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 研究報告
つくばTSCの研究部スタッフによる研究報告です。 感想は掲示板でお待ちしております。


− Game Statisticsから世界一流選手の強さを探る −
【第2回】 『ニコラス・マスー(チリ)』 (2005.2.19掲載 研究部門 松本健太郎)

  前回は、2004年ランキングNo1のR.フェデラー選手について、試合データからその強さの秘密を探りました。その結果、R.フェデラーはウィナーの本数が多い選手であることが分かりました。しかし、これまでにも指摘されているように、・・・(つづきを読む

 



− Game Statisticsから世界一流選手の強さを探る −
【第1回】 『ロジャー・フェデラー』 (2004.11.07掲載 研究部門 松本健太郎)

 試合の統計データはMatch Statistics(マッチ・スタティスティックス)と呼ばれ、大きなトーナメントでは、試合中継などのために試合中も常時更新されたデータが報告されます。テレビ放送で解説者が報告する数字もこのデータに基づいています。その内容は、サービスエースの本数や1stサーブパーセンテージ、あるいはネットアプローチをした回数など様々な数字があります。これらの試合データは、“必ずしも真実を示さない場合もある” 2)と批判されることもありますが、使い方次第では、対戦相手の特徴を知る貴重な手がかりになります。ITF1)も“現在や過去のMatch Statisticsを注意深く詳細に分析することによって、ポイント獲得のための戦略につながり、強いては、試合に勝つチャンスが大きくなる”と結んでいます。今回は、世界ランキングNO.1のR.フェデラー選手について、彼のMatch Statisticsからその強さの秘密を探ります。フェデラーと対戦するときのために参考にしてみてください!
 図1は、2004年US オープンテニスで優勝したR.フェデラー選手の計22セットについて、US Open公式サイトの試合データ3)から、総得点数[Total Points Won]、ウィナー[Winner](注1)およびアンフォーストエラー[Unforced Error](注2)についてまとめたグラフです。なお、ウィナーはサービスエースを含みます。フェデラーの総得点数は、3セットを除く19セットで対戦相手を上回っていました。また、フェデラーのアンフォーストエラー(赤実線)およびウィナー(赤点線)をみると、4セットを除く18セットでウィナーの本数がアンフォーストエラーの数を上回るか、または、同じであったことがわかります。



図1 フェデラーの総得点、WINNERおよびUNFORCED ERROR本数


 表1に、総得点とMatch Statistics各項目の相関について示しました。フェデラーの試合では、全22セットの総得点とサービスエース、アンフォーストエラー、およびウィナーの本数の間で、相関がありました。(相関係数(注3)はそれぞれ0.59、0.73、0.60)この他、フェデラーのアンフォーストエラーと対戦相手の総得点には、非常に強い相関(0.91)がありました。また、フェデラー本人および対戦相手の双方に相関がみられた項目は、サービスエース、アンフォーストエラーおよびウィナーがありました。このように総得点とMatch Statistics項目の関係は、選手の特徴や世界トップレベルのシングルスゲームの特徴を知る手がかりになりそうです。

表1 各セットの総得点数とMATCH STATISTICS項目の相関係数

   
FEDERER 
 
OPPONENTS
 
Total Points Won
Total Points OPP.
Total Points Won
Total Points OPP.
1st Serve %
-0.19
-0.14
0.66
0.36
Aces
0.59
0.52
0.52
0.26
Double Faults
0.20
0.49
-0.30
-0.05
Unforced Errors
0.73
0.91
0.47
0.66
Winning % on 1st Serve
-0.02
-0.50
0.61
0.21
Winning % on 2nd Serve
-0.27
-0.68
0.35
0.13
Winners 
0.60
0.47
0.73
0.34
Receiving Points Won
-0.22
-0.69
0.69
0.24
Break Point Conversions
-0.20
-0.43
0.31
-0.11
Net Approaches
0.40
-0.14
0.49
0.12

注1:赤字は相関係数>0.5の項目を示す。
注2:赤太字はフェデラーおよび対戦相手で両者ともに相関があった項目を示す。


 図2は、フェデラーと対戦した6選手(アガシ、ヒューイット他)の22セットについて、同様に総得点、ウィナーおよびアンフォーストエラーについて示したグラフです。図1のフェデラーでは、ウィナーの本数がアンフォーストエラーを上回ったのに対して、対戦相手では逆に、2セットを除く20セットで、ウィナー(青実線)の本数がアンフォーストエラー(青点線)を下回りました。このように、ウィナーが多いか、または、アンフォーストエラーが多いかという点でフェデラーと対戦相手に違いがみられました。フェデラーはトーナメントを通して、ほとんど全てのセットでウィナーの本数が、アンフォーストエラーの本数を上回っていました。この数字はフェデラーの強さの一つであると考えられます。世界トップレベルの対戦においては、技術レベルには大差がないという前提で、フェデラーがこの数字を数えながら試合をしていたとは考えられないでしょうか。逆に、フェデラーに敗れた選手でも、ウィナーがアンフォーストエラーを上回ったときは、セットを奪うか、または、接戦でした。


図2 対戦相手の、WINNERおよびUNFORCED ERROR本数


 図3は、フェデラーと対戦相手について、1セット平均のウィナーおよびアンフォーストエラーの本数についてまとめたグラフです。1セットあたりのウィナーの本数は、フェデラーが12.8本、対戦相手が5.8本でした。また、アンフォーストエラーの本数はフェデラーが9.3本、対戦相手平均が9.0本でした。以上から、アンフォーストエラーは若干フェデラーが多いものの、対戦相手と大差はないと考えられます。逆に、ウィナーの本数では、フェデラーは対戦相手に比べて1セット平均で7本も多かったことが分かります。


 みなさんが試合をする時にも、単にダブルフォルト、サービスエースやウィナーの本数などに一喜一憂せず、“1セットの中でアンフォーストエラーとウィナーのどちらの本数が多いか”といった点に気をつけて試合をするとよいでしょう。同じレベルの選手やフォーストエラーの数が同程度の選手との試合では、アンフォーストエラーが多くても、それ以上にウィナーを取れば、勝機がでてくるということです。(もちろん、アンフォーストエラーを減らす必要もありますが、それについては次回に検討してみます。)試合に勝つためには、フェデラーの優れた打球技術だけでなく、このような優れた試合データを自分の試合に取り入れる必要があるでしょう。

まとめ  《 フェデラーの強さ 》
1. セット平均で相手よりウィナー本数が多い(フェデラー12.8本、対戦相手5.8本)
2. ウィナーの本数が多くてもアンフォーストエラーの本数は相手と同じ(1セット平均約9本)
3. ウィナーの本数がアンフォーストエラーよりも多い(22セット中19セット)


 次回は、アテネオリンピック金メダリストのN.マスー選手(チリ)の強さについてレポートします。

                          TTSC 松本健太郎


1. Winner (ウィナー):各ショットでノータッチエースなどの決定的な得点のこと。
2. Unforced Error (アンフォーストエラー):相手攻撃や打球の威力に押されていない状況でのエラー。相手の攻撃的ショットによって起こるForced Error(フォーストエラー)とは区別される。また、最近ではForcing Error1)(フォーシングエラー);攻撃的状況でのエラーというカテゴリーも提案されている。
3. 相関:2つの変数が同時に変化していく性質。2変数に関連性が認められるとき“相関関係がある”という。ただし‘相関がある’と、‘因果関係がある’は同じではない。
4. 相関係数:相関関係の程度、一般に相関係数が0.5以上で関連があり、0.7以上でやや強い相関、0.9以上で非常に強い相関ありとされるが、いくつ以上あれば‘相関が強い’という決まりはない。

参考、引用文献
1)“Match Statistics and their Importance”:ITF coaching & sports science review
 12th year issue 32:International Tennis Federation
2) Nick Saviano:Maximum Tennis(chapter8):p155:Human Kinetics
3) Scoreboard and Stats: http://www.usopen.org/en_US/index.html  


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