
フシギの国のアリス
作 ルイス・キャロル
訳 十 一
イラスト ジョン・テニエル
* イラストは福音館文庫「ふしぎの国のアリス」(生野幸吉訳)からスキャンして、
いったんモノクロ・ビットマップに変換したものを使用させていただいています。
自サイトへの転載を含め、二次使用はしないでください。
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きらめく午後につつまれて
のんびりゆっくりすべりゆく
オールを持つ手もぶきっちょに
えっちらおっちら漕いでゆく
小さな漕ぎ手と水先が
ふらふらゆらゆら連れてゆく
こんなにすてきなお天気に
いじわる三匹声あげる
こんなにひよわな息なのに
お話してよと声あげる
こんなに小さな声ゆえに
舌べら三つにねをあげる
はじめはこわーい女王様
「さあ始めよ」とのご命令
次にはやさしいお姫様
「おかしな話」とご要望
最後はやかましお嬢様
どこそこかまわずご発言
ふいに沈黙うち勝って
空想の中を追いかける
夢の子供のめぐるのは
見たこともない変な国
鳥やけものとおしゃべりし
とりこになってしまう国
やがてお話くみつくし
夢の泉がかれはてる
疲れた声は苦しげに
「つづきは今度」と言うけれど
元気な声は楽しげに
「今が今度」と言い返す
ゆっくりゆっくりふくらんだ
フシギの国の物語
なんとかかんとかこしらえて
今やすっかり店じまい
陽気な一行舵をきり
夕日のもとを帰りゆく
アリスよどうか受けとって
このあどけないお話を
子供の頃の夢にまぜ
記憶の糸にからませて
彼の地で摘まれた巡礼の
しおれた花の輪のように

その
付録
その1 ウサギ穴を落ちて

アリスは川辺でお姉さんのそばに座っていることに、そして何もすることがないことに、ひどくうんざりしてきていました。一、二度お姉さんの読んでいる本をのぞいてみたりもしたんですが、それにはさし絵も会話も載っていなかったので、「でも本が何の役に立つの?」とアリスは思ったものです。「絵もセリフもなくって」と。
そんなわけで、アリスはアリスでじっくりと考えていたんです。(できるだけですが。その日は暑くてとっても眠かったし、頭もぼうっとしていたので)ヒナギクで花鎖を編むのは、わざわざ立ち上がってヒナギクを摘むほど楽しいことかどうか、とその時突然、赤い目の白ウサギが一匹、アリスのすぐそばを駆け抜けていきました。
そのことにはそれほどすごーくめずらしいことは何もありませんでしたし、そのウサギが「いかん! いかん! えらいこと遅れっちまう!」とひとりごとを言うのが聞こえたのも、アリスはそれほどすごーく変だとは思いませんでした。(あとでよく考えた時には、これには驚くべきだった、って思いついたんですが、その時はそれがみんなごくあたりまえのように思えたんです)が、そのウサギが目の前でチョッキのポケットから時計を取り出して、それを見て、それからまた駆けていった時には、アリスも思わずパッと立ち上がりました。チョッキにポケットがあるとか、そこから取り出した時計を持っているとかするウサギは、今までに一度も見たことがない、と頭にひらめいたんです。そしてもう興味しんしん。アリスはウサギを追いかけて野原をつっきって走っていき、ちょうどウサギが生け垣の下の大きなウサギ穴に、ピョンッ、と飛びこむところを見届けることができました。
次の瞬間にはアリスもウサギを追って穴にもぐりこんでいました。いったいどうやってまた出てくるかなんてまるで考えもしませんでした。
そのウサギ穴はしばらくはトンネルみたいにまっすぐ伸びていて、そのあといきなりガクンと落ちこんでいました。あんまり急だったので、アリスは止まろうと思う間もなく、気がついた時にはもう、深ーい、井戸みたいな縦穴を落ちていました。
その穴がすごーく深かったのか、アリスがすごーくゆっくりと落ちていったのか、そのどちらかでした。アリスには落ちながらまわりを見回したり、次はどうなるんだろうと考えたりする時間がたっぷりとあったんです。まず、アリスは下を見て、行き先を見きわめようとしましたが、暗すぎてなんにも見えません。次に穴の壁を見て、そこが食器棚や本棚で埋まっているのに気がつきました。あっちこっちに釘にかけられた地図や絵も見えます。アリスは棚の一つを通り過ぎる時、そこからつぼを一つ取りおろしました。そのつぼには「オレンジ・マーマレード」とラベルがはってあったんですが、ひどくがっかりしたことに、中はからっぽでした。アリスは下にいる誰かを殺してしまうのが心配で、そのつぼを落としたくなかったので、食器棚の一つを通り過ぎる時、落ちながらなんとかその中におさめておきました。
「すごい!」とアリスは思いました。「こんなに落っこったんだから、もう階段をころがり落ちるのなんかなんとも思わないだろうな! なんて強い子だって、うちじゃみんなが思うわね! もちろん私はなんにも言わないわ、たとえおうちのてっぺんから落っこったって!」(それはたぶん、ほんとでしょう)
どん、どん、落ちる。このままずうっと落ち続けるんでしょうか?「これまでに何キロぐらい落っこっちゃったのかしら?」とアリスは声に出して言いました。「きっと地球のまんなかあたりに着くところよ。えーっと、そうすると6000キロ下になるん、じゃないかな――」(これはほら、アリスはこういったことをいろいろと学校の授業で習いましたし、今はその知識を披露するには絶好の機会ではありませんが、なにしろ聞いている人が一人もいませんから、それでもそらで言うのはいいおさらいになるんです)「――そうよ、それがだいたい正しい距離ね――でもイドやケイドはどれぐらいのところに来ちゃったのかしら?」(アリスは緯度も経度もどういうものだかさっぱり分からなかったんですが、口にするのには聞こえのいい、立派な言葉だと思ったんです)
ほどなくアリスはまたひとりごとを言い始めました。「地球をまっすぐ突き抜けて落ちてくのかしら! すっごくおかしな感じだろうな、頭を下にして歩く人たちのところに出てくなんて! タイヤキ点、って言うんじゃなかったっけ――」(アリスは聞いている人が一人もいないことに、この時はむしろホッとしました。ちっとも正しい言葉には思えなかったからです)「――でもそこが何て名前の国だか聞かなくちゃいけないわよね。すみません、おばさま、ここはニュージーランドですか、それともオーストラリアでしょうか?」(そしてアリスはそう言いながら、ていねいにおじぎをしようとしました――考えてみてください、空中を落ちながら、片足を引いて、ひざを曲げて、スカートをつまんでおじぎをするんですよ! あなただったらやってのけられると思います?)「でもそんなこと聞いたら、なんてものを知らない子だって思われちゃう! だめ、聞くなんてダメよ。もしかしたら、どこかにちゃんと書いてあるのが見えるかもしれないじゃない」
まだ、まだ、落ちる。ほかにはなんにもすることがないので、アリスはすぐにまたおしゃべりを始めました。「ダイナが今夜はとってもさみしがるわ、きっとね!」(ダイナというのは猫です)「みんながあの子のティータイムのミルクを覚えててくれるといいんだけど。ああ、かわいいダイナ! あなたも一緒にここに落ちててくれたらいいのに! 空中にはネズミはいないだろうけど、コウモリをつかまえたっていいし、あれってネズミにそっくりでしょ。でもネコってコウモリを食べるのかしら?」そしてここらでアリスはちょっと眠たくなってきて、夢見ごこちでつぶやきつづけました。「ネコはコウモリを食べるのかなあ? ネコはコウモリを食べるのかなあ?」そして時々、「ネコをコウモリは食べるのかなあ?」とこれはほら、アリスはどちらの疑問にも答えられなかったので、どっちだろうとたいした問題じゃなかったんです。アリスは自分が寝込んでいるのを感じ、そしてちょうど夢を見始めたばかりの時でした。アリスはダイナと手脚をつないで散歩をしていて、とっても真剣にダイナに話しかけていたんですが、「あのね、ダイナ、本当のことを教えて。コウモリを食べたことはある?」といきなり、ドサン! バシン! と小枝と枯れ葉の山の上に落っこちて、落ちるのは終わりになったんです。
アリスは少しのケガもなく、すぐにパッと立ち上がりました。見上げてみましたが、頭の上は真っ暗です。前には別の通路が伸びていて、あの白ウサギが奥に向かって駆けていくのがまだ見えていました。ぐずぐずしてはいられません。まるで風のようにアリスはすっとんでいき、ちょうどウサギが角を曲がりながら、こう言うのを聞き届けることができました。「ああもう、なんてこった。こんなに遅くなっちまうなんて!」そのすぐあとにアリスも角を曲がりましたが、ウサギはもうどこにも見あたりません。気がつくと、そこは細長い、天井の低い玄関ホールで、ホールは天井から一列になって吊り下がったランプに照らされていました。
そのホールをぐるっと扉が囲んでいましたが、どれもみんなカギがかかっており、おかげでアリスは片側をずーっと向こうに、反対側をずーっとこちらにと、扉をみんなためしながら一周してきてしまうと、いったいどうしたらまた出ていけるんだろうと思いながら、ホールのまんなかをとぼとぼと奥に向かって歩いていきました。
ふいにアリスは小さな三本脚のテーブルに出くわしました。すみからすみまで混じりっけなしのガラス製です。そのテーブルの上にはちっぽけな金色のカギが一個乗っているだけだったので、アリスの頭にまず浮かんだのは、このホールの扉のどれかに合うんじゃないかということでした。が、なんてことでしょう! カギ穴が大きすぎるのか、カギが小さすぎるのか、そのどちらかですが、とにかくどの扉もどうしても開けられません。ところが二回り目のこと、アリスはそれまで気がつかなかった背の低いカーテンにばったり出くわして、その後ろを見ると、高さ40センチぐらいの小さな扉があったんです。アリスが小さな金色のカギをそのカギ穴にためしてみると、なんとも嬉しいことに、これがぴったり!

扉を開けてみると、その先はネズミ穴とたいして違わないぐらいのせまい通路が続いていました。ひざまずいてのぞいてみると、通路の先に見えたのは、あなたがこれまでに見たこともないほど美しい庭園でした。どんなにアリスはこの薄暗いホールを抜け出して、その色あざやかな花壇や涼しげな噴水たちの間を歩き回りたいと願ったことでしょう。でも戸口に頭をくぐらせることさえできません。「それにもしも頭がくぐってくれたって」とかわいそうにアリスは思いました。「カタナシじゃあ、ほとんど役になんか立たないわ。あーあ、ほんとに望遠鏡みたいに体が縮まればいいのに! なんとかなると思うんだけど、とっかかりさえ分かれば」これはほら、ここのところあんまりたくさんおかしなことが起きたので、アリスは本当にありえないことなんてほとんどない、と思い始めていたんです。
その小さな扉のそばで待っていてもしかたがなさそうなので、アリスは別のカギか、せめて人を望遠鏡みたいに縮める方法を書いた本が見つかるんじゃないかと、なかば期待しながらテーブルのところに戻りました。今度はテーブルの上に小さなびんが見つかって、(「前には絶対ここにはなかったけど」とアリスは言いました)びんの首には紙のラベルがくくりつけられており、ラベルには「のんで」という言葉が大きな字で美しく印刷してありました。

「のんで」というのは大いにけっこうですが、かしこいアリスはあわててそんなことをしようとはしませんでした。「だめよ、まず調べましょ」とアリスは言いました。「そして『毒』のしるしがついてないかどうか確かめるのよ」アリスは子供たちのことを書いた素敵な愛らしいお話をいくつか読んだことがあって、その子供たちは焼け死んでしまったり、けものに食べられてしまったり、そのほかのいやーな目に会ってしまったりするんですが、それはみんな子供たちが、親しい人の教えてくれた簡単な決まりごとを、覚えておこうとしなかったからなので、たとえば、真っ赤に焼けた火かき棒は長いこと持ちすぎるとやけどをする、とか、ナイフで指をうんと深く切ると、たいていは血が出る、といったようなことですが、おかげで「毒」のしるしのあるびんの中身をたくさん飲むと、遅かれ早かれ、まず間違いなく体をこわす、ということをアリスは一度だって忘れたことがなかったんです。
ところがこのびんには「毒」のしるしはついていなかったので、思いきって味見をしてみると、これがとってもおいしくて、(もっとはっきり言うと、チェリーパイと、カスタードと、七面鳥の丸焼きと、キャラメルと、バターつきのほかほかトーストをミックスしたみたいな味でした)アリスはたちまちすっかり飲みほしてしまいました。
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「なんておかしな感じ!」とアリスは言いました。「きっと望遠鏡みたいに縮んでってるんだ」
そして本当にその通りでした。アリスの背たけは今やたったの25センチだったので、アリスは今の大きさだったらあの小さな扉を通って美しい庭園に入るのにちょうどいいと思い、パッと顔を輝かせたんです。まず、それでもアリスはもっと縮むのかどうか確かめようと、しばらく待ちました。これにはちょっと不安だったんです。「だっておしまいにはよ」とアリスは胸の内でつぶやきました。「ローソクみたいに、すっかり消えちゃうかもしれないじゃない。そしたら私ってどんなふうになっちゃうんだろう?」そしてアリスはローソクの炎はローソクが吹き消されたあとはどんなふうに見えるのか、想像してみようとしました。今までにそんなものを見た覚えなんてありませんから。
しばらくしたあと、それ以上何も起こらなかったので、アリスはただちに庭園に向かうことにしました。が、ああ、なんてかわいそうなアリス! アリスは扉までやってきた時、あの小さな金色のカギを忘れてきてしまったのに気がつきました。そしてそれを取りにテーブルまで戻った時、そのカギにはとても手なんか届かないと気がついたんです。ガラス越しに実にはっきりとカギが見えていたので、アリスはいっしょうけんめいテーブルの脚の一本をよじ登ろうとしましたが、それがすべることすべること。そしてそのうちにアリスはすっかりくたびれてしまい、かわいそうにこのおチビちゃんは座りこんで泣き出してしまったんです。
「ほら、そんなふうに泣いてたってしょうがないでしょ!」とアリスは自分に向かってちょっときつく言いました。「いいこと、今すぐに泣くのをやめるの!」アリスはたいてい自分に向かってとってもいい意見を言いますし、(もっともまずその通りにはしませんが)時には目に涙が浮かぶほどきびしく自分をしかったりもしますし、それに一度、自分対自分のクロッケーのゲームで、自分をだましたということで、自分のほおをひっぱたこうとした覚えだってあります。この興味あふれる子は二人ごっこが大のお気に入りだったんです。「でも二人ごっこなんて」とかわいそうにアリスは思いました。「今は何の役にも立たないわ! だってどう見たって私は一人分もまともには残ってないじゃない!」
と、アリスの目が、テーブルの下に置かれていた小さなガラスの箱にとまりました。箱を開けてみると、中にはとっても小さなケーキが入っていて、ケーキの上には「タベテ」という言葉がほしぶどうでみごとにしるしてありました。「いいわ、食べちゃおう」とアリスは言いました。「それでもっとおっきくなればカギに手が届くし、もっとちっちゃくなれば扉の下をはっていけるし、だからどっちにしたってあのお庭に行けるんだから、どっちになったってかまわないわ!」
アリスはほんの一口食べてみて、どっちになるのか確かめようと頭のてっぺんに手を当 てながら、「どっち? どっち?」と不安そうに胸の内でつぶやきました。が、おんなじ大きさのままだったので、ちょっと驚いてしまいました。もちろん普通ケーキを食べた時はそういうものですが、でも、アリスはつい、何か変わったことが起こるはずだと思うようになってしまっていたので、物事が普通に進んでいくっていうのは、けっこう退屈でつまらないような気がしてしまいました。
そこでアリスはケーキに取りかかると、あっという間に片づけてしまいました。
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その2 涙の海に

「変てこりってる、変てこりってる!」とアリスは叫びました。(あんまりびっくりしたのでその瞬間、アリスはちゃんとした言葉づかいをすっかり忘れてしまったんです)「今度はシジョー最大の望遠鏡みたいに伸びてってるわ! さようならー、足さぁん!」(見おろした時、アリスには自分の両足が今にも見えなくなりそうな気がしたんです。両足はそれぐらい遠くに離れていくところでした)「ああ、かわいそうに、あんなにちっちゃくなっちゃって。これじゃ誰があなたたちに靴や靴下をはかせてあげるっていうの? もちろん私にはできっこないわ! あなたたちの面倒を見てあげるには、いくらなんでも遠くに離れすぎちゃうもの。あなたたちでなんとかできるだけじょうずにやらなくっちゃダメよ――でも足さんたちには親切にしてあげなくちゃ」とアリスは思いました。「でないともしかしたら、行きたい方に歩いてくれないかも! そうだなあ。毎年クリスマスに新しいブーツを贈ってあげよう」
そしてアリスはどうやって贈り届けようかと考え続けました。「配達の人に届けてもらわなくちゃなんないけど」とアリスは思いました。「すっごくおかしな感じだろうな、その人の足に贈り物を届けるなんて! それにあて名なんかもう、まさに奇なるもの、って感じよね!
だんろ前そば
じゅうたん上
アリスの右足殿
(愛をこめて、アリス)
ああもう、なんてバカなことをしゃべってるんだろう!」
ちょうどこの時、アリスの頭がホールの天井にぶつかりました。実際には今、アリスの背たけは3メートルにちょっと足りないぐらいだったので、アリスはすぐさま小さな金色のカギを取り上げて庭園の扉へと急ぎました。
かわいそうなアリス! アリスにできたせいいっぱいは、横向きに寝ころんで、片目で庭園をのぞき見ることだけで、しかもくぐり抜けるのはこれまでよりもさらに望みなしでした。アリスはまた座りこんで泣き出してしまったんです。
「恥ずかしいと思いなさい」とアリスは言いました。「あなたみたいなおっきな子が」(こう言うのも、もっともです)「こんなふうにずっと泣いてるだなんて! 今すぐやめるの、いいこと!」でもアリスはやっぱり泣き続け、バケツ何杯分もの涙を流したので、とうとうアリスのまわり中が大きな水たまりになってしまい、深さは約10センチ、そしてその先はホールの奥のなかばにまで届いていました。
しばらくすると、遠くからパタパタという小さな足音が聞こえてきたので、アリスは何がやってくるのかとあわてて涙をぬぐいました。それはあの白ウサギでした。立派に正装して、白い子ヤギ革の手袋を片手に、大きなせんすを反対の手に持って戻ってきます。ウサギはぶつぶつとつぶやきながら、足早に大あわてでこちらにやってきました。「ああ! 公爵夫人、公爵夫人! ああ! もしもお待たせしちまったら、きっとひどくお荒れになるよなあ!」アリスは藁にもすがりたいような心持ちだったので、ウサギがそばにやってくると、小声で、おずおずと切り出しました。「すみません、あの――」ウサギはびっくりぎょうてん。白い子ヤギ革の手袋もせんすも落っことし、暗闇の中へ大あわてでけんめいに逃げていってしまいました。

アリスはせんすと手袋を拾い上げると、ホールがひどく暑かったので、おしゃべりを続けている間、ずっとせんすで自分をあおいでいました。
「ほんとにもう! 今日は何もかもなんて変てこなの! それにきのうはまるでいつも通りにいってたのよ。私の方が夜のうちに変わっちゃったのかしら? えっとぉ、今朝起きた時はおんなじだった? ちょっと違ってたみたいな気がしないでもないな。でもおんなじじゃないとしたら、次の問題は、『いったい私って誰?』ああ、これってすごく難しい問題だわ!」そしてアリスは自分の知っている同い年の子みんなについて、そのうちの誰かに変わったということがありえるかどうか、検討し始めました。
「もちろんエイダじゃないわ」とアリスは言いました。「あの子の髪はとっても長い巻き毛だけど、私のはちっとも巻き毛になってないし、それにもちろんメイベルのはずもないわ。私はどんなことだって知ってるし、あの子、あーあ、あの子ったらほとんどなんにも知らないんだもん! それにあの子はあの子だし、私は私だし、だから――ああもう、何もかもなんてややっこしいの! 前に知ってたことをみんな知ってるかどうかためしてみよう。えっと、しごじゅうに、しろくじゅうさん、しひち――やぁだ! これじゃずっと20まで行かないじゃない! でも九九なんてたいしたことじゃないわ。地理をやってみましょ。ロンドンはパリの首都で、パリはローマの首都で、ローマ――違う、こんなのみんな絶対間違ってる! きっとメイベルに変わっちゃったんだ!『みずからをいましめて』を暗唱してみよう」そしてアリスはまるで先生の前で復唱しているみたいに、両手をひざに重ねてその詩を暗唱し始めましたが、声はしゃがれていて自分のではないみたいだし、言葉も前に言っていたのと同じにはなりませんでした――
「ちいさなワニさんきようだね
きらきらしっぽをひからせて
はなからくびからせなかまで
いちいちみずをあびせてる
ちいさなワニさんようきだね
きれいにのばしたつめひろげ
あまいほほえみおさかなに
おくちへどうぞとまねいてる」
「こんなの合ってっこないわ」とかわいそうにアリスは言うと、また目に涙をいっぱい浮かべながら続けました。「私ってやっぱりメイベルなんだ。そしてあのせまっ苦しいちっぽけなおうちに行って暮らさなくちゃいけなくて、遊ぶおもちゃなんかほとんどなくて、うわあ、習わなくちゃいけないお勉強はとってもたくさん! いやよ、もう決めたわ。もしも私がメイベルなんだったら、私はずっとここにいるんだから! 上からのぞきこんで、『上がってらっしゃいよ、ねえ!』なんて言ったってムダよ。私は見上げて言うだけだわ。『じゃあ、私は誰よ? まずそれを言ってちょうだい。そのあと、もしもその人でいたかったら、上がっていくわ。もしもそうじゃなかったら、ほかの誰かになるまでずっとここにいるわ』――でも、もうやだ!」とアリスは涙をわっとあふれさせながら叫びました。「ほんとに誰かのぞきこんでくれればいいのに! こんなとこに一人ぼっちでいるのなんか、いいかげんうんざりよ!」
そう言いながら自分の手を見おろすと、驚いたことに、しゃべっている間にウサギの小さな手袋を片方はめてしまっていました。「なんでこんなことができたんだろう?」とアリスは思いました。「きっとまたちっちゃくなってってるんだ」アリスは背たけを計ろうと、立ち上がってあのテーブルまで行ってみました。するとできるだけ正確な目分量で、今や60センチぐらい、しかもどんどん縮んでいっています。アリスはほどなくこれが手にしたせんすのせいだと気がついたので、あわててせんすを手放して、すっかり縮んで消えてしまうのはなんとかまぬがれました。
「危機一髪だったわ!」とアリスは不意打ちをくらったのにかなりギョッとして、でもまだ自分がなくなっていないのには心底ホッとして言いました。「さあ、今度こそあのお庭に!」そしてアリスはあの小さな扉へ全速力で駆け戻りました。が、なんてことでしょう! 扉はまたしても閉まっているし、カギはあいかわらずテーブルに乗っています。「もう、前より悪くなっちゃった」とかわいそうにこの子は思いました。「こんなにちっちゃかったことなんてこれまでに一度もないもの、一度もよ! ほんとにこんなのひどすぎるったらないわ!」
そう言った時、アリスの足がツルッとすべって、次の瞬間、ポチャン! とあごまでしょっぱい水につかっていました。まず頭に浮かんだのは、どういうわけか海に落っこちてしまったというもので、「だったら汽車でおうちに帰れるわ」とアリスは胸の内でつぶやきました。(アリスは生まれてから一度しか海辺に行ったことがなかったので、海岸というのはどこに行ってもたくさんの着替え用の馬車や、木のスコップで砂を掘っている子供たちや、それからずらっと並んだ宿屋や、その向こう側には汽車の駅が見られるものだと、なんとなく思いこんでいたんです)でも、ほどなくアリスは自分が3メートルぐらいの背たけだった時にこぼした涙につかっているんだと気がつきました。

「あんなにたくさん泣かなきゃ良かった!」とアリスはそこから抜け出そうと、泳ぎ回りながら言いました。「きっとこれがその罰で、自分の涙におぼれて死んじゃうんだわ! そんなのもちろんおかしなことだろうけど! でも今日は何もかもがおかしいんだもの」
ちょうどその時、涙の海のちょっと離れたところで、何かが水をパチャパチャ跳ね散らしている音が聞こえたので、アリスは何だか確かめようと、泳いで近づいていきました。はじめはきっとセイウチかカバだな、と思ったんですが、そのあとすぐに自分が今はどれぐらい小さいのかを思い出し、ほどなくそれはただのネズミで、自分と同じように涙にすべり落っこちたんだと分かりました。

「このネズミにお話しするのって」とアリスは考えました。「さあ、何かの役に立つかしら? ここって何もかもがとっても変わってるから、ネズミもたぶんおしゃべりできるんじゃないかと思うけど。とにかく、ためして悪いことはないわ」そこでアリスはこう切り出しました。「ネズミよ、どっちに行けばこの海を出られるかご存じかしら? こんなところで泳ぎ回るのはいいかげんうんざりなのよ、ネズミよ!」(アリスはきっとこれが正しいネズミへの話しかけ方だと思ったんです。これまでにそんなことをしたことは一度もありませんが、お兄さんのラテン語文法の本に、こうあったのを覚えていたんです。「ネズミは――ネズミの――ネズミに――ネズミを――ネズミよ!」)ネズミはいささか物珍しげにアリスを見て、ちっちゃな目の片方でウインクしたようにも見えましたが、何も言いませんでした。
「もしかしたら英語が分かんないのかも」とアリスは思いました。「たぶんフランスのネズミで、征服王ウイリアムと一緒に渡ってきたんだわ」(アリスは歴史の知識はたくさんあるのに、どれもどれぐらい前に起きたのかは、あまりよく分かっていなかったんです)
そこで今度はフランス語でこう言ってみました。「ワタシノネコハドコニイマスカ?」これがアリスのフランス語の学習書に載っていた、一番はじめの文章だったんです。ネズミはいきなり水から跳び上がりました。おまけにおびえて全身ブルブルふるえているようです。「あっ、ごめんなさい!」とアリスはそのかわいそうな動物を怒らせてしまったんじゃないかと思い、あわてて叫びました。「あなたが猫を好きじゃないって、すっかり忘れてたの」
「ネコを好きじゃないだとォ!」とネズミはキイキイといきり立った声で叫びました。「おまえさんが私だったら、おまえさんはネコが好きかね?」
「そうね、違うかもしれないわ」とアリスはなだめるように言いました。「もう怒らないで。だけどあなたにうちの猫のダイナを見せてあげられたらなあ。猫を好きになると思うわ、あの子に会ってさえもらえたら。とってもおとなしい、いい子で」とアリスは涙の海をのんびりと泳ぎ回りながら、なかばひとりごとのように続けました。「のどをゴロゴロ鳴らしながら、とってもお行儀良くだんろのそばにお座りして、脚をなめたりお顔を洗ったりしてるの――それに抱っこすると、とってもやわらかで気持ちいいし――しかもネズミ捕りの名人――あっ、ごめんなさい!」とアリスはまた叫びました。今度はネズミが全身の毛を逆立たせていたので、本気で怒ったに違いないとアリスにもはっきりと分かったんです。「あんまり気が向かないなら、あの子の話はもうやめましょうね」
「やめましょうねだとォ、まったくゥ!」とネズミは叫びました。しっぽの先までブルブルふるえています。「まるで私がそんな話を続けようとでもしとるみたいに! 私ら一族は昔っから大嫌いなんじゃ、あのネコ――けがらわしい、いやらしい、いじきたないやつらがな! 二度とその名前を私に聞かせんでくれ!」
「もちろん言わないわ!」とアリスは話題を変えようと大あわてで言いました。「あれは――あれはお好きかしら?――その――犬は」ネズミが答えないので、アリスは熱心に話を続けました。「それはかわいい小犬がいるのよ、私のうちのそばに。あなたに見せてあげたいわ! ちっちゃくて目のぱっちりしたテリアなの。それも、ああ、もうフッサフサの茶色い巻き毛で! しかも物を投げると捕ってくるし、ごはんのおねだりにはちんちんするし、いろんなことを――半分しか思い出せないけど――それでお百姓さんに飼われててね、その人が言うにはとっても役に立つ犬で、百万円の値打ちがあるんだって! なにしろ一匹残らずネズミや――あっ、いっけない!」とアリスはなんとも悲しげな声を上げました。「また怒らせちゃったみたい!」ネズミがけんめいにアリスのもとから泳ぎ去っていくんです。おかげで海はまさに大荒れでした。
そこでアリスは後ろからやさしく呼び止めました。「ネズミさぁん! ねえ、戻ってきてぇ。それに猫の話も犬の話も、あなたがお好きじゃないんだったらしないから!」ネズミはこれを聞くと、くるりと向きを変えてゆっくりとアリスの方に泳いで戻ってきました。すっかり血の気の失せた顔で、(頭に来てるんだ、とアリスは思いました)ふるえ声も小さく、ネズミは言いました。「岸に上がろう。それから私の身の上話を聞かせてやろう。そうすればおまえさんにもどうして私がネコとイヌが嫌いなのか分かるじゃろう」
そういう潮時でした。海は落っこちた鳥やけものたちでかなり混み合ってきていたんです。アヒルにドードー鳥、オームに子ワシ、そしてそのほかの珍しい生き物が数匹といった具合です。アリスが先頭に立ち、一行はそろって岸へと泳いでいきました。
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その3 カンブカイキョーソーと長い物語り

岸辺に集まったのは見るからに珍妙な一行でした――羽をずるずる引きずった鳥たちや、体にぺったり毛のはりついた動物たちなど、みんながずぶぬれで、不機嫌で、気持ち悪そうといった具合です。
当面の問題は当然のこと、どうやって体を乾かすかです。みんなでそのことを話し合ったので、数分もした頃には、アリスもそれがごくあたりまえ、といった感じでみんなと気安く話し合っていました。まるで生まれた時からの顔見知りみたいに。それどころか、アリスはオーム相手に長々と言い争ったので、オームはとうとうへそを曲げてしまい、ただこの一点張りになったんです。「私はあなたより年上なんだから、あなたよりよく知ってるに決まってるの」でもこれを、アリスはオームがいくつなんだか分からないままでは認めようとしないし、オームは歳を教えるのを断固として拒むものですから、もはや実のある会話にはなっていませんでした。
とうとうネズミが、どうやらみんなの間では一目置かれた存在らしいんですが、大声で呼びかけました。「座っとくれ、全員じゃ、そして私の話を聞くんじゃ! 私がすぐにおまえさんらをすっかり乾かしてやる!」みんなはさっそくネズミをまんなかに、大きな輪になって座りました。アリスは不安そうにじーっとネズミを見つめていました。すぐにでも体を乾かさないと、きっとひどいかぜをひいてしまう、と身に染みて感じたんです。
「おっほん!」とネズミはもったいぶったふうに言いました。「皆、よろしいかな? これは私の知るうちでもっともムミ乾燥なモノじゃ。一同、ご静粛に願いますぞ!『征服王ウイリアムはその大儀を法王によって支持され、たちどころにイングランド人の服従を得た。イングランド人は指導者を欠き、その近年、王位の略奪や武力による征服には慣れきっていたのである。マーシアとノーサンブリアの伯爵、エドウィンとモーカーは――』」
「ううっ!」とオームがブルッとふるえて言いました。
「まことに申しわけないが!」とネズミは眉をひそめながらも、ひどくいんぎんに言いました。「何かおっしゃいましたかな?」
「いえ何も!」とオームはあわてて言いました。
「何かおっしゃったかと思いました」とネズミ。「先を続けます。『マーシアとノーサンブリアの伯爵、エドウィンとモーカーはウイリアムへの支持を表明し、さらには愛国者カンタベリー大主教、スティガンドさえもそれを賢明ととらえ――』」
「何をとらえたって?」とアヒルが言いました。
「それをじゃ」とネズミはちょっと不機嫌に答えました。「もちろんおまえさんは『それ』の意味はご存じじゃな」
「僕が捕らえたって時なら、『それ』の意味はちゃんと分かりますよ」とアヒル。「それっていうのはたいていカエルかミミズです。問題は、大主教がとらえたのは何か、ってことです」
ネズミはこの質問には取り合わず、話の続きを急ぎました。
「『――それを賢明ととらえ、エドガー・アセリングと共にウイリアムのもとを訪れ、彼に王位を授けた。ウイリアムの政策は当初は穏健なものであった。しかし配下のノルマン人の横暴は――』どうじゃな、お嬢ちゃん、カンソウの方は?」とネズミはアリスの方を向きながら続けました。
「ぬれたまんまよ」とアリスは湿っぽい声で言いました。「お話じゃちっとも乾きそうにないわ」
「しからば」とドードー鳥が起立しながら、まじめくさって言いました。「わたくしはより活動的救済策即時採択の為、本会合一時中断の動議を提出――」
「ふつうにしゃべってよ!」と子ワシが言いました。「そんな長ったらしい言葉なんて半分も意味が分かんないし、それにおじちゃんに分かってるとも思えないな!」そして子ワシは顔をふせてこっそり笑いました。何羽かクスクスと忍び笑いをもらした鳥もいます。
「私が言おうとしたのは」とドードー鳥はムッとしたように言いました。「それはだ、我々を乾かす最善の策は、幹部会競争だろうということだ」
「カンブカイキョーソーって何なんですか?」とアリスは言いました。そんなに知りたいわけじゃなかったんですが、ドードー鳥がいかにも誰かが何かを言うだろうとばかりにちょっと間を置いたのに、ほかの誰も何も言いたそうじゃなかったんです。
「あーぁ」とドードー鳥は言いました。「実行にまさる説明はなしだ」(では、あなたもいつか冬の日に、自分でためしてみたいと思うかもしれませんから、ドードー鳥がどんなふうにやったのか、お話ししましょう)
まずドードー鳥は競争のためのコースの線を、まあ、だいたい丸い形に引いて、(「形の正確さは重要ではない」とドードー鳥は言いました)それから一行全員がコースにそってあちこちに並ばされたんです。「よーい、どん!」も何もありませんでしたが、みんなは好きな時に走り出し、好きな時にやめました。ですから競争がいつ終わったのかは、おいそれと分かるものではありません。ですが30分かそこらも走って、みんなが元のようにすっかり乾燥した頃、ドードー鳥はいきなり大声で言いました。「競争終了!」するとみんなはドードー鳥のまわりにドッと押し寄せて、ハアハア息を切らしながら、こう問いかけました。「でも、誰が勝ったの?」
この質問に答えるには、ドードー鳥もずいぶんと考えなければならなくて、おでこに指を一本押し当てたまま、(シェイクスピアの肖像画でよくお目にかかるポーズ)長いことじーっとしていました。そしてほかのみんなもしーんとして待っていました。ようやくのことでドードー鳥は言いました。「全員がカンソウを勝ち得た。よって皆が褒美に値するものを得(う)るべきだ」
「でも誰がごほうびをくれるの?」とぴったり一つに合わさった声がたずねました。
「あーぁ、もちろんこの子さ」とドードー鳥はアリスを指さして言い、すると一行全員がたちまちアリスのまわりにドッと押し寄せて、我先に、と叫びました。「ごほうび! ごほうび!」
アリスはどうしたらいいのかさっぱり分からなかったので、やけになってポケットに手を入れると、キャンディーの箱を取り出して、(運良く塩水は箱の中までは染みこんでいませんでした)その中身をごほうびとして次々に手渡しました。ちょうどみんなに一粒ずつ行き渡るだけありました。
「じゃがこの子自身も褒美をもらわにゃいかんじゃろう」とネズミが言いました。「もちろんです」とドードー鳥は大まじめに答えました。「ほかに何かポケットの中に持っとるかね?」とドードー鳥はアリスの方を向きながら続けました。
「指貫だけ」とアリスは悲しそうに言いました。
「こちらに渡して」とドードー鳥。

それからみんながもう一度アリスのまわりに集まる中、ドードー鳥はこう言いながら、おごそかに指貫を授与しました。「なにとぞこの優美なる指貫をお受け取りください」そしてドードー鳥がこの短いスピーチを述べ終えると、みんながかっさいをあびせました。
アリスには何もかもがひどくばかばかしく思えたんですが、みんながえらくまじめそうなので笑うわけにもいかず、おまけに何も言うことを思いつかなかったので、できるだけしかつめらしい顔をしながら、ただおじぎだけをして、指貫を受け取りました。
次はキャンディーを食べる番です。これでまた一騒ぎあって、大きな鳥たちは味が分からないと文句を言うし、小さな方はのどにつまらせて、背中をたたいてもらわなければならない始末でした。でもそれもようやく終わると、みんなはまた輪になって座り、ネズミにもっと何か話してくれるように頼みました。
「身の上話をしてくれるって約束よね」とアリスは言いました。「それにどうして嫌いなのか――ネとイを」とアリスは小声で付け加えましたが、ネズミがまた怒るんじゃないかと、ちょっと心配でした。
「私の、おお、それはなあ、長くて悲しいものなんじゃ!」とネズミはアリスの方を向きながら言い、ためいきをつきました。
「ほんとに長いわ」とアリスは驚きながらネズミの尾を、見おろして言いました。「でもどうして悲しいなんて言うの?」そしてネズミが物語る間、ずっとそのことに頭を悩ませていたので、アリスの頭の中ではお話がこんなふうになっているのでした――
「フューリが鼠にこう言った。
家で出会った鼠だった。
『わしらで裁判
をやろうじゃ
ないか、わし
がおまえを訴
えてやる――
さあ、いやと
は言わさんぞ。
どうあったっ
て裁判をやる
ぞ。まったく
もって今朝
ときちゃあ、
やることが
なんにもな
いとくる』
鼠がワン公
に言ったの
は、『ねえ、
旦那、そん
な裁判は、
やるだけ
ムダにな
ります
よ、裁判
官も陪
審もな
しじゃ』
『わしが
陪審で
裁判官
だ』と
はずる
賢い、
老いぼ
れフュ
ーリだ。
『わし
がすべ
ての訴
えを審
理し、
おまえ
に死
刑を下
してやる
んじゃ』」
「おまえさん、ちゃんと聞いとらんな!」とネズミはアリスにビシッと言いました。「何を考えとるんじゃ?」
「ごめんなさい」とアリスはひどくへりくだって言いました。「確か五つ目の、お話を曲げたところですよね?」
「なんだとォ! からんどるのか!」とネズミは語気荒く、怒気もあらわに叫びました。
「からんでる!」といつでも役に立ちたがるアリスは、そう言って心配そうにまわりを見回しました。「大変、もつれちゃう前に、ぜひ、元に戻すのをお手伝いさせて!」
「そんなことは何一つ、するつもりなんぞない!」とネズミは言うが早いか、立ち上がって歩き去っていきます。「そんな愚にもつかんことを言って、私を侮辱しおって!」
「そんなつもりじゃなかったの!」とかわいそうにアリスは弁解しました。「でもネズミさんてすぐに怒るでしょう!」
ネズミは返事にギーッとうなっただけでした。
「ねえ、戻ってきてぇ、そしてお話をおしまいまで聞かせてぇ!」とアリスはネズミに呼びかけました。そしてほかの者もみんな声をそろえて呼びかけに加わりました。「そうですよ、どうかお願いしまーす!」でもネズミはうるさそうに首を振っただけで、やや足を速めて行ってしまいました。
「行っちゃうなんて、ほんとに残念!」とオームはネズミがすっかり見えなくなるや、ためいきまじりに言いました。そして老ガニはここぞとばかりに娘に向かって言いました。「ああ、おまえや! これを教訓にして、おまえは決してかんしゃくを起こすんじゃないよ!」「黙っててよ、ママ!」と若いカニはちょっとつっかかるように言いました。「ママにはカキだってしんぼうできるかどうかだわ!」
「今、ダイナを連れてたらなあ、ほんとにいいんだけど!」とアリスは別に誰に話しかけるでもなく、口にしました。「あの子がきっとすぐに連れ戻しちゃうのに!」
「で、ダイナってだぁれ? もしも聞いてもいいんだったら」とオームが言いました。
アリスは勢いこんで答えました。自分のペットの話だったら、いつだって大歓迎なんです。「ダイナはうちの猫よ。そしてネズミを捕まえることにかけては、誰も想像できないぐらいの腕っこきなの! それに、ああ、あなたにも鳥をねらってるあの子が見られたらいいのに! だって小鳥なんか目にしたとたんにパクッ、ていっちゃうんだから!」
この発言で一同の間はひっくり返るような大騒ぎになりました。たちまち逃げ去ってしまった鳥もいます。一羽の年老いたカササギはやたらと念入りに羽で身をくるみ出し、こう言いました。「あたしゃほんとにうちに帰らにゃならんわ。夜気はあたしののどにゃこたえるでね!」そしてカナリヤはふるえ声を張り上げて子供たちを呼びました。「行くんだよ、おまえたち! もうみんなおねんねの時間だよ!」あれこれと言いつくろってはみんなどこかに行ってしまい、アリスはほどなく一人ぼっちになってしまいました。
「ダイナのことを話さなきゃ良かった!」とアリスはしょんぼりとつぶやきました。「ここじゃ誰もあの子を好きじゃないみたい。でも本当にあの子は世界一の猫なんだから! ああ、かわいいダイナ! いつかまたあなたに会えるのかしら!」そしてそう言うと、かわいそうにアリスはまた泣き出してしまいました。とってもさびしくて、気持ちも沈んでしまったんです。でもいくらもたたないうちに、また遠くからパタパタという小さな足音が聞こえてきたので、アリスはパッと顔を上げて目をこらしました。ネズミの気が変わって、お話をおしまいまでするために戻ってきたのかも、と思ったんです。
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その4 ウサギノ使者ノビル
それはあの白ウサギでした。ちょこちょこと少しずつこちらに戻ってきます。そして何か落とし物でもしたみたいにきょろきょろとあたりを見回していて、さらにはぶつぶつとつぶやいているのもアリスには聞こえました。「公爵夫人! 公爵夫人! ああ、なんてこった! ああ、もうどうすりゃいいんだ! あの方(かた)に死刑にされちまうのはイタチを見るより明らかだ! いったいどこに落としちまったんだろう?」アリスにはすぐにあのせんすと手袋とを探しているんだと察しがついたので、なんとも親切なことに、自分でもあちこち探し回り始めたんですが、どちらもどこにも見あたりませんでした――何もかもが、アリスが涙の海に落ちてからこれまでの間に変わってしまったみたいで、あの大きな玄関ホールは、ガラスのテーブルや小さな扉も一緒に、あとかたもなく消え失せてしまっていたんです。
すぐにウサギはあちこち探し回っているアリスに気がついて、怒ったような声でアリスに向かって叫びました。「なんだ、メアリー・アン、こんなところで何をやっとるんだ? 今すぐ家に飛んでって、手袋とせんすを取ってこい! そら、早く!」するとアリスはあんまりびっくりしたものですから、ウサギの勘違いを正そうともせず、すぐにウサギが指さした方に走っていきました。
「お手伝いさんと間違えたんだわ」とアリスは走りながら胸の内でつぶやきました。「私が誰だか分かったら、どんなに驚くかしら! でもせんすと手袋は持ってってあげなくちゃ――もっとも、見つけられたらだけど」そう言った時、ふいにアリスの前に小ぎれいな一軒の家が現れました。扉にはピカピカのしんちゅう製のプレートが付いていて、「白 兎」と名前が彫ってあります。アリスはノックもしないで中に入り、二階へと急ぎましたが、本物のメアリー・アンに出くわしてしまわないか、そしてせんすと手袋を見つける前に家から追い出されてしまわないかとびくびくしていました。
「ほんとに変な感じ」とアリスは胸の内でつぶやきました。「ウサギのお使いをしてるだなんて! この次はダイナにお使いをさせられてるんだわ!」そしてアリスはこんなことになるんじゃないかと想像し始めました。「『アリスお嬢様! すぐにこちらにいらして、散歩のお支度をなさい!』『すぐ行くわ、ばあや! でもダイナが戻ってくるまで、このネズミの穴を見張って、ネズミが逃げ出さないようにしなくちゃならないの』ただ――」とアリスは続けて、「そんなふうに人にあれこれ言いつけ出したら、みんなダイナを家には置いてくれないでしょうけどね!」
この時にはもう、アリスは窓ぎわにテーブルのある、小ざっぱりとした部屋までやってきていて、そのテーブルの上には(アリスの期待通り)せんすが一つと、二、三足のちっぽけな白い子ヤギ革の手袋もありました。そのせんすと手袋一組を取り上げて、部屋から出ようとしたちょうどその時です。ふと、アリスの目が、鏡のそばに置かれた小さなびんにとまりました。今度は「のんで」と書いたラベルはありませんでしたが、それでもアリスは栓を抜いてびんに口をつけました。「きっと何かおもしろいことが起こるはずよ」とアリスは胸の内でつぶやきました。「いつだって何かを食べるか飲むかすればそうだもの。だからこのびんの場合もどうなるかちょっと見てみよう。ぜひまたおっきくしてほしいな。ほんとにこんなにちっぽけなままなんて、いいかげんうんざりだもの!」
本当にそうなりました。しかも思ったよりずっと早くです。びんの半分も飲まないうちに頭が天井につっかえてしまい、アリスは首の骨が折れないように、かがまなければならなかったんです。あわててびんを下に置き、アリスは胸の内でつぶやいていました。「もう充分よ――これ以上おっきくならないでほしいわ――今のままでも、あのドアから出られないし――ほんとにこんなにたくさん飲まなきゃ良かった!」
残念! そう思っても遅すぎました! アリスはどんどん大きくなっていき、たちまち床にひざまずかなければならなくなったんです。すぐあとにはそれでさえもきつくなったので、片ひじをドアに押し当てて横になり、もう片方の腕を頭に回したらどうかとためしました。それでも大きくなっていくので、これが最後の手、と片手を窓の外に出し、片足をだんろの煙突につっこむと、アリスは胸の内でつぶやきました。「もう何が起きたって、これ以上どうしようもないわ。私ってどうなっちゃうんだろう?」

幸いにも、小さな魔法のびんのききめはもうめいっぱいだったので、アリスはそれより大きくはなりませんでした。それでもひどくきゅうくつでしたし、その部屋から出ることなんてとてもできそうにありませんでしたから、アリスが落ちこんだ気分になったのも無理はありません。
「おうちじゃもっとずっと楽しかったわ」とかわいそうにアリスは思いました。「しょっちゅうおっきくなったりちっちゃくなったりしてなかったし、ネズミやウサギにあれこれ言いつけられてもいなかったもの。あのウサギ穴をおりてこなきゃ良かったかも――でも――でもよ――ちょっとめずらしいわよね、こんな身の上って! ほんとにいったい何が起きたのかしら! おとぎ話を読んでた頃は、そういうことは起きっこないって思ってたのに、今、ここじゃそのまっただなかにいるんだもの! 私のことを書いた本がなくっちゃ、それこそ当然よ! ほんとにおっきくなったら私が書こう――でも、もうおっきくなっちゃったんだ」とアリスはしょんぼりと付け加えました。「少なくとも、ここじゃもうこれ以上おっきくなんてなりようがないわ」
「でもよ」とアリスは考えました。「だったら私って今よりも絶対に歳をとらないってこと? それならいいとこもあるな――絶対におばあさんにならない――でもよ――そしたらずうっとお勉強することになるわ! うわあ、そんなのはいやよ!」
「あら、馬鹿ねアリス!」とアリスは自分に答えました。「いったいどうやってここでお勉強するの? だってあなたのせいでほとんど埋まってて、教科書をひろげる場所なんてどこにもないじゃない!」
それからアリスはまず一方、それからもう一方と、まったくもって実にみごとに会話を続けていましたが、でも、しばらくするとおもてから声が聞こえてきたので、おしゃべりをやめて耳をそばだてました。
「メアリー・アン! メアリー・アン!」とその声は言いました。「さっさと手袋を取ってこんか!」それからパタパタという小さな足音が階段までやってきました。ウサギが自分を探しにきたんだと分かったので、アリスはブルブルふるえて家までガタガタ揺らしました。今ではウサギの千倍ぐらい大きいことも、怖がる理由なんか何もないことも、すっかり忘れていたんです。
ほどなくウサギはドアまでやってくると、それを開けようとしました。が、ドアは内開きで、アリスのひじがギュッと押しつけられていましたから、いくらやってもだめでした。アリスにはウサギのつぶやくのが聞こえました。「それじゃおもてに回って窓から入るか」
「そうはさせないわ!」とアリスは思い、音をたよりにウサギが窓の真下に来るのを待ってから、いきなり手を広げ、宙をパッと一つかみしました。何もつかめませんでしたが、小さな悲鳴とドシン、ガチャン、という音が聞こえたので、アリスはウサギがガラス張りのキュウリの温床か、その手の何かにころげこみでもしたんだろうな、と思いました。

次に聞こえてきたのは怒った声――ウサギのです――「パット! パット! どこにおるんだ?」それからアリスのこれまでに一度も聞いたことのない声が、「へーいあっしはここでさあ! リンゴを掘っとりますで、だんな様!」
「リンゴを掘っとるだとォ、まったく!」とウサギは怒って言いました。「こっちだ! こいつから出るのに手を貸しに来い!」(さらにガラスの割れる音)
「ところで聞くが、パット、窓の中のありゃあ何だ?」
「へえ、ありゃあ腕でさ、だんな様!」(「んで」というふうに言いました)
「腕だとォ、このトンマ! あんな大きさのなんか見たことあるか? そら、窓をまるまるふさいじまってるじゃないか!」
「へえ、ふさいどりやすなあ、だんな様。そんでもやっぱありゃあ腕でさ」
「まあいい、とにかくあんなものはあそこにはいらん。行って取っ払え!」
このあとしばらくひっそりとしてしまい、アリスには時々ひそひそ話が、たとえば、「へえ、あっしはあの手は苦手でさあ、だんな様、どうにもこうにも!」「言う通りにせんか、この臆病者が!」といったようなのが聞こえるだけだったので、とうとうアリスはまた手を広げ、宙をもう一つかみしました。今度は二声の小さな悲鳴と、さらにガラスの割れる音が聞こえました。「ずいぶんたくさんキュウリの温床があるんだわ!」とアリスは思いました。「次はどうするのかしら! 窓から私を引っぱり出すってことは、どうせできっこないだろうしなあ! ほんとに私だってもうこんな中にいたくないわ!」
アリスはそれっきり何も聞こえないまま、しばらく待ちました。ようやく聞こえてきたのはカラカラという小さな車輪の音と、わいわいがやがやしゃべっている、ずいぶんと大勢の声でした。アリスにはこんな言葉が聞き取れました。「もう一個のはしごはどうした?――なぁに、おら一個だけ持ってくりゃ良かったんだ。ビルがもう一個のを持ってら――ビル! そいつをこっちに持ってこいや!――こっちだ、そいつらをこの角んとこに立てかけな――そうじゃねえ、まずそいつらをつないで縛れ――まだ半分の高さにも届かねえぞ――ったく、充分用は足りるって。細けえこと言うんじゃねえや――こっちだ、ビル! このロープをつかめ――屋根はでえじょぶか?――そのゆるんでるかわらに気ィつけろ――うわ、落っこってきた! 頭ァ引っこめろ!」(ガッシャン)――「おい、誰がやったんだよ?――ビルだぜ、たぶん――誰が煙突をおりてくんだ?――やだぜ、おらやんねえよ! おめえがやんな!――そんなの俺だってごめんだい!――ビルがおりてくに決まってらあ――こっちだ、ビル! ご主人様がおめえに煙突をおりてけとよ!」
「あら! じゃあビルが煙突をおりてこなくちゃなんないのね?」とアリスは胸の内でつぶやきました。「でも、みんななんでもかんでもビルに押しつけるみたい! ビルの代わりには絶対なりたくないな。このだんろって確かにせまいけど、でも、たぶんちょっとけとばすぐらいはできるもの!」
アリスはできるだけ煙突の下の方まで足を引き寄せると、ちっちゃな動物が(アリスにはどんな動物か見当がつきませんでした)煙突の中でカリカリもぞもぞやっているのが、ほんのすぐ上に聞こえるまで待ちました。それから「これがビルね」と胸の内でつぶやくや、キョーレツな一蹴りをおみまいして、次はどうなるかと様子をうかがったんです。

最初に聞こえたのは大勢のいっせいに上げた声で、「ビルが飛んでくぞォ!」それからウサギの声――「受けとめろ、おまえ、垣根のとこの!」そして静寂。それからもう一騒ぎ。「頭を持ち上げろ――ほら、ブランデーだ――のどをつまらせんな――どういうこったよ、なあ? 何があったってんだ? 俺らにみんな話してみな!」
最後に聞こえてきたのはちっぽけで弱々しい、キーキーした声でした。(「ビルだわ」とアリスは思いました)「あぁ、おいらにもよく分かんねえ――もういいよ、あんがと。だいぶ良くなった――でも頭ん中ぐちゃぐちゃで、何つったらいいんだか――覚えてんのったら、なんかがびっくり箱みてえに飛び出てくんのと、おいらがすっとんでくのだけなんだ、まるでロケット花火みてえにさ!」
「そんなだったよ、ほんとに!」とほかの者が言いました。「家を焼いちまうしかない!」とウサギの声が言いました。そこでアリスはあらん限りの大声で叫びました「そんなことするんだったら、ダイナをけしかけてやるから!」
たちまちしーんと静まり返ったので、アリスは考えました。「次はどうするつもりかしら! ちょっとでも頭が回るんだったら、屋根をはがすんだろうけどなあ」一、二分すると、みんなはまた何やらわさわさし始めて、アリスにはウサギがこう言うのが聞こえました。「手押し車一杯分でいいだろう、とりあえず」
「手押し車一杯分の、何?」とアリスは思いました。でもあれこれ考えているひまはありませんでした。次の瞬間、窓から小石が雨あられとバラバラ降りそそいできて、いくつかアリスの顔に当たったんです。「こんなのやめさせよう」とアリスは胸の内でつぶやくと、大声で言いました。「もう一度やったら、ただじゃすまないわよ!」とこれでまたしーんと静まり返りました。
アリスはちょっぴり驚きましたが、気がつくと、小石がみんな床にころがった先からちっちゃなケーキ菓子に変わっていっています。そこでパッとひらめきました。「このお菓子を食べれば」とアリスは思ったんです。「きっと体の大きさがどうにか変わるはずだし、でもってこれ以上おっきくはなれっこないんだから、たぶん、ちっちゃくなるはずよ」
そこでお菓子を一つパクッと食べてみると、なんとも嬉しいことに、たちまち体が縮み出しました。ドアを通り抜けられるぐらいにちっちゃくなったとたん、アリスは家から飛び出しましたが、見るとおもてでは小さな鳥や動物たちが、けっこうな集団で待ちかまえていました。気の毒なちびトカゲ、ビルがそのまんなかにいて、二匹のモルモットにささえられ、びんから何かを飲ませてもらっています。みんなはアリスが姿を現したとたんにドッと押し寄せてきましたが、でも、アリスはけんめいになって逃げたので、ほどなくして気がつくと、もう深い森の中に逃げおおせていました。
「まず一番にやらなくちゃいけないことは」とアリスは森の中をさまよいながら、胸の内でつぶやきました。「もう一度ちゃんとした大きさに戻ること。で、二番目があの素敵なお庭への道を見つけること。これがきっと一番いい計画だと思うわ」
確かに素晴らしい計画に思えますし、とてもすっきりと分かりやすく順序立てられています。たった一つの問題は、どうやってその計画に取りかかるのか、アリスにはこれっぱかりの考えも浮かばないことで、そこで木々の間を不安げにあちこちのぞき見ていると、小さくワンッ、と吠える声が頭の真上で聞こえたので、アリスは大あわてで上を見ました。
巨大な子犬が大きなまんまるい目でアリスを見おろしていて、アリスにさわろうと、そろそろと前脚を伸ばしています。「いい子ね、おチビちゃん!」とアリスはあやすように言い、いっしょうけんめい口笛を吹いてやろうとしましたが、でも、その間ずっと怖くてしかたがありませんでした。おなかをすかせているかもしれないし、もしそうだったらどんなにあやしても、たぶん、パクッと食べられてしまうだろうと思ったんです。

ほとんど自分でも覚えのないまま、アリスは小枝の切れはしをつまみ上げると、子犬に向かって差し出しました。とたんに子犬は大喜びでキャンッと吠えながら四つ脚同時にピョンッと跳ね、小枝めがけて突進してきて、その小枝にじゃれつきました。そこでアリスは下敷きにされないよう、大きなアザミの後ろにさっと身をかわしました。と、反対側から姿を見せたとたん、子犬はまたもや小枝に突進してきましたが、あわてて飛びかかったせいでもんどりうってひっくり返ってしまいました。そこでアリスはまるで荷馬車のお馬と遊んでるみたいだと思いながら、そして今にも踏みつぶされるんじゃないかとも思いながら、またアザミをぐるっと回って逃げました。すると子犬は小枝に向かって短い突撃を繰り返し始め、毎回ほんのちょっぴり駆け寄ってはうーんと駆け戻り、その間ずっとキャフキャフ吠えていましたが、ついにはかなり離れたところに座りこんでしまい、舌をだらんとたらしたまま、ヘッヘッとあえいでいて、大きな両目も半分とろんと閉じてしまいました。
今のうちに逃げた方が良さそうだ、とアリスは思いました。そこですぐさま駆け出すと、くたくたになって息の切れるまで走ったので、ついに子犬の吠える声は遠くでほんのかすかに聞こえるだけになりました。
「だけどほんとにかわいいワンちゃんだったなあ!」とアリスはキンポウゲにもたれて体を休め、その葉っぱの一枚で自分をあおぎながら言いました。「ぜひ芸を仕込んであげたかったけど、もし――もし私さえちょうどいい大きさだったらね! あ、いっけない! もうちょっとで忘れちゃうとこだった。またおっきくならなくちゃいけないんだ! えっと――どうすればそうなれるのかな? 何かを食べるか飲むかするんだと思うけど、でも、一番の問題は、『何を?』」
一番の問題は確かに、「何を?」でした。アリスはあたりの花や草の葉をぐるりと見回しましたが、そういった場合に食べるか飲むかするのにふさわしそうなものは何も見あたりません。近くに大きなキノコが一本はえていて、だいたいアリス自身と同じ背たけでしたが、その下と、両わきと、後ろを見てしまうと、てっぺんにも何があるか見てみようかな、とアリスはふと思いつきました。
アリスが爪先立って背のびをして、キノコのへりからのぞいてみると、大きな青いイモムシといきなり目と目が合いました。イモムシはキノコのてっぺんに座っていて、腕組みをして、長い水ギセルで静かに煙草をくゆらせていて、アリスもほかの何もかも、まるでムシしていました。
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その5 イモムシの教え

イモムシとアリスはしばらくの間、黙って見つめ合っていました。ようやくのことでイモムシは口からキセルを離すと、気のない、眠そうな声でアリスに話しかけました。
「だぁれ、あんた?」とイモムシは言いました。
のっけからこれでは話がはずみそうにもありません。アリスはいくぶんためらい混じりに答えました。「私――私、よく分からないんです、ちょっと今は――とにかく、今朝起きた時に誰だったのかは分かるんですけど、そのあと何度か変わっちゃったに違いないって思うんです」
「それどういうつもり?」とイモムシはビシッと言いました。「そもそものあんたの言いたいことをはっきり言え!」
「そもそもの私の言いたいことって、私にははっきりとは言えないんです、申しわけないんですけど」とアリス。「だって私ってそもそもの私じゃないんです。だから、ね」
「ね、じゃ分かんね」とイモムシ。
「申しわけないんですけど、私にはこれ以上はっきりとは言えないんです」とアリスはとっても礼儀正しく答えました。「私自身、それが分からないんだもの、そもそもね。それに一日のうちにあんまりたくさんいろんな大きさになるのって、とってもまごついちゃうから」
「そんなこたない」とイモムシ。
「えぇ、もしかしたら、あなたはまだそう感じたことがないかもね」とアリス。「でもサナギにならなくちゃいけない時――そのうちなるでしょ――そしてそのあとちょうちょになる時も、ちょっと変な感じがするんじゃないかしら、どう?」
「まるで」とイモムシ。「あぁ、もしかしたら、あなたの感じ方は違うのかもね」とアリス。「ただ私に言えるのは、私ならとっても変な感じがするだろうな、ってこと」
「あんたなら!」とイモムシは馬鹿にしたように言いました。「だぁれ、あんた?」
これでまた話はふりだしに戻りました。アリスはイモムシのそんなひどく無愛想な物言いにちょっぴり腹が立ったので、姿勢をしゃんとすると、大まじめに言いました。「まず、あなたの方が、あなたが誰なのか、私に話すべきだと思います」
「なぜ?」とイモムシ。
これまた困った質問で、アリスにはこれといった理由もまるで思いつかないし、イモムシのムシのいどころもひどく悪そうだったので、アリスは背を向けてその場を離れていきました。
「戻ってこい!」とイモムシがアリスを呼びとめました。「大事な話がある!」
これは間違いなく、期待できそうに思えました。アリスはくるりと向きを変えて、また戻ってきました。
「かんしゃくを起こすな」とイモムシ。
「それだけ?」とアリスはけんめいに怒りを押し殺して言いました。
「いや」とイモムシ。
アリスは待ってもいいな、と思いました。ほかにどうするあてもありませんし、なにしろ、ひょっとしたら何か実のあることを言ってくれるかもしれませんから。しばらくの間、イモムシは何も言わずに煙草をプカプカやっていましたが、でも、ようやく腕組みを解くと、また口からキセルを離し、こう言いました。「じゃあ、あんたは変わっちまってると思うんだな?」
「だと思うんです」とアリス。「前みたいにものが思い出せないし――10分と同じ大きさでいられないの!」
「どんなものが思い出せない?」とイモムシ。
「そぅ、『みずからをいましめて』を暗唱しようとしたんだけど、全部違っちゃったの!」とアリスはひどく落ちこんだ声で答えました。
「『幸福なる老境』を暗唱してみな」とイモムシは言いました。
アリスは両手を組み、そして暗唱を始めました――

「我が父よ
ご老体にもかかわらず
髪の白さも気にかけず
しじゅうごじゅうの逆立ちは
如何なる故の振舞ぞ」
我が息子
脳への不安が生ずるも
不安は脳より生ずもの
その実体が空なれば
幾度やろうと構うまい」

「我が父よ
繰り返せしがご老体
その上肥満も限界点
それにもよらぬバク転は
如何なる故の振舞ぞ」
「我が息子
秘訣は秘伝の塗り薬
未だに手足は蛸の様
一箱銀貨が一枚じゃ
二箱買うてはみんかいな」

「我が父よ
お歳とあれば顎もやわ
脂身程度が関の山
骨ごとガチョウをペロリとは
如何なるゆえの振舞ぞ」
「我が息子
法律かじりて顎使い
女房と議論の故なれば
さながら鋼と鍛えられ
我が人生をも噛みしめん」

「我が父よ
お歳とくれば両の目も
衰えぬ筈もあるまいに
ウナギを鼻で立てるとは
如何なる故の振舞ぞ」
「バカ息子!
三度も答えりゃ充分じゃ
勿体つけるな大たわけ
馬鹿にしよるも程がある
とっとと失せろ、蹴落とすぞ!」
「合ってない」とイモムシ。
「ところもある、みたいですね」とアリスはおずおずと言いました。「言葉がいくつか変わっちゃって」
「はじめから終わりまで間違ってる」とイモムシはきっぱりと言い、そして少しの間、沈黙が流れました。
まず口を開いたのはイモムシでした。
「どれぐらいの大きさになりたい?」とイモムシはたずねました。
「あ、大きさにはこだわらないんだけど」とアリスはあわてて答えました。「ただそんなにたびたび変わりたくはないものでしょ」
「知んね」とイモムシ。
アリスは何も言いませんでした。生まれてこのかた、こうもいちいち否定されたことはなかったので、今にもかんしゃく玉が破裂しそうだったんです。
「今は満足?」とイモムシ。
「そぅ、もうちょっと大きくなりたいんですけど、よろしければ」とアリス。「8センチなんて、とってもみじめな背たけだもの」
「まったく申し分ない背たけだ!」とイモムシはフンゼンとして言いながら、すっくと立ち上がりました。(きっかり8センチの背たけでした)
「でも私は慣れてないんだもの!」とかわいそうにアリスはあわれっぽく訴えました。そしてこっそり思いました。「みんなこんなに怒りっぽくなきゃいいのに!」
「じきに慣れる」とイモムシは言い、そしてキセルを口にくわえると、また煙草をくゆらせ始めました。
今度はイモムシがしゃべる気になるまで、アリスはしんぼう強く待ちました。一、二分の間にイモムシは口からキセルを離すと、一、二度あくびをして、ブルッブルッと体をふるわせました。そのあとキノコをおりると、草むらの中へとはっていきながら、ただこう言いました。「片側で伸びるし、反対側で縮む」
「何の片側? 何の反対側?」とアリスは思いました。
「キノコの」とイモムシはまるでアリスが口に出して聞いたみたいに言い、そして次の瞬間には姿を消していました。
アリスは少しの間、考えこんだようにじっとキノコを見つめていました。どこがそれぞれの側なのか見分けようとしていたんです。が、キノコはまんまるだったので、これはかなりの難問でした。それでもついにアリスはキノコのまわりに伸ばせるだけいっぱいに両腕を伸ばすと、それぞれの手ではじっこを一かけらずつつまみ取ったんです。
「で、さあ、どっちがどっち?」とアリスは胸の内でつぶやくと、ためしに右手側のかけらをちょっぴりかじってみました。次の瞬間、アリスはあごを下からガツンと殴られたみたいに感じました。あごが足にぶつかったんです!
このあんまり急な変わりようにアリスは縮み上がってしまいましたが、ずんずん縮んでいくので、ぐずぐずしてはいられない、と思いました。そこですぐにアリスはもう一方のかけらを食べにかかりました。あごが足にぴったり押しつけられているので、ほとんど口を開ける余裕もありませんでしたが、でも、アリスはやっとのことで口を開け、左手側のかけらをなんとか一口飲みこみました。
* * * * *
* * * *
* * * * *
「さあ、やっと頭が自由になったわ!」とアリスははずんだ声で言いましたが、それは次の瞬間、うろたえた声に変わっていました。その時、肩がどこにも見あたらないのに気がついたんです。見おろした時に見えたのは、ただとほうもない長さの首ばかりで、はるか眼下に広がる青葉の海から、一本の茎みたいに突き出ているようなんです。「あのみんな緑色のっていったい何なの?」とアリス。「それに私の肩はどこに行っちゃったの? それに、ああ、かわいそうに私の手、どうしてあなたたちが見えないの?」アリスはそう言いながら両手をあちこち動かしていましたが、どうやらそれもむなしくて、ただ遠く青葉の間がちょっぴりざわついただけでした。
両手を目の前まで持ち上げることはできそうになかったので、アリスは頭の方をそちらまで下げてみようとしました。すると嬉しいことに、首はどちらの方にでも楽に曲がりました。まるで蛇みたいに。ちょうど首を優雅にくねくねと曲げおろすのがうまくいき、青葉の間、と見るとそれはアリスがさまよっていた森の木のてっぺんにすぎませんでしたが、そこにもぐりこもうとした時、シーッ、という鋭い声に、アリスはあわてて首をひっこめました。大きなハトが一羽、アリスの顔をめがけて飛んできたんです。そして羽でビシビシとアリスをたたいています。
「この蛇ィ!」とハトは金切り声を上げました。
「私は蛇じゃないわ!」とアリスはフンガイして言いました。「まとわりつかないで!」
「蛇と言ったら蛇よ!」とハトは繰り返しましたが、はじめよりも声には元気がなく、すすり泣くように付け加えました。「あたしゃ何もかもためしたのに、何一つあいつらは気に入らないみたいじゃないか!」
「何のことを話してるのかちっとも分からないわ」とアリス。
「あたしゃ木の根もためしたし、岸辺もためしたし、生け垣だってためしたんだ」とハトはアリスにかまわず続けました。「なのにあの蛇のやつら! あいつらは満足って言葉を知りゃあしない!」
アリスはますますわけが分からなくなりましたが、ハトが言い終えるまではこれ以上何を言ってもムダだな、と思いました。
「まるで卵をかえすだけじゃ苦労が足りないみたいに」とハト。「だけどあたしゃ昼も夜も、蛇に用心してなくちゃなんないんだ! そうさ、あたしゃこの三週間、一睡もしちゃいないんだから!」
「お困りだったのはとってもお気の毒に思うわ」とアリスは言いました。ハトの言いたいことが分かってきたんです。
「おまけにちょうどあたしが森の中で一番高い木を選んだって時に」とハトはだんだん金切り声になっていきながら続けました。「そしてちょうどあたしがやっとあいつらからのがれられるって思ってた時に、あいつらはこともあろうに空からニョロニョロおりてこようとするんだから! んもォ、この蛇ィ!」
「でも私は蛇じゃないのよ、ほんとに!」とアリス。「私は――私は――」
「ほう! あんたは何なのさ?」とハト。「何やらでっちあげようだなんて、あたしにゃお見通しだよ!」
「私――私は女の子よ」とアリスはちょっと自信なさげに言いました。その日、何度変わってしまったのか思い出したからです。
「らしいお話ねえ、ほんとに!」とハトは心底軽蔑したように言いました。「あたしゃこれまでずいぶんたくさんの女の子を見たけどね、そんな首のなんか一度だってお目にかかっちゃいないよ! だめ、だめ! あんたは蛇さ。ああ、違うったってムダよ。お次は卵を食べたことなんか一度もないとでも言うんだろうさ!」
「卵を食べたことはあるわ、もちろん」とアリスは言いました。たいへん正直な子なんです。「でも女の子って蛇と同じぐらい、けっこうたくさん卵を食べるのよね」
「そんなこた信じらんないね」とハト。「でも、もしそうなんだったら、そうさ、そんならそいつらも蛇みたいなもんだわ。あたしに言わせりゃね。
これは思いもよらない意見だったので、アリスは一、二分、黙りこんでしまい、それをいいことにハトは追い打ちをかけました。「あんたは卵を探してる。あたしにゃそいつがよーく分かってんだ。だったらあんたが女の子だろうが蛇だろうが、そんなことあたしに何のかかわりがあるってんだい?」
「私には大ありよ」とアリスはあわてて言いました。「でも私は卵なんて探してないもの、あいにくね。それにもしそうだとしても、あなたのなんか欲しくないわ。好きじゃないもの、生のなんて」
「ほう、だったらどっかに行ってよ!」とハトはムッとしたように言いながら、元のように巣に落ち着きました。アリスは木々の間にできるだけ上手に身をかがめました。首が枝の中でからんでばかりいるので、時々止まってほどかなければならなかったんです。しばらくすると、アリスはまだ両手にキノコのかけらを持っているのを思い出したので、まず片方をちょっぴり、それからもう片方をちょっぴりと、きわめて慎重に食べにかかり、時々伸び過ぎたり、縮み過ぎたりしながらも、ついにいつもの背たけまでもっていくことに成功しました。
あんまり長いことちゃんとした大きさから遠のいていたものですから、はじめはどうもしっくりきませんでしたが、でも、しばらくすると慣れ、アリスは例によってひとりごとを言い始めました。「さあ、これで計画の半分が済んだんだわ! この変わりようったらなんてややっこしいのかしら! ほんの一分先にはどうなっちゃうかまるで分かったもんじゃないわ! でもちゃんとした大きさには戻ったし、次にすることは、あの美しいお庭に行くこと――そうするにはどうすればいいのかしら?」そう言った時、アリスはいきなりパッと開けたところに出て、そこには1メートルぐらいの高さの小さな家が建っていました。「誰があそこに住んでるにしても」とアリスは思いました。「この大きさで出会っちゃダメよ。だってきっとびっくりしておかしくなっちゃうもの!」そこでアリスは右手側のかけらをまたちびちびとかじり始め、背たけを20センチに縮めてやっと思いきってその家に近づいていったんです。
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その6 コブタとコショー
一、二分、アリスはその家をながめて立ったまま、次はどうしようかとあれこれ考えていました。とその時ふいに、お仕着せ姿の召使が森から走り出てくると――(お仕着せ姿だったので召使だとアリスは思ったんです。でなければ、その顔だけから判断して、サカナと呼んでいたでしょう)――こぶしでコンコンッ、と音高く扉を叩きました。扉を開けたのは、お仕着せ姿のまた別の召使で、まあるい顔に、カエルみたいなギョロッとした目をしています。そしてどちらの召使も、アリスの気づいたところでは、頭一面のカールした髪には髪粉がふりかけてありました。いったい何なんだろう、とアリスはとっても興味が湧いたので、声を聞こうと森からちょっとだけ忍び出ました。

サカナ召使はまず脇に抱えていた特大の、ほとんど自分と同じぐらいの大きさの手紙を差し出すと、もったいぶった口調で口上を述べながら、これをもう一人に手渡しました。「公爵夫人へ。女王陛下よりのクロッケー競技の招待状を、これにて」カエル召使は同じくもったいぶった口調で、ただ言葉の順序をちょっと替えて繰り返しました。「女王陛下より。公爵夫人へのクロッーケー競技の招待状を、これにて」
それからどちらもが深々とおじぎをしたので、巻き毛がもつれあってしまいました。
アリスはこれを見て大笑いしてしまったので、聞こえては大変と森の中に駆け戻らなければならず、そして次にアリスが顔をのぞかせた時、サカナ召使はいなくなっていて、もう一人は扉のそばの地面に座り、バカみたいにじーっと空を見上げていました。
アリスはおそるおそる扉に近づくと、ノックしました。
「ノックされましても、何もお役に立つようなことはございませんし」と召使は言いました。「それには二つの理由がございます。第一に、わたくしが扉に対しまして、あなた様と同じ側におりますこと。第二に、中ではたいそうな音を立ててらして、どなたにもあなた様のノックがお聞こえにはならないことでございます」そして確かに中では異常きわまりない物音がし続けていました――ひっきりなしの泣きわめき声にくしゃみの音。それに時々、お皿か鍋がこなごなにくだけたような大音響、といった具合です。
「じゃあ、すみませんけど」とアリスは言いました。「どうすれば中に入れます?」
「ノックされるのにも、いくらか意味があるかもしれませんが」と召使はアリスにかまわず続けました。「もしもわたくしたちの間に扉があるのでしたら。たとえば、もしもあなた様が中におられるなら、ノックをなされば、わたくしがお出ししてさしあげられるでしょうけどねえ」召使は話している間ずっと空を見上げていたので、これをまったく礼儀がなってないとアリスは思いました。「でも、もしかしたらどうしようもないのかも」とアリスは胸の内でつぶやきました。「このヒトの目って、頭のてっぺんのあんなすぐそばに付いてるし。でも、とにかく聞いてることには答えてくれたっていいのに――どうすれば中に入れます?」とアリスは大声で繰り返しました。
「わたくしはここに座っております」と召使は言いました。「明日まで――」
この時、扉が開くと、そのすきまから大きなお皿が召使の顔をめがけて一直線に飛んできました。お皿はあわや召使の鼻をかすめると、後ろにあった木の一本にぶつかって、こなごなにくだけました。
「――もしくはあさってまで、かもしれません」と召使はまるで何もなかったように、同じ調子で続けました。
「どうすれば中に入れます?」とアリスはまた、もっと大きな声でたずねました。
「そもそもあなた様は中にお入りになるのですか?」と召使。「それがまず問題でございますよねえ」
それは、確かにその通りです。ただアリスはそんなふうに言われたくはありませんでした。「ほんとにやんなっちゃう」とアリスはぶつぶつつぶやきました。「みんながみんなリクツっぽいんだから。こんなじゃ頭がどうかしちゃうわ!」
召使はここが念の押しどころだと思ったようです。ちょっと言い替えて。「わたくしはここに座っております」と召使は言いました。「時々ですが、来る日も来る日も」
「でも私はどうすればいいの?」とアリス。
「お気に召されるままに」と召使は言い、口笛を吹き始めました。
「もう、このヒトと話したって何の役にも立たないわ」とアリスはやけになって言いました。「まるっきりバカみたいなんだもん!」そしてアリスは扉を開けて中に入りました。

その扉はじかに広いキッチンに通じていて、そこはすみからすみまで煙がもうもうと立ちこめていました。公爵夫人は部屋のまんなかで三本脚の腰かけに座り、赤ちゃんをあやしています。コックはかまどに身を乗り出して、どうやらスープでいっぱいらしい大釜をかき回していました。
「絶対コショーがきき過ぎてるわ、あのスープ!」とアリスはつぶやきましたが、くしゃみのせいでそれもやっとでした。
確かにそこの空気はコショーがきき過ぎていました。公爵夫人でさえ、たまにくしゃみをしていましたし、しかも赤ちゃんときたら、くしゃみをするのと泣きわめくのをひっきりなしに繰り返しています。そのキッチンでくしゃみをしない、ただ二名の者はと言うと、くだんのコック、それに大きな猫で、猫はかまどの前にうずくまって、ニターッと笑っているのでした。
「あのう、教えていただけますか」とアリスはちょっぴりおずおずと言いました。自分から先に話しかけるのが礼儀にかなっているかどうか、あまり自信がなかったんです。「どうしてその猫はそんなふうに笑ってるんですか?」
「これはチェシャ猫なの」と公爵夫人は言いました。「だからなのよ。このブタ!」
公爵夫人がおしまいの言葉を、いきなりもいきなり、どなりつけるみたいに言ったので、アリスはまさしく跳び上がってしまいました。が、次の瞬間には、それは赤ちゃんに言ったんだと、自分にではないと分かったので、勇気を出し、また話しかけました――「チェシャ猫っていうのが、いつも笑ってるなんて知りませんでした。と言うよりも、猫が笑えるってことを知らなかったんです」
「みんなできますし」と公爵夫人。「たいていのはそうするわ」
「そうする猫をまるで知らないものですから」とアリスはとってもていねいに言い、会話になったのをけっこう嬉しく思っていました。
「あなたはあまり、ものを知らないのよ」と公爵夫人。「本当にね」
アリスはこの言い方がまるで気に入らなくて、何か別の話題にした方がいいな、と思いました。何にしようかと思っていると、コックがスープの大釜をかまどからおろすや、いきなりまわりの物を手当たりしだいに公爵夫人と赤ちゃんめがけて投げつけ始めました――火箸のたぐいがまず飛んできて、そのあと続いて鍋や小皿や大皿などが雨あられ、といった具合です。公爵夫人はそれらが当たってもまったくおかまいなしで、それに赤ちゃんはもとからわあわあ泣きわめいていたものですから、当たって痛がっているのかどうかは何とも言えませんでした。
「ねえ、お願いだから気をつけてぇ!」とアリスは恐ろしさのあまりに跳びはねながら叫びました。「ああ、ほら、赤ちゃんの大事なお鼻が!」とこれはとんでもなく大きな鍋が赤ちゃんの鼻をかすめ、あやうく持っていかれるところだったんです。
「皆が自分のことにだけ、気を配っていれば」と公爵夫人はしわがれたうなり声で言いました。「この世は今よりもずっと速やかに回りゆくでしょうに」
「それは都合のいいことじゃないでしょうね」とアリスは言い、ここで自分の知識をちょっぴり披露できるのを、とっても嬉しく思いました。「ちょっと考えてみてください、そうしたら昼と夜がどんなやっかいなことになっちゃうか! だって地球は地軸を一周するのに24時間ちょっきり――」
「ちょっきりと言えば」と公爵夫人。「この子の首をちょん切っておしまい!」
アリスはちらっとコックを見ました。今の言葉に本気にならないかどうか、ちょっぴり不安だったんです。が、せっせとスープをかきまぜていて、どうやら聞いてはいないみたいなので、また話を続けました。「24時間、だったと思いますけど、それとも12時間でした? 確か――」
「ああもう、わたくしにやっかいをかけないでちょうだい」と公爵夫人。「数字は大の苦手なんだから!」そしてそう言うと公爵夫人は再び我が子をあやしにかかり、子守歌らしきものを歌いかけながら、一節(ひとふし)ごとに、そのおしまいのところで赤ちゃんを乱暴にゆさぶるのでした――
「やさしいことばはいらないわ
くしゃみをしたならたたくのよ
くしゃみはただのいやがらせ
わざとしているだけだもの」
コーラス
(コックと赤ちゃんが加わって)――
「ワーウ! ワーウ! ワーウ!」
公爵夫人は二番を歌っている間、ずっと赤ちゃんを乱暴に投げ上げていたので、かわいそうにおチビちゃんの泣きわめく声と言ったら、アリスにはほとんど歌が聞き取れないぐらいでした――
「きびしくするのがたいせつよ
くしゃみをしたならたたくのよ
コショーをすきにさせること
それがこのこのためだもの」
コーラス
「ワーウ! ワーウ! ワーウ!」
「ほら! あやしたければ少しぐらいは良くてよ!」と公爵夫人はそう言いながら、アリスに向かって赤ちゃんを放りました。「わたくしは女王様とのクロッーケー競技の支度をしに行かなくてはならないの」とそそくさと部屋を出ていきます。コックがその背に向かってフライパンを投げつけましたが、あわやというところで当たりませんでした。
アリスは赤ちゃんを受けとめるのにちょっと苦労しました。なにしろ変てこなかっこうのおチビちゃんで、手足を四方八方に伸ばすんです。「まるでヒトデみたい」とアリスは思いました。そのかわいそうなおチビちゃんは、アリスが受けとめた時には蒸気機関車みたいな鼻息を立てていて、しかも体をギュッと折り曲げてはまたグイッと伸ばしてとひっきりなしにやっていたので、つまるところ、はじめの一、二分と言うものは、その子を落っことさないでいるのがアリスにはせいいっぱいでした。
アリスは上手な抱き方が分かると、(ねじり上げて結び目みたいにして、それからゆるまないように、右の耳と左の足をギュッとつかんでおくんです)すぐに赤ちゃんを外に連れ出しました。「この子を一緒に連れてかなかったら」とアリスは思いました。「きっと今日か明日にでもあの人たちにコロサレちゃうわ。置いてっちゃったらヒトゴロシよね?」おしまいの方は口に出したので、おチビちゃんは返事にぶぅ、と鼻を鳴らしました(この時にはもうくしゃみはしていませんでした)。「お鼻を鳴らさないの」とアリスは言いました。「そんなのはちっともお行儀のいいお返事の仕方じゃなくてよ」
赤ちゃんがまた鼻を鳴らしたので、いったいどうしたんだろうと、アリスはとても心配になって、赤ちゃんの顔をのぞきこみました。その子がえらく上向きの鼻をしているのは疑いようもなく、まして人のよりもブタのみたいだというのはなおさらでした。おまけに目も、赤ちゃんにしてはあまりにもちっちゃくなってきています。つまるところ、アリスはその子の顔つきがまるっきり気に入りませんでした。「でも、もしかしたら泣いてただけかも」とアリスは思い、涙を浮かべているかどうか見てみようと、もう一度赤ちゃんの目をのぞきこみました。
ありません。一滴の涙も浮かべてはいません。「もしブタに変わっちゃうつもりだったらよ、ぼうや」とアリスは本気で言いました。「もうこれ以上かまってあげませんからね。いいこと!」かわいそうにおチビちゃんはまたすすり泣きました。(か、鼻を鳴らしました。どちらとも言いきれません)そしてしばらくはどちらも黙ったままで先に進みました。
アリスがちょうど考え始めた時です。「さあ、おうちに連れてくとなると、この子をどうすればいいのかなあ?」と赤ちゃんがまたしても鼻を、それも猛烈な勢いで鳴らしたので、アリスはいささかギクッとしてその子の顔を見おろしました。今度はもう間違えようもありません。それはブタ以外の何者でもなく、アリスはそれ以上抱いていくのがすっかりばかばかしくなってしまいました。

そこでアリスはおチビちゃんを下におろすと、その子がおとなしく森の中へチョコチョコと行ってしまうのを見届けて、なんともホッとした気分になりました。「もしおっきくなってたら」とアリスは胸の内でつぶやきました。「おっそろしくブサイクな子になってたろうな。でもけっこう立派なブタにはなると思うわ」そして知り合いの、ブタとしてならとってもうまくやっていけそうな子たちのことをあれこれと考え始め、ちょうど胸の内でつぶやいていた時です。「もしもあの子たちをそうする、ちゃんとした方法さえ分かってれば――」と数メートル先の木の太枝に、あのチェシャ猫が乗っているのが目に入って、アリスはちょっとドキッとしました。
猫はアリスを見ると、ただニヤッと笑いました。気は良さそうだな、とアリスは思いました。とは言えすごーく長い爪と、やたらといっぱいの歯をしていたので、礼儀には気をつけた方が良さそうだ、とも思いました。
「チェシャ、ニャンちゃん」とアリスはいくぶんおっかなびっくり切り出しました。そんなふうに呼ばれるのを気に入ってくれるかどうか、まるで分からなかったからです。でも猫はニマーッと笑っただけでした。「よし、これまでのところは喜んでるわ」とアリスは思い、先を続けました。「どうか教えてもらえないかしら? ここからどっちの方に行った方がいいか」
「そりゃあかなりのところ、あんたがどこに行きたいかによるな」と猫は言いました。
「どこでもそんなにかまわないんですけど――」とアリス。
「じゃあどっちに行ったってかまやしないさ」と猫。
「――どこかに行けるんでしたらね」とアリスは言い分に付け加えました。
「そりゃあもう、きっとそうなるさ」と猫。「充分に長いこと歩きさえすりゃあ」
これには言い返せそうもなかったので、アリスは別の質問をしてみました。「この辺にはどんな人たちが住んでるの?」
「あっちの方には」と猫は右の前脚をくるくる回しながら言いました。「帽子屋が住んでる。でもってあっちの方には」ともう一方の脚を回しながら、「三月ウサギが住んでる。どっちでも好きな方に行きなよ。どっちもイカレてる」
「でもイカレてる人たちのところなんか行きたくないわ」とアリスは言いました。
「そりゃあもう、しょうがないさ」と猫。「ここじゃみーんなイカレてるんだ。俺もイカレてる。あんたもイカレてる」

「どうして私がイカレてるなんて言い切れるの?」とアリスは言いました。
「決まってるさ」と猫。「でなきゃここには来やしなかったろう」
アリスはそれじゃちっとも理由になってないと思いました。でも続けて言いました。「じゃあ、どうして自分がイカレてるって言い切れるの?」
「まずはじめに」と猫。「犬はイカレちゃあいない。そいつはいいかい?」
「まあ、そうね」とアリス。
「じゃあ次に」と猫は続けて、「犬は怒るとうなるし、嬉しいとしっぽを振るだろ。ところが俺は嬉しいとうなるし、怒るとしっぽを振る。ゆえに、俺はイカレてる」
「それって私は、のどを鳴らす、って言うわ、うなるじゃなくて」とアリスは言いました。
「好きに言やあいいさ」と猫。「今日、女王様とクロッケーをやるのかい?」
「ぜひそうしたいけど」とアリス。「まだ招待されてないの」
「そこで会うだろうさ」と猫は言い、そして消えてしまいました。
アリスはこれにはさほど驚きませんでした。おかしなことが起こるのには、いいかげん慣れっこになってきていたんです。アリスがまだそちらを見ているうちに、猫はいきなりまた現れました。
「ところでさ、赤ちゃんはどうなった?」と猫。「もうちょっとで聞くのを忘れちまうとこだった」
「ブタになっちゃったわ」とアリスは落ち着き払って答えました。まるで猫がごく普通に戻ってきたみたいにです。
「だろうと思った」と猫は言い、また消えてしまいました。
アリスは猫がまた見えるかも、と思ってちょっと待ちましたが、猫は現れなかったので、一、二分したあと、三月ウサギが住んでいると言われた方に歩いていきました。「帽子屋さんは前に見たことがあるし」とアリスは胸の内でつぶやきました。「三月ウサギの方がずっとおもしろそうだし、もしかしたら、今は五月なんだから、めちゃくちゃにイカレてはいないかも――少なくとも、三月ほどはイカレてないわよね」そう言いながら上を見ると、またしても猫が、木の枝に乗っていました。「『ブタ』って言ったっけ、それとも『ムダ』だっけ?」と猫は言いました。
「『ブタ』って言ったの」とアリスは答えました。「それからそんなにいきなり出たり消えたり、もうしないでもらいたいんだけど。なんだかクラクラしちゃうわ!」
「いいとも」と猫は言い、そして今度はかなりゆっくりと消えていきました。しっぽの先から始まって、おしまいはニヤニヤ笑いです。ニヤニヤ笑いは猫がすっかり消えてしまったあとも、しばらく残っていました。

「すごい! 笑いの浮かんでない猫がいるのはよく見るけど」とアリスは思いました。「猫のいない笑いが浮かんでるなんて! こんなにおかしなものを見たのは生まれてはじめて!」
さほど遠くに行くまでもなく、アリスは三月ウサギの家が見えるところにやって来ました。煙突が耳みたいな形だし、屋根が毛皮葺きだったので、アリスはその家に間違いないと思ったんです。とっても大きな家だったので、アリスは左手側のキノコのかけらをもうちょっとかじり、背たけを60センチぐらいに伸ばしてやっと近づいていく気になりました。それでも向かっていく足どりはいくぶんおっかなびっくりで、胸の内ではこうつぶやいていました。「もしやっぱりめちゃくちゃにイカレてたら! こっちじゃなくて帽子屋さんに会いに行ってれば良かったかも!」
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その7 イカレたお茶会
家の前の木の下にテーブルが整えられていて、三月ウサギと帽子屋がそこでお茶を飲んでいました。ヤマネがその間に座って、ぐっすりと眠りこんでおり、ほかのどちらもそれをクッション代わりにして、ひじを乗せ、頭越しにおしゃべりをしています。「ヤマネさんにしたら、きゅうくつもいいとこね」とアリスは思いました。「ただ眠ってるから、気にはならないでしょうけど」
テーブルは大きなものでしたが、みんなはその片すみに寄り集まっていました。「席はあいてない! あいてないよ!」と三月ウサギと帽子屋は、アリスがやってくるのを見ると、大声を上げました。「たっぷりあいてるじゃない!」とアリスはフンガイして言うと、テーブルの一方のはじの、大きなひじかけ椅子に座りました。
「ワインでもお上がりよ」と三月ウサギがもてなすような口ぶりで言いました。
アリスはテーブル中を見回しましたが、その上にはお茶しかありません。「ワインなんてぜんぜん見あたらないけど」とアリスは言いました。
「ぜんぜんねえさ」と三月ウサギ。
「だったらそんなのをすすめるなんてちょっと失礼よ」とアリスは怒って言いました。
「すすめられもしないで座るなんてちょっと失礼だな」と三月ウサギ。
「あなたのテーブルだなんて知らなかったわ」とアリス。「三人よりもずっと大勢の分が用意されてるし」
「おまえさんの髪は切らなくっちゃ」と帽子屋が言いました。帽子屋はしばらくの間、たいそう物珍しげにアリスをながめていたんですが、まず口にしたのがこれでした。

「人のことをとやかく言うものじゃないわ」とアリスは少々きびしく言いました。「とっても失礼よ」
帽子屋はこれを聞いて目をまん丸くしました。が、言ったことはと言うと、「カラスが机に似てるのはなーぜだ?」
「さあ、これでちょっとは楽しくなるわ!」とアリスは思いました。「なぞなぞを始めてくれたなんて嬉しいな――私、解いてみせるわ」とアリスは声に出して付け加えました。
「あんたはこいつの答えを見つけられると思う、ってつもりで言ってんのか?」と三月ウサギが言いました。
「その通りよ」とアリス。
「だったらちゃんと、つもりの通りに言った方がいいな」と三月ウサギは続けました。
「言ってるわ」とアリスは思わず答えました。「とにかく――とにかく私は言った通りのつもりなんだから――それなら同じことでしょ」
「ちっとも同じことじゃない!」と帽子屋が言いました。「そら、こう言ってるようなもんだ。『食べる物は見える』っていうのは『見える物は食べる』っていうのと同じことだってな!」
「こう言ってるようなもんだな」と三月ウサギが付け加えました。「取った物は気に入る』ってのは『気に入る物は取った』ってのと同じことだってさ!」
「こう言ってるようなもんだね」とヤマネも付け加えました。どうやら寝言で言っているようです。「『眠ってる時は息をする』っていうのは『息をする時は眠ってる』っていうのと同じことだってさ!」
「おんなじじゃないか、おまえの場合は」と帽子屋が言い、ここで会話が落ちついてしまったので、一同はちょっとの間、黙ったままでいましたが、そんな中、アリスはカラスと机について、思い出せることを残らずじっくりと考えました。たいしてありませんでしたけど。
まず沈黙を破ったのは帽子屋でした。「今は何日だ?」と帽子屋はアリスの方を向きながら言いました。帽子屋はポケットから時計を取り出していて、それを心配そうにながめたり、時々振ったり、耳に当てたりしていたんです。
アリスはちょっと考えて、それから言いました。「四日よ」
「二日も狂ってる!」と帽子屋はためいきまじりに言いました。「だからバターは機械にゃ向いてないって言っただろうが!」と帽子屋は三月ウサギを腹立たしそうに見やりながら付け加えました。
「ちゃんと適当に見つくろったバターだったんだ」と三月ウサギはおとなしく答えました。
「ああ、だがおまけにパンくずがまぎれこんじまったに決まってる」と帽子屋はぶつぶつと文句を言いました。「パン切りナイフなんかで入れるからだ」
三月ウサギは時計を手に取ると、暗ーい顔でながめました。それから紅茶のカップにちょっとひたして、またながめました。でもはじめに言った以上のことは何も思いつきません。
「ちゃんと適当に見つくろったんだぜ」
アリスはちょっと興味が湧いて、肩越しにのぞきこんでいました。「なんておかしな時計!」とアリスは言いました。「何日か教えてくれて、何時か教えてくれないわ!」
「それがなんでさ?」と帽子屋はぶつぶつと言いました。「おまえさんの時計は何年か教えてくれるのか?」
「もちろんそんなことはないわ」とアリスはパッと答えました。「でもそれはとっても長い間、ずっと同じ年のままだからよ」
「そいつはまさにあっしのの事情だ」と帽子屋は言いました。
アリスはひどく戸惑ってしまいました。帽子屋の言っていることには何も意味なんかないように思えるんですが、それでもまともな言葉には違いないんです。「あなたのおっしゃることが、よく分からないんですけど」とアリスはできるだけていねいに言いました。
「ヤマネがまた眠ってやがる」と帽子屋は言い、ヤマネの鼻に熱い紅茶をチョロッとたらしました。
ヤマネは我慢できずにプルプルッと頭を振ると、目を開けもしないで言いました。「そうそう、その通り。ちょうど僕もそう言うつもりだったんだ」
「なぞなぞはもう解けたのか?」と帽子屋はまたアリスの方を向いて言いました。
「いいえ、もう降参するわ」とアリスは答えました。「答えはなぁに?」
「あっしにゃさっぱり分からん」と帽子屋。
「おいらもだ」と三月ウサギ。
アリスはうんざりしてためいきをつきました。「もうちょっと上手に時間を使ってもいいんじゃないかと思うわ」とアリスは言いました。「答えのないなぞなぞなんかで、それを無駄にしてるよりも」
「もしもおまえさんがあっしぐらい時間のやつをよく知ってたら」と帽子屋。「それを無駄にしてるなんて陰口は叩かんだろうにな。時は彼なりだ」
「何が言いたいのか分からないわ」とアリス。
「そりゃあ分からんさ!」と帽子屋は見下したふうにあごを突き上げながら言いました。
「おおかた時間のやつに話しかけたことすら一度だってないんだろう!」
「たぶん、ないでしょうけど」とアリスは慎重に答えました。「でも話し合いにはいつだってちゃんと時間をさいてるわ」
「あーぁ! そのせいだ」と帽子屋。「あいつだって裂かれちゃかなわんさ。いいか、もしもおまえさんがあいつとずっと仲良くさえしていりゃあ、あいつは時計のことならたいがい何だっておまえさんの好きなようにしてくれるんだ。たとえばだ、今が朝の九時、ちょうど学校の始まる時刻だとしよう。おまえさんは時間のやつにこそっとほのめかしさえすりゃあいい。と、チラッと見る間に時計の針がくるうり! 一時と半、お昼ごはんの時刻だ!」
(「ほんとに今がそうだったらなあ」と三月ウサギはこそっとつぶやきました)
「それは確かに素敵でしょうけど」とアリスはよーく考えながら言いました。「でも――きっとおなかをすかせてはいないわよね」
「はじめはそうかもな」と帽子屋。「だが好きなだけ一時半のまんまにしといたっていいんだ」
「そんなふうにあなたはやってるの?」とアリスはたずねました。
帽子屋は悲しげに首を振りました。「やっとらんよ!」と帽子屋は答えました。「あっしらはこの三月にケンカ別れしちまった――ちょうどこいつのイカレちまう前だよ――」(スプーンで三月ウサギを指しながら)「ありゃあハートの女王様がお召しの大音楽会の席でだったが、あっしは歌わなくちゃなんなかった。

不気味な虫よ』
この歌はたぶん、知ってるだろ?」
「よく似てるのは聞いたことがあるわ」とアリス。
「こいつはな」と帽子屋は続けて、「こんなふうに続くんだ――
『裏の墓場に
ゆらぐ光跡
チラチラ――』」
ここでヤマネがブルッとふるえると、寝言で歌い出し、「チラチラ、チラチラ――」とあんまり長いこと続けるので、帽子屋と三月ウサギがつねってやめさせなければなりませんでした。
「それでな、あっしが一番を歌い終わったばっかの時に」と帽子屋。「女王様が大声でどなられたんだ。『その者は調子はずれな歌で時間をつぶしにかかっておる! その者の首をはねよ!』」
「なんてひどい、ザンコクだわ!」とアリスは声を上げました。
「で、それからってものは」と帽子屋は悲しみに沈んだ声で続け、「あいつはあっしの頼みを一つも聞こうとはしてくれん! 今じゃずーっと六時だ」
ひらめきがパッとアリスの頭に訪れました。「それでここにはこんなにたくさんお茶の道具が用意してあるわけ?」とアリスはたずねました。
「ああ、そういうこった」と帽子屋はためいきをつきながら言いました。「ずーっとお茶の時間だから、合間にカップやなんかを洗う時間てのはないんだ」
「じゃあ、席を移ってぐるっと回ってくのね?」とアリス。
「その通り」と帽子屋。「カップを使い終わっちまったらな」
「でもまたはじめのところに来たらどうなるの?」とアリスは思いきってたずねました。
「話題を変えちゃあどうかな」と三月ウサギがあくびをしながらさえぎりました。「おいらはこの話にゃあきてきちまったよ。お嬢ちゃんにお話をしてもらわねえか」
「悪いけど、そういうのは知らないの」とアリスはその提案にちょっぴりあわてて言いました。
「じゃあ、ヤマネにやらそう!」と帽子屋と三月ウサギが叫びました。「起きろ、ヤマネ!」そして両側からいっせいにヤマネをつねりました。
ヤマネはゆっくりと目を開けました。「寝てなんかないよ」とヤマネは、かすれた、弱々しい声で言いました。「君らの言ってたことはみんな聞こえたよ」
「お話をしろ!」と三月ウサギ。
「そうよ、そうしてちょうだい!」と頼むアリス。
「それも駆け足でな」と付け加える帽子屋。「でないと話の終わる前に、またおまえは眠っちまう」
「むかしむかし三人の幼い姉妹がいました」とヤマネは大急ぎで話し始めました。「名前はエルシー、レイシー、ティリーと言って、井戸の底に住んでました――」
「何を食べて暮らしてたの?」とアリスは言いました。いつだって食べることや飲むことの問題には、大いに関心があるんです。
「蜜を食べて暮らしてました」とヤマネは一、二分、考えてから言いました。
「そんなはずはないわよね」とアリスはおだやかに言いました。「病気になっちゃうもの」
「そう、それはもう」とヤマネ。「重(おも)い患(わずら)いってやつだね」
アリスはそんな常識はずれな暮らしぶりがどんなものになるのか、ちょっと想像してみましたが、あれこれと頭を悩まされるばかりでした。そこで続けて、「でもどうして井戸の底なんかに住んでたの?」
「もっとお茶を飲みなよ」と三月ウサギがアリスに向かって、やけに熱心に言いました。
「まだぜんっぜん飲んでないの」とアリスは腹立たしそうに答えました。「だからもっとなんて飲めないわ」
「もっと少なくは飲めないってんだろ」と帽子屋が言いました。「ぜんぜんより、もっとたくさん飲むのはわけないこった」
「誰もあなたの意見なんて聞いてないわ」とアリス。
「今、人のことをとやかく言ってるのは誰だあ?」と帽子屋はしてやったりとつっこんできました。
アリスもこれには何と言ったらいいのかよく分かりません。そこでお茶とバタつきパンを手ずからまかなうと、それからヤマネの方を向き、質問を繰り返しました。「どうして井戸の底なんかに住んでたの?」
ヤマネはこれを考えるのにまた一、二分かけて、それから言いました。「それは蜜の井戸でした」
「そんなもの、ありっこないわ!」とアリスはかんかんになって言い出しましたが、帽子屋と三月ウサギに「しーっ! しーっ!」と言われた上、ヤマネにもむくれられて、こう言われてしまいました。「礼儀正しくできないんなら、自分でお話を仕上げりゃいいんだ」
「いえ、どうか続けてちょうだい」とアリスはことさらにへりくだって言いました。「二度と口なんかはさまないわ。たぶんそんなのもあるのかもね」
「そんなのォ、ほんとにもう!」とヤマネはフンガイして言いました。でもお話を続けるのは承知してくれました。「そんなわけで、この幼い三姉妹は――かきあげる練習をしてたんだよね――」
「何をかきあげたの?」とアリスはすっかり約束を忘れて言いました。
「蜜を」と今度はまるで考えもせずに、ヤマネは言いました。
「きれいなカップが欲しいな」と帽子屋が口をはさみました。「みんな一つずつ席を移ろう」
帽子屋はそう言いながら席を移り、ヤマネがそのあとに続きました。三月ウサギもヤマネの席に移ったので、アリスもかなりいやいやながら三月ウサギの席に着きました。この席替えで得をしたと言えるのは帽子屋たった一人だけでしたし、しかもアリスは前よりもずっとひどいことになりました。三月ウサギがミルク入れをお皿にひっくり返したばかりだったからです。
アリスはヤマネをまた怒らせたくはなかったので、言葉には充分気をつけて切り出しました。「でも私には分からないの。どこから三人は蜜を掻き上げたの?」
「水の井戸から水が掻き上げられるんだから」と帽子屋。「蜜の井戸から蜜が掻き上げられるんじゃないのかな――え、おバカさん?」
「でも三人は井戸の中にいたのよ」とアリスはこのおしまいの一言は聞かなかったことにして、ヤマネに言いました。
「もちろんそうだよ」とヤマネ。「イナカじゃなくちゃ井戸は使えないだろ」
この答えにアリスは、かわいそうにひどく戸惑ってしまったので、しばらくは口を出さずに、ヤマネが話を続けるにまかせました。
「三人はかきあげる練習をしてて」とヤマネはあくびをしいしい両目をこすりこすり続けました。とても眠たくなってきたんです。「なんでもかんでも描き上げました――サで始まるものはみぃんな――」
「どうしてサなの?」とアリス。
「サで悪いか?」と三月ウサギ。
アリスは黙りこみました。
ヤマネはこの時にはもう目を閉じてしまっていて、居眠りをし始めていました。が、帽子屋につねられると、ちっちゃな悲鳴を上げてまた目を覚まし、話を続けました。「――サで始まるもの、たとえば殺チュウ剤とか、月代(さかやき)とか、催眠術とか、さっち――ほら、『にっちもさっちも』行かないって言うだろ――これまでにそんなものを見たことあるかい、さっちのスケッチとか!」
「ほんとのところ、そう聞かれると」とアリスはずいぶんと言葉をぼかして言いました。「言いたくはないけど――」
「じゃあ言うな」と帽子屋。
この失礼な物言いにはアリスもとても我慢ができませんでした。すっかり嫌気がさして立ち上がると、アリスはその場を離れていったんです。ヤマネはたちまち眠りこんでしまい、残りのどちらもアリスが行ってしまうのに目もくれようとはしませんでした。呼び止めてくれるんじゃないかとなかば心待ちにして、アリスが一、二度振り返ってみたのにです。最後に見た時は、そろってヤマネをティーポットに入れようとしていました。

「とにかく二度とあんなとこには行かないわ!」とアリスは道を拾い歩いて森を抜けていきながら言いました。「生まれてからこれまでに参加した一番バカバカしいお茶会だわ!」
ちょうどそう言った時、アリスは一本の木に、中に入れるような扉が付いているのに気がつきました。「ずいぶん変わってること!」とアリスは思いました。「でも今日は何もかも変わってるし。さっさと入っちゃったってかまわないわよ」そして中へとアリスは入りました。
気がつくと、アリスはもう一度あの細長い玄関ホールの中に、そして小さなガラスのテーブルのすぐそばにいました。「さあ、今度はもっとうまくやるわ」とアリスは胸の内でつぶやくと、まず小さな金色のカギを手に取って、庭園に続く扉の錠を開けました。それからキノコをちょっとずつかじることに取りかかり、(ポケットに一かけらとっておいたんです)とうとう30センチぐらいの背たけになりました。それから小さな通路を向こうへと歩いていったんです。そして――気がつくと、ついにアリスはあの美しい庭園に、色鮮やかな花壇や涼しげな噴水たちに囲まれた中にいたのでした。
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その8 女王様のクロッケー場
大きなバラの木が一本、庭園の入り口のそばに立っていました。その木に咲いているのは白いバラでしたが、そこに三人の庭師がいて、それらをせっせと赤く塗っています。アリスはこれを見て、ずいぶんおかしなことをしてるなあ、と思い、もっとよく見ようと近くに寄っていきました。と、ちょうど三人のところまでやってきた時、そのうちの一人がこう言うのが聞こえました。「気をつけろよな、5! そんなふうに俺にペンキのハネをかけんなよな!」
「俺のせいじゃねえよ」と5はブスッとした声で言いました。「7がひじをつつきやがったんだ」
この言葉に7は顔を上げて言いました。「その通りだよ、5! いつだって人のせいにするがいいや!」
「おめえはしゃべらねえのが身のためだぜ!」と5。「俺はついきのう、女王様がおっしゃるのを聞いたんだ、おめえは打ち首もんだってな」

「なんでだよ?」とはじめに口を開いた一人。
「おまえさんの知ったこっちゃないよ、2!」と7。
「そうさ、こいつのしたこっちゃからな!」と5。
「で、俺はこう言ってやるね――そりゃあコックのところにタマネギじゃなしに、チューリップの球根なんぞを持ってくからだ」
7は持っていたはけを地面に叩きつけ、そしてちょうどこう切り出した時でした。「なんとまあ、デタラメにもほどってもんが――」と、たまたまその目が三人を見つめて立っていたアリスの上にとまり、7は急に口をつぐみました。ほかの二人も振り向いて、三人はみんな深々とおじぎをしました。
「あのう、教えていただけますか」とアリスはちょっぴりおずおずと言いました。「どうしてあなたたちはそのバラを塗ってるんですか?」
5と7は何も言いませんでしたが、2に目をやりました。2は声をひそめて話し始めました。「いえ、実はですねえ、お嬢さん、ここのこいつは赤いバラの木でなくっちゃうまくねえんですが、あっしらは間違って白いのを植えちまったんで、ですからもしも女王様に知れた日にゃ、あっしらはみんな首をはねられちまいますでしょう。だもんでねえ、お嬢さん、あっしらはできるだけのことをやってるんで、女王様がいらっしゃる前に、この――」この時、心配そうに庭園の向こうをうかがっていた5が、大声で叫びました。「女王様だ! 女王様だよ!」そして庭師たちはたちまちペタッとうつぶせに、その身を投げ出しました。大勢の足音が聞こえたので、アリスは女王様をぜひとも見たくて振り向きました。
まずやってきたのは棍棒をたずさえた十人の兵士たち。みんな三人の庭師たちとおんなじようなかっこう、長四角のぺっちゃんこで、手足が四すみに付いていました。次が十人の廷臣たち。体中をダイヤで飾り立て、兵士たちと同じように、二人ずつ並んで歩いてきました。そのあとにやってきたのは王室の子供たち。人数は十人で、そのかわいらしいおチビちゃんたちは、手をつないでカップルになり、楽しそうに跳びはねながらやってきました。子供たちはみんなハートで飾られていました。次にやってきたのが来賓の方々で、おもに王様と女王様でしたが、その中に、アリスはあの白ウサギを見つけました。ウサギはせかせかと落ち着きなくしゃべりながら、誰かが何か言うたんびにあいそ笑いを振り向けていて、アリスには気がつきもせずに通り過ぎていきました。それから続いてやってきたのがハートの召使で、真紅のビロードのクッションに載せた王様の冠を捧げ持っており、そしてこの盛大な行列のしんがりです。登場したのがハートの王様と女王様でした。
アリスは自分も庭師たちみたいにうつぶせなくてもいいのかどうか、ちょっと迷っていましたが、行列をむかえる時のそんな決まりなんてまるで聞いた覚えもありませんし、「それによ、行列に何の意味があるの?」とアリスは思いました。「もしもみんながうつぶせなくちゃいけなくて、おかげで誰にも見られないんだったら」そんなわけで、アリスはその場に立ったままで待ち受けました。
しんがりの列がアリスの真向かいまで来ると、皆が足を止めてアリスを見つめ、女王がけわしい口調で言いました。「この者は誰じゃ?」女王はハートの召使に言ったんですが、召使は返事におじぎとあいそ笑いを返しただけでした。
「たわけ者!」と女王はいら立たしげにあごを突き上げながら言い、さらにアリスの方を向きながら続けました。「子供よ、名は何と言う?」
「アリスと申します、女王陛下様」とアリスはとっても礼儀正しく言いました。が、内心では付け加えて、「なによ、つまりはトランプ一組ってだけじゃない。びくびくすることなんかないわ!」
「では、この者どもは誰じゃ?」と女王はバラの木のそばに横たわっている庭師たちを指さして言いました。これはほら、三人はうつぶせになっているし、背中の模様はほかのみんなと一緒ですから、女王には三人が庭師なのか、兵士なのか、廷臣なのか、自分の子供の三人なのか、分からなかったんです。
「私が知るはずないでしょう?」とアリスは言い、自分の度胸にびっくりしました。「そんなの私には関係ないもの」
女王は怒りに燃えて真っ赤になり、野獣のようにアリスをキッとにらみつけたかと思うと、金切り声で叫び出しました。
「この者の首をはねよ! この者の――」

「バカげてるわ!」とアリスはとっても大きな声できっぱりと言い、女王は黙りこみました。
王様は女王の腕に手をかけると、おずおずと言いました。「よく考えてみい、お前や。その者はほんの子供にすぎんぞ!」
女王は腹立たしげに王様から顔をそむけると、召使に向かって言いました。「この者どもをめくるのじゃ!」
召使はそーっと、そーっと、片足でめくっていきました。
「立てい!」と女王がキーキー声を張り上げて言うと、庭師たちはとたんにパッと立ち上がり、王様に、女王様に、子供たちに、ほかのみんなにと、ペコペコおじぎをし始めました。
「やめんか!」と女王は金切り声で叫びました。「目まいがしおるわ」それからバラの木の方を向きながら続けました。「ここで何をしておったのじゃ?」
「おおそれながら、女王陛下様」と2が片ひざをつきながら、ひどくへりくだった口調で言いました。「あっしどもはなんとか――」
「見えたぞ!」と女王。女王はそれまでバラの花を調べていたんです。「この者どもの首をはねよ!」そして行列は進んでいきましたが、兵士たちのうちの三名が、不運な庭師たちを処刑するためにあとに残っていたので、庭師たちは助けを求めてアリスに駆け寄ってきました。
「首をはねたりなんかさせないわ!」とアリスは言うと、庭師たちを近くにあった大きな植木鉢の中に入れました。三人の兵士は庭師たちを探しながら、一、二分はあたりをうろうろしましたが、そのあとほかの者たちを追って、おとなしく行進していってしまいました。
「首ははねたか?」と女王が大声で叫びました。
「首は失せましてございます、おそれながら女王陛下様!」と兵士たちも答えに大声で叫びました。
「よろしい!」と女王はまた大声で叫びました。「クロッケーは知っておるか?」
兵士たちは黙ったまま、アリスの顔を見ました。その質問はどうやらアリスに向けて言われたようだったからです。
「はい!」とアリスも大声で叫びました。
「ならば、来るのじゃ!」と女王がどなったので、アリスは次は何が起こるんだろうと、興味しんしんで行列に加わりました。
「とっ――とっても良いお天気ですね!」とアリスの横で、おどおどした声が言いました。アリスは白ウサギのすぐそばを歩いていたんです。ウサギはアリスの顔を不安そうにのぞきこんでいました。
「とっても」とアリス。「公爵夫人はどこ?」
「しーっ! しーっ!」とウサギは小声であわてたように言いました。そう言いながら心配そうに肩越しに後ろをうかがうと、それから爪先立ち、アリスの耳もとに口を近づけて、ひそひそ声で言いました。「あの方は死刑の宣告のもとにおられるんです」
「どうして?」とアリス。
「『どうにかして!』とおっしゃいました?」とウサギがたずねました。
「いえ、言ってないわ」とアリス。「どうにかしてほしいなんてぜんぜん思ってないし。『どうして?』って言ったの」
「あの方が女王様を、しまいにツメかけちゃって――」とウサギは話し始めました。アリスは小さくキャッキャッと笑い声を上げました。「わっ、しーっ!」とウサギはおびえ声でささやきました。「女王様に聞こえますって! なにしろあの方はちょっと遅れていらしたもんで、女王様がこうおっしゃったんです――」
「ハジめぇ!」と女王がカミナリ声で叫ぶと、みんなは四方八方に駆け回り出し、ぶつかり合ってころんだりしていました。でも一、二分のうちにはおさまって、ゲームが始まりました。
アリスはこんなに変てこなクロッケー場は生まれてから一度も見たことがない、と思いました。うねと溝だらけなんです。クロッケーのボールは生きたハリネズミだし、ボールを打つ道具も生きたフラミンゴで、兵士たちはボールをくぐらせるアーチを作るため、体をグイッと曲げて、両手をついて立っていなければならないんです。

まずとりわけやっかいだったのが、フラミンゴをうまく扱うことでした。脚をだらんとたらしたままで、体を脇に抱えこむのは割とたやすくやってのけられたんですが、首をきちんとまっすぐに伸ばして、その頭でハリネズミを、さあ、打とうとすると、たいていちょうどそのたんびに、フラミンゴが首をくるっとひねってアリスの顔を見上げ、ひどく困ったような顔をするのでアリスは吹き出さずにはいられませんでしたし、しかもその頭を下げさせてもう一度打とうとすると、なんともしゃくにさわることに、ハリネズミはもう丸まっておらず、あちらの方へとはっていくところなんです。そんなこんなに加え、ハリネズミをころがしたい方にはどこもたいていうねか溝がありますし、アーチ役の兵士たちがしょっちゅう立ち上がってはゲーム場のほかの場所に歩いていってしまうので、アリスはほどなく、これはちょっとやそっとで手に負えるゲームじゃない、との結論に達しました。
参加者はみんな一度にボールを打っていて、順番なんか待ちもしませんし、始終言い争っているわ、ハリネズミを奪い合ってもいるわで、しかもたちまちのうちに女王は猛烈に怒(いか)りまくっていて、どしどしと歩き回っては大声で、「この者の首をはねよ!」か、「その者の首をはねよ!」とほぼ一分に一度は叫んでいます。
アリスはとっても不安になってきました。いちおう、今のところは女王と何の言い争いにもなってはいませんが、いつそうなってもおかしくないのは分かっていますから、「そしたら」とアリスは思ったんです。「私はどうなっちゃうんだろう? ここってやたらめったら人の首をはねたがるんだもの。本当にフシギなのは、生き残ってる人がいるってことだわ!」
アリスは逃げ道を探してあちこちに目をやりながら、見つからずに抜け出せないものかと思っていましたが、その時、空中に妙なものが現れたのに気がつきました。はじめはずいぶん戸惑いましたが、一、二分、よーく見たところ、それがニヤニヤ笑いだと分かったので、アリスは胸の内でつぶやきました。「チェシャ猫だ。これで話し相手ができるわ」
「元気にやってるかい?」と猫はしゃべれるだけの口になったとたんに言いました。
アリスは両目が現れるまで待って、それからうなずきました。「話しかけてもムダね」
とアリスは思いました。「両耳が出ちゃうまで、か、せめて片っぽが」もうちょっとすると、頭がそっくり現れたので、アリスはフラミンゴをおろすと、話を聞いてくれる相手がいるのをとっても嬉しく思いながら、ゲームがどんな具合なのかを話し始めました。猫は今見えているだけで充分だと思ったらしく、それ以上は姿を現しませんでした。
「あの人たちのゲームのやり方って、ちっともフェアじゃないと思うわ」とアリスはいささか不満げに切り出しました。「それにみんながひどい口げんかで、自分の声も聞こえないぐらいだし――それに特に何のルールもないみたいなの。少なくとも、たとえあるにしたって、誰も気にかけたりなんかしないし――それにほんとにもう、みんながみんな生きてるってことが、どんなにややっこしいか。たとえば、私が次にくぐらさなくちゃならなかったアーチはゲーム場の向こうはじを歩き回ってるし――それにちょうど今は女王様のハリネズミに打ち当てたはずだったのに、私のが向かってくのを見て逃げちゃったの!」
「女王様は気に入ったかい?」と猫は声をひそめて言いました。
「ぜんっぜん」とアリス。「あの人がもうめっちゃくちゃ――」ちょうどその時、アリスは女王がすぐ後ろにいて、話を聞いているのに気がつきました。そこで続けて、「――優勝しそうだから、ゲームをおしまいまでやる意味なんてほとんどないの」
女王はにっこりほほえんで通り過ぎていきました。
「誰と話しておるのじゃ?」と王様がアリスの方へとやってきながら、猫の頭をたいそう物珍しげにながめて言いました。
「私のお友達で――チェシャ猫って言います」とアリス。「ご紹介いたします」
「その者の顔つきはまるで気に食わぬが」と王様。「しかし、望みとあらば、余の手に口づけするも許してつかわすぞ」
「遠慮しとくよ」と猫は言いました。
「無礼を申すな」と王様。「それにそのように余を見るでない!」王様はそう言いながら、アリスの後ろに隠れました。「言うことを聞かぬか!」
「見るのは聞くより百倍大事だって」とアリス。「何かの本でそう読んだことがあります。どこだったかは覚えてませんけど」
「うーむ、ならば目にもの見せてやらねばならぬ」と王様は実にきっぱりと言い、そしてちょうどその時、通りかかった女王に大声で呼びかけました。「お前や! この猫に痛い目を見せてやってはくれんかのう!」
女王の解決法は、問題が大きかろうと小さかろうと、たった一つです。「あの者の首をはねよ!」と女王は振り向きもせずに言いました。
「余が直々に首切り役人を連れてまいろう」と王様は意気込んで言うと、そそくさと行ってしまいました。
アリスはゲームがどうなっているのか確かめに戻った方がいいな、と思いました。女王がいきり立ってキイキイわめいているのが遠くから聞こえてきたからです。アリスはすでに参加者のうちの三名が自分の番に打ちそびれ、そのせいで女王に死刑を言い渡されるのを聞いていたので、目にした状況がまるで気に入りませんでした。なにしろゲームは大混乱で、自分の番かどうかなんて分かりっこないぐらいだったんです。そこでアリスは自分のハリネズミを探しに出かけました。
そのハリネズミは別のハリネズミとのけんかの真っ最中で、これは一方でもう一方に打ち当てるには絶好の機会に思えました。たった一つの問題は、アリスのフラミンゴが庭園の反対側に行ってしまったことで、そちらで木に飛び上がろうと、むなしくじたばたやっているのを見ることができました。
アリスがフラミンゴをつかまえて戻ってきた頃にはもうけんかは終わっていて、どちらのハリネズミも姿が見えなくなっていました。「でも別にどうってことはないな」とアリスは思いました。「アーチがみんな、ゲーム場のこっち側からいなくなっちゃってるもの」そこでアリスはフラミンゴがまた逃げないように脇に抱えこむと、友達ともうちょっとお話ししようと戻っていきました。
チェシャ猫のところに戻ってみると、かなりの大群衆が猫のまわりに集まっていたので、アリスはびっくりしてしまいました。首切り役人と、王様と、女王の間で言い争いが続いていて、三人はみんな一度にしゃべっていましたが、かたや残りのみんなは黙りこくっていて、ひどく落ち着かない様子でした。

顔を見せたとたん、アリスは三人ともから問題の解決を訴えかけられて、三人はそれぞれの言い分をアリスに向かって繰り返しました。もっともみんなが一度にしゃべったので、アリスには三人が何を言ったのか、ちゃんとは聞き分けられませんでしたけど。
首切り役人の言い分は、首をはねる体がなくては首ははねられません、ということ。これまでにそのようなことをせねばならなかったことなど一度もございませんし、この歳になって取りかかるつもりもございません、ということです。
王様の言い分は、何であろうと首があるなら打ち首にはできる、ということと、たわけたことを申すではない、ということです。
女王の言い分は、今すぐにでもそやつをどうにかせぬのなら、皆、一人残らず死刑に処す、ということです。(一行全員が重っ苦しく不安そうに見えたのは、このおしまいの意見のせいだったんです)
アリスはこう言うよりほかには何も思いつきませんでした。「その猫は公爵夫人のです。猫のことはあの方(かた)に聞くべきです」
「あの者は牢じゃ」と女王は首切り役人に向かって言いました。「ここに連れてまいれ」すると首切り役人は矢のようにすっとんでいきました。
猫の頭は首切り役人が行ってしまったとたんに薄れ始め、公爵夫人を連れて戻ってきた頃にはもうすっかり消え失せてしまっていました。そこで王様と首切り役人は猫を探してむやみにあちこち駆け回り、かたや残りの一行はゲームに戻っていったんです。
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その9 ウミガメフーのお話
「本当にまあ、なんて嬉しいんでしょう、またお会いできるなんて、かわいらしいお嬢ちゃん!」と公爵夫人はやさしくアリスと腕をからませながら言い、二人は連れ立ってその場を離れていきました。
公爵夫人がえらくごきげんだったので、アリスは心底ホッとして、もしかしたら、キッチンで会った時にあんなに乱暴だったのは、単にコショーのせいなのかも、とこっそり思いました。
「私が公爵夫人になったら」とアリスは胸の内でつぶやきました。(ぜひなりたいといった感じではありませんが)「コショーなんてキッチンには一っ粒だって置かないわ。なくたってスープは充分においしいもの――ひょっとしたら、いつだってコショーが人をピリピリとさせてるのかも」とアリスは新しい法則のようなものを発見したことに、とっても嬉しくなって続けました。「そしてお酢がしかめっつらにさせて――カミツレが苦々しい気分にさせて――そして――そしてキャンディーやそういったものが、子供たちの気立てをあまーくやさしくしてくれるのよ。みんなにそのことが分かってさえいればなあ。そうしたらみんな、そういうのをあんなにケチケチしたりしないわよね――」
アリスはこの頃にはもう、公爵夫人のことをすっかり忘れてしまっていたので、耳もとで声がした時には、ちょっとドキッとしました。「何か考えてるのね、お嬢ちゃん、それでおしゃべりするのを忘れちゃってるのね。そのことの教訓が何なのかは、今すぐには言えませんけど、ちょっとすれば思い出すわ」
「もしかしたら、ないかも」とアリスは思いきって言いました。
「ツッ、ツッ、子供ねえ!」と公爵夫人。「あらゆることに教訓はあるのよ、見つけることさえできればね」そして公爵夫人はそう言いながら、さらにギュウッとアリスに身を寄せ付けました。

アリスは公爵夫人にあんまりぴったりくっついていてほしくはありませんでした。第一には、公爵夫人がすごーくみにくかったから。そして第二には、公爵夫人の背たけが、ちょうどぴったりアリスの肩にあごのかかる高さで、しかもそのあごの先が、痛いぐらいにとがっていたからです。でもアリスは失礼なふるまいをしたくはありませんでした。ですからできるだけ我慢したんです。
「ゲームは今はいくらかましに進んでいますね」とアリスは少しぐらいはおしゃべりに付き合おうと思って言いました。
「本当ね」と公爵夫人。「そしてそのことの教訓はね――『おお、愛よ、愛よ、汝によりてこの世は回りゆかん!』」
「誰かがおっしゃいましたけど」とアリスは小声で言いました。「みんなが自分のことにだけ、気を配っていればそうなるって!」
「ああ、なるほどねえ! それってほとんど同じ意味だわ」と公爵夫人はチョンととがったあごの先で、アリスの肩をつっつきながら言いました。「そしてそのことの教訓はね――『意味が西向きゃ音(おん)は東』」
「ほんとにこの人って教訓を見つけるのが大好きなのね!」とアリスはこっそり思いました。
「たぶんあなたはどうして私が腰に腕を回さないのかしら、って思ってるのね」と公爵夫 人はちょっと間があってから言いました。「そのわけはね、あなたの抱えてるフラミンゴがおとなしいかどうか分からないからなの。ためしてみましょうか?」
「かみつくかもしれません」とアリスは用心深く答えました。そんなことはちっともためしてもらいたくなかったんです。
「まさにその通り」と公爵夫人。「フラミンゴとマスタードは、どちらもナメたらヒリヒリさせられるわ。そしてそのことの教訓はね――『同類相集まる』」
「でもマスタードは鳥類じゃありませんけど」とアリスは言いました。
「またしても正解」と公爵夫人。「なんてはっきりとしたものの言い方なんでしょう!」
「鉱物です、確か」とアリスは言いました。
「もちろんそうよ」と公爵夫人。アリスの言うことにはなんでも喜んで同意するみたいです。「この近くに大きなマスタード鉱があるの。そしてそのことの教訓はね――『コウの損は乙の得』」
「あっ、そうだっ!」とアリスはいきなり声を上げました。おしまいのところはちゃんと聞いてはいませんでした。「植物だわ。そんなふうには見えないけど、そうよ」
「まったくあなたに賛成」と公爵夫人。「そしてそのことの教訓はね――『己(おの)が見えたしものとなれ』――それとも、もしももっと分かりやすくしたのが良ければ――『自らをかくありしかありしやもしれぬものがかつてはかくありしほかにあらざれどもはたにはかくのほかなりしとかつてはうつりたろうものとはたにはうつるやもしれぬもののほかにはあらぬと思うべからず』」
「もっとよく分かるだろうと思うんですけど」とアリスは礼儀にはとても気をつかって言いました。「もしも書きとめてれば。でも聞いただけだとちょっと分からないところもあります」
「その気になれば、まだまだこれぐらいは何でもないのよ」と公爵夫人は満足げに答えました。
「どうかそれ以上長いのには手をお出しにならないでください」とアリスは言いました。
「まあ、手を出したことについては言わないで!」と公爵夫人。「これまでに言ったことはみんなあなたにプレゼントするわ」
「安上がりなプレゼント!」とアリスは思いました。「みんなのくれるお誕生日プレゼントがそんなのじゃなくてホッとするわ!」でもさすがに口には出しませんでした。
「また考えごと?」と公爵夫人が例のあご先でもう一突きしながらたずねました。
「私にも考える権利があるわ」とアリスはつっかかるように言いました。ちょっとうるさく感じてきていたんです。
「ほぼ」と公爵夫人。「ブタがトンでいるのと同等の権利ね。そしてそのことの教――」
ところがこの時、アリスがとても驚いたことに、公爵夫人の声がお気に入りの言葉、「教訓」のちょうどまんなかで尻すぼみに消え入ってしまい、アリスと組んだ腕がブルブルとふるえ出したんです。顔を上げると、目の前に女王が立ちはだかっていました。腕組みをして、カミナリ様みたいなしかめっつらをしています。
「けっこうなお日よりで、女王陛下!」と公爵夫人は蚊の鳴くような声で切り出しました。
「良いか、その方(ほう)に公正なる警告を与える」と女王は足を踏み鳴らしながら、大声で言いました。「その方か、その方の首か、いずれか一方が失せるのじゃ。しかも一刻の猶予もならぬ! 選ぶが良い!」
公爵夫人は選び取り、たちまち消え去ってしまいました。
「ゲームを続けようぞ」と女王はアリスに向かって言い、アリスは口もきけないぐらいにびくついていましたが、そろそろと女王のあとについて、クロッケー場へ戻っていきました。
ほかの招待客たちは、女王のいないのをいいことに木陰で休んでいました。でも女王の姿が見えたとたん、急いでゲームに戻ったので、女王はただ、わずかでも遅れる者は命がないと思え、と言っただけでした。
ゲームの間中、女王はひっきりなしにほかの参加者に文句を言いまくっていて、「この者の首をはねよ!」か「あの者の首をはねよ!」と大声で叫びまくっていました。女王が死刑を言い渡したこれらの者は兵士たちに捕らえられ、兵士たちはもちろんそのためにアーチでいるのをやめなければならず、おかげで半時間かそこらもした頃にはもうアーチは一つも残っておらず、王様と女王とアリスを除いた参加者全員が捕らえられ、刑の執行を待つ身となっていました。
すると女王はゲームをやめて、やや息を切らしながら、アリスに向かって言いました。「ウミガメフーはすでに目にしたか?」
「いいえ」とアリス。「ウミガメフーがどんなものかも知りません」
「海亀風スープの材料となるものじゃ」と女王。
「見たことも、聞いたこともないです」とアリス。
「ならば、来るのじゃ」と女王。「さすれば、かの者に身の上を語らせようぞ」
二人で連れ立ってその場を離れる時、アリスは王様が小声で、一同全体に告げるのを聞 きました。「その方(ほう)らは皆、放免じゃ」「そうよ、そうこなくっちゃ!」とアリスは胸の内でつぶやきました。女王の命じた死刑の数には、かなり気持ちが沈んでいたんです。

二人はすぐにグリフォ ンに出会いました。ひなたに寝そべって、ぐっすりと眠りこんでいます。(もしもグリフォンがどんなものか知らないんだったら、さし絵を見てください)「起きるのじゃ、なまけ者!」と女王は言いました。「そしてこの者をウミガメフーに引き合わせ、かの者の身の上を聞かせにまいるのじゃ。わらわはいくつか命じた刑の執行を取り仕切りに戻らねばならぬ」そして女王はアリス一人をグリフォンのもとに残して立ち去ってしまいました。アリスはその生き物の姿があんまり気に入りませんでしたが、だいたいのところ、その生き物と一緒にいるのも、あの野蛮な女王のあとを追うのも、身の危険は似たようなものだろうと思いました。そこでじっと待ちました。
グリフォンは起き上がると両目をこすりました。それから女王の姿が見えなくなるまで、それをじっと見送りました。そのあとクスクスと笑いました。「おっかしいやね!」とグリフォンはなかばひとりごとのように言いました。
「何がおかしいの?」とアリス。
「あーぁ、あの方(かた)さ」とグリフォン。「ありゃあみんなあの方の『つもり』ってやつなんだ。誰も死刑になんかしやしねえんだよな。来いよ!」
「ここじゃ誰もが『来い!』って言うんだから」とアリスはゆっくりとグリフォンのあとを追いながら思いました。「生まれてからこれまで、こんなに命令されまくったことなんか一度もないわ、一度もよ!」
そこからさほど行かないうちに、遠くにウミガメフーが見えました。悲しげにぽつんと小さな岩棚に腰かけていて、さらに近づいていくと、まるで悲しみの淵に沈まんばかりといったためいきをついているのが聞こえました。アリスはウミガメフーがとってもかわいそうになりました。「何を悲しんでるの?」とアリスはグリフォンにたずねました。するとグリフォンはさっきとほとんどおんなじ言葉で答えました。「ありゃあみんなあいつの『つもり』ってやつなんだ。なんにも悲しいことなんかありゃしねえんだよな。来いよ!」
そんなわけで、アリスとグリフォンはウミガメフーのところまで行きました。ウミガメフーは大きな目に涙をいっぱい浮かべてアリスたちを見ましたが、何も言いませんでした。
「ここにいるお嬢さんがな」とグリフォン。「この子がおまえさんの身の上が知りてえってことだ」
「お聞かせしよう」とウミガメフーは、低い、弱々しい声で言いました。「座っとくれや、どちらもな。そんでわしが話し終えるまでは口をはさまんでくれな」
そこでアリスたちは腰をおろしましたが、しばらくの間、誰も口を開きませんでした。アリスはこっそり思いました。「いったいどうやって話し終えられるって言うの、始めもしないんだったら」でもアリスはしんぼう強く待ちました。
「むかし」とようやくウミガメフーが、深いためいきとともに言いました。「わしはホンマのウミガメじゃった」
この言葉のあとに長ーい沈黙が続いて、それを破るのはグリフォンの時折上げる、「ヒャクルルゥ!」という叫び声と、ウミガメフーのひっきりなしの、重っ苦しいむせび泣きだけでした。アリスは今にも立ち上がって、「どうもありがとうございました、とってもおもしろいお話を」と言うところでしたが、どう見てもまだ先があるとしか思えなかったので、じっと座ったまま、口をつぐんでいました。

「小さかった頃」とようやくウミガメフーがあとを続けました。だいぶ落ち着いて、とは言ってもまだ時々ちょっとはすすり泣いていましたが、「わしらは海の中の学校に通っとった。先生はおやさしい牡蠣で――わしらはシブガキと呼んどったが――」
「どうしてシブガキなんて呼んだの? おやさしいのに」とアリスはたずねました。
「タンニンだったからに決まっとろうが」とウミガメフーは怒って言いました。「ホンマにおまえさんはえらくニブイな!」
「そんなつまんねえことを聞いてよく恥ずかしくねえな」とグリフォンも追い打ちをかけ、そのあと二匹ともが黙ったままアリスを見つめたので、かわいそうにアリスは穴があったら入りたい気分になりました。ようやくのことでグリフォンがウミガメフーに言いました。
「先に進めよ、相棒! 身の上話にいちんちかけんなよな!」するとウミガメフーはこんなふうに続けました――
「ああ、わしらは海の中の学校に通ったんじゃ、おまえさんには信じられんでもな――」
「信じないなんて言ってないわ!」とアリスが口をはさみました。
「そら言った」とウミガメフー。
「あんたは黙ってな!」とグリフォンはアリスが口を開く間もなくおっかぶせました。ウミガメフーは続けます。
「わしらは最高の教育を受けた――なんせな、毎日学校に通ったんじゃ――」
「私だって学校に行ったことはあるわ」とアリスは言いました。「そんなにいばらなくたっていいわよ」
「課外もあったのか?」とウミガメフーはちょっと不安そうにたずねました。
「ええ」とアリス。「私たちはフランス語と音楽を習ったわ」
「それと洗濯も?」とウミガメフー。
「そんなのあるわけないでしょ!」とアリスはフンガイして言いました。
「あーぁ! そんならおまえさんのはホンマにええ学校じゃなかったんじゃ」とウミガメフーはいかにもホッとしたような口ぶりで言いました。「ええか、わしらの寄宿学校じゃ、授業料の明細のとこにこうあった。『フランス語、音楽、及び洗濯――課外費』」
「あんまり洗濯する必要はなかったはずよ」とアリス。「海の底で暮らしてたんなら」
「わしには選択する費用がなかったんじゃ」とウミガメフーはためいきをつきながら言いました。「取ったのは正課だけじゃった」
「それはどんなものだったの?」とアリスはたずねました。
「先の読み方に裏のかき方、むろん、まず第一にな」とウミガメフーは答えます。「それから計算ずくの方法――手心を加えて、気をひいて、カマをかければ、口を割る。加減上々の四則というやつじゃ」
「カマをかけるって、よく分からないんですけど」とアリスは思いきって言いました。「それってどういうこと?」
グリフォンは驚いて両前脚を上げました。「カマをかけるが分かんねえ!」といきなり声を上げます。「あんただってお米からごはんぐらいは引き出せんだろう?」
「えぇ」とアリスはためらい混じりに答えました。「まず――よく研いで――お釜に入れて――お水を張って――火にかけるの」
「そうさ、じゃあ」とグリフォンは続けて、「まだカマをかけるってことが分からねえんだったら、あんたはマヌケだぜ」
アリスはこのことについては、それ以上何もたずねる気になれませんでした。そこでウミガメフーの方を向いて言いました。「ほかには何を習ったの?」
「そうじゃな、溺死があった」とウミガメフーはひれ足で科目を数えながら答えました――「古代と現代の溺死、もがくの実験も一緒にな。それから動と苦――動と苦の先生はかくしゃくたる老シオマネキで、週に一度いらっしゃっとった。あの方(かた)はわしらに重い槍と、板割りと、殴(なぐ)責め合いを教えてくれよった」
「それってどんなもの?」とアリス。
「そうじゃな、わしは自分では見せてやれんわ」とウミガメフーは言いました。「体がやわすぎるでな。それにグリフォンは一度も習っとらんし」
「時間がなくてな」とグリフォン。「古典の先生のところには通ったけどな。お歳のアナゴだったよ、あの方ぁね」
「わしは一度も行っとらん」とウミガメフーはためいきをつきながら言いました。「歓文や嘆歌を教えてくれるということじゃった」
「そうだった、そうだったよ」と今度はグリフォンがそう言いながらためいきをつき、おまけに二匹ともが両前脚で顔をおおってしまいました。
「それで一日に何時間お勉強したの?」とアリスは話題を変えようとあわてて言いました。
「いちんち目が10時間」とウミガメフー。「次の日が9時間、てな具合じゃ」
「なんておかしな時間割!」とアリスは声を上げました。
「そりゃあ勉強するんだからさ」とグリフォンが言いました。「毎日ちょっとずつ、まけてかねえとな」
これはまるっきり初耳の意見だったので、アリスは口を開く前にちょっと考えてみました。「だったら11日目はお休みだったはずよね?」
「むろん、そうじゃった」とウミガメフー。
「じゃあ、12日目はどんなふうにしたの?」とアリスは勢いこんで続けました。
「勉強のことならもう充分だ」とグリフォンが横から実にきっぱりと言い切りました。「今度は遊びのことをなんか話してやれよ」
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その10 エビダンス
ウミガメフーは深ーくためいきをつくと、片方のひれ足の甲で両目をぬぐいました。アリスを見て話をしようとしましたが、一、二分、嗚咽にのどをつまらせていました。「まるでのどに骨がひっかかったのとおんなじだな」とグリフォンは言い、そしてウミガメフーをゆすったり、背中をたたいたりし始めました。ようやく声が出るようになると、ほおに涙を伝わらせながら、ウミガメフーはまた話を続けました――「おまえさんは海の中で暮らしたことがあまりないかもしれんし――」(「ないわ」とアリス)――「もしかして、エビに引き合わされたことすら一度もないかもしれんから――」(アリスは「いただいたことなら――」と言いかけましたが、あわてて言葉を飲みこんで、「ええ、一度も」と言いました)「――まるで見当もつかんに違いない、どんなにゆかいなもんか、エビダンスがな!」
「ええ、もちろん」とアリス。「どんなダンスなの?」
「あぁ」とグリフォン。「まず海岸沿いに一列に並んで――」
「二列じゃ!」と叫ぶウミガメフー。「アザラシやウミガメやサケやなんかがな。それからクラゲたちをみんな、じゃまにならんようにのけちまったら――」
「そいつにたいていちょっと時間を食うんだ」と口をはさむグリフォン。
「――二歩進んで――」
「それぞれパートナーのエビと組んでだ!」と叫ぶグリフォン。
「もちろんじゃ」とウミガメフーが言う。「二歩進んで、パートナーと向き合ってステップを踏んで――」
「――エビを取っ替えて、おんなじ手順でうしろに下がる」と続けるグリフォン。
「それからじゃ」とウミガメフーが続け、「エビを――」
「放り投げる!」と大声で叫んでグリフォンがぴょーんと跳びはねる。
「――できるっ限り沖の方まで――」
「泳いで追っかけろ!」と金切り声で叫ぶグリフォン。
「海中一回転じゃ!」と叫んでめちゃくちゃに跳ね回るウミガメフー。
「もう一度エビを取っ替えろ!」と声を限りにわめくグリフォン。
「また岸に戻るんじゃ、そんで――これが第一フィガー全部じゃ」とウミガメフーは急に声を落として言い、そしてそれまでずっと気がふれたみたいに跳ね回っていた二匹は、ひどく悲しげにそうっとまた腰をおろすと、アリスを見つめました。
「きっと、とっても楽しいダンスね」とアリスはおそるおそる言いました。
「ちょいと見とうはないかね?」とウミガメフー。
「それはもう、とっても」とアリス。
「ほれ、第一フィガーをやってみようや!」とウミガメフーはグリフォンに言いました。
「エビがおらんでもできるわな。どっちが歌う?」
「おっと、おまえさんが歌えよ」とグリフォン。「俺は歌詞を忘れちまった」

そんなわけで、二匹はおごそかにアリスのまわりをぐるぐると踊り回り始めました。時々あんまりすぐそばを通り過ぎてはアリスの爪先を踏んづけながら、そして前脚を振ってリズムを取りながら。それに合わせてウミガメフーはこんな歌を歌いました。ゆっくりと、ゆっくりと、そして悲しそうに――
「タラがカタツムリ君に言いました
『イルカに踏まれてる、早く行こう
ウミガメもエビも、待ってるから
踊りに行こうよ、あの浜辺に
ほら、そら、ほら、そら、踊りに行こう
ほら、そら、ほら、そら、踊りに行こう』
『そりゃ気持ちいいって、最高さ
沖まで放られるあの気分』
『僕には遠いよ、遠すぎるよ
お礼は言うけど、やめておくよ
いや、だめ、いや、だめ、踊らないよ
いや、だめ、いや、だめ、踊らないよ』
『心配ないったら、だいじょうぶさ
海の向こうにも陸はあるから
どんなにこの国、離れたって
その分、外国近くなるよ
ほら、そら、ほら、そら、踊りに行こう
ほら、そら、ほら、そら、踊りに行こう』」
「どうもありがとう、見ててとってもおもしろいダンスね」とアリスはようやくダンスが済んだのに心底ホッとして言いました。「それにおかしなタラの歌も、ほんとにとっても気に入ったわ!」
「ああ、ところでエビのことじゃが」とウミガメフー。「あの者ら――おまえさんもむろん、見たことはあるわな?」
「ええ」とアリス。「よく見たのは晩のおか――」ず、と言いかけて、アリスはあわてて言葉を飲みこみました。
「晩の丘ってのはどこやら知らんが」とウミガメフー。「そんなによく見たことがあるんなら、むろん、どんなものかは知っとるわな?」
「だと思うけど」とアリスは考え考え答えました。「尾っぽが曲がってて――パン粉にくるまれてるの」
「パン粉のとこは間違っとるな」とウミガメフー。「パン粉なんぞ海の中じゃみんな洗い流されちまうじゃろう。じゃが尾っぽは曲がっとる。でもってそのわけはじゃな――」とここでウミガメフーはあくびをすると、目を閉じてしまいました。「わけやらなんやら、
この子に話してやっとくれ」とウミガメフーはグリフォンに言いました。
「そのわけはだ」とグリフォン。「あいつらはしょっちゅうダンスをやりに行ってた。で、沖へと放られた。で、長々と落ちなくちゃなんなかった。で、じっと身を固めた。で、二度と伸ばせなかった。以上」
「どうもありがとう」とアリス。「とってもおもしろいわ。前にはエビのことなんか、そんなにたいして知りもしなかったわ」
「もっとほかのことを教えてやってもいいぜ、なんだったら」とグリフォン。「タラはなんでタラって言うか知ってるかい?」
「考えもしなかったけど」とアリス。「どうして?」
「あいつは酒ぐせが悪いんだ」とグリフォンはずいぶんとまじめくさって答えました。
アリスにはさっぱりわけが分かりません。「酒ぐせが悪い!」とアリスはけげんそうに繰り返しました。
「ああ、たとえばなんかヘマぁやらかしたとすんだろ?」とグリフォン。「つまりそういった時、あんただったらどうする?」
アリスはうつむいて、返事をする前にちょっと考えました。「この次はああしようとかこうしようとか、反省すると思うけど」
「あいつの場合はだ」とグリフォンは低い声で続け、「酒を飲んじゃあ、ああだっタラとかこうだっタラとか、不平タラタラでつめ寄ってくるんだ。これで分かったろ」
「じゃあ、そんな時ってどうするの?」とアリスはたいそう興味ありげにたずねました。
「もちろんよそに行けって言うさ。タラ忌まわしだ。サケサメタラコイさ」とグリフォンはちょっといらついて答えました。「そんなことぐらい、どんな小エビにだって分かるぜ」
「もしも私がタラだったら」とまだ歌のことが頭から離れないアリスは言いました。「イルカにこう言ってたでしょうね。『離れててちょうだい! 私たちはあなたとはご一緒したくないの!』って」
「タラはイルカをうっちゃっとくわけにゃいかんかったんじゃ」とウミガメフーは言いました。「りこうなサカナなら、どこに行くんでもイルカをないがしろにはせんもんじゃ」
「そうなの、ほんとに?」とアリスはとてもびっくりしたように言いました。
「もちろんじゃ」とウミガメフー。「そら、もしもサカナがわしのところにやってきて、旅行に出かけるんだと言いよったら、わしはこう聞くじゃろうが、『イき先は? ルす番は? カえるのはいつじゃ?』と」
「じょうだんのつもり?」とアリスは言いました。
「わしゃ本気で言うとるんじゃ」とウミガメフーは機嫌をそこねたように答えました。するとグリフォンが言い足しました。「さあ、ちょいとあんたの冒険談を聞こうじゃねえか」
「私の冒険談はお話ししてもいいけど――今朝からのだったら」とアリスはちょっぴりおずおずと言いました。「でもきのうまで戻ってもしかたがないの。その時は別の子だったんだもの」
「そこんとこみんな説明しとくれや」とウミガメフー。
「だめだ、だめだ! まず冒険談だ」とグリフォンがじれったそうに言いました。「説明ってのはそりゃあおっそろしく時間を食うんだ」
そんなわけで、アリスは冒険談を、はじめて白ウサギを見たところから話し始めました。アリスは最初だけ、ちょっとびくびくしていました。二匹がそれぞれアリスの両側に詰め寄ってきて、両目をギョロッと見開き、口もポッカリと開けたんです。が、話しているうちに度胸がついてきました。二匹はずっと物音一つ立てずに聞いていましたが、「幸福なる老境」をイモムシに向かって暗唱したら、言葉がみんな違ってしまったというところにくると、ウミガメフーが長々と息をつき、こう言いました。「そりゃあなんとも妙じゃ!」
「まったくこれ以上はねえってぐらい妙だな」とグリフォン。
「みんな違っちまったか!」とウミガメフーは考えこむように繰り返しました。「この子が今、何か暗唱してみるのを聞いてみたいんじゃが。やるように言っとくれや」ウミガメフーはグリフォンに目を向けました。まるでグリフォンの言うことだったらアリスが聞くとでも思っているみたいです。
「立って暗唱してみろよ、『なまけもののこえ』だ」とグリフォン。
「よくもみんなあれこれ命令したり、おさらいさせたりするものよね!」とアリスは思いました。「今すぐ学校に行った方がましだわ」それでもアリスは立ち上がり、その詩を暗唱し始めましたが、頭はエビダンスでいっぱいだったので、自分が何を言っているのかもろくに分からず、おかげで言葉は実に妙ちきりんになってしまいました――

「エビがきっぱりこう言った
『俺を焦がすな、焼きすぎだ』
鼻に汗かき、ボタンをかけて
爪先キュッと広げます
潮が引いてりゃ陽気も陽気
サメのことなど、さもバカに
潮が満ちればブルブルふるえ
サメと言うにも、様付けに」
「そりゃあ俺が子供の頃に暗唱してたのとは違うなあ」とグリフォン。「うーむ、わしはこれまでに一度も聞いたことがないが」とウミガメフー。「しかしとんでもなく馬鹿げて聞こえるのう」
アリスは何も言いませんでした。両手で顔をおおって座りこんでしまい、何かがまたごく普通に起こることなんてあるんだろうかと思っていたんです。
「今のを説明してもらいたいんじゃが」とウミガメフーが言いました。
「この子に説明なんてできねえよ」とグリフォンがあわてて言いました。「次の節(せつ)を続けてみな」
「じゃが爪先のことは?」とウミガメフーはこだわります。「どうやって鼻に広げることができよったんじゃな?」
「ダンスの第一ポジションなの」とアリスは言いました。が、このしろものにはもうほとんどお手上げだったので、話題を変えたくてしかたがありませんでした。
「次の節を続けろって」とグリフォンが繰り返しました。「始まりは『にわさきとおれば』だ」
アリスはさからう気にもなれなかったので、きっと全部間違ってしまうだろうと思いましたが、ふるえ声で暗唱を続けました――
「庭先通ればフクロウと
ヒョウとがパイを分けている
皮、汁、肉がヒョウの分
お皿はまるごとフクロウに
パイが終わるとフクロウは
スプーンいただき、ポケットに
ナイフとフォークはヒョウが取り
ごちそうさまと――」
「そんなたわごとの暗唱が何の役に立つんじゃ?」とウミガメフーがさえぎりました。「暗唱しながら説明をしてくれんと。こうまでわけの分からんものを、わしはこれまで聞いたこともないぞ!」
「ああ、俺もやめた方がいいと思うな」とグリフォンも言い、アリスはただもう心からホッとしました。
「エビダンスのほかのフィガーをやってみようか?」とグリフォンが続けました。「それともウミガメフーにほかの歌を歌ってもらうのがいいかな?」
「あっ、お歌ね、お願いするわ、もしもウミガメフーさんがよろしければ」とアリスがあんまり熱心に答えたので、グリフォンはちょっとおもしろくなさそうに言いました。「ふん! シュミってのはしょうがねえな! この子に『ウミガメスープ』を歌ってやんなよ、いいだろ、相棒?」
ウミガメフーは深ーくためいきをつくと、嗚咽にのどをつまらせながらも、こう歌い始めました――
「おいしいスープ
とろりと
おなべで待ってる!
誰もがうなるよ!
夕げの、すてきなスープ!
夕げの、すてきなスープ!
おーいしいスーウプ!
おーいしいスーウプ!
ゆーうげのスーウーウプ
おいしい、おいしいスープ!」
「おいしいスープ!
これさえ
あれば満足!
なんにもいらない!
それより、すてきなスープ!
何より、すてきなスープ!
おーいしいスーウプ!
おーいしいスーウプ!
ゆーうげのスーウーウプ
おいしい、おいーしいスープ!」
「もう一回!」とグリフォンが叫び、ウミガメフーが繰り返しにかかったちょうどその時、「これより裁判をとりおこなーう!」というお触れの声が、遠くから聞こえてきました。
「来いよ!」とグリフォンは叫ぶと、アリスの手を取るが早いか、歌の終わるのも待たずにパッと駆け出しました。
「何の、裁判?」とアリスは走りながらあえぎ声で言いました。が、グリフォンは、「いいから来いって!」と答えただけでさらに足を速め、それとともにだんだんとかすかになっていくのでした。ゆるやかな追い風に乗って運ばれてくる、あの物悲しい歌声が――
「ゆーうげのスーウーウプ
おいしい、おいしいスープ!」
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その11 パイを盗んだのは誰?
ハートの王様と女王様は、アリスたちがやってきた時には玉座に着いていて、そのまわりには大群衆が集まっていました――トランプ一組全員はもとより、ありとあらゆる小鳥やけものたちです。召使のジャックが皆の前に立っていて、鎖につながれ、左右をそれぞれ一人の兵士に見張られており、そして王様のそばにはあの白ウサギがいて、片手にラッパを、もう一方には羊皮紙の巻物をたずさえていました。法廷のちょうどまんなかにはテーブルがあり、パイの盛られた大きな皿が乗っています。あんまりおいしそうだったので、アリスはそれを見ておなかがぺこぺこになったものです――「裁判なんか済ませちゃって」とアリスは思いました。「あのおやつを配ってくれたらいいのになあ!」でもその見込みはなさそうで、そこでアリスは退屈しのぎに、まわりのものを一つ一つ見ていきました。
アリスはこれまで裁判所を訪れたことは一度もありませんでしたが、本に書かれているのを読んだことがあったので、見るとけっこう嬉しいことに、そこにあるものの名前はほとんどすべて知っていました。「あれが裁判官よ」とアリスは胸の内でつぶやきました。「かつらが立派だもの」
その裁判官は、ちなみに王様で、そしてかつらの上に冠を載せていたので、(どんなふうだったのか確かめたければ、口絵を見てください)見るからにしっくりこないといった感じで、どう見ても似合ってはいませんでした。
「そしてあれが陪審員席で」とアリスは思いました。「あそこの十二匹の生き物」(アリスは「生き物」って言うしかなかったんです。なにしろ動物もいたし、鳥もいましたから)
「あれが陪審員団よね」アリスはその言葉を二、三度繰り返し胸の内でつぶやいて、ちょっと得意になっていました。とにかく同い年の女の子で陪審員という言葉を知っている子なんて、当たり前でもありますが、そうはいないと思ったんです。もっとも「裁判員」とかでも別にちゃんと用は足りましたけど。
十二匹の陪審員たちは、みんなひどくせわしげに石板に書きこみをしていました。「あれは何をしてるの?」とアリスはグリフォンにそーっとたずねました。「まだ何も書きとめることなんかあるはずないわ、裁判も始まってないのに」
「自分らの名前を書きとめてんだよ」とグリフォンもそーっと答えました。「裁判が終わる前に、忘れちまわねえようにな」
「バカじゃないの!」とアリスは腹が立ってつい大声を上げ、でも、あわてて口をつぐみました。白ウサギが「法廷では静粛に!」と叫んだ上、王様がめがねをかけて、誰が悪口を言っているのかと不安そうにあたりを見回したんです。
アリスにはまるで肩越しにのぞいているのと同じぐらいによく見えていましたが、陪審員全員が「馬鹿じゃないの!」と石板に書きとめていて、おまけにそのうちの一匹が「馬鹿」という字が書けなかったことや、教えてくれるように隣の者に頼まなければならなかったことまで見て取れました。「裁判が終わる前にごっちゃごちゃになっちゃうわ、あの石板!」とアリスは思いました。
陪審員の一匹がキーキーきしる石筆を持っていました。これにはもちろん、アリスは我慢がならなかったので、法廷をぐるっと回ってその後ろに行くと、たちまち隙を見て、パッとその石筆を取り上げてしまいました。あんまり早業だったので、かわいそうにそのちっちゃな陪審員(トカゲのビルでした)は石筆がどうなったんだかさっぱり分からず、おかげでそこら中を探し回ったあげく、そのあとはずっと一本の指を使って書くしかありませんでした。が、これはほとんど役には立ちませんでした。指では石板に跡なんか何も残りませんから。
「伝令官、起訴状を読み上げよ!」と王様が言いました。
これを受けて白ウサギはラッパを三回吹き鳴らし、それから羊皮紙の巻物を広げると、次のように読み上げました――

「ハートの女王様 パイをつくった
一日かかって パイをつくった
めしつかいがこっそり パイをぬすんだ
一つものこさず パイをぬすんだ」
「評決にかかれ!」と王様は陪審員団に向かって言いました。
「まだです、まだです!」とウサギがあわててさえぎりました。「その前にすることがたくさんございます!」
「第一の証人を召喚せよ」と王様が言い、すると白ウサギはラッパを三回吹き鳴らし、大声で言いました。「第一の証人!」
その第一の証人は帽子屋でした。帽子屋は片手にティーカップを、もう一方にはバタつきパンを一かけら持って入廷してきました。「どうかお許しを、陛下」と帽子屋は切り出しました。「このようなものを持ちこみまして。ただお呼び出しを受けました時に、お茶をすっかり済ませてはおりませんでしたので」
「済ませるべきじゃったぞ」と王様。「いつ始めたのじゃ?」
帽子屋は三月ウサギに目をやりました。三月ウサギは帽子屋のあとから、ヤマネと腕を組んで入廷してきていたんです。「三月十四日、であったと思いますが」と帽子屋は言いました。
「十五日だよ」と三月ウサギ。
「十六日」とヤマネ。
「書きとめよ」と王様は陪審員団に向かって言い、すると陪審員団は日付を三つともせっせと石板に書きとめると、それから三つを合計して、しめていくらと書き加えました。
「その方(ほう)のその、帽子をとれ」と王様は帽子屋に言いました。
「これはあっしのではございませんで」と帽子屋。
「盗みおったのじゃ!」と王様は陪審員団の方を向きながらいきなり声を上げ、陪審員団はただちにその犯行を記録しました。
「帽子は売り物なんでございます」と帽子屋は申し開きに言い足しました。「あっし自身のは一つもございません。あっしは帽子屋にございます」
この時、女王がめがねをかけると、帽子屋を食い入るようにじーっと見つめ出したので、帽子屋は青くなってそわそわし始めました。
「証言を述べよ」と王様。「それにびくびくするでない。さもなくばただちに死刑に処するぞ」
これはどう見ても証人のはげましにはならなかったようです。帽子屋はしきりに足を踏み替え踏み替え、おどおどと女王をうかがっていた上、うろたえのあまりにバタつきパンではなく、ティーカップをガブリと食いちぎってしまったんです。
ちょうどこの時、アリスはなんともおかしな感じを体に覚え、それが何なのか分かるまで、ずいぶんと戸惑ってしまいました。アリスはまた大きくなり始めていたので、はじめは席を立って法廷から出ていこうと思ったんですが、でも、思い直して、いられるうちはその場に残っていることに決めました。
「そんなにギュウギュウ押さないでくんないかな」とヤマネが言いました。アリスの隣に座っていたんです。「ろくすっぽ息もできやしないよ」
「どうしようもないのよ」とアリスは小さくなって言いました。「私、大きくなってるの」
「こんなとこで大きくなる権利なんかないぞ!」とヤマネ。
「バカなこと言わないで」とアリスは今度はもっと大きく出ました。「あなただって大きくなってるでしょ」
「ああ、でも僕はまともな速さでだよ」とヤマネ。「そんなバカみたいななり方じゃなくてね!」そしてヤマネは大むくれで席を立つと、法廷の反対側へと突っきっていってしまいました。
この間ずっと女王は帽子屋を見つめたままでいたんですが、ちょうどヤマネが法廷を横切っていった時、廷吏の一人に向かって言いました。「先だっての音楽会の、歌い手の名簿を持ってまいれ!」とこれであわれな帽子屋はふるえ上がってしまい、おかげで靴が両方とも脱げ落ちてしまいました。

「証言を述べよ」と王様は怒(おこ)って繰り返しました。「さもなくば死刑に処するぞ、びくびくしていようがいまいがな」
「あっしはしがない者にございます、陛下」と帽子屋はふるえ声で訴え始めました。「それにお茶も始めはいたしませんでした――一週間かそこらたたぬうちは――しかもバタつきパンは薄切りになってまいりますやら――お茶の時のチラチラやらで――」
「何のチラチラじゃと?」と王様。
「その始まりと申しますのが、お茶と一緒だったんでございます」と帽子屋は答えました。
「むろん、チラチラも茶も、チで始まるわ!」と王様はビシッと言いました。「余を茶化しおる気か? 先を続けい!」
「あっしはあわれな者にございます」と帽子屋は続けました。「それにそれからと言うものは、あれやこれやがチラチラいたしますし――ただ三月ウサギが申しますには――」
「申しません!」と三月ウサギが大あわてでさえぎりました。
「言ったよ!」と帽子屋。
「否認します!」と三月ウサギ。
「あの者は否認しておる」と王様。「そこのところは省け」
「えぇ、とにかく、ヤマネが申しまして――」と帽子屋は続けながら、ヤマネも否認するだろうかと不安そうに振り返りました。が、ヤマネは何も否認しませんでした。ぐっすりと眠りこんでいて。
「そのあと」と帽子屋は続け、「あっしはバタつきパンをさらにカットいたしまして――」
「でもヤマネは何て言ったんですか?」と陪審員の一匹がたずねました。
「それは思い出せません」と帽子屋。
「思い出さねばならぬ」と王様が言いました。「さもなくば死刑に処す」
あわれな帽子屋はティーカップとバタつきパンを落っことし、がくりと片ひざをつきました。「あっしはつまらぬ者にございます、陛下」と帽子屋は訴え始めました。
「その方(ほう)はつまってばかりおるではないか」と王様。
ここでモルモットの一匹が歓声を上げ、ただちに廷吏たちによって鎮定されました。(これはちょっぴりむずかしい言葉なので、どんなふうに行われたのか、ちょっと説明しましょう。廷吏たちは口のところがひもでくくれる大きな粗布の袋をたずさえていました。その中にモルモットを頭からスルッと放りこみ、そのあと袋の上に鎮座したんです)
「今のが見られて良かった」とアリスは思いました。「新聞でずいぶんよくお目にかかったけど、裁判のおしまいのとこで、『拍手せんとする者ありしが、ただちに廷吏らにより鎮定されり』ってあるの、あれがどういう意味だか、今までずっと分からなかったもの」
「この件について、それより何も知らぬのであれば、下がって良い」と王様は続けました。
「これより下には下がれません」と帽子屋。「床にひざまでついております、この通り」
「下らぬことを申すな」と王様は答えました。
ここでもう一匹のモルモットが歓声を上げ、鎮定されました。
「さあ、あれでモルモットもおしまいね!」とアリスは思いました。「これでもっとスラスラ行くわ」
「お茶を済ませたいのですが」と帽子屋はおどおどと女王をうかがいながら言いました。女王は歌い手の名簿を見ています。
「行って良い」と王様が言うと、帽子屋は大急ぎで法廷から出て行きました。靴もほったらかしたまんまです。

「――それと、ともかくおもてであの者の首をはねておしまい」と女王は廷吏の一人に言い足しました。が、帽子屋は廷吏が出入り口に行き着く間もなく、姿をくらましていました。
「次なる証人を召喚せよ!」と王様は言いました。
その次なる証人は公爵夫人のコックでした。コックがコショー入れを手にしてきたので、アリスにはそれが誰なのか、ちょうど法廷に入ってくる手前のところで見当がつきました。扉近くの者たちが、みんないっせいにくしゃみをし始めたんです。
「証言を述べよ」と王様。
「やだね」とコック。
王様はすがるように白ウサギをうかがい、白ウサギは声を落として言いました。「陛下がこれなる証人のお取り調べをせねばなりません」
「うーむ、せねばならぬとあれば、せねばならぬ」と王様は浮かぬ顔で言いました。そして腕組みをして、両目も埋もれんばかりに顔をしかめてコックをにらんだあと、低い声で言いました。「パイは何でできておるか?」
「コショーさ、だいたい」とコック。
「蜜」と眠そうな声が、その後ろで言いました。
「あのヤマネをひっとらえよ!」と女王が金切り声を上げました。「あのヤマネの首をはねよ! あのヤマネを法廷から叩き出せ! 鎮定せよ! つねり上げよ! ひげをむしってしまえ!」
しばらくの間はヤマネを追い出しにかかっていて、法廷中がごった返していましたが、みんなが元通り落ちついた頃にはもうコックは姿を消してしまっていました。
「気にせんで良い!」と王様はいかにもホッとした面持ちで言いました。「次なる証人を召喚せよ」そして小声で女王に言いそえました。「実はのう、お前や、次の証人の怒(おこ)り調べは、ぜひともお前にやってもらいたいんじゃ。わしはどうもおでこが痛(いと)うなってな!」
アリスは白ウサギが名簿中をごそごそやるのを見守りながら、次はどんな証人なのか知りたくてうずうずしていました。「――まだたいした証言は得られてないものね」とアリスは胸の内でつぶやきました。その時です。どんなにアリスは驚いたことでしょう。白ウサギはその細くて甲高い声をめいっぱいに張り上げて、こう名前を読み上げたんです。「アリス!」
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その12 アリスの証言
「はい!」とアリスは大声を上げましたが、その瞬間ドッキリしたせいで、ここ数分でどれだけ自分が大きくなったのかコロッと忘れてしまい、しかも大あわてでパッと立ち上がったので、スカートのすそで陪審員席をひっくり返し、陪審員たちをみんな下にいる大勢の頭の上にぶちまけてしまいました。そしてその場にみんなは大の字になって伸びてしまい、アリスに前の週にうっかりひっくり返してしまった金魚鉢のことを、ありありと思い出させました。

「あっ、ごめんなさい!」とアリスはいきなりうろたえまくった声を上げ、できるだけ手早く元のようにみんなを拾い上げにかかりました。金魚のことがずっと頭に浮かんでいたので、すぐにみんなを集めて陪審員席に戻してやらなくちゃいけないような、でないとみんなが死んでしまうような、そんな気がしてしまったんです。
「審理の続行はできぬ」と王様はきわめて重々しい声で言いました。「陪審員全員が所定の席に戻るまでな――全員じゃ」と王様はことさらに強調して繰り返し、そう言いながらアリスをきびしい目でじっと見つめました。
アリスは陪審員席を見て、あわてたせいでトカゲをさかさまに入れてしまっていたのに気がつきました。しかもかわいそうにそのおチビちゃんはしっぽをパタリパタリとあちこちに力なく振っていて、まるで身動きも取れずにいます。アリスはすぐにまたトカゲを抜き出して、ちゃんと入れ直してやりましたが、「たいした意味があるわけじゃないけど」と胸の内でつぶやきました。「どっちが上でも、裁判には、まあ、同じぐらいの役にしか立たないんじゃないかな」
ひっくり返されたショックからいくらか立ち直り、石板と石筆が見つけられて手もとに返されたとたん、陪審員団はけんめいになってこの事故のてんまつの記録に取りかかりました。ただトカゲだけは別で、何をするにもあまりにもまいってしまったらしく、口をポッカリ開けて座ったまま、法廷の天井をじっと見上げているばかりでした。
「その方(ほう)は本件に関して何を知っておる?」と王様はアリスに向かって言いました。
「なんにも」とアリス。
「まったく何もか?」としつこく王様。
「まったくなんにも」とアリス。
「これはきわめて重要じゃな」と王様は陪審員団の方を向きながら言いました。陪審員たちがこれを石板に書きとめにかかったちょうどその時、白ウサギが口をはさみました。「重要じゃない、ともちろん陛下はおっしゃっておられます」と白ウサギはとてもいんぎんな口調で言いましたが、言いながら、王様に向かってまゆをひそめて渋い顔をしていました。
「重要じゃない、むろん、そう言ったのじゃ」と王様はあわてて言い、小声でぼそぼそとつぶやき続けました。「重要じゃな――重要じゃない――重要じゃない――重要じゃな」とまるでどっちの言葉が響きがいいか、ためしているみたいでした。
陪審員の中には「重要じゃな」と書きとめる者もいれば、「重要じゃない」と書きとめる者もいました。アリスは楽に石板を見渡せるほど近くにいたので、これも見えていましたが、「でも、それこそどうでもいいことね」とこっそり思いました。
この時、しばらくせっせと何やら手帳に書きこんでいた王様が、「静粛に!」と大声で呼ばわると、その手帳を読み上げました。「規則第四二条。身ノ丈1キロメートルヲ超エタル者ハ、全テ法廷ヨリ退出スベシ」
全員がアリスに注目しました。
「私は1キロメートルもないわ」とアリス。
「ある」と王様。
「2キロメートル近くな」と付け加える女王。
「いいわ、とにかく私は出ていかないから」とアリス。「それに、そんなのちゃんとした規則じゃないわ。たった今あなたがでっち上げたのよ」
「これは記載されておる、もっとも古い規則じゃ」と王様。
「だったら第一条のはずよ」とアリス。
王様は青くなり、あわてて手帳を閉じました。「評決にかかれ」と王様は陪審員団に、小さなふるえ声で言いました。
「まださらに提出すべき証拠がございます、お待ちください陛下」と白ウサギが大あわてで跳びはねながら言いました。「この紙がつい今しがた拾われたのでございます」
「中には何とある?」と女王。
「まだ開いてはおりませんが」と白ウサギ。「手紙のようであります。被告人によってその――誰かあてに書かれた」
「そうであったに決まっておる」と王様。「誰でもない者あてに書かれたのでなければじゃが、そのようなことは普通はせぬであろうが」
「誰あてなんですか?」と陪審員の一匹が言いました。
「まったく誰あてにもなっておりません」と白ウサギ。「つまり、外側には何も書かれておりません」白ウサギはそう言いながら紙を広げると、こう言い足しました。「つまるところ、手紙ではありません。一編の詩であります」
「それは被告人の筆跡なんですか?」と別の陪審員がたずねました。
「いえ、そうではありませんで」と白ウサギ。「それがこの証拠に関する、もっとも奇妙な点であります」(陪審員団はみんなわけが分からない、といったふうでした)
「この者が誰かほかの者の筆跡をまねたに違いない」と王様。(陪審員団はみんなまたパッと明るい顔になりました)
「おそれながら陛下」と召使が言いました。「わたくしはそのようなものを書いてはおりませんし、わたくしが書いたと証明することもできません。終わりに何の署名もないのです」
「もしもその方(ほう)が署名しなかったのであれば」と王様。「ことはいっそう悪くなるだけじゃ。その方には何らかの悪だくみがあったに決まっておる。さもなくば、正直な者らしく、署名しておったはずじゃ」
これには法廷中から拍手が沸き起こりました。その日、王様が口にした、はじめての真に冴えある意見だったんです。
「これにてむろん、その者の有罪は明らかじゃ」と女王。「されば、その者の――」
「そんなことなんにも明らかになってないわ!」とアリス。「だって、どんなことが書いてあるのか分かってもいないじゃない!」
「読み上げよ」と王様。
白ウサギはめがねをかけました。「どこから始めましょうか、陛下?」と白ウサギはたずねました。
「はじめから始めよ」と王様はきわめて重々しく言いました。「そして終わりが来るまで続けよ。しかるのちやめよ」
法廷がしーんと静まり返る中、白ウサギはこんな詩を読み上げました――
「そのものらわれにつたえり
そなたかの女(ひと)のもとゆきしことありて
かのものにむかいわがこといいおよびしと
かの女われおせども
われおよぐことあたわずといいしなりと
かのものそのものらにおくれり
われゆきしことなかりきとのことばを
(われらそれまこととしれり)
かの女ことおしすすむるとあらば
そなたいかなるさまにならんや
われかの女に一あたえ
そのものらかのものに二あたえ
そなたわれらに三もしくはさらにあたえり
そのものらみなかのものよりそなたへもどれり
かつてわがものなりしかども
われもしくはかの女たまさか
このことまきこまるるとあらば
まさしくわれらがありしさまさながら
そのものらときはなつがため
かのものそなたをたよるなり
われおもいおりき
そなたかつてかくありしなりと
(かの女かくあたりしまえ)
かのものとわれらみずからとそのもの
そのうちさまたぐるものなりしと
かのものにしらるるなかれ
かの女そのものらもっともこのみしと
これそなたみずからとわれのうちなる
ほかなるいずれもよりまもらるる
とわなるひめごとたるべきゆえ」
「これは我らがこれまでに手にしたもっとも重要なる証拠じゃ」と王様は嬉しそうに両手をこすり合わせながら言いました。「では、ただちに陪審は――」
「もし陪審員の誰でも今のを説明できるんだったら」とアリス。(アリスはこの数分間でとっても大きくなっていたので、王様の話をさえぎるのなんかちっとも怖くなかったんです)「その誰かに五百円あげるわ。私はそんな詩に意味なんてこれっぽっちもないと思うわ」
陪審員団はみんな石板に、「かのひとそんなしにいみなんてこれっぽっちもないとおもう」と書きこみましたが、誰もその詩を説明しようとはしませんでした。
「もしもこの詩に意味がないのであれば」と王様。「大いに手間がはぶけるではないか。何も見つけようとせんで良いのじゃから。しかし、どうかのう」と王様はひざの上にその詩を広げ、片目で見つめながら続けました。「余にはやはり、いくらかこの詩の意味が分かりそうじゃな。『――われおよぐことあたわずといいしなりと――』その方(ほう)は泳げぬのであろう?」と王様は召使の方を向きながら言い足しました。
召使は悲しげに首を振りました。「泳げるようにお見えですか?」と召使は言いました。(そうは確かに見えません。全身これ、紙なんです)
「ここまでは、問題ない」と王様は言い、さらにその詩についてぶつぶつと一人でつぶやき続けました。「『われらそれまこととしれり』――これはむろん、陪審員団のことじゃ――『かの女ことおしすすむるとあらば』――これは女王のことに決まっておる――『そなたいかなるさまにならんや』――どうなることか、まったく!――『われかの女に一あたえ、そのものらかのものに二あたえ』――なに、これはこの者がパイをどうしたかということに決まっておるわのう――」
「でも『そのものらみなかのものよりそなたへもどれり』って続いてるわ」とアリスは言いました。
「なあに、そら、パイはあるじゃろうが?」と王様は得意満面で言いながら、テーブルの上のパイを指さしました。「これほど明白なことはあるまい。しかしじゃ――『かの女かくあたりしまえ』――お前は人にあたったことなどないと思うが、のう、お前や?」と王様は女王に言いました。
「あるものですか!」と女王はかんかんになって言いながら、インクつぼをトカゲに投げつけました。(不運なちびのビルは石板に指で書くのをやめてしまっていました。跡がなんにも付かないと分かったからですが、でも、今やあわてて再開しました。顔をしたたるインクを使って、インクの続く限り)
「となると、ここのところはお前には当たらんな」と王様は笑みを浮かべて法廷を見回しながら言いました。しーんと静まり返っています。
「今のはしゃれじゃ!」と王様は腹立たしげに付け加え、みんなは笑いました。「陪審は評決にかかるが良い」と王様はその日、二十回目ぐらいのセリフを言いました。
「ならぬ、ならぬ!」と女王。「刑の宣告が先じゃ――評決はあとじゃ」
「バカバカしいったらないわ!」とアリスは大声で言いました。「刑の宣告を先にするだなんて!」
「黙りおれ!」と女王は真っ赤になって言いました。
「黙んないわ!」とアリス。
「その者の首をはねよ!」と女王はあらん限りの声を張り上げました。誰も動きません。
「誰があなたなんかを気にして?」とアリス。(アリスはこの時にはもう、本来の大きさに戻っていました)「あなたたちなんか、ただのトランプ一組ってだけじゃない!」

この言葉にトランプ一組すべてが宙に舞い上がると、アリスの上に降りかかってきました。アリスは怖さ半分、腹立ち半分、小さな叫び声を上げ、トランプを追い払おうとして、気がつくと、アリスはお姉さんのひざを枕に、あの川辺に横たわっていました。そして木々の枝からアリスの顔に舞い降りた落ち葉たちを、お姉さんがやさしく払いのけくれていたんです。
「起きなさい、アリスったら!」とお姉さんは言いました。「まあ、ずいぶん長いこと寝てたわねえ!」
「わあ、私、とってもおかしな夢を見ちゃった!」とアリスは言いました。そしてたった今あなたが読んでいた、これらの奇妙な冒険のいっさいを、思い出せる限りお姉さんに話し、そしてアリスが話し終えると、お姉さんはアリスにキスをして言いました。「おもしろい夢だったわね、ほんとにね。でも、もうお茶に急ぎなさい。遅くなってるわ」そこでアリスは立ち上がって駆けていきましたが、駆けながらもずっとこう思っていました。もっともなことですが、なんてフシギな夢だったんだろう、と。
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でもアリスが走り去っていくちょうどその時、お姉さんはじっと座っていました。ほおづえをつき、沈みゆく夕日を見つめながら、そして小さなアリスと、そのフシギな冒険の一つ一つを思い浮かべながら。自分にもなんとか夢が見えてくるまで。そしてこれはお姉さんの夢です――
はじめに、お姉さんは愛らしいアリス自身のことを夢に見ました。もう一度ちっちゃな両手がひざの上で握り合わされ、キラキラと輝く熱のこもった両の瞳がこちらの目を見上げていて――その声音さえもが聞き取れましたし、いつも目に入ってばかりいるほつれ毛を後ろにやっておこうと、頭をおかしなふうにちょっと振り上げるのも見え――そしてさらにお姉さんが聞いたところ、いえ、聞いたらしいところでは、あたり一面が小さな妹の夢に現れた、おかしな生き物たちでいっぱいになったんです。
かたわらを急ぐ白ウサギに、長い草が足もとでカサカサと音を立て――おびえたネズミがチャプチャプ水を跳ね散らしながら、近くの川のよどみを渡っていき――三月ウサギとその友人たちが、終わりのないお茶をともにしながら、ティーカップをカチャカチャ言わせる音が、そして不運なお客たちに死刑を命じている、女王の甲高い声が聞こえ――またもブタ赤ちゃんが公爵夫人のひざの上でくしゃみをしているし、そのまわりでは小皿や大皿が砕け――またもグリフォンの叫び声が、トカゲの石筆のキーキーきしる音が、そして鎮定されたモルモットたちのくぐもったうめき声が、あたりに満ちあふれたんです。遠くですすり泣く、あわれなウミガメフーの声と混じり合って。
そんなふうにお姉さんは、目を閉じたまま、ずっと座っていて、自分がフシギの国にいることを、なかば信じたのでした。もっともまた目を開けさえすれば、すべてがつまらない、ありふれたものに変わってしまうだろうと分かってもいましたが――草は風に吹かれてカサカサと音を立てているだけ、そして川のよどみは葦のそよぎにさざ波を立てているだけでしょう――ティーカップのカチャカチャという音は、羊の首に付けたベルが鳴る、カランコロンという音に、そして女王の甲高い叫び声は、羊飼いの男の子の声に変わるでしょう――それに赤ちゃんのくしゃみ、グリフォンの叫び声、そしてそのほかのおかしな物音のすべては、(お姉さんには分かっていました)あわただしい農家の庭の、とりとめのないざわめきにと変わってしまうでしょう――それとともに、遠くで鳴く牛の声が、ウミガメフーの重っ苦しいすすり泣きに取って代わることでしょう。
おしまいに、お姉さんはこんなことを思い描きました。この小さな自分の妹も、いずれはこの子自身も大人になるだろう。でも大人になってからもずっと、子供の頃の、すなおでやさしい心を失わずにいることだろう。そして自分のまわりにほかの小さな子供たちを集め、たくさんのおかしなお話で、その子らの瞳を生き生きと輝かせ、夢中にさせることだろう。もしかしたら、そのお話には、むかし見たフシギの国の夢だって混じっているかもしれない。そしてその子らの他愛ない涙の一つ一つに胸をつまらせ、その子らの無邪気な笑顔の一つ一つに喜びを見いだすだろう。自分自身の子供の頃、そして幸福な夏の日々を思い起こしながら。
おわり
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この「ヤ」が怪しい。
似たような字があったような……
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球を木づちで打って、順番に柱門をくぐらせ、先に杭に当てた方が勝ち……と言うとゲートボールを思い浮かべるかもしれませんが、ゲートボールは日本で作られたゲームで、クロッケーはそのゲートボールの元にもなっている、イギリス発祥のゲームです。
クロッケーにはレクリエーションとして行われるもの以外に、本格的な競技クロッケーの世界があり、現在ではイギリスをはじめ二十数か国が参加している「世界クロッケー連盟(WCF)」も設立されていて、国際大会も行われており、日本では「日本クロッケー協会(CAJ)」が中心となって、参加、活動しています。
もしかしたら、2012年のロンドン・オリンピックでは競技種目に選ばれるかもしれません。*残念ながら、採用されなかったようです。
国際標準ルールのクロッケーには「アソシエーション・クロッケー」と「ゴルフ・クロッケー」があり、またそれ以外にも各地域で独自に発展した、さまざまなバリエーションが存在しています。
「アソシエーション・クロッケー」と「ゴルフ・クロッケー」は、コートの形状や道具、ボールを四個使用すること、試合にはシングルス(一対一)とダブルス(二対二)があることなどは同じですが、アソシエーション・クロッケーでは、フープ(柱門)を順にくぐらせて、中央のペグ(杭)に当てる順位を競い、ゴルフ・クロッケーでは、フープをくぐらせたことによるポイントを競います。
ゴルフ・クロッケーの場合、それぞれのフープをくぐらせるのは早い者勝ちで、(いずれかのボールが一番フープをくぐったら、次は全員が二番フープを目指すといったように)またアソシエーション・クロッケーでは、ほかのボールに打ち当てた時、自分のボールを打ち当てたボールの好きな側に付けて打つことができるのが特徴で、(これを「クロッケー・ショット」と言います)フープをくぐらせた場合とともに、さらにもう一打追加して打つことができるので、それらをうまく組み合わせて連続打を狙います。
また現在のルールでは、クロッケー・ショットの時、ゲートボールのように足で自分のボールを踏んで押さえることは禁止されていて、それによってショットに難しさと広がりが生まれています。
競技クロッケーは「芝生の上のビリヤード」とも呼ばれ、上手なプレイヤーになると、トップスピンやバックスピンを自在に使い分け、打ち当てる強さや角度を精妙にコントロールして、打ったボールと当てたボールのそれぞれを思い通りのところに送り、相手側のボールも利用しながら、連続打でゲームを有利に進めていくという、テクニックと戦略性を要するゲームとなっています。

(情報、画像提供「日本クロッケー協会」)
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原詩 アイザック・ワッツ
ちいさなハチはまじめだね
きらきらひざしをうけながら
はなからはなへととびまわり
いちにちみつをあつめてる
ちいさなハチはきようだね
きれいにすみかをととのえて
あまいハチミツこさえては
おへやにしっかりためている
ちいさなハチをみならって
まじめにまなぼう、はたらこう
なまけているとそのすきに
あくまがこっそりしのびよる
どくしょにべんきょう、スポーツと
きょうからしっかりとりくもう
まいにちまじめにとりくめば
きっとじぶんのためになる
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原詩 ロバート・サウジー
古老どの
御老境にてあらせられ
髪も灰にと染まるるに
なお健やかにおわするは
如何なる故かお教えを
若者よ
力は限り在るものと
己が心に留め置きて
みだりに費やさざりしかば
老境にても失せざらん
古老どの
若かりし日の喜びも
歳ふるとともに去り行くに
過ぎし日々をば嘆かぬは
如何なる故かお教えを
若者よ
若き日々とは束の間と
己が心に留め置きて
先をば望みて歩むれば
過ぎし日々には囚われん
古老どの
この世の人のはかなさを
思えば心沈むるに
死も朗らかに語るとは
如何なる故かお教えを
若者よ
御父は常におわすると
己が心に留め置きて
御心信じ給われば
余命も不安あらざらん
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原詩 デヴィッド・ベイツ
やさしくかたりかけなさい
ひとをうごかすためならば
ことばをえらばずかたるなら
よきおこないをもそこなおう
やさしくかたりかけなさい
こころをむすぶちかいなら
うちとけかわすことばこそ
むねのおくにもしみとおる
やさしくかたりかけなさい
おさなきものにあいをこめ
おしえさとすもおだやかに
いのちはしれぬものだから
やさしくかたりかけなさい
わかものたちのにはおもく
ちからをつくしていきるとも
なやみはつきぬものだから
やさしくかたりかけなさい
としをめされたものたちに
いのちのすなはとぼしくも
こころのぶじはうせぬよう
やさしくかたりかけなさい
まずしくくらすものたちに
たえねばならぬみのうえに
つめたきことばはさむかろう
やさしくかたりかけなさい
しくじりさえもあたたかに
ほねをおってのはたらきが
むなしくなったものだから
やさしくかたりかけなさい
おだやかなれと主(しゅ)はつげる
ひとのあらそうそのときに
かたくななるをまげるため
やさしくかたりかけなさい
とわなるときはつたえよう
こころにのこるひとことが
うるわしきものをもたらすと
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原詩 ジェーン・テイラー
曲 フランス民謡 ♪
(Quick Time Playerなどで音が小さい場合には、他のプレーヤーにMIDIファイルを関連付けしてみてください)
キラキラ光る
不思議な星よ
空の遥かに
浮かぶ宝石
キラキラ光る
不思議な星よ
燃える夕日が
海に沈んで
小さな星は
空に瞬く
キラキラ光る
不思議な星よ
旅人たちの
見上げる空に
小さな星は
光る羅針盤(コンパス)
キラキラ光る
不思議な星よ
空の上から
僕を見守る
小さな星は
眠りもせずに
キラキラ光る
不思議な星よ
旅人たちを
照らして光る
小さな星よ
君は誰なの
キラキラ光る
不思議な星よ

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原詩 ジェーン・テイラー
曲 マザー・グースより ♪
(Quick Time Playerなどで音が小さい場合には、他のプレーヤーにMIDIファイルを関連付けしてみてください)
キラキラ光る
お星様きれい
空に浮かんだ
ダイヤモンドみたい
おてんとう様の
消えた夜空に
またたき光る
お星様きれい
旅人たちは
あなたがいないと
道に迷って
しまうことでしょう
夜が明けるまで
見守るように
やさしく光る
お星様きれい
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原詩 メアリー・ハウイット
曲 マザー・グースより ♪
(Quick Time Playerなどで音が小さい場合には、他のプレーヤーにMIDIファイルを関連付けしてみてください)
クモがハエさんにこう言いました
わたしのじまんのおへやにどうぞ
ぐるぐるかいだんのぼるけど
あなたもおどろくものがあるよ
いえいえごめんよとんでもない
あなたのおへやは出口がない
そんなにとんでちゃくたびれるでしょう
わたしのベッドでやすみなさいな
きれいなカーテンつってあるし
シーツはうすくてきもちいいよ
いえいえごめんよとんでもない
あなたのベッドは目がさめない
ハエさんあなたをかんげいするよ
なにしてあなたをよろこばせましょう
おいしいごちそうたんとあるよ
どうぞあなたもおたべなさいな
いえいえごめんよとんでもない
あなたのごちそう見たくはない
かわいいハエさんあたまもいいね
はねもみごとだし目もきれいだね
わたしのおへやのかがみみれば
じぶんのすがたにみほれるでしょう
あらあらあぶないとんでもない
うかれてつられちゃ命がない

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原詩 アイザック・ワッツ
なまけおとこが ぐちをいう
「もっぺんねねえと はやすぎら」
あたまはおもく みもおもく
ごろりとねどこで むきかえる
「もうちょいとだけ あとちょいと」
いちにちはんぶん むだにして
おきてもぼんやり すわってて
でなけりゃたって うろついて
にわさきとおれば やぶがみえ
イバラとアザミが おいしげる
きているふくは ぼろぼろで
おかねはむだに つかうだけ
どうにかなるかと きてみたが
ともはかたらう そのゆめを
たらふくくって のみたいと
主(しゅ)のことばには めもくれぬ
わがみにとっては いいきょうし
なってはこまる いいみほん
おれいをいっても いいぐらい
なまけぐせとは おそろしい
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原詩・曲 ジェームズ・M・セイルズ ♪
(Quick Time Playerなどで音が小さい場合には、他のプレーヤーにMIDIファイルを関連付けしてみてください)
聖らなる星よ
光投げかけ
高みにて回る
夕べのあの星よ
素敵なあの星よ
(コーラス)
美しい
あの星よ
夕べの星よ 素敵な星よ
またたき招くよ
夢の翼で
大地飛び立ちて
愛の国来たれと
愛の国来たれと
想いを絡(から)めて
愛の光よ
彼方にて回れ
夜明けのあの星よ
素敵なあの星よ

(この楽譜は私が作ったので、あやしいです。
正しい楽譜が分かる方は、ぜひ教えてください)
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原詩・曲 マザー・グースより ♪
(Quick Time Playerなどで音が小さい場合には、他のプレーヤーにMIDIファイルを関連付けしてみてください)
ハートの女王様 パイをつくった
一日かかって パイをつくった
めしつかいがこっそり パイをぬすんだ
一つものこさず パイをぬすんだ
ハートの王様が パイをみつけた
めしつかいのぬすんだ パイをみつけた
めしつかいはぶたれて パイをかえした
もう二度としませんと パイをかえした
スペードの王様が メイドにキッス
女王様がみつけて とてもおこった
スペードの女王様 メイドをぶって
おしろのそとへと ほっぽりだした
スペードのめしつかい メイドのために
ゆるしてほしいと たのみつづけた
女王様はとても こころうたれて
もうぶったりしないと やくそくをした
クラブの王様が らんぼうをした
女王様に手をあげ らんぼうをした
クラブの女王様 おかえしをした
王様と女王様 けんかになった
クラブのめしつかい みかたになると
女王様にむかって やくそくをした
王様と女王様 けんかをすれば
くやむのはきまって 王様だから
ダイヤの王様は すばらしいひと
女王様もとっても やさしいひと
ところがめしつかい みのほどしらず
二人のあいだを いつもじゃまする
ダイヤの王様は たまりかねて
めしつかいをつかまえ しばりくび
王様と女王様 これであんしん
二人でなかよく ずっとくらした

(この楽譜も私が作ったので、やっぱりあやしいです。
これも正しい楽譜が分かる方は、ぜひ教えてください)
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原詩 マザー・グースより
ハートの女王がパイを作った
とある夏の日一日かけて
ハートのジャックがパイを盗んだ
そしてすっかり持ち去った
ハートの女王の作ったパイは
大事な方へのおもてなし
棚に置く時おっしゃったのは
「これならきっとご満足」
女王の招いた方々は
すべての王様、女王様
赤と黒とのトランプの
あのおなじみのお方々
高貴なカップルおいでになると
御馳走ずらりとテーブルに
王様下手(しもて)に席を占め
女王は上手(かみて)に回られた
スープに魚に豪華な料理
やがてすっかり出尽くすと
届けられたはプラムのプリン
今宵はまるでクリスマス
女王がその時、給仕を呼んだ
いまだ不幸に気付きもせずに
「これなる料理をすぐに下げ
料理頭に戻しなさい」
皆は何かといぶかしみ
――すると女王はジャックに言った
パイを運んでくるように
自ら作ったあのパイを
ジャックは命にて下がったが
すぐに戻ってこう述べた
不逞の輩がいたらしく
パイは盗まれ、ございませんと
客たちいずれも心を尽くし
機嫌良さげにふるまった
「どうか気にせず我々は
構いませぬよ」と言うように
するとジャックはおごそかに
「女王陛下」と切り出した
「思いまするに盗みし者は
御前の猫にてございます
こちらを見ました疚(やま)しき様子
一目散と逃げる様
それらがしかと告げますものは
身に覚えある仕業かと」
その時、ハートの王様が
怒気もあらわに席を立つ
「ジャックよ、恥を知るが良い!
スモモのパイを猫がだと?
その方こそが盗人(ぬすっと)と
知れるも時間の問題ぞ
さあ、召使い等を呼びに行き
この場に全員連れてこい」
使用人たち女中たち
あわてた様子で集まると
位の順に列をなし
きれいな帯に立ち並ぶ
件のジャックは一同の
頭と見なされ先頭に
「指輪にかけて」と王様叫ぶ
「すぐさま盗人(ぬすっと)見つけよう」
使用人たち女中たち
王様の顔をじっと見る
王様声も厳めしく
「盗みし者が分かったぞ
その唇に果肉の染みが
いまだ残っておる者じゃ
罪を隠すに己の口と
顎を拭うを忘れてな」
誰かと皆の見る中に
一人ジャックはこっそりと
己の顎を拭いにかかる
染み一つ無きその顎を
王様すっくと立ち上がり
「この嘘つきめ」と声上げる
「今こそここにひざまずき
己の罪を吐くが良い」
女王は辛げに立ち上がり
「陛下よ、私のもてなしは
ジャックの為であったのか?
こやつは死するが当然ぞ」
見つめる王様おごそかに
「パイは食べられ戻らぬが
慈悲こそ我が意の導(しるべ)にあれば
鞭で打たせて済まそうぞ」
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