
『MR.ARASHI'S AMAZING FREAK SHOW』登場人物メモ
MIDORI
この漫画の主人公、みどりちゃん(12才)のこと。
はい、そのまんま。
そして、みどりちゃんがやる芸(『少女椿』P.4)は、「むしゃりむしゃり娘」というもの。
美女が口の周りを血だらけにして犬の内臓などを食う見世物。
しかし犬の内臓は鶏肉、血は紅を溶いたものというイカサマ。
ちなみに「みどり」という名は、
清雲画伯による街頭紙芝居「少女椿」の主人公「笠原みどり」から。(パクネタNO.21参照)
伊藤晴雨「いろは引 江戸と東京風俗野史」巻の二
MR.ARASHI
見世物小屋「赤猫座」の座長、嵐鯉治郎のこと。
(※「赤猫」江戸言葉で、牢内の火事、火つけのこと)
老婆心ながら、英語版のタイトルはここから。
しかし「赤猫座」は、英語なら"RED CAT COMPANY"?
ちなみに、鯉治郎が行うハッタリ芸「ベナ」と「大鼬」は、
伊藤晴雨『いろは引 江戸と東京風俗野史』や、
大衆雑誌『ロマンス』に連載された伊藤晴雨「古今見世物めぐり」に図入りで詳しい。
ついでに言えば、「極楽小屋」扉絵(『月的愛人』P.47)の左下のちょんまげも、
『いろは引 江戸と東京風俗野史』中の「蜘男(くもおとこ)」のまんまパクり。
ちなみに、夢野久作『犬神博士』には「鯉次郎」という名の人物が登場するが、丸尾末広はここから名前を盗ったと覚しい。
(左)蜘男「風俗野史」巻の二 (右)大鼬「古今見世物めぐり」
SNAKE WOMAN
蛇女紅悦(べにえつ〈仮〉)のこと。
しかし「紅悦」の読み方が書いてないのが本当に残念なところ。
でもまあ誰が英訳したのかは知らないが、所詮アメ公の読みなど信じられる道理もないが。
ちなみに正確にいえば、この手の見世物は「蛇女」ではなく、「蛇遣い」というのが正しい。
本来「蛇女」といえば、体に鱗が生えた女のこと。
そして蛇足だが、ニンジンの品種に「紅悦(べにえつ)」というものがあることも併せて付しておく。
(左)伊藤晴雨「古今見世物めぐり」 (右)花輪和一「田園に死す」
THE GIANT
赤座(あかざ)のこと。
しかし「巨人」とはこれ如何に?私にはそれほど大きいようには思えんが。
まあ「大男」ほどの意味であろう。
しかし、"SWORD SWALLOWER"(剣飲み男)の方がよっぽど…、と個人的には思ったり思わなかったり。
剣飲み男解剖図
THE MUMMY MAN
鞭棄(むちすて)のこと。
「ミイラ男」なる見世物が、あるのかないのかは知らないが、アメリカにはあるんだろ、きっと。(適当なので信じないように!)
正確には、このような両腕のない人間を「徳利児」という。
徳利に姿が似ているから。
ちなみに英語では、この手のフリークスを何と言うのだろう?
いろいろ言い方もあるのだろうが、トッド・ブラウニングの『フリークス』というアメリカ映画では、
腕のない人間のことを"ARMLESS WONDER"と称している。
てか、まんまですが、それにしてもこの名称といい、"MUMMY MAN"といい、
センスねえなぁ〜と思うのは私だけだろうか?
ついでに言えば、『少女椿』P.59では、鞭棄は「カニ男」と呼ばれているが、これも正確には違う。
本来「蟹男」とは、指が二本で蟹のような手をした人間のこと。
ちなみに、英語版でのここの記述が気になって、密かにチェックなどしてみたが、
そこには"CRAB MAN"の文字はなく、
何てことはない普通に"MUMMY MAN"とあっただけだった。
(左)小寺玉晁「見世物雑志」 (右)木村蒹葭堂「蒹葭堂雑録」(絵は松川半山)
HOHICHI THE HUMAN PRETZEL
芳一のこと。
「逆さ首」というのは、海外の見世物にはないのだろうか?
それか"HUMAN PRETZEL"で、普通に「逆さ首」の意味なのだろうか?
まあその辺の事情はよくわからんが、しかし「人間のプレッツェル」とは一体どんなだ?
プレッツェルとは、アメリカのねじれたお菓子のことだが、
なるほど、ならば英語版の芳一は、舐めるときっと塩っぱいに違いない。
しかし、カニバリズムをほのかに想起させるこのネームセンスは、個人的には結構好きかも知れない。
そして今さら言うまでもなく、「芳一」という名は小泉八雲「耳なし芳一のはなし」からだろう。
ついでにアメリカ大統領ジョージ・ブッシュと芳一についての戯れ事はこちら。
「見聞雑録」
THE HUMAN WORM
海鼠(なまこ)のこと。
"HUMAN WORM"を直訳すると「人間芋虫」。
すぐさま江戸川乱歩『芋虫』の須永中尉や、
丸尾末広「腐ッタ夜・エディプスの黒い鳥」(パクネタ事典NO.184〜参照)を想起するが、
見世物的にはこの手の両手両足がない人間を「達磨男」と称する。
ちなみに言えば、前述のアメリカ映画『フリークス』に出て来る達磨男プリンス・ランディアンは、
"HINDU LIVING TORSO"(ヒンドゥの生けるトルソー)と称されている。
芋虫、達磨、トルソーと、この手の人間の呼び方は様々であるが、
私的にはこのキャラの名前を海鼠にした丸尾末広のネーミングセンスに脱帽。
ついでに言えば、『少女椿』P.32〜33は、もちろん映画『フリークス』のパロディ。
そして「海鼠とペニスの関係」についてはこちらに別項を設けたので参照されたい。
(左)「フリークス」生けるトルソー (右)花輪和一「芋虫」
KANABUN THE BOY-GIRL
フタナリカナブンのこと。
「ふたなり」とは両性具有のことであるが、アメリカでは「ふたなり」のことをこう言うのだろうか?
個人的にはギリシア語のアンドロギュヌス"androgynous"("andro"
[男]+ "gynous"[女])の響きに惹かれるが、
この本は英語版なのだから、"BOY-GIRL"を使うのは当然といえば当然であろう。
しかし"BOY-GIRL"には「男女交互に」という意味もあるので、
ことカナブンに関しては案外的を得ているかも知れない。
つまり、BOYがGIRL(のよう)になったり、また逆に戻ったりと、
そんなことが交互に繰り返されるトランスベスティズム(異性変装)の意も、
このカナブンを形容する"BOY-GIRL"には含まれているのではないかと。
ちなみに"BOY-GIRL"は隠語で、「ヘロインとコカインの混合物」の意味もあるが、
すると『少女椿』P.29で、カナブンが見せるあの爛々とした目つきや、そこに現出した光景(幻覚)も、
なるほどー!と納得が行く人は納得が行く?
(左)金玉娘 小寺玉晁「見世物雑志」 (右)「地下幻燈劇画 少女椿」カナブンとみどり
IKKA KITA(1883-1937RADICAL NATIONALIST)
急進的国粋主義者、北一輝のこと。
英語版では「いっか」とあるが、もちろん「いっき」ですのでお間違いのないよう。
HIBARI MISORA(POPULAR JAPANESE SINGER)
美空ひばりのこと。
日本の有名な歌手との説明。
全くその通りです。
SPOTTED GIRL(DOES NOT APPEAR IN STORY)
まだらの少女のこと。
まあ直訳ですね。
説明文では「この物語には出て来ない」そうですが、まあ、他の楳図キャラは出て来るようです。
FATHER&MOTHER
みどりちゃんの、チチハハ。
MASAMITSU THE BOTTLED WONDER
一寸法師の幻術師、ワンダー正光のこと。
"BOTTLED WONDER"を直訳すると「瓶詰めされた不思議」?
まあ意訳して「不思議な瓶詰め男」でいいか。
しかし、この感じだと、私なんかはエスパー伊東を想起してしまうのだが…。
そして『少女椿』P.58、「幻戯 瓶の中の一寸法師」の英訳は、"THE INCREDIBLE
MIDGET IN A BOTTLE"。
まさにまんまです。
でもまあ、あえて言うならば、やはり英文には"幻戯(めくらまし)"の部分は含まれていないよう。
"幻戯"に対応する部分は、英語版では"INCREDIBLE"だろうが、
この語は「信じがたい」という意味の形容詞。(しかも、それは"MIDGET"にかかっている)
やはり"幻戯"と"INCREDIBLE" とでは明らかに違うようだ。
ついでに言えば、"幻戯"とは、
『少女椿』P.44で鞭棄が言うような"西洋手品"などではなく、
おそらくその正体は"催眠術"のようなものだと思われる。
例えば、『今昔物語』巻第二十八「外術ヲ以テ瓜ヲ盗ミ食ハルル語」で、瓜を盗むために老人が使う"外術"や、
『今昔物語』巻第二十「陽成院ノ御代ニ滝口金ノ使ニ行ク語」中の摩羅(まら/陰茎のこと)を消失させる"幻術"、
京極夏彦『巷説百物語』「塩の長司」で、四玉の徳次郎が使う"放下"などと同様のものだろう。
蛇足ではあるが、"散楽"をルーツとする"外術" "幻戯"
"放下"の歴史は古く、
平安時代にはすでにこれらの名で呼ばれており、
そして当時の民衆たちにとって、この手の術を駆使する妖術使いたちは、どうやら畏怖の対象でもあったようだ。
ちなみに「ワンダー正光」とは、明治時代に実在した西洋奇術師の名前(つれづれ参照)。
(左)寺島良安「和漢三才図会」 (右)小人劇団「アール・ファミリー」ハリーとグレース(「少女椿」P.138)
(追記)
オマケとして付け加えておきますが、
『MR.ARASHI'S AMAZING FREAK SHOW』には登場しないが、
『少女椿』だけには登場するキャラクタ名ってわかりますか?
まあ、それは「銀吉」っていうのですけどね。
『少女椿』の初版から、先日出た改訂版にまで、ちゃんと出て来るのですがね。
しかし、どうして「銀吉」なのか、正直私には理解できていないのですが、
その理由を知ってる人がいましたら、是非教えていただきたいと思います。
でもまあ、誰かさんの怠慢という可能性も十分過ぎるほどありますが。
ちなみに『MR.ARASHI'S AMAZING FREAK SHOW』では、"HOHICHI"と書いてあります。
文中のページナンバーは、旧版『少女椿』のであって、改訂版はその限りではありませんので御注意を。
英語版についての話なのだから、英語版のページナンバーも載せようと思いましたが、
しかし如何せん、なんせ私はこの英語版を所有しておらず、今手元にもありませんので、それはできませんでした。
御了承ください。
本文の内容、英語の綴り等に間違いなどあれば、それを指摘していただけると助かります。
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