歌って帰ったらしい。その話を女房に聞いた私は、その時のまゆみちゃんの、満足感を想うと、普段オーディオケースの中で、触ってももらえない機械が、一番大きく輝いて見えた。

  長女四才は、水遊びが一番のお気に入りだが、風呂や川やプールの水は、とても恐がりである。次女二才は洗髪の時、シャワーでじゃぶじゃぶかけても大丈夫なのに、長女の場合それは大変なのだ。まず膝に乗せ、四十五度に倒し、顔に乾いた臭くないタオルを、六つに折りかぶせ、左手は首の下に支え、右手で洗うのである。この段取りが間違えると大変なのである。茶道のお手前より難しい。現在わが家での『長女洗髪道』段取り状況は、祖母初段、私二段、女房師範となっている。
  そんな長女が夏の日、庭で水遊びをしていると、近所の子供達が水着で集合し始めた。ホースで水をかけながらはしゃいでいたので、庭にテントを張ってやると、はしゃぎ声が一層けたたましくなった。長女は水が恐いので、これ幸いとテントにもぐり込み、近所の子からホースの水をかけてもらっていた。しばらくすると長女は、もう水遊びはしない、洋服に着替えると、家に入ってきた。何故だと外を見ると、たまがった。さっきまで水よけだったテントに、水が目一杯溜められ、プール状態になっていた。いわゆる、長靴をはいて膝まで水につかった状態、水に濡れない為の用具というものは、内側からも漏れないという便利なようで不便な物である。いやはや『子供は遊びの天才である』と認めざるを得ない光景である。初めて見る、オリジナルなデザインと化したテントを、悲しく見つめる私のところに、
「おじちゃんテントがクッションみたいだよ。」
思わず折れそうなポールを、手でおさえた。足元を見ると水の下に芝生が生え、ランランと瞳を輝かせ、真っ黒に日焼けした笑顔一杯の女の子六人が私を見上げていた。
「よし!来年もクッション作ろう!」


 
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